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19時のタイムリミット、そして朝の出航へ 【島小#15】/離島の小学校編 15

前回【島小#13】では、市の陸上記録会に向けて、島からメールやフロッピーで集まる名簿データを整理し、夜遅くまでプログラムと集計用ファイルを完成させました。 「次は前日の準備ですが、ちょっとしたアクシデントが待っていました。」──そう予告して終わったあの日。 いよいよその“前日”がやってきます。

本話は #13 の『記録会準備回』の続きにあたるエピソードです👇

離島で勤務することとなった1教師の奮闘記です。 今から約20年以上前の2002年(平成14年)9月初めのお話です。

※注:本文中の一部地名や固有名詞等は仮名(かめい)にしています。

こんな島です。👇👇


1.海に阻まれ、時間に追われる前夜

朝から空気が重たく感じました。 明日行われる市陸上記録会の前日準備のために,子どもたちより1日先に出張で職員室を出ようとしたその瞬間、放送が流れました。 「本日の船は、欠航します。」

やはり、という思いが胸をよぎりました。 台風の接近が心配でしたが、悪い予感は的中してしまいました。

問題は、会場校で使う記録会のプログラムデータです。 私が預かっているエクセルのファイルを、どうしても今日中に送らなければなりません。 前日準備ではそれを印刷・製本する予定になっていたからです。

すぐに電話を取り、会場校へ連絡しました。 「データをメールで送ります。届きしだい、そちらで印刷をお願いします。」 そう伝えると、相手も慌ただしく応じてくれました。

午後、向こうの学校では市内の体育主任の先生方が集まり、作業を進めているということでした。 その合間に何度も電話がかかってきました。 「この部分はどうすればいいですか?」 「ここ、印字がずれます。」 自分がその場にいればすぐに対応できるのに……と思うと、申し訳なさが込み上げました。

やがて、修正版のファイルが送り返されてきました。 ところが、衛星インターネットのメールでは,こちらで受信するまでに送信から1時間ほどかかります。 しかも、インターネットが使えるのは夜の19時まで。 まるでシンデレラの魔法のような制限時間です。

「タイムリミットは19時。それまでに送ってください。」 そう念を押し、受信ボックスを開き続けました。 メールが届いたのは18時を過ぎていました。

急いで内容を確認し、修正を入れ、再び電話で指示を伝えながら共同作業を進めました。 海のこちらとあちらを結ぶ、ぎりぎりの通信線。 「今、直しました。」「はい、こちらも完了です。」 声だけのやりとりが、まるで無線通信のように感じられました。

ふと、思いました。 “海を越えて、今、すごいことをやっているのかもしれない。”

時計の針が19時を指す直前、最終版を送り返しました。 インターネットの灯が消える前に、すべてが間に合いました。 あとは、明日。 本番の朝、船が出るかどうかにすべてがかかっていました。

台風の影響は去ります。 天気は良くなるでしょう。 それでも、海が静まらなければ、私たちは動けません。 どうか、無事に船が出ますように──。

2.出航30分前、港で立つ“スタートライン”

陸上記録会当日。 夜明け前、まだ空が青白いころに目が覚めました。 時計は5時半。 外をのぞくと、風は穏やかで、波も静かに見えました。 しかし油断はできません。 出航の30分前までは、海の機嫌がどう変わるかわからないのです。

朝食を済ませ、荷物を最終確認しました。 出航30分前に港へ向かうと、しばらくしてから子どもたちと校長先生、養護の先生も集まってきました。 船員さんに尋ねました。 「今日は船は出ますか?」 「出ますよ。」 その言葉に、全員がほっと息をつきました。

白い波を切って船が進みました。 海風が頬に冷たく、いつもより少しだけ軽やかに感じました。

3.走るのは子ども、戦うのはExcel

会場校に着くと、子どもたちにはウォーミングアップを指示し、私は記録集計の準備に取りかかりました。 グラウンドの本部テントのすぐ裏に、机と椅子を用意してくれていました。 砂埃を避けられる玄関先。 そこが今日の“臨時集計本部”でした。

各種目が終わるたびに記録用紙が届きます。 それをエクセルの集計ファイルに入力していきます。 関数が順位を自動計算し、結果を並べ替えて印刷します。 私のノートパソコンとプリンタが、今日の相棒です。 プリンタは借りられましたが、ドライバ設定の手間を考え、自前の機材を持参しました。 賞状用、掲示用、保存用──それぞれ印刷していきました。

しかし、実際にやってみると小さなトラブルが次々に起こります。 昨年度のヘッダが残っていたり、式が消えていたり。 走り幅跳びの順位が逆転していたり、全体順位から漏れている選手がいたりしました。

原因を探りながら、式を書き換え、セルを修正しました。 汗が滲みます。 時間との勝負でした。 記録が届かないわずかな合間に、息を整えつつ修正を進めました。

このファイルを作ったのは、昨年度の担当の先生です。 本当に丁寧な作りですが、完全ではありません。 それを本番で調整しながら動かすには、ある程度の関数理解が必要だと痛感しました。

「誰でも使えるようにするには、入力を最小限にして、操作を自動化するしかないなあ。」 そう思いながら、来年の改訂案を頭の中で描いていました。 もし次回も欠航になっても、迷惑がかからないように。

大会が終わるころ、グラウンドには歓声と拍手が響いていました。 子どもたちの笑顔を見ていると、昨日の苦労などどうでもよくなりました。 校長先生たちは子どもたちを連れて島へ戻っていきましたが、私は残って後片づけと記録冊子の作成を続けました。

帰り際、子どもたちが話していました。 「島に帰ったら,イカ釣りに行こう!」 少し悔しかったですが、今日はその余裕もありません。 私には帰る船がないのです。

かわりに、新しい餌木をひとつ仕入れて帰りました。(笑) そして、立ち寄ったパソコンショップで、予約していた児童用デジカメを受け取りました。 離島の記録会の夜。 海を越えたデータと、子どもたちの記録が、確かにつながった一日でした。


▶離島の小学校編16へ続く

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