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# 【島小#11】教科「海」、先生はアオリイカ──放課後1時間の特別授業/離島の小学校編 11  

運動会の歓声が引いて、校庭に残った白線だけが昼の熱気を思い出させます。 夕方、私は職員室を出て、黒板ではなく波止場へ向かいます。 2002年の初秋、放課後の一時間に、私の暮らしはもうひとつの教科を見つけました。 教科名は「海」。 担当教員はアオリイカです。 

前回のお話👇

離島で勤務することとなった1教師の奮闘記です。 今から約20年以上前の2002年(平成14年)秋のお話です。

※注:本文中の一部地名や固有名詞等は仮名(かめい)にしています。

赴任していたのは,こんな島です。👇👇

【目次挿入】


1.放課後の黒板が、波止場に変わるとき

運動会が終わったある日、校長先生から「夕方、イカ釣りに行ってみないか」と誘われました。 言われるままに波止場へ向かい、人生初のアオリイカ釣りに挑戦しましたが、初日は残念ながら「ボウズ」、つまり1ハイも釣れませんでした。

ちなみに、イカは「1匹」ではなく「1ハイ」と数えるのだと、このとき初めて知りました。 私が肩を落としていると、校長先生は4ハイも釣り上げていて、そのうちの1ハイを「よかったら持って帰りなさい」と分けてくださったのです。

それが悔しくて、翌日すぐにリベンジを決意。再び放課後の港へ出かけ、今度は自分の手で2ハイ釣り上げることができました。 人生初の1ハイを手にした瞬間は、少し大げさかもしれませんが、本当に感動しました。

釣れたイカは容赦なく勢いよく墨を吐き出します。 この日は校長先生が0ハイで、少し申し訳ない気持ちにもなりましたが、それでも初めての達成感が勝っていました。

釣っているうちに、遅くまで粘っても釣れず、日が残っているうちが狙い目だとわかってきました。 生きたアジを泳がせて狙う「餌釣り」はよく釣れますが、私は「餌木(えぎ)」と呼ばれるエビのような和式ルアーを使っていました。

餌木の魅力は手軽さです。 エサのアジを用意する必要がなく、竿と餌木、釣れたイカを入れる袋だけで出かけられます。 針には「返し」がないので、触らずに外せるのも便利です。 もちろんリールをしっかり巻かないとバレてしまいますが、「これは引っかかったのではなくイカだ」とわかるようになってきました。

これが餌木(エギ)です。当時1個1000円くらいしてたと思う。高いのだと2~3000円

釣れたイカは袋に入れ、波止場のフェンスにくくりつけておきます。 放課後の1時間ほどの出来事ですが、この時間が楽しみでたまらなくなっていきました。


2.台所まで続く、放課後の授業

釣り上げたイカは、袋のまま冷凍庫へ入れます。 「そのまま冷凍するのが一番長持ちし、1年ほど新鮮さを保てる」と本で読んだからです。 逆に、さばいてから冷凍すると「冷凍焼け」を起こして黄色くなるのだそうです。

釣れたばかりのイカはコリコリとした食感が魅力ですが、冷凍したり一晩寝かせたりすると、さらに甘みが増すといいます。 せっかくなので、釣ったその日のうちに1ハイだけ刺身にして食べてみました。

調理は思っていた以上に簡単でした。 墨袋と内臓、目玉を取り除き、皮をむくだけで完成です。 魚のようにウロコを落とす必要もありません。

胴体は細切りにして「イカそうめん」に、下足はぶつ切りに、胴の周りのヒレも細く刻んで刺身にしました。 胴体はもちもちと甘く、下足は吸盤の独特の食感がクセになります。 ヒレはコリコリとした歯ごたえが楽しめ、どれも本当においしくて、「これはやみつきになる」と心から思いました。


3.放課後授業、釣具屋という名の“補習”

運動会の代休と合わせて、久しぶりに三連休がやってきました。 船の中で中学校の先生と「3日あると家で少しゆっくりできますね」と話したのを覚えています。 普段の週末は土日とも船で本土へ行き来することが多く、なかなか落ち着けません。

土曜は朝の船で出かけ、日曜は午後の船で戻るため慌ただしくなります。 その中日に余裕があると、ようやくホッとできるのです。 島では自炊が基本なので、本土に戻ったときは食料品を買い込み、翌週の教材や道具もまとめて調達します。 不便さもありますが、それもまた貴重な経験です。

そんな三連休の初日、帰り際に釣具屋へ立ち寄りました。 アオリイカ釣りの道具を少し本格的に揃えようと思ったのです。 事前に読んでいた本の著者本人が、偶然その釣具屋にいたのには驚きました。

直接話してみると、「このラインなら2倍、3倍釣れる」と教えてくれました。 ただし条件として、先端に別のラインを結ぶ必要があるといいます。

正直、そんな面倒なことはしたくありませんでした。 1本のラインだけで済ませたかったのですが、「釣れる」と聞くと試してみたくなるのが人情です。


4.20分のドラマがくれた、教室の外の授業

島へ戻ってさっそく試してみました。 ラインを結ぶのは初めてで、本を片手に見よう見まねで挑戦。 先につける餌木も、よく釣れると評判の少し高価なものを購入していたので、期待は高まります。

波止場へ着くと、雨上がりで強い風が吹いていました。 それでも2投目で1ハイ、5投目で大きな2ハイ目を釣り上げました。 釣具屋で聞いた話は本当だったのかもしれません。

シーズン中、釣った中でも最大のもの(350mlの缶ビールと比べて)

ところが6投目、飛距離が急に落ちました。 巻き上げてみると、ライン同士を結んだ部分が大きなコブのようになっていました。 「これでは引っかかる」と思い、余分な部分を切り落としました。

そして迎えた7投目。アタリの感触があった瞬間、急に軽くなりました。 見ると、ラインの結び目が抜けており、餌木が海の中へ消えていたのです。 せっかくの高価な餌木が、たった2ハイで失われてしまいました。

釣果が良かったのは餌木のおかげなのか、それともラインなのか。 真相はわかりませんが、20分ほどの出来事に、私は嬉しさと悔しさの入り混じった気持ちで波止場を後にしました。

釣りは思い通りにいかない。 しかし、その中に確かに学びがあり、試行錯誤の面白さがあります。 離島の暮らしは、教室の外にも新しい世界を見せてくれるのだと、このとき初めて実感したのでした。


▶【島小#12】へ続く👇👇

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