見出し画像

離島で迎えた、心震える1日【研#19】/研修で出会う探究の風景

2004年6月4日。

ついにこの日がやってきた。朝からいい天気だった。
この日は、自分にとって人生の中でも最も忘れられない日の1つになった。

1.朝から始まった特別な1日

1時間目が終わった頃、1便でNHK県放送局の取材班が島に到着した。
午前中は、まず2時間目の空き時間に自分へのインタビューがあり、3時間目の授業後には子どもたちへのインタビューと授業風景の撮影が行われた。

いつもの学校に、カメラが入り、マイクが向けられる。
それだけでも十分に特別な日だった。
けれど、この日の本番はまだそこからだった。

給食後、校長先生と一緒に港へ向かった。
H先生、N先生をはじめ、多くのお客様をお迎えするためである。

13時前、連絡船が港に入ってきた。
船から降りてこられる両先生の姿を見た瞬間、胸の奥がじわっと熱くなった。
こんな遠くまで、本当に来てくださったのだと思った。

自分が毎日過ごしている島の日常の中に、H先生とN先生がいる。
その光景が、どうにも不思議だった。
信じられないような、夢の中にいるような、それでいて胸が高鳴って仕方がないような、ドキドキとワクワクが入り混じった気持ちだった。

まず、連絡船の券売所に設置されていた島内無線LAN設備を見ていただいた。
そのあと、自分は一足先に学校へ戻った。

2.子どもたちが見せた120%の力

13時30分、公開授業が始まった。

最初に見ていただいたのは、子どもたちが「キーボー島」に取り組む様子だった。
4年生2名は、すでに一度初段をクリアし、名誉島民になっていた。
この日は2度目の登録で、さらに上を目指して再挑戦しているところだった。

3年生は、基本の指使いを身につけるために、これまで「見える指」というソフトで練習を続けてきた。
ひと通りの練習を終え、ようやくキーボー島に挑戦できるようになったのは、ほんの3日ほど前のことだった。

その後は、4年生が3年生に向けて、昨年度の総合的な学習の時間の活動を紹介するプレゼンテーションを行った。
3年生にとっては、総合的な学習の時間そのものが初めてである。
先輩である4年生が、自分たちの経験を伝える時間だった。

子どもたちは緊張でカチカチになっていた。
それでも、120%の力を発揮していたと思う。
慣れない多くの参観者の中で、落ち着いて、自分たちが伝えたいことを精一杯表現していた。

授業後には、N先生、H先生と子どもたちで記念写真を撮った。
島の子どもたちの横に、遠くから来てくださった先生方が並んでいる。
その光景を見ながら、「本当に来てくださったんだな」と改めて実感していた。

帰りの会のあとには、NHKの取材が続いた。
両先生へのインタビューもあり、自分へのインタビューもあった。
このときの取材は、後日、県内放送と、さらに少し広い地方向けの放送で、それぞれ10分ほど「離島の情報教育」というタイトルで紹介された。

一緒に来られていた「Web学級日誌」の担当の方は、子どもたちへのレポート取材をしてくださった。
日誌内の「全国のじょうほう宝箱」で紹介してくださるとのことだった。
子どもたちもきっと喜ぶだろうと思った。

3.島の自然を見てもらう

体育館でそれぞれの参加者紹介をしたあと、島の自然を知っていただこうと、近くの太平洋が見える崖までご案内した。
NHKの取材班はそこまで先回りして撮影していたが、連絡船の時間があり、そこで引き上げていった。

その崖までは、上りと下りがあり、最後には階段もある。
道の脇には島のユリが咲いていた。
天気はよく、断崖絶壁からは青い海と、彼方に広がる水平線、そしてうっすらと対岸の本土が見えていた。

折しも梅雨時期の低気圧の影響で、南からうねりが入っていた。
波が洞穴に入り、まるでクジラのように潮を噴き上げる様子も見ていただくことができた。
島の自然の大きさを、言葉ではなく、そのまま見てもらえた気がした。

次は、漁船で島のまわりをぐるっと1周するクルージングである。

船に乗りに行く途中、あらかじめお願いしていた夜の講演会の案内放送が漁協から流れた。
しかも、5回ほど繰り返し放送してくださった。(笑)
それを聞いた参加者のみなさんは、とても驚いていた。

いよいよ出航した。
さきほど陸から見た崖を、今度は海から眺める。
南から寄せるうねりの波を越えるのは、遊園地のアトラクション以上のダイナミックさだった。
横を見ると、まさに波の壁が迫ってくるように見える。
それを乗り越え、一気に前へ進む。

自然のジェットコースターを、みなさんは十分に堪能してくださったようだった。

島を1周したあと、みなさんはいったん旅館で休憩された。
その間、自分は一緒に来られていたY新聞社のSさんに、島の回線状況や、これまでの経緯についてお話しした。

メールも、ドコモ以外の携帯電話も通じない。
情報教育界の方々にとっては、ある意味ではゆったりできる環境なのかもしれない。
そんなことを思いながらも、この島の不便さをそのまま感じてもらうことにも意味があるように感じていた。

4.島の人たちが集まってくれた夜

18時30分。
19時からの講演に向けて、N先生とH先生が体育館に来られた。

講演のテーマは「インターネットで便利になること」。

開始時刻が近づくにつれ、島の方々が続々と集まってきてくださった。
あらかじめ、いつもの講演会や行事よりも少し多めにパイプ椅子を出していた。それでも足りず、新たに椅子を追加して並べることになった。

約80戸、200名足らずの島で、約50名もの方が集まってくださった。
その光景を見た瞬間、「本当に島のみなさんが来てくれた」と、込み上げるものがあった。

講演が始まった。
自分は、内容そのものはもちろんだが、相手に伝えるためにどのような話の構成や仕掛けをされるのかを、しっかり見ておきたいと思っていた。

お二人の軽妙なやりとりが、会場の笑いを誘った。
地元の出来事や島のものを話題に取り入れながら、聴衆の意識をぐっと引き寄せていく。
その語り口に、思わず引き込まれた。

前半は、N先生がビデオを使いながら、インターネットの便利さについてわかりやすく解説してくださった。
後半になると、H先生が小学校の子どもたちのことを、これでもかというほどほめてくださった。

しかも、ただ「子どもたちがすばらしい」と言うのではない。
ちゃんと名前で話の中に登場させてくださる。

○○ちゃん、□□ちゃん、△△ちゃん。

会場から拍手が起こった。

すごいと思った。
子どもたちを見てくださっていたこと、名前で覚えてくださっていたこと、そしてそれを島の人たちの前で語ってくださったこと。
その一つ一つに、細やかな配慮と大きな温かさを感じた。

講演は予定時刻の5分前に、ぴたりと終了した。
もっと聴きたいと思うくらいで終わった。

教頭先生が「何か質問はありませんか」と声をかけた。
すると、島の若者が手を挙げた。

「我々若い者がインターネットができる環境にするために、どんなことから取り組めばいい?」

その言葉を聞いた瞬間、胸が震えた。

これまでの講演会では、質問を受け付けてもなかなか手が挙がることはなかった。
けれどこの夜、島の若者が自分たちのこととして問いを出してくれた。
これは、ただ講演を聞いたというだけではない。
島の未来に向けて、何かが確かに動いたように感じた。

ただ、あとからものすごく後悔したことがある。
ビデオ録画をしておくことを忘れていたのだ。
多分、完全に舞い上がっていたのだと思う。

5.忘れられない長い1日

講演会が無事に終わり、ようやく食事となった。

あらかじめお願いしてあった、その日にとれたばかりのアワビとウニが並んでいた。
地元のお酒も用意してあり、口当たりがよく、みなさんにも好評だった。

会は大いに盛り上がり、深夜まで続いた。

朝からNHKの取材があり、港で先生方を迎え、子どもたちの授業を見ていただき、島の自然を案内し、漁船で島を1周し、夜には島の方々が体育館に集まってくださった。

ひとつひとつの出来事が、今でも鮮明に思い出される。

この日の2年前、島の情報環境について相談したことがあった。
昨年11月の懇親会で、H先生が「島に行くよ」と言ってくださった。
その言葉が、この日、現実になった。

遠く離れた島に、情報教育の第一線にいる先生方が本当に来てくださった。
子どもたちの学びを見てくださり、島の人たちに語ってくださり、島の自然や暮らしを一緒に感じてくださった。

それは、自分が一人で積み重ねてきたように思っていた日々が、外の世界と確かにつながった瞬間でもあった。

とても楽しく、忘れられない、長い1日だった。


次回に続く・・・👇

前回の話👇👇

前日までの話(島の3年目の学び編)👇👇

【固定リード文】初めてこのページに来られた方へ

「研修で出会う探究の風景」は、教師としての学びの記録です。
教育公務員特例法には、「教育公務員は、その職責を遂行するために、絶えず研究と修養に努めなければならない」と記されています。
教師にとって学びは、仕事の一部でもあります。

私自身、これまで校内研修や教育センターでの研修、研究大会、学会、そして自主研修など、さまざまな学びの場に関わってきました。
そこには毎回、出会いがあり、葛藤があり、ときに自分の教育観が静かに塗り替えられる瞬間がありました。

このシリーズでは、そうした研修の風景を綴っています。
現在進行中の連載とも時系列でつながる形で、掲載しています。

今回は勤務していた離島の小学校(へき地2級)3年目、2004年頃の記録です。

これまでの研修編はこちら👇👇


いいなと思ったら応援しよう!

熱中探究教室 応援いただいたお気持ちは、子どもたちの学びを物語として発信し続ける力となり、教育の現場で役立つヒントへとつなげていきます。