言えない時間が流れていた頃【島小#29】/離島の小学校編 29
喜びなのか、緊張なのか。
その正体を、まだ言葉にできない時間がありました。
島の学校では、そんな内側の事情とは関係なく、日常が流れていきます。
けれどその日常の中には、島にとって年に一度だけ訪れる特別な一日も含まれていました。
この回は、その「はざま」にあった日々の記録です。
※前回の記事はこちら 👇
【固定リード文】◆本シリーズについて(初めて読んでいただく方へ)
今から約20年以上前、2002年(平成14年)4月、県で唯一の離島にある小学校に赴任しました。
車も信号もなく、連絡船は1日3往復が命綱の島でした。
海の荒れる日は、移動そのものが大きな出来事になります。
島の仕事や暮らしは、天候と船の都合に大きく左右されていました。
少ない職員で学校を回し、小中の宿舎で生活をともにする日々が続きました。
予定通りにいかないことが、特別ではなく日常です。
授業や行事だけでなく、島ならではの工夫や出来事、ここでしか味わえない体験の数々を、小さな学校と暮らしの記録として綴ってます。
今回はその中で,マイタウン・マップコンクールで農林水産大臣賞の内定を受けて,公式発表までの間の出来事です。
受賞については,「漏らすなと言われた夜、島で叫んだ【島総①#11】/vol2 お魚天国青波島編/離島の総合的な学習①」
※本文中の地名・固有名詞は一部仮名としています。
1 ほんとによく止まるなあ
前の晩から雨が続いていました。
その日は日曜で、午後には自宅を出て島へ渡る予定でした。
昼頃になると雨は少し弱まり、
「これなら動けそうだな」
と思いながら支度をしていました。
ちょうど自宅を出ようとした頃、校長先生から電話が入りました。
連絡船が二便、三便とも欠航しているという知らせでした。
二便が止まっているということは、冬季特別勤務の当番の先生も島へ渡れていないということになります。
この日は、島に教職員が誰もいない状態でした。
2 誰もいない島から始まる週明け
その電話で、月曜の朝の見通しが一気に立たなくなりました。
担任が島にいない状態で、いつも通りの始業はできません。
校長先生と相談し、翌日の授業は10時から始めることに決めました。
担任している児童へ、その連絡を回します。
島では、船が止まると、学校の一日の形も変わります。
これは特別な対応というより、島の学校では何度も経験してきた判断でした。
内定から公式発表までの間であることは、この時も、頭のどこかにありました。
けれど、それを表に出すことはありません。
何かモヤモヤとする深い海に潜っているような感覚。
それよりも,まずは、翌日の学校をどう動かすか。
それが最優先でした。
3 広がり始めたICTの手応え
島へ渡ってからの学校は、慌ただしく動き始めました。
時間割を組み替え、できるところから授業を進めていきます。
その日の全校音楽の時間、担当している先生から声をかけられました。
「今日、発表があるので、よければ聴きに来てください。」
音楽室では、子どもたちが三つのグループに分かれ、パソコンのソフトを使ってつくった曲を演奏していました。
伴奏を付け、順に発表し、互いに感想を伝え合います。
この先生が、こうした授業を始めたのは最近のことでした。
校内で進めてきたICTの取組を見て、音楽でも使えそうだと感じたのだそうです。
発表をひと通り聴いたあと、私は漁協へ向かいました。
譲っていただくことになっていた旧型パソコンを引き取りに行くためです。
待合室で初期化や再インストールをすることも考えましたが、時間のかかる作業になるため、いったん学校へ持ち帰ることにしました。
教頭先生に手伝っていただき、荷車に載せて運びます。
教室の中でも、学校の外でも、島の情報環境は、少しずつ動き始めていました。
4 一人を迎えるための集会づくり
週の後半には、新一年生の体験入学がありました。
来年度の入学予定は、1名です。
3時間目に授業参観、4時間目は、その子を歓迎する意味を込めた児童会主催の集会が行われました。
その後、給食試食を兼ねた全校給食と、入学説明会が続きます。
集会までの準備は、結構大変でした。
それは、集会の運営を児童会役員に任せることにしたからです。
昨年度までは、教師が決めたシナリオどおりに進めていたそうですが、今年は、できるだけ子どもたち自身に考えさせたいと思いました。
「新一年生のためにする集会だよ。」
そう伝えると、役員の子どもたちの表情が変わっていきました。
自己紹介も自分の言葉で話すようにしたり、それぞれ役割分担して係を行うようにしました。
昨年までは、原稿を読んでいたそうです。
学校紹介の原稿も、よく考えられていました。
ただ、原稿を読むだけでは飽きてしまうだろうという話になり、視覚に訴えるものを用意することに決まりました。
はっぴょう名人を使ったプレゼンテーションです。
総合的な学習の時間で培ってきた力が、発揮された瞬間だと思いました。

文集の締め切りも迫り、時間的にはかなり苦しい状況でした。
それでも、こうした場面を通して育つ力があると感じていました。
5 観音開きという、島の特別な日
島の一大イベントとも言える観音開きの日を迎えました。
観音堂までは、山道を三十分ほど歩きます。
年に一度の祭礼で、市が立ち、もち投げが行われます。
この日は漁も休みになり、島全体が、少し違う時間の流れに包まれます。
途中には、以前は稲作が行われていたという湿地があり、少し上から眺めると、とても美しい景色が広がります。
赴任した直後の五月頃、子どもたちと一度訪れた場所でした。
もち投げには私も参加しました。
もちの中にはくじが入っているものもあり,ちょっとした景品が当たるようになっています。
思いのほかたくさん取れましたが、くじ入りのもちだけは手に入らなかったのが,少し残念でした(笑)。

久しぶりに童心に返ったような気分で学校へ戻ると、事務仕事は、やはり山のように残っていました。
モニターで使用していたデジタルボードや実践研究助成金の報告等の締め切りも近づいていました。
特別日課でも、仕事が片づくわけではありません。
残念ながら寝ている間片付けてくれるのこびとたちはいません。
やるしかない。
公式発表を間もなく迎える、言えない時間。
その忙しさと緊張を抱えたままでも、島の学校の日常は、確かに前へ進んでいました。
※ 次回に続く・・・👇👇
これまでのできごと 離島の小学校編マガジン👇👇👇
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