ワックスの匂いが残る教室【島小②#45】/離島の小学校編Season2 45
東京への表彰式、大阪への職員旅行。
2004年3月の島の学校は、慌ただしいまま時間だけが過ぎていきました。
そんな中でも、6年生たちとの時間は確実に残り少なくなっていきます。
卒業式を前にした学校には、いつもとは少し違う静かな空気が流れていました。
1.卒業式前日
卒業式前日になりました。
このメンバーで食べる最後の全校給食には、お祝いのケーキが出ました。
調理員さんや用務員さんも一緒に食卓を囲み、いつもより少しだけ特別な給食の時間になります。
調理員さんや用務員さんまで一緒に座ると、いつものランチルームが少しだけ特別な場所に見えました。
6年生たちも、いつものように笑いながら食べていましたが、「最後の給食」という言葉を聞くたびに、少しだけ照れたような顔をしていました。
午後からは卒業式会場の準備でした。
ただ、6年生を会場準備に使うわけにはいきません。
そこで、子どもたちは教室で別の作業をしていました。
それは、これまで続けてきたWeb学級日誌を印刷し、ファイルへ綴じていく作業でした。
毎日の出来事を少しずつ積み重ねてきた記録です。
両面印刷したものを順番に綴じていくと、それだけで1年間のアルバムのようになっていきました。
「こんなこともあったな」
そんな声を出しながら、子どもたちはページをめくっていました。
今ならクラウドもSNSも当たり前ですが、当時は「毎日の学校生活をWebに残す」ということ自体がまだ新しい時代でした。
だからこそ、こうして形に残しておいて本当によかったと思っています。

もっとも、全部を印刷するにはかなり時間がかかりました。
結局、子どもたちを帰したあとも学校へ残り、足りない分を自分で印刷していました。
プリンタの音だけが静かな教室に響いています。
卒業式は、その年から午後開催になっていました。
連絡船の時刻の関係です。
天気予報では午後から回復するらしく、「結果的にはそのほうがよかったかもしれんな」と思いながら、最後の準備を続けていました。
2.海の向こうから来る卒業式
卒業式当日の朝、海はまだ荒れていました。
低気圧が通過した直後だったらしく、連絡船も不安定な状態だったようです。
特に2便は「出るかどうかわからない」という話まで出ていました。
もっとも、たとえ船が欠航しても卒業式そのものは行われます。
ただ、島外から来る来賓の方々が来られなくなるだけです。
それでも、その日の2便には大事なお客さんが乗っていました。
夏まで勤務していた産休中の先生が、赤ちゃんを連れて来る予定になっていたのです。
しかも、卒業式のよびかけではピアノ伴奏までお願いしていました。(笑)
船員さんたちも、小学校の卒業式の日だと知っていたのでしょう。
ひょっとすると、少し無理をしてでも船を出してくれたのかもしれません。
そんな心配をよそに、卒業式はとても落ち着いた雰囲気の中で始まりました。
よびかけでは、子どもたちがこれまでの思い出を1人ずつ暗記して語っていきます。
人数が少ない学校だからこそ、一人ひとりの声がそのまま式の空気になります。
体育館には、静かな緊張感が流れていました。
卒業式が終わったあと、最後に6年生たちへ話をしました。
これからも隣の中学校へ進学するので、顔を合わせなくなるわけではありません。
それでも、「卒業」という区切りとして、やはり何か言葉を伝えたかったのだと思います。
話し終わったあと、不思議なくらい静かな気持ちになっていました。
寂しいというより、少しだけ肩の力が抜けたような感覚でした。
3.卒業記念のCD
翌日の5校時目は、恒例の児童集会でした。
卒業生たちも学校へやってきて、先生たちと一緒にフットベースボールをします。
校長先生も含め、全員フル出場です。
異動する先生との最後の親睦会のような意味もあり、毎年この時期になると学校全体が少しだけお祭りのような空気になります。
卒業生たちがやって来る前日、自分は学校でCDを焼いていました。
この1年間、デジカメで撮影してきた写真をまとめた卒業記念CDです。
CDに焼くだけなら簡単でしたが、そのまま渡しても困るかもしれないと思い、フォルダごとのサムネイル一覧まで印刷していました。
写真の下にはファイル名も表示されています。
これなら写真屋へ持って行けば、必要な写真をプリントできます。
ただ、途中で現実に気づきました。
写真の枚数が多すぎます。
用紙もトナーもどんどん減っていき、「これは最後までやると大変なことになるな」と思い始めました。
結局、半分ほど印刷したところで断念しました。
それでも、その中には2月終わりに自宅前で我が子たちと一緒に撮った写真も入っています。
東京へ向かう前夜、自宅へ泊まりに来ていた時の写真でした。
最後の卒業記念としては、悪くないプレゼントだった気がします。
4.ワックスの匂い
放課後になると、今度は教室のワックスがけでした。
机や椅子を廊下へ出し、空っぽになった教室へワックスを塗っていきます。
卒業式が終わった学校には、少しだけ独特の静けさがあります。
つい昨日まで6年生がいた教室なのに、急に広く見えるのです。
ワックスの匂いが漂う廊下を歩きながら、「いろんなことがあったな」と思っていました。
東京へ行き、大阪へ行き、卒業式があり、子どもたちを送り出し、また次の年度が近づいてきます。
机を戻し終えた教室は、妙に静かでした。
ついこの前まで、あの3人がいたはずなのになと思いながら、最後に電気を消しました。
ここまで読んでいただきありがとうございました。。
次回に続く(最終話)・・・👇
前回の話👇
◆本シリーズについて(初めて読んでいただく方へ)👇👇
約25年前の2002年、船が生活のすべてを左右する離島の小学校に赴任しました。
予定通りにいかないことが当たり前の中で、学校と暮らしが地続きの毎日を過ごしていました。
そんな環境の中でも、子どもたちに自信をもたせたいと考え、総合的な学習の時間に取り組んでいました。
▶ 離島の小学校編Season1〜教室とくらしの物語 マガジン
このシリーズでは、当時の日記をもとに、島での仕事の大変さと、その中にあるささやかな温かさを綴っていきます。
2年目2003年の、Season2(2年目)3学期のお話です。
※本文中の地名・固有名詞は一部仮名としています。
離島の小学校編Season2👇👇👇
いいなと思ったら応援しよう!
応援いただいたお気持ちは、子どもたちの学びを物語として発信し続ける力となり、教育の現場で役立つヒントへとつなげていきます。