【W杯企画】知られざる競技用ソックスの世界!ふつうの靴下と何が違う??
こんにちは!
靴下工房Toréを運営しているアクルです。
これまで大手アパレルOEMの現場で、中国工場と一緒に数百万足の靴下を作ってきました。
このnoteでは、その経験をもとに「靴下の仕組み」や「履き心地の違い」を、できるだけ分かりやすく書いています。
普段あまり意識されない靴下ですが、少しでも面白い世界だと感じてもらえたら嬉しいです。
テレビでサッカーの試合を見ていると、選手はみんな長い靴下を履いています。
あれを、ただの「長い靴下」だと思っている人は多いと思います。
朝、自分が引き出しから取り出して履いた靴下。
選手がピッチで履いている靴下。
同じ「靴下」という言葉でくくっていいのか?
今日は、その中身の話です。
ふつうの靴下と、何が違うのか
結論から言うと、高機能な競技用ソックスは 一足の中に、いくつもの機能、工夫が組み込まれています。
しかも、場所ごとに違います。
かかと、前足部、土踏まず、足の甲。
同じ一枚なのに、部位ごとにやっていることが別なのです。
順番に見ていきます。
① クッション ― 衝撃を受ける場所だけ厚くする
走る、止まる、蹴る。
競技中、足の裏には何度も衝撃がかかります。
特に、着地するかかとと、蹴り出しに使う前足部。
競技用ソックスの中には、この部分だけ パイル編みという、内側にループを立てた編み方で厚くしたものがあります。
タオルの裏側を想像してもらうと近いかもしれません。
全体を厚くすれば、重くなり、靴の中も窮屈になる。
素材や編み方によっては、熱や湿気もこもりやすくなります。
だから、衝撃を受ける場所だけを厚くする。
必要なところに、必要なぶんだけ。
この引き算が、競技用の考え方です。

② 通気 ― 厚くする場所と、薄くする場所
競技用ソックスは、厚くするだけではありません。
足の甲のように、比較的衝撃を受けにくく、熱がこもりやすい場所。
ここは、メッシュ状に編んだり、薄くしたりします。
足は、競技中に汗をかきます。
湿ったまま足と靴下が動き続ければ、摩擦や不快感が増えやすくなります。
そこで、汗を素早く広げて乾かすために、ポリエステルやナイロンといった化学繊維がよく使われます。
厚くする場所と、薄くする場所。
クッションと通気は、同じ一足の中で両立させなければなりません。

③ フィット ― 動いても、そこに居続ける
激しく動けば、靴下は当然ずれます。
靴下がずれたり、しわになったりすると、 皮膚と靴下、靴とのあいだに摩擦やこすれが生まれやすくなります。
これが、靴擦れやマメの一因になります。
そこで競技用ソックスは、 かかとの立体的な形、足首や土踏まずの伸縮編み、足の甲のフィットなどを組み合わせ、 靴下が足に追従するように設計します。
土踏まずのあたりを帯状に締めた製品もあります。
これは一般に「アーチサポート」と呼ばれますが、 インソールのように骨格を持ち上げるというより、 靴下を足に密着させ、土踏まず周辺のだぶつきやずれを抑えるのが中心の役割です。
派手ではありませんが、 「動いても、そこに居続ける」ための工夫です。

④ 着圧 ― ふくらはぎまで圧をかけるタイプもある
競技用ソックスの中には、ふくらはぎまで圧をかける着圧タイプもあります。
特にランニング用や、回復を意識した製品に見られます。
足首側を強めに、上にいくほどゆるやかに。
こうした「段階着圧」は、 足首側からふくらはぎへ血液が戻るのを助け、 脚のむくみや重さをやわらげる目的で使われます。

作り手から見ると、これは「編みの設計」
ここまで、クッション、通気、フィット、着圧と見てきました。
では、どうやって一枚にまとめているのか。
靴下の多くは、別々の布を縫い合わせるのではなく、 編機の上で連続的に作られます。
つま先の縫製や、滑り止め加工といった後工程はありますが、 基本の形と機能は「編み」で作ります。
一足の中で、 編み組織、目の詰まり方、ゴム糸の入れ方、使う糸、パイルの有無を切り替えていく。
では、競技用ソックスの値段は、何で決まるのか。
これは、機能の数だけでは決まりません。
使う糸、製品の重さ、パイルの量、編成にかかる時間、色数、組織の複雑さ、後加工、不良率。
こうしたものが積み重なって決まります。
複雑な切り替えが増えるほど、 設計時のプログラム調整や試作は難しくなり、 量産では編機の速度を落とさなければならないこともあります。
つまり、高くなるのは、 「切り替えの回数」そのものより、 複雑な設計を、安定して量産するための時間と技術なのです。
糸そのものの値段を見ても、競技用ソックスの値段は分かりません。
それでも、選手は靴下を切る
以前、選手が試合中に靴下を切ってしまう話を書きました。
これだけ機能が考えられていても、 既製の一足が、すべての選手に合うわけではありません。
チーム支給のソックスは、 ユニフォームとしての統一と、多くの選手への適合を前提に作られます。
でも、ふくらはぎの太さも、締め付けの好みも、足裏の感覚も、人によって違います。
だから、ふくらはぎに穴を開けて圧を逃がす選手もいれば、 足首から下を切って、自分のグリップソックスと合わせる選手もいます。
作り手は、部位ごとに機能を編み込んでいく。 選手は最後に、自分の感覚で手を入れる。
設計と、個人の感覚。
そのせめぎ合いの真ん中に、あの一枚があります。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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