続かないあなたは、悪くない──自分を熱中させる技術
続けたいことがある。
でも、続かない。
やる気がないわけではない。
大切だと、わかっている。
それなのに、気づくと止まっている。
そういうときが、あります。
これは「3つのスイッチ」という三部作の最終回です。
第一回では、カッとなって止まらなくなる「扁桃体ハイジャック」を鎮める方法を書きました──感情スイッチ。
第二回では、嫌なことが頭をぐるぐる回り続けるときに「思考をリセットする方法」を書きました──思考スイッチ。
嵐は、鎮まった。
思考も、整った。
さあ、動き出せる。はずなのに──なぜか、心が動かない。
やろうと思った夜の自分と、翌朝の自分が、まるで別人みたい。
その謎解きに、一生をかけた人がいました。
自分を、思わず熱中させてしまう技術
心理学者チクセントミハイの人生は、波乱に満ちていました。
クロアチアで生まれ、幼少期に第二次世界大戦を経験した。家族でイタリアとハンガリーを行き来し、戦争の悲惨さを目の当たりにしたのです。
意を決して単身渡米したとき、彼のポケットにあったのは、わずか1ドル少々でした。
わずか1ドルで、誰も知らない国に、、、
どんな思いで、港に降り立ったのでしょう。
シカゴにたどり着いた彼が出会ったのがイザベラ。のちに妻となる、ポーランド出身の女性です。彼女の人生は、さらにしんどいものだった。ナチスの強制収容所を生き延びた経験を持っていたのです。
しかし、一度はすべてを失ったはずの彼女は輝いていた。
内側から湧いてくるような、静かな強さを持っていました。
多くの人は、目の前の小さなことで、頭を悩ませている。
でも、イザベラは違う。
恵まれていない。何を持っているわけでもない。
それでも、彼女は毎日を生き生きと過ごしている。
お金や出世ではない。人間には、もっと大切なものがあるに違いない。
この問いが研究の原点となり、彼は研究に没頭しました。ポケットベルを使った独自の調査で、10万件を超えるデータを集め続けた。そして発見したのが「フロー体験」です。
自分の心理的エネルギーのほぼすべてを目の前に注ぎ、時間を忘れて熱中している状態──それが、フロー。もし、意図的にフローに入ることができれば、誰もがイザベラのように輝けるはず。彼は考えたのです。
なぜ、続かないのか。
なぜ、行動を続けるのが難しいのか。
気合いが足りないから? 怠けているから?
それは違う。あなたが悪いわけじゃない。
チクセントミハイは、そう考えました。
人は、条件が整うと、自然と熱中するようになる。
条件とは、自分のレベルにピタっとあった課題を持つこと。
それだけです。
むずかしすぎると──不安になって、手が止まります。
かんたんすぎると──退屈になって、やる気が消えます。
その細い帯のなかに、やる気をつくる「フローチャネル」がある。
そんなの、ほんとかよ。そう思う人がいるかもしれません。
でも、あなたも、自分の好きなゲームやドラマには熱中できるでしょう。
そのメカニズムを使うってことなんです。
ドラクエが、証明している。
ドラクエを思い出してください。
最初にスライムが出てきます。倒すとレベルアップの鐘が響きます。
よし、と思う。
すると、すこしマップが広がる。歩くとドラキーに出会う。スライムよりは少しだけ強い。でも大丈夫。倒せるぞ。よし。
そうやって、目標が、ちょうどいい具合に難しくなってゆく。
スライムだけが出続けたら、きっと五分ぐらいで飽きてしまう。
でも、始めからゾーマが来たら、二秒で終了。ゲームともおさらばです。
「ちょうど心地よい課題」を出され続けると、、、
不思議なことに、人間は勝手に熱中してしまう。
僕たちは、そういう習性を持った生き物なのです。
少し続けると、もう一つ、心のなかに変化が起きます。
それが「有能感」です。
慣れてきた。
いや、むしろ上手いぞ。自分。
という手ごたえ。これが出てくると、行動は加速します。
もうだめ。やめろと言われても、やめられない。
成長実感を感じ、充実しながら、いつしか仕事が上達してゆく。
意志の強さとは、あまり関係がない。仕組みなのです。
その証拠に、ドラクエと初めて出会った夜。
僕はそれをはじめて、眠らずに30時間も続けました。
その時、僕のドラクエ・スキルは、信じられないほど上達していた。
会社をさぼってしまった代償を得たのです。

「もっと頑張ろう」とすると、よけいに続かない。
行動が止まったとき、多くの人はこう考えます。
気合いを入れ直そう、と。
美しい心がけだけど、その行動が実現できないことが続くと、自己嫌悪の渦をつくりだしてしまいます。
次第に「ちゃんとやらなければ」というプレッシャーが重なって、「しなくちゃ」の嵐が襲ってくる。そうなると、前向きな心のエネルギーを失って、動けなくなってしまいます。
継続できないとき、必要なのは、「もっと頑張ること」ではない。
設計を変えること。課題の難易度を調整すること。それだけです。
続けられる形を、つくる。
難易度を調整して、フローチャネルに入る。
さらに環境をフローに入りやすくする。
チクセントミハイの理論をもとに、その技法を紹介します。
フロー設計のやり方
今やるべきことに、勝手に「ワクワクするような意味づけ」をする。
── 「自己成長(どんな未来がひらけるか)」と「他者貢献(誰が喜んでくれるか)」がカギ「最適な挑戦課題」をクリエイティブに考える。
── がんばればギリできそうで、自分の興味が確実に続く期間(例. 3日)で完了できる課題邪魔になるものを取り除き、「静かに課題に向き合う環境」をつくる。
「難しすぎる」と感じたら小さくする。「簡単すぎる」と感じたら少し難しくする。できなくてもがっかりしない。「ちょうどいい挑戦感」を保つ。この難易度の調整が大切です。
完了したら結果を記録し「達成の喜びとともに記憶」に刻む。そして、すかさず、少し難易度を上げた「次の挑戦課題」を設定します。
慣れていないうちは、ステップ2が難しく感じます。
成功の鍵は「自分の強み」を知ること。
"VIA-IS"で検索すると、ポジティプ心理学による 無料の強み診断 がでてきます。そこで15分ぐらい。に日本語で質問に回答するだけで「あなたを特徴づける強み」を知ることができます。
そこで発見した「強み」と「挑戦したいこと」(仕事でも趣味でも大丈夫)をを生成AIに伝えて「フローに入るための、ワクワクする挑戦課題」をいっぱい提案してもらう。その中でピンと来るものから始めてみればいいのです。
例えば、強みが「好奇心」で、挑戦したいことが「運動習慣をつくること」なら、ただ毎日走るのではなく、「近所でまだ歩いたことのない道を毎日ひとつ発見する」という課題にしてみる。とか
強みが「感謝」で、挑戦したいことが「人間関係をよくすること」なら、「一日ひとり、ふだん言えていないありがとうを短く伝える」という課題にしてみる。とか
強みが「ユーモア」で、挑戦したいことが「仕事の改善」なら、「面倒な定例作業に、思わず笑ってしまう名前をつけて、少し楽しくなる工夫を3つ考える」という課題にしてみる。とか
AIは、あなたがOKというまで、いっぱい課題を考えてくれます。
ぜひワクワクするチャレンジを見つけてください。同じ挑戦でも、自分の強みと結びつけるだけで、少しだけ身体が前に出る感じが生まれます。
大切なのは、自分を熱中させるコツを掴むこと。
あなたが真剣になるために、気合はいらない。いるのは挑戦課題です。
最初から「完璧」(ゾーマ)を目指さない。
はじめは「ちょっとだけ進む(スライム)」でいい。
できたら、その達成感を味わい、次の一歩を考える。
「始めること」さえできれば、有能感がエンジンになって、気がつくと「続けられる自分」に変身していく。これがチクセントミハイが発見した、人生の宝物、フローなのです。
脳の中では。
フロー体験の前後で、脳の中では、いったい何が起こっているのでしょう。
適切な挑戦課題を前にすると、ドーパミンが出ます。「達成したとき」ではありません。「できそうだ」という期待の瞬間に出るのです。だから、課題を設定するだけで、取りかかる意欲が自然と湧いてきます。
課題をやり遂げたとき、今度はエンドルフィンが出ます。達成感と満足感をもたらし、疲労感を和らげてくれます。「ランナーズハイ」と似た感覚が、デスクの前でも起きています。
フローが深くなると、時間の感覚が飛びます。「気づいたら何時間も経っていた」は、これのサインです。
これを数日続けると、「やらなきゃ」という義務感が薄れてきます。そのとき、「褒められること」ではなく「小さな自己成長」に意識を向けてみる。
自分でコントロールできることだけに集中すること。それを深く味わうのです。すると、その神経回路が強化されて、習慣化に結びつく。そして「続けること」が、苦しくなくなります。
少しずつ、確実に、成長していく実感が生まれてくる。
自己嫌悪の代わりに、小さな有能感が積み上がっていきます。
スイッチが3つ、そろいました。
さあ、これで「3つのスイッチ」が揃いました。
嵐を鎮め──(扁桃体ランディング)
思考を整え──(ゼロ点リセット)
行動を続けられる形にする──(フロー設計)
ここで、少し振り返らせてください。
リンカーンは、怒りのままに手紙を書き、封をして引出しに眠らせました。
ジョブズは、毎朝鏡を見て、今日という一日だけに戻り続けました。
チクセントミハイは、1ドルを持って大陸を渡り、「なぜ生き生きとしている人がいるのか」と問い続けました。
彼らが持っていたのは、「折れない強さ」ではなかったのかもしれません。
気づいて、戻る。その繰り返しだったのではないでしょうか。
この3つは、別々の話ではありません。
感情が落ち着いてはじめて、思考に向かえます。
思考が整ってはじめて、行動が続きます。
波は、また来ます。
感情が乱れる日もある。
思考がぐるぐるする日もある。
行動が止まる日もある。
嵐が来たら、また鎮める。
思考が乱れたら、また整える。
行動が止まったら、また設計し直す。
折れないことが強さではありません。
戻ってこられることが、強さなのかもしれません。
続かなかったのは、あなたが弱いからではない。
設計が、少しあっていなかっただけなのです。
最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
AI時代の組織論。この最新作、きっとあなたのお役に立つと思います。
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斉藤 徹(とんとん)
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