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奮発!文学フリマ札幌旅行

「絶対◯時に起きなくては」が苦手なのである。
たいてい寝坊する夢かバスに乗り遅れる夢、マウスピースを忘れてコンクールの舞台に上がる夢を見る。
ハッと飛び起きるとまだ午前3時だったりする。

文学フリマ札幌の前日、朝5時に起きる予定だった私はカラスの騒ぎ声で4時58分に目覚め、ぼんやりと今日から三日間の動きを思い浮かべた。

北海道って、パスポートないと無理じゃない?

不意にカッと目が冴えた。
だって北海道って、島だ。
海を渡るときって、パスポートが要るんじゃないっけ?

もそもそと薄暗がりのなか貴重品ポーチを探り、見つけたパスポートをバッグに移す。
バッグに収まったパスポートは一度も提出を求められることなく、私は保安検査場を通過できてしまった。

あ、お釣りちゃんと持ってきたっけ。

一難去ってまた一難。
預けてしまうスーツケースにはもちろん入れずに、手荷物のリュックに入れておいたはずだ。
がばとリュックを開いたが、からっぽだった。
そういえば今朝、リビングでも見たような気がする。

すうっ……と姿勢が伸びる。
まだ寝ているかもしれないと思いつつ、夫にLINEで尋ねる。
すぐに既読がついて、リビングをたしかめに行っているとおぼしき間が空いた。

どうか見つかりませんように。いま私がたまたま見つけられていないだけで、荷物のどこかに入っていますように。どうかどうかどうか。
これ?
祈り虚しく、見覚えのありすぎるお釣り用の袋の写真がシュポッと届いた。

〜文学フリマ札幌、終了のお知らせ〜

なんというポンコツ。数か月かけてちみちみ100円玉を溜めてきた意味。
「私たち、だいぶ文フリ慣れしてきましたよね!」なんてはしゃいでたやつ誰だよ。私だよ。
空港に向かっているであろうとき子さんと羽ばたくチームにLINEを送り、ついでにXでも報告した。

そういえば、祖母と北海道旅行をした小学生のころにも、私はまったく同じミスを犯している。
「これは絶対忘れないように、ここに置いておこ」と大切に置いておいて、すっかり忘れたまま出発してしまうやつ。

私の人生って、いつもこんな気がする。

非常に穏やかな心で思う。
パスポートを持ってお釣りを忘れる、そういうことわざありそう。
意味は「余計なものを持ち、肝心なものを忘れるさま」。

鶫さんから「ゲームセンターなら両替できるかも?」とお返事が届いた。一筋の希望。
さすが羽ばたくチームのブレイン。
かくして札幌旅行は、ゲーセン探しから始まることとなった。

とき子さんと空港で落ち合い札幌へ移動し、ホテルに荷物を預けて町を漂う。
まずは腹ごしらえとカレー屋を探す。
一番最初に入ろうとした店はスープ切れで営業終了、二軒目はかなりの行列だった。

周囲を見回して駆け込んだ「出汁スープカレー」の店は、主役がまさかのカレイだった。玄人向けすぎる。私たちは、定番のチキンのカレーを求めていた。
しかも、一皿3000円くらいした。息の根が止まったかと思った。
着席してしまったとはいえ、まだ水も飲んでいない状況。

小声でとき子さんに「出ます?ねえ、すごく高い……」と相談するも、「つるちゃん、スープカレーはそのくらいするんよ」と囁き返されて脱出を諦める。

たしかに今回の旅行に際して、私はとき子さんに何度も「今回の札幌は金を気にしちゃいかんよ」と念を押されてきた。
でも、まさか到着初日のランチで、まさか一週間分の食費が消えるなんて!!!

くらくらしながら、高級なカレイのカレーを食した。
アレンジ用にかつお節やとろろ昆布が添えられていた。
刺激と肉をがつんと摂取するつもりだったのに、不本意に健康になってしまう。

玄人向けカレイのカレー

気を取り直して再び散策。北海道を代表する鳥、タンチョウとオジロワシ、シマフクロウがタイルやホテルドーミーインの外の壁で存分に羽ばたいている。

ドーミーインを羽ばたく鳥たち

それを見るたび「象は?象も仲間に入れてよ」とキョロキョロするとき子さんがかわいい。北海道に象がいたら、熊とどちらが強いのだろう。

セイコーマートで現金を下ろし、ガチャガチャ屋さんでおっかなびっくり両替させてもらってお釣り問題を無事にクリア。
ふう、お金を忘れてもなんとかなった。大人になってよかった。

その日の後半は、とき子さんゆかりの地めぐりへ。
この辺りのエピソードはすでにとき子さんのnoteに濃厚に書かれているので、ぜひそちらをお読みいただきたい。

北海道神宮でお参りをし、おそろいの鶴のお守りを買い、六花亭の判官さまをいただく。
判官さまはあんこが入った焼き餅で、香ばしくておいしい。
猛暑が報じられていたけれど、東京と違って湿度が少なく、風は涼しくて気持ちいい。
木陰のベンチで判官さまをいただいていると、とき子さんがいまにも成仏しそうな顔で言った。

もう北海道でやりたいこと、全部やりつくしたわ

早い!私たち一応、本を売りにきたのよ。
この日の夜はいぬいゆうたさんと待ち合わせ、とき子さんの元バイト先の仲間が独立して始めたイタリアンへ行く予定だった。

まだ少し時間があったので、ホテルに向かって歩きながらとき子さんがコンビニでビールを買った。
「えー、コンビニ?高くないですか?」と私がサツドラというでっかい薬局でビールを買ったら、缶を触ったとき子さんは「けっこうぬるいよ!コンビニのはこんなに冷えてるのに!」と誇らしげにコンビニビールを掲げた。こんなに冷え格差があるなんて、不覚。

とき子さんの元バイト仲間のお店は、すべての料理がおいしかった。
とき子さんが「これすっごくおいしいねえ!」と言うたびに料理長さんが「ふふっ、そうでしょう」と自信に満ち溢れた微笑みを浮かべるのがツボだった。

そのあと、いぬいさんのアテンドでノルベサの観覧車に乗ることに。
観覧車のある階までエレベーターに乗ったら水族館の照明並みに暗く、同乗したお兄さんたちもイケイケ風で、いつデスゲームが始まってもおかしくない不穏な雰囲気に包まれた。

観覧車って、そんなに頻繁に乗るものですかね?
とき子さんは札幌に住んでいたころもこの観覧車には乗ったことがないという。
しかし観光大使いぬいさんはちょくちょく乗っているらしく、「ここ、ホラーの観覧車もやっているんですよ」と教えてくれた。

ほどよい時間にホテルに帰ってチェックイン。
「ルームキーは何枚要りますか?」と聞かれてとっさに2枚頼んだら、とき子さんが「私たち、別行動取るかね?」と首を傾げた。
「うーん、これからバチバチに喧嘩するかもしれないし……?」と答えながら、とき子さんとバチバチに喧嘩する状況を思い浮かべようとするも、たいして思いつかないまま交代でシャワーを浴びる。

「服を洗濯しに行ってくるね」ととき子さんが部屋を出ていく。
しばらくしてドアがノックされたので開けると、「洗濯機ちょうど全部埋まってたー」と悔しそうに帰ってきた。
その後も「そろそろ終わったかな?でも終わってすぐ取り込んでくれるとは限らんよね?」と様子を見に行き、「悔しいー、また入ってたー!」と戻ってきてを繰り返した。

「もう手洗いするわ!」と洗濯機を諦めたころに、「ルームキー2枚あるんだから、これを持って出ればノックしなくてよかったんじゃない?」と気づく。

翌日、文学フリマ札幌当日。
朝、ホテルの朝食を優雅に食べた後、いぬいご夫妻が車で迎えに来てくださる。
文フリ当日にホテルの朝食!
ホテルのドアtoコンベンションセンター(会場)!
この時間の余裕、移動のゆとり。
拝んでも拝みきれないありがたさ。

公共交通機関での移動が基本のつるとき、方向音痴で一度は道に迷うのが基本のつるとき、いぬいご夫妻のお気遣いにより迷うことも歩くことさえせずに会場入りしてしまう。
「つるときのくせに生意気だぞぉ!」と糾弾されてもおかしくない。

コンベンションセンターは、ちょうどよい規模感だった。
出店者もそこそこ足早に回れば全ブース覗けそう。

特に嬉しかった会場の特徴は、
1.横並びの机の間が一人通れるくらい空いていること。
2.長机の下に収納がついていたこと。

これまで私たちが出店してきた会場の大半では、横並びの長机はぴったりとくっついていた。
買いものに行くときやお客さん側に行きたいときは、満員電車から降りるときのように謝りながら通してもらわないといけない。
今回は机の間を通り抜けられたので、人に迷惑をかけることも謝りすぎて卑屈になることもなく好き放題移動ができた。

長机の下の収納もありがたかった。
私たちは一人5種類、合計10種類の本を1ブースに並べるため、机上はかなりキチキチ。
だからいつもお釣りやビラ、特典ポストカードを置くスペースを見つけるのに苦労しているのだけれど、今回はそういう小物はすべて収納に置けたので手の動線がやたらスマートだった。

滞りなく設営を終え、文フリ開始。
数年間の文章のやり取りのなかで親近感を覚えていた前職でお世話になった方が函館から来てくださったり、東京にも来てくださった樹立夏さん、はじめましてだけど文章からにじみ出る感じそのままの玉三郎さん、はじめましてだけど(以下略)のaeuさんがお友だちと一緒に来てくださったりして、終始キャッキャとはしゃぎ倒す。
スーツケースの半分がいただいたお菓子で埋まり、もはや菓子をもらいにきたのか本を売りにきたのかわからない。

始まる前は「東京や大阪と違って常連さんもいないしnoterさんも少ないし、しかもかなり宣伝サボっちゃったし、私たちにとってはアウェイな地よ!!」と背水の陣を敷いた武将のような覚悟で臨んでいたのに。
札幌の人たちは、武将にとても優しかった。

札幌の人たちは、チラシをたくさんもらってくれた。
9月の大阪や10月のZINEフェス東京も見越して多めに用意して行ったのだけれど、14時前には配りきってしまってやや手持ち無沙汰に。
「もし関東にいらっしゃることがあれば」と豆千さんのチラシを配り、「お店やってるんですか?」とキラキラ問われたりした。
「いえっ、仲間の店です!」と元気に答えて(なぜこの人は札幌に仲間の川口のチラシを?)みたいな顔をされた。

持っていった本もほぼ予想通りの売れゆき。
43部、30,300円。

私が宣伝をサボっている間に(どうしても新刊が出るときにテンション任せに書いて、以降サボりがちになってしまう)記事を書いてくれたとき子さん玉三郎さんむつらさんSHIGE姐さんに心からの感謝を。

『メリー・モナークin大原田』の表紙の絵に惹かれて買ってくれたお客さんに、とき子さんがぴっかぴかの笑顔で「実は、この方が描いてくれたんですよー!!」と玉三郎さんを紹介していた。普通のお客さんに見せかけて装画担当。ちょっとした水戸黄門みたいになっている。

『羽ばたく本棚』が脱腸の話をする前に「自費出版文化賞って、なんかすごそうですね」と次々羽ばたいていったのが少し不安。
この場を借りてお伝えしたい。
その本は、たぶんみなさんが思っているような真面目な本じゃないんです!
娘に脱腸を投げつける脱腸じじいや、豚肉のために地獄をひた走る青年が出てくる本です(『フィンランドの昔話』の癖が強い)。

隣接していただいたいぬいご夫妻は、安定感のある接客が印象的だった。
いぬいさんの奥さまの手書きポップといぬいさんご自身の写真入り記事が目を引き、またいぬいさんのいいお声も合わさって、いかにも「信頼と実績のあめつちコトノハ堂」だった。
この雰囲気の落ち着きは、お客さんたちにもしっかり伝わっているらしい。
私たちが声をかけたときにはあいまいな微笑みを浮かべて通りすぎていった人たちが、いぬいさんブースには吸い込まれるように近寄っていく。

いぬいさんはさらに、体感1時間に1回くらい北海道銘菓を配ってくれた
もはやイチ出店者を超えて、イベント主催者かのような気遣い。
きっと真の姿は北海道大使。
ノースマンやじゃがいもコロコロ、カレー味のラスク、初めて食べました。おいしかったです。

文フリ終了後はいぬいご夫妻、aeuさん、玉三郎さんとつるときでジンギスカンの宴。
そりゃ玉三郎さんにはとき子さんと並んでもらわにゃ!と玉三郎さんを三人席の真ん中に促したら、そこは焼き網の真ん前の一番忙しい席だった。
ごめんなさい!焼肉奉行に仕立て上げたかったわけじゃない!!

人生初ジンギスカン。「ジン、ジン、ジンギスカーン♪」の有名な歌と、羊の肉ということしか知らずに行ったら、ドーム状の焼き網にびっくりする。
真ん中の標高が一番高いところに肉を置いて、地上に近い部分に野菜をぐるりと置くと肉汁を野菜が吸っておいしいらしい。とき子さんがやたらともやしを求めていた。
対角線上のaeuさんとビールを掲げあったり、いぬいご夫妻のあうんのやり取りに憧れたり。

とき子さんの熱いリクエストで大量のもやし

ほどよくお腹が満ち足りたところで締めパフェのお店へ。
ワイングラスみたいな容器に美術品みたいなパフェ。
座席の都合で3人ずつに分かれ、私はaeuさん、いぬいさんの奥さまとテーブルに着いた。

こちらは恋バナやnoteの話できゃっきゃと盛り上がり、パフェのおいしさ美しさにため息をついたりとキラキラ女子のような時間を満喫していたのだけれど、あとでとき子さんから聞いたら、そちらはいぬいさん、玉三郎さん、とき子さんの順にカウンターに並んで玉三郎さんに両サイドから創作の熱い話を浴びせかけたという。
頼むからパフェ屋で修造化しないで。

名残惜しくてビルの外でおしゃべりしていたら、でっかい蛾がぶんと現れて阿鼻叫喚。
しかもそのまま足元に転がり倒れて、死亡(?)
「雪虫みたいだね」とみなが言う。
北海道には、当たっただけで死んでしまう、雪虫という虫がいるらしい。名前通りの儚さ。

北海道三日目。旅行最終日。
当初は「ぶらぶらおいしいものでも食べて夕方の飛行機に乗ろう」という予定だったのだけれど、なんと玉三郎さんとテレビ塔に登れることになった。
修学旅行っぽい……!!

透明なエレベーター、突然知らないキャラのぬいぐるみを持たされての写真撮影、塔内のあちこちに仕掛けられたスタンプラリー、お土産屋の金の剣のキーホルダー、テレビ塔を見上げながら食べるソフトクリーム。
ますます修学旅行だ。

せっかくだからと各所のスタンプを押して回っていたら、「スタンプラリーに参加するならテレビ塔の入場料半額!」というチラシが目に入った。
悔しい!知らずに1000円(正規料金)払っちゃったよ!
ふがふが悔しがる私に、とき子さんは余裕を崩さなかった。

「つるちゃん、日付をよく見てみ。昨日で終わってるよん」

その通りだった。
昨日までなら仕方ないかぁ、と気を取り直して塔を出たら、今日から「入場料が半額になるデジタルスタンプラリー」が始まっていた。

「はぁー!悔しいねぇ!!」とき子さんが火を吹く。

せっかくなら500円で登りたかったわぁ!
でもデジタルだから、なんかすごく手続きが煩雑とか、個人情報を超入力しなきゃいけないんじゃない?
もはやそういう面倒くささがあってほしい!

私たち、あんなに「この旅行は出し渋らない!」って誓いあったのに。
酸っぱい葡萄式にキレちぎる私たち(観光客)に対して、北海道民の玉三郎さんは泰然と事態を受け止めていた。
その場の誰よりも大人だった。

駅前で玉三郎さんと別れ、空港へ。
やっぱり最後は贅沢したいよね!と、さっきまで500円を惜しんでバチギレしていたとは思えない態度で海鮮丼屋に入った。
丼の種類が豊富すぎて、もはやパズルゲーム。

この丼に海老が乗っていたら完璧だったのに!
こっちには海老乗ってるけど、ホタテがないっ!
これが一番後悔しなさそうだけど、絶対米が多いのよ!
ウニってやっぱり、死ぬほど高いんだねぇ……!

悩みに悩んだ末に私は、ウニとイクラとカニが三分の一ずつ乗った丼にした。
本気を出したら三匙で食べ終えてしまえるようなウニを、舌ですりつぶすようにちみちみ味わう。

私が小学生のころウニ一色の丼を注文した祖母の決断の重みを、あらためて思う。
これは「北海道にくるのはこれが最後かもしれない」と覚悟していないと、出せない金額だ。少なくとも、私は。

私はまだ、北海道に行く機会がこれから何度もあると信じている。
これが最後と悟るまでは、地に足ついた奮発レベルで楽しんでいきたい。

ウニカニいくら丼

***

なんて感傷に浸っているうちに、文学フリマ大阪が来週に迫ってまいりました。

ブースは【た-52】。その一か月後にはZINEフェス東京にも出店します。

商品紹介やこれまでのイベントのまとめなどは、下記のnoteをお読みください。どこかでお会いできますことを楽しみにしています。