【イオンモール熊本爆発事故】それぞれの「想定外」と「あやふやさ」に思うこと。
最近では実に便利になったもので、高速道路のSAに、外部から徒歩でアクセスできるルートが設けられ、車で高速道路を利用せずとも、SAの「外」の近所で暮らす人々は、手軽に食堂などを利用できるようになっているケースもある。しかし筆者はこうした試み・施設が便利だと感じる一方で、「このまま本線の路肩などを歩いてしまう人がいたらどうなるのだろう」と素朴に感じてしまう。無論、高速道路はその入口部分からして、自転車や歩行者などが入らぬように掲示しているが、「入っちゃ駄目って書いてある」と言っても、その実、簡単に入れるようにしていたとしたら、やはりそれは高速道路の運営者側に、その管理体制の甘さを糾弾される余地が残されていると、筆者は感じるのである。
さて、筆者はこのところ、イオンモールで発生した爆発事故に関して、立て続けに投稿した。当初は筆者の中での同施設への思い入れによるところが大きく、その後は爆発事故によって亡くなった複数の女性従業員たちに関する部分、そして彼女たちを死に追いやった運営会社について思う部分などを、思うまま、感じるままに書いていたが、世人の多くが知るように、従業員の死亡直後は「取材はお断り」としていた雑貨店の運営企業・ハビタは、事実関係について触れることなく、自社のサイトを書き換えるなど、不可解な動きに出たことからさらに世人の怒りを買うこととなり、憤怒の声が急速に増大することとなった。すると、それをを知ってか知らずか、同社社長と幹部は、おもむろに死亡した女性従業員の通夜の場に現れ、ようやく当時の状況を説明しつつ、遺族への謝罪を行うに至ったのである。
これら一連の流れで、多くのネット民、とりわけX民たちが、ハビタに社会的な制裁を与えるという「共同私刑」ともいうべき行為の達成に酔う声を投稿しているが、筆者はこうした状況にある種の危惧を感じている。「必要悪」としての側面は少なからずあるにせよ、ネット社会特有の「勝手な自分事化」「安易に義賊気分を味わえる私刑の横行」「事故という惨事をコンテンツとして消費」など、その危惧の材料はいくつかあるが、なかでも筆者は、ハビタ幹部による遺族や報道陣への説明が行われるより前に頻繁に出ていた「イオンは悪くない。悪いのはハビタだけ。」という見立てには同意しかねる部分があるのだ。
Xなどへの投稿をつぶさに観察していくとよくわかるのだが、この「イオンは悪くない。悪いのはハビタだけ」という論調の大半が、
(1)女性従業員たちは一度退避しているため、ハビタが「売り上げ金を金庫にしまうように」という指示を出さなければ館内に戻らず、爆発に巻き込まれなかった。
(2)イオン側は適切に退避させており、マニュアル上でも再入場しないことになっている。従業員らが館内に再入場したのはそれぞれのテナント固有の判断・指示によるものだった。
…という事実に基づいている。しかし、ここから見えてくるのは、
ハビタ:「爆発が起きるとは思っていなかった」(そもそも戻らせること自体がNG)
イオン:「従業員が再入場するとは思っていなかった」(そもそも戻れるようになってること自体がNG)
という、それぞれの「想定外」と、独特な「あやふやさ」が重なった上での事故だったという点だ。無論、ハビタの「爆発が起きるとは思っていなかった」という部分については、爆発が起きようと起きまいとある程度の危険が想定されていたにもかかわらず、イオン側のマニュアルを無視して従業員に再入場を命じたのはあまりに愚かな判断ミスであるとしか言いようがなく、人命軽視と言われてもなんら反論できる余地はないだろうが、こうした部分については既に一連のハビタ叩きの中で多くの批判を浴びているといえる。
一方、イオン側における「想定外」の要素「従業員が再入場するとは思っていなかった」についてはどうなのか。たしかにマニュアル上はそうなっていたかもしれない。事実、当日、辛くも爆発直前に脱出できた他店の従業員らの証言では、地震発生直後の退避が完了した時点で、イオン側の警備スタッフが施錠のために巡回していたという。
「店に15〜20分ほどいたところ、警備員さんから『ここは施錠するから出てください』と指示されたんです。」
だが実際には、各テナントの従業員が自由に出入りできる状態となっていたわけで、そうした意味でいうと、冒頭で書いた高速道路の例でいえば、「歩行者は道路に入っちゃダメってちゃんと書いてある(けれども実際には容易に進入できる)」という状況とさして変わらぬ状態であったといえる。実際、下掲の『真相報道 バンキシャ!』(日本テレビ系)を記事化したものを一読すればわかるように、複数の従業員が出入りしていることも窺えるが、これは「再入場NG」というマニュアル記載のルールが機能していなかった可能性を示唆しているだろう。
しかも、である。RKK熊本放送の『「命に代えるものではなかった」イオンモール熊本爆発事故 従業員2人死亡のテナント幹部が通夜で謝罪 「売上を金庫に入れるよう」指示』(8/3(月) 0:03配信)という記事によると、ハビタ幹部は「再入場NG」であることを知った上で「入る時は必ずイオンモール熊本の許可を得てから入ってくれと言いました」「休みの店長にLINE電話して、安否確認した後に、もし入れるのであればと」(前出記事)と、再入場にあたってはイオン側の許可があれば可能であった可能性を示唆しているのだ。
無論、同社幹部によるこの主張については「裏取り」が必要であるし、今後、争点になっていくであろうが、こうした状況を鑑みると、それでも「イオンは何も悪くない」といえるかと考えれば、安易に「いえる」とは思えないのだ。施設全体の運営を行う企業としてみた場合、それを許容した状況であったことは、管理体制の甘さについて批判を受けることを意味する。「マニュアル上のルール」と、「現場での実際の運用のギャップ」こそが、ハビタの指示を「実行可能」にしてしまった土壌となったことは事実であるからだ。予期せぬ爆発こそ防げないだろうが、モール側の入場管理が徹底され、物理的に戻れなければ、これほどの死者を出すことはなかっただろう。
小さい子供を何人かで遊ばせているときに、その中の誰かが何らかの「やらかし」をしでかし、親や教師などの大人が全体への注意として咎めると、「ごめんなさい。でも私はやめるように言ったのにこの子が聞かなかった(だから私は悪くない)」と主張する子供は割とよくいるが、それをふと、筆者は思い出した。無論、一番悪いのは「やらかし」の子供であることに変わりはないのだが。
(猪)
