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なぜ野村総研の「富裕層ピラミッド」には不動産が含まれないのか?

ニュースサイトやX(旧Twitter)のタイムラインを見たり、投資や資産形成の本を読んだりしていると、定期的に目に入る図があります。
野村総合研究所(野村総研)が発表している、いわゆる「富裕層ピラミッド」です。

出典:野村総合研究所

超富裕層(5億円以上)を頂点にして、富裕層、準富裕層、アッパーマス層、そして一番下のマス層(3,000万円未満)へと裾野が広がっていくあの図。
資産形成やサイドFIREに興味がある方なら、一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。

あのピラミッドを見ると、つい「今の自分はどの階層にいるんだろう?」と、手元のスマホの電卓を叩いて計算してしまいたくなりますよね。

しかし、ここでマイホームを購入したばかりの人、あるいはこれから購入しようとしている人は、ある強烈な「モヤモヤ」と「絶望」に直面することになります。

たとえば、コツコツ貯めた貯金1,000万円を頭金にして、念願の5,000万円の戸建てを購入し、4,000万円の住宅ローンを組んだとします。
「これで立派なマイホームという『資産』を手に入れたぞ!」
そう意気揚々とピラミッドの計算式(資産-負債)に当てはめてみると……

  • 貯金(資産):ほぼ0円

  • 住宅ローン(負債):4,000万円

  • 差し引き:マイナス4,000万円

「……あれ? 資産がマイナスになった?」

そうなんです。数百万円、数千万円というお金を払って立派な「家」を手に入れたはずなのに、ピラミッドの基準に照らし合わせると、資産価値がプラスされるどころか、ただの「多額の借金(ローン)を背負った人」としてカウントされてしまうのです。

「ローンという負債だけが引かれて、購入した家という資産はノーカウントになる。こんなの絶対に納得いかない!」

そう感じたあなた。その感覚は、大正解です。

結論から言えば、あなたがこのピラミッドの階層転落に一喜一憂する必要はまったくありません。
あの有名な図が測っているのは、私たちの「生活の豊かさ」でも、「本当の総資産」でもないからです。

今回はこのピラミッドの「本当の狙い」を考察してみます。
そして、私たち個人投資家やライフスタイルを大切にする層が持つべき「本当の資産の測り方」について考えていきましょう。


1. なぜ「家」はノーカウントで「ローン」だけ引かれるのか?

ピラミッドの階層を決めているあの数字。実は、あなたの財産すべてを合算した「総資産」ではありません。図の説明書きをよく見ると、そこには「純金融資産」と書かれています。

ここが最大のポイントであり、マイホーム購入者を絶望させるカラクリの元凶です。
純金融資産を計算する際、私たちの財産は「金融資産」と「実物資産」の2つに厳密に区別されます。

  • 金融資産(カウントされる): 現金、預貯金、株式、投資信託、債券など

  • 実物資産(カウントされない): 持ち家(戸建て・マンション)、土地、車、貴金属など

なんということでしょう!😭
私たちが何千万円も払って手に入れた夢の「マイホーム」は実物資産に分類されるため、このピラミッドの計算上は、価値が「ゼロ」として扱われてしまうのです。

一方で、家を買うために組んだ「住宅ローン」はどうなるでしょうか。
これは金融機関からお金を借りている状態なので、立派な「金融負債(マイナス)」としてカウントされます。

野村総研が定義する純金融資産の計算式は、非常にシンプルです。

純金融資産 = 金融資産(保有額) - 金融負債(借入額)

この式に、住宅ローンを組んでマイホームを買った状況を当てはめると、悲劇が起きます。

  • 家というプラス要素 = 実物資産なので計算外(0円)

  • ローンというマイナス要素 = 金融負債なので全額マイナス

結果として、「大きなプラス(家の価値)は無視されるのに、大きなマイナス(ローンの残債)だけが全額引かれる」という、まるでバグのような現象が起きてしまうのです。

これこそが、手元に数千万円の価値があるマイホームがありながら、ピラミッドの最下層へ転落してしまうマジックの正体です。
決して私たちが貧しくなったわけではなく、単に「測る定規」が違うだけなのです。

2. あのデータの「本当のターゲット」は誰か?

では、なぜこんな「個人の実感とズレた」定規が使われているのでしょうか。
その答えは、このデータを作ったのが誰なのかを知れば一目瞭然です。

調査を発表しているのは「野村総合研究所」。
日本を代表する金融グループをバックに持つシンクタンクです。
つまり、あのピラミッドは「金融業界の、金融業界による、金融業界のためのデータ」なのです。

銀行や証券会社といった金融機関がビジネスを展開する上で、最も知りたい情報は何でしょう?
それは、「自社で金融商品(投資信託や株式など)をたくさん買ってくれる余裕のある人は、日本のどこに、どれくらいいるのか?」ということです。
つまり、今すぐ動かせる現金や有価証券を持っている人です。

持ち家などの不動産は、いわゆる「流動性の低い資産」とみなされます。
家の一部を切り売りして投資信託を買うことはできませんからね。

だからこそ、金融機関は換金に手間と時間がかかる「不動産」や「車」といった実物資産を計算から意図的に外しています。
個人の成功を測るための成績表ではなく、「金融業界のマーケティング用ターゲットリスト」なのです。

この前提を知っておくだけで、あの図を見たときのモヤモヤはすっきりと晴れるのではないでしょうか。

3. サイドFIRE・個人投資家が持つべき「自分サイズのBS(貸借対照表)」

金融機関のマーケティング指標に、自分のライフデザインを左右される必要はありません。
サイドFIREや自由な働き方を目指す私たちが持つべきなのは、金融機関のターゲットリストではなく、マイホーム(不動産価値)も「資産」として正しく計上した「自分サイズのバランスシート(BS)」です。

たとえば、私自身も2015年に戸建てを現金一括で購入しました。
ピラミッドの基準だけで言えば、その瞬間に手元の「純金融資産」は大きく減少したことになります。
しかし、個人のBS全体で見れば、現金が不動産という実物資産に形を変えただけで、決して総資産が消滅したわけではありません。
(もちろん「購入金額を投資に充てれば、もっと資産は増えたのでは?」という機会損失としての考えなら別です)

むしろ、住居費という人生最大の固定費から解放されたことで、その後のシステムエンジニアからの独立や、ひいてはサイドFIRE達成という身軽なライフスタイルへ移行するための強固な土台となりました。

ローンを組んでマイホームを買った場合も、考え方はまったく同じです。「ローン残高(負債)」だけを見て絶望するのではなく、現在の「家の査定額(実物資産)」をプラスに計上して計算し直してみてください。
それがあなたの本当の「純資産」です。

金融機関が好む「すぐ動かせるお金(流動性)」は、日々の生活防衛資金や、長期運用に向けた資金として一定額確保できていれば十分です。

ピラミッドの階層を上げるためだけに、本来手に入れられたはずの豊かな住環境を我慢してキャッシュを貯め込むのは、いささか本末転倒ではないでしょうか。

  • 日々のキャッシュフローを生み出す金融資産

  • 生活の質を担保する実物資産(マイホームなど)

この2つを総合的にトラッキングし、自分にとって一番心地よいバランスを探ることこそが、一喜一憂しないリアルな資産管理の第一歩なのです。

まとめ:数字の裏を読み、自分なりの豊かさを定義しよう

ここまで見てきたように、世間で話題になる「富裕層ピラミッド」は、あくまで金融業界がビジネスのために引いた定規に過ぎません。

マイホームの購入によって一時的に「マス層」に分類されたとしても、それは決して資産形成が失敗したわけでも、人生の豊かさが後退したわけでもないのです。

大切なのは、他人が作ったランキングで上位を目指すことではありません。
自分自身の「総純資産」と「キャッシュフロー」を正確に把握し、自らの手でコントロールしていくことです。

自分だけの指標を持つということ

NISAやiDeCoなどを活用して長期的な視点で手堅く資産形成を進めつつも、心地よい住環境を整えたり、日々の生活を充実させる実物資産を手に入れたりする。
そうやって「自分サイズのバランスシート」を少しずつ育てていくことこそが、地に足の着いたライフデザインと言えます。

世間の見栄や、誰かが作ったピラミッドの階層を登るゲームから降りたとき、本当に自分らしい豊かさの形が見えてきます。

数字の裏にある意図を冷静に読み解き、ぜひご自身の価値観に基づいた「本当の資産管理」をスタートさせてみてください。
この記事が、読者の皆さんのライフスタイルをより自由で豊かなものにするための、小さなヒントになれば嬉しいです。

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