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【怨毒】~保健所職員 百武凛太朗の調査事例~ 第7話(全10話)

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 ――数日後、小竹の自宅に警察の捜索が入った。なんでもペットボトルに指紋が残っていたらしい。会社に保存されていた履歴書を確認したところ、小竹は工業高校を卒業し、毒物劇物取扱責任者の資格を持っていた。さらに聞き込みで動機が見つかったことが、決め手となったようだ。

 騒ぎのあった夜について、稲田市民病院から夜間出入り口の監視カメラ映像が多摩東署に提出されていた。地道な突き合わせ作業の結果、時間外面会申請の記録にない人物が一名、深夜に外へ出ていたことが判明。ただ入る方にカメラが向けられていて、出る方は顔の確認が困難な角度だった。さらに正確な歩容解析を行うには、カメラが古く解像度が足りないのだという。

 黒っぽいコートとローファーは女性物と思われるが、ただ推定身長は百六十台前半の痩せ型、かつ背を丸めた様子は、こちらも小竹の体形に当てはまっているらしい。

 しかし家宅捜索の結果出てきたのは、『毒殺 バレない』など殺害方法を調べていたらしきスマートフォンの数多くの検索履歴だけだった。

 まず、ドクササコから成分の抽出を行ったらしき痕跡が、何もない。所持していたPCには、動画を作成・投稿していた履歴はあった。だが例の動画や、その素材になりそうなファイルについては、削除された痕跡すら見つからなかったようだ。

 ただその小竹が作成していた動画には、違法ダウンロードされたらしきファイルが素材に使用されていた。さらにファイルの完全消去を行うソフトウェアも所持していたとのことで、今はそちらを名目に任意で話を聞いているようだ。

 なお小竹は、あの指紋は粕谷にドリンクホルダーに入れるよう指示されたときに付いたのだと主張している。その主張と指紋の付き方にも矛盾はなく、今の状態では立件は難しいとのことだった。

『――そういうことだから、しばらくは引き留めて話を聞くことになる』

 山本からの電話でひと通りの経過を聞き終えて、凛太朗はデスクの上にペンを置き、首を傾げた。

「検索履歴は『毒殺』だったんですよね? ならば致死毒ではないドクササコをあえて選ぶことはないと思うんですが」
「色々と考えているうちに、ドクササコが最適だと考えを変えたんじゃないか?」

 どことなく歯切れも悪く聞こえるが、日本の警察がそう判断するからには根拠があるのだろう。動機が見つかったというし、例の動画の内容に関係していたのだろうか。

「先ほど言っていた動機とは、どういったものですか?」

 凛太朗が問うと、山本は今度は張りのある声で答えた。

『本人は否定しているが、他の社員から小竹は粕谷から脅迫されていたと証言があった。少額だが毎日カツアゲに合っていたらしい。収集作業員同士の暴力行為を目撃したと、市に苦情が入っていた裏付けも取れた』

 社長からの訓示はあったが、人手不足ゆえに厳重注意とすら言えないような対応で終わっていたようだ。小竹の方も頑なに否定していて、注意しづらかったという理由もある。凛太朗は「弁当を買わされて」と言ったときの小竹の落ち着かない様子を思い出したが、しかし、まだ腑に落ちないことがあった。

「十一年前の被害者である佳野さんとは、何か関係があったんでしょうか。あの動画のリンク先には、非公開であるはずの少年審判の結果が詳しく載っていたと思うんですが」
『いや、戸籍を洗ったが特に血縁でもないし、同じ都内の出身というだけで、特に接点は見つかっていない』
「ならば、なぜ……」
『他の同僚の話によると、本件の被害者は少年院に入っていたことを周囲に自慢していたという。赤の他人が正義を自称して晒し行為を行うケースなんて、最近じゃ珍しくもないだろう。被害者から受けていたという脅迫の内容が突破口になるのではないかと、今説得しているところだ』
「いや、待ってください。ペットボトルに他の指紋はなかったんですか?」

 すると山本は少しだけ言いにくそうに、口を開いた。

『指紋は小竹のものの他に、被害者である粕谷本人と、ペットボトルを渡した軽井のものが付着していた』
「自販機に飲み物を補充した業者さんのものは?」
『いや……』
「その様子だと、不自然なことに気づいていないわけではなかったんですね」

 沈黙がややあって、山本はいつも低い声をさらに沈ませて答えた。

『……先週あった女児の失踪事件に捜査員が割かれ、俺も兼務の状態だ。無意識に深く考えずにいたことは否定できない』

 山本は警視庁に採用されて五年ほど経つが、愚直なまでに正直な性質は学生の頃からあまり変わっていないらしい。重量級の体躯に似合わぬしょんぼりとした毬栗頭を想像して――凛太朗は笑ったら悪いと思いつつ、つい受話器のこちらで微笑しながらペットボトルキャップの問題点を口にした。

「ペットボトルを未開封に戻す方法がないか調べてみたんですが、すぐに見つかりました。後で解説動画のURLを送りますね」
『そんな動画まであるのか……』

 そう呟いたきり押し黙ってしまった山本に、凛太朗はここぞとばかりに畳みかけた。

「そういえば、軽井さんの履歴書は確認したんですか?」
『ああ。地元石川にある県立高校を卒業し、自宅に住みながらコンビニのアルバイトで三年間過ごした後、東京に出てあの会社に就職したらしい。都内出身の粕谷とは上京以前に接点もなく、就職後も特にトラブルなどはなかったようだ』
「石川? ドクササコの発見例が多い地域じゃないですか!」
『だがキノコの毒性分の抽出なんて、素人にできるものなのか?』
「石川の県立……なんという高校か分かりますか?」

 履歴書には科までは書かないから、農業科がある高校の可能性もあるだろう。農芸化学科出身の同僚を思い出しながら問うと、上がったキーワードは意外、だが手がかりになり得るものだった。

『確かナントカが丘とかいう高校だったと思うが』
「もしかして、泉ヶ丘ですか?」
『ああ、たぶん』
「東京の人は感覚が違うかと思いますが、田舎の多くは公立が強いんです。泉ヶ丘は隣県でも名の知れた名門ですよ。県下一の進学校でも家庭の事情で就職する話はたまに聞きますが……フリーターになった理由が気になります」
『……なるほど。すぐに令状を取って戸籍を調べておく』


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