🎧 素晴らしきジャズ・ピアニストたち【#11】キース・ジャレット
ジャズの専門家ってわけじゃないけれど、聴けば聴くほど「この人、いいなあ」と思わせてくれる素晴らしいピアニストが、ジャズにはたくさんいます。そんな人たちを、初心者目線で紹介していくシリーズです。
今回は、キース・ジャレット。何も決めずに舞台へ上がり、その場で音楽を生み出してしまう人です。何も決められていない場所から、その瞬間にしか存在しない音楽を作り出したピアニスト——ジャズの即興という言葉の意味を、根本から広げた存在です。
🎹 今回のピアニスト:キース・ジャレット(Keith Jarrett)
生年:1945年5月8日(ペンシルベニア州アレンタウン生まれ)/存命
肩書き:ジャズ・ピアニスト、作曲家。クラシックの演奏家でもあります
主な栄誉:2014年 NEAジャズ・マスター

📍 活動の舞台
ペンシルベニア州アレンタウン生まれ。3歳になる前からピアノを習い、7歳で初のリサイタルを開いた神童でした。クラシックの教育を受けて育ち、バークリー音楽院を経てニューヨークへ。
1960年代半ばにアート・ブレイキーのジャズ・メッセンジャーズへ短期間参加。続くチャールス・ロイド・カルテットで世界的に知られるようになります(ここでドラムのジャック・ディジョネットと出会いました)。1970年頃にはマイルス・デイヴィスのエレクトリック・バンドへ。本人の希望とは違い、オルガンやエレクトリック・ピアノを担当した、キャリアでも例外的な時期です。
そして1971年、ノルウェーのオスロで『Facing You』を録音。以後、半世紀以上にわたりドイツのレーベルECMと歩みをともにしました。
⏰ 主な活動時期
1970年代以降、活動は大きく4つの顔に分かれます。
ソロ・ピアノ:何も決めずに舞台で音楽を作る完全即興。1975年の『The Köln Concert』は約350万枚を売り上げ、ジャズ史上もっとも成功したソロ・ピアノ録音になりました
アメリカン・カルテット:デューイ・レッドマン、チャーリー・ヘイデン、ポール・モチアンとの荒々しく土臭いグループ
ヨーロピアン・カルテット:ヤン・ガルバレクらとの、透明感と旋律美のグループ
スタンダーズ・トリオ:1983年から約30年、ゲイリー・ピーコック(b)、ジャック・ディジョネット(ds)とスタンダードを再解釈し続けました
加えて、バッハやショスタコーヴィチなどのクラシック作品も本格的に録音しています。なお2018年に2度の脳卒中を経験し、左半身に麻痺が残ったことを本人が公表。2017年のカーネギー・ホール公演を最後に、公開演奏からは離れています。その後もECMからは、過去のコンサート音源が発売され続けています。
🎹 プレイスタイルの特徴
ジャレットのピアノは、「その瞬間に生まれる歌」です。
透明感のある、輪郭の明確なタッチ。弱音から強音までの幅が広い
最大の魅力は旋律を生み出す力。完全即興なのに、覚えやすいメロディやゴスペル風の進行が自然に湧いてきます
左手で短い音型を反復し、その上に右手の歌を重ねる。単純な繰り返しから、大きな高揚が生まれます
バッハを学んだ人らしく、左右の手が独立して会話するような対位法的な動き
スウィング、ゴスペル、フォーク、無調まで、ひとつの演奏の中に現れます
本人は即興について、自分が音楽を支配するのではなく、まず自分が「聴き手」であり続けることで何かが起こる、という趣旨を語っています。演奏中にうなり声を出したり、立ち上がったりするのも、身体でリズムを感じている表れです。
💿 おすすめの名演・作品
◎ ソロ・ピアノ
The Köln Concert(1975年1月24日録音/ECM)
もっとも有名な一枚。全編即興です。当日は希望した楽器が用意されず状態も良くなかったと言われ、その制約への対応が、あの反復的で旋律的な演奏につながったとも語られます。
Facing You(1971年録音/ECM)
ECM第1作。比較的短いオリジナル曲が中心で、旋律・ブルース・クラシック的和声がすでに一つになっています。
The Melody at Night, with You(1999年)
体調を崩した時期に自宅で録音した、静謐なスタンダード集。技巧を削ぎ落とし、旋律そのものを丁寧に弾いた親密な作品です。
◎ カルテット
My Song(1977年録音/ECM)
ヨーロピアン・カルテットの代表作。ヤン・ガルバレク(sax)らとの、旋律美と透明感が際立つ一枚です。
The Survivors' Suite(1976年録音/ECM)
アメリカン・カルテットの代表作。フリー、ブルース、ゴスペルが一体化した、作曲家・バンドリーダーとしての姿が見えます。
◎ スタンダーズ・トリオ
Standards, Vol. 1(1983年録音/ECM)
トリオの出発点。「All the Things You Are」など、スタンダードを現代的な即興の素材として扱いました。
Tokyo '96(1996年録音)
東京での公演。美しさ、スウィング、バラード、三者の対話を一枚で味わえるので、トリオ入門にも最適です。
👂 聴きどころポイント
即興から歌が生まれる瞬間:静けさの中からモチーフが立ち上がる過程
左手の反復:単純な繰り返しが大きなうねりを作る(『ケルン』でわかりやすい)
三者対等のトリオ:ピアノが主役の伴奏型ではない、リーダー不在の対話
あの声:演奏に混じるうなり声も、彼の音楽の一部です
入門なら『The Köln Concert』、静かに聴きたいなら『The Melody at Night, with You』、トリオなら『Tokyo '96』がおすすめです。
✍️ 一言コメント
『ケルン・コンサート』だけで語られがちですが、それは彼の一面にすぎません。荒々しいカルテット、緻密なトリオ、そしてバッハ——引き出しの多さに驚かされます。それでも共通しているのは、「いま、この瞬間にしか鳴らない音」を追い求めた姿勢。予定調和を嫌い、観客の物音にすら厳しかったのも、その裏返しでした。何も決まっていないところから音楽が立ち上がる——その瞬間に立ち会う喜びを、録音からでも十分に味わえます。
🎹 ジャレットが好きならこの人も
ジャレットの「即興の美しさ」「歌う旋律」が気に入ったなら、こんなピアニストたちもおすすめです。
ブラッド・メルドー:クラシックの影響、左右の手の独立、長い構成の即興。より構造的・分析的です。
ポール・ブレイ:沈黙と空間を生かす自由即興。より抽象的で乾いた世界へ向かいます。
ボボ・ステンソン:同じくECMを代表する、透明感と静寂の抒情派。
チック・コリア:同じくマイルス門下の巨人。多彩な様式を設計するタイプで、方向性は対照的です。
いずれも「即興で、その場に音楽を立ち上げる」ことに人生を賭けたピアニストたちです。
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