まじめな日本人が国を滅ぼす -間違いだらけの経済常識- [27]国債は返さなくてよい(第2回)

国や世の中のことを良くしようと考えている人のほとんどが、日本を滅ぼすことに加担している。なぜなら彼ら・彼女らの経済に対する考え方が、致命的に間違っているからだ。そんな悲劇的な状況を少しでも変えるべく、この連載を始めた。
国債とは国の借金である。わが国は借金が多いから財政破綻の危険性が高く、少しでも借金を減らさなければならない。というのが、多くの人にとっての「常識」であろう。しかし、それは大間違いである。ほとんどの人が国債について誤解しているのだ。2回の連載を通じて、国債に関するウソを暴き、正しい理解を促したい。

1. 60年償還ルールというウソ

前回は、わが国の借金(国債などの政府債務残高)は1000兆円を超えており、一般政府総債務残高(2025年4-6月期、以下同様)はGDPの約2.7倍と先進国で最悪ではあるが、金融資産を差し引いた純債務残高はGDPの約0.8倍でアメリカより低いことを示した。さらに、そもそも国債は償還期限が来たら、税金で返すのではなく、借換債を発行して借り換えればよいという話をした。これは「主張」ではなく、単なる「事実」である。この事実に基けば、日本の財政状況の見え方は全く異なってくる。

-日本の予算に占める国債費率はアメリカより低い

国債は借り換え続ければよいというのは、グローバルスタンダードであるが、逆に言えば、日本には他の国にはない独自のルールがある。その最たるものが「国債の60年償還ルール」だ。発行した国債は60年かけて償還(返済)しなければならない。発行額の1/60に当たる現金を毎年予算に積み立てて償還し、残りの59/60は借換債を発行し、これを60年繰り返すことで全額を返却することになる。
このルールが何をもたらすかは、日本と米国の国家予算の歳出(下記の2つのグラフ)を見比べるとよくわかる。

【日米の国家予算の歳出】(会田卓司「日本経済成長の道筋が見えた」(ビジネス社)p.175、出典:財務省、アメリカ合衆国行政管理予算局、クレディ・アグリコル証券)

日本の国債費(上の方のグラフ)は一般会計支出の25%を占めている。それに対して、米国の国債費(下の方のグラフ)は歳出の14%である。日本の方が11%も高い。しかし、米国の予算に計上されているのは、純利払費等である。国債は借り換え続けるものだから、債務償還費(現金による返済分)はない。毎年支出のある金利分、それも金利収入を差し引いたネットの利払費のみが計上されている。一方、日本の国債費は利払費等(9%)と債務償還費(15%)の合計である。債務償還費は、前述した通り60年で国債は償還しなければならないという日本にしかないルールに基づく費用であり、(米国に限らず)グローバルスタンダードから言えば、不要な予算だ。更に日本の利払費は、金利収入を差し引かないグロスの利払費となっているから、実際の支出はもっと少ないことになる。
国債償還費を除き、利払費をグロスからネットに差し替えた「日本のグローバルスタンダードの歳出構造」をグラフにしたものが、下図である。

【日本政府のグローバル・スタンダードの歳出構造】 (会田卓司「日本経済成長の道筋が見えた」(ビジネス社)p.177、 出所:財務省、Bloomberg、クレディ・アグリコル証券)

日本の歳出に占める国債費の比率は5%であり、米国の14%よりはるかに低いことがわかる。借金が多い、国債費の比率が高いことが、わが国の予算の硬直性を高めている、予算がないのだから、積極財政論は無責任であり、緊縮財政を進めるべき、消費税の減税ではなく増税が必要、そうしなければ国家財政は破綻するなどといった「常識」に基づく議論が、いかに誤っているのか、わかってもらえただろうか?

-ワニの口も開いていない

もう一つ、財務省や財政破綻論者がよく持ち出す「ワニの口」についても、触れておこう。ワニの口とは、日本の歳出が年々増加しているのに対して、税収が年々減少しているのを(近年は年々増加しているのだが、)時系列のグラフに表示すると、ワニの口が開いているように見えることを指す(下図を参照)。つまり、歳出と税収の差がどんどん大きくなって、ワニの口が開いてしまい、このままでは財政破綻に陥ると、恐怖心を植え付けるコトバである。

【ワニの口】(会田卓司「日本経済成長の道筋が見えた」(ビジネス社)p.180)

しかし、この開いているワニの口も「60年償還ルール」が作り出しているまやかしに過ぎない。歳出から債務償還費をはずす、歳入に税外収入や特別会計の余剰などを加える、つまりグローバルスタンダードに従って計算すると、ワニの口は閉じているのがわかるのだ(下図を参照)。
もう一度強調するが、「常識」に基づく財政破綻論や緊縮財政政策は、国債を正しく理解すれば、破綻するのである。

【本当のワニの口】(会田卓司「日本経済成長の道筋が見えた」(ビジネス社)p.181)

2. 経済成長とともに借金は増え続けるのである

-金利は上がったら危ないの? 上がった方がいいの?

前回と今回の議論を通じて、財政破綻論がいかに間違っているかをわかってもらえたと思うが、それでもいまだに半信半疑という人もいるだろう。それは仕方がない。毎日のようにマスコミや有識者と呼ばれるようなほとんどの人が、財政破綻の危機を訴え続けているのだから。
例えば、高市政権による積極財政・消費税減税の提唱が高金利をもたらしたという批判がある。2026年5月に長期金利(10年物国債利回り)が一時2.8%台となり、これはおよそ30年ぶりの高水準であった。こうした報道で、国債が危ないとか円の信任がとか言い出す人がいるが、欧米諸国の長期金利は4%前後であって、日本は先進国中では最も低い。わが国の長期金利はバブル時の8%から、政府の債務残高が増え続ける中でも低下してきた。景気が良くなれば(というほど良くなってはいないが)、金利は上がるのだ。おりしも政策金利が0.75%から1.0%へ引き上げられたが、金利のない世界は異常であると、金利の正常化を主張している同じ人間が高金利を批判していることがよくある。長期金利は短期金利のいわば集積である。こうした人たちは、「金利は上がらない方がいい」と考えているのか、「上がった方がいい」と考えているのか、全く意味がわからない。

-政府は金利が上がったら困るの?

政府・日銀が政策金利をなかなか上げようとしないのは(今回1.0%に上げたわけだが)、国債の利払いの負担が大きすぎるためだと解説する人もいる。そもそも金利の上昇が利払いに影響するのは、新規発行分の国債に限るから、既存の国債の利払いが増えるわけではない(間接的な影響はあるだろうが)。また、政府が持つ金融資産からの利息収入が増えることは無視した議論である。
現在、国債のおよそ半分を日銀が保有している。政府は日銀が保有している国債の金利を、日銀に支払わなければならない。確かに金利が上がれば、その分利払いは増える。しかし、日銀は事実上政府の子会社だから、日銀に支払われた利息はほとんど納付金として政府に戻るのだ。どこに問題があるというのか?

-借金=マネーが増え続けることで経済は成長する

経済の仕組みの根本とは何か? それは、信用創造によってお金が増えて回り続け、みんなの生活が豊かになっていくことである。第20回第21回で説明したように、信用創造とは借金によってお金が生まれる仕組みである。民間銀行は企業の借金を受け入れることでお金を生み出し、日本銀行は政府の借金(国債)を受け入れることでお金を生み出す。経済成長とともにお金は増えていく。下のグラフは、明治維新以降の日本政府の債務残高の推移を、実際の金額と実質残高ベース(物価上昇分を勘案して、金額を2015年の価格で表したもの)で示している。政府債務は返済して減らすものではなく、成長とともに増えるものであることがわかるだろう。もちろんこれはわが国に限ったことではなく、他の国でも同様である。

【日本政府の明治維新以降の債務残高(金額&実質残高ベース)の推移】
(「島倉原 X」2016.8.24)

企業も政府も借金をしなければ、企業が借金を返し続ければ(これが「失われた30年」の正体だ)、政府が国債を返すために税金を取り続ければ、世の中のお金は減ってしまい、回らなくなる。まじめな日本人がこの事実を理解しなければ、わが国は滅びるであろう。(この項おわり)

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