「FK506外用剤"プロトピック軟膏"の誕生からアトピー性皮膚炎治療の転換点」棚瀬連載 第3回
前回の投稿では、FK506内服薬「プログラフ」が免疫抑制剤として、臓器や骨髄・造血幹細胞移植を受けた世界中の患者さんの福音になるまでのお話をしました。
この薬は、現在100か国以上の患者さんのお役に立っています。
今回は、この薬が「塗り薬」として新たな使命を与えられ、アトピー性皮膚炎の治療薬として生まれ変わったストーリーをご紹介します。
ステロイド外用薬の限界と課題
アトピー性皮膚炎はその多くが子どもの頃に発症する、激しいかゆみを伴い、再発を繰り返す皮膚疾患です。
顔や首に出ることも多く、寝ている間に掻いてしまうことで皮疹が悪化し、学校や普段の生活にも支障をきたします。
強い炎症反応を伴うことから、抗アレルギー薬で改善するケースは少なく、抗炎症作用と免疫抑制作用を併せ持つステロイドの外用剤が主に使われてきました。

しかし、ステロイド外用剤には課題があります。
薬が強力なほど、副作用(皮膚の萎縮など)が強く出てしまう
顔や首などデリケートな部位に使いづらい
長期使用が制限されるため、治療の継続性に課題がある
そのため、「ステロイドとは異なるメカニズムの新しい外用薬」が求められていたのです。
FK506の皮膚疾患への応用
1989年にFK506が米国で肝移植に使用されて以降、この内服剤は自己免疫疾患(関節リウマチ、重症筋無力症など)など、他領域へも応用されるようになりました。
皮膚科領域では、まず乾癬患者への内服薬として治験が行われましたが副作用とのバランスが課題になり、開発は断念されました。
運命を変えたひとこと
アトピー性皮膚炎治療の運命を変えるきっかけとなったのは、東京大学皮膚科学教室の中川秀己先生(当時助教授)です。

当時私は、藤沢薬品(現アステラス製薬)の医学調査部(臨床開発部)に所属し、東京大学皮膚科の担当をしていました。中川先生や江藤隆史先生(当時の医局長)は、多くのことを私に教えてくださりました。
ある日、中川先生はこう仰います。
FK506の外用剤で、アトピー性皮膚炎の治験をしてみてはどうか。乾癬と異なる免疫異常反応があり、患者数も多い。試す価値は十分にあると思う。
私はすぐにこの話を社に持ち帰り、当時の上司である天谷忠弘さんに相談しました。
社内では以前からFK506の外用剤が検討されていましたが、乾癬患者は皮膚の角質層が厚く、外用剤が効きづらいという懸念から開発は進んでいませんでした。
しかし、中川先生の話を聞いた天谷さんは真剣に社内を説得してくださり、ついに外用剤の開発が決まったのです。
私はアトピー性皮膚炎患者での外用剤の治験チームリーダーを任されました。すぐに中川先生、石橋教授と治験のプロトコルを作成。
そして1990年、世界で初めてアトピー性皮膚炎患者によるFK506外用剤治験が始まったのです。

驚きの治療効果
治験が始まって間もない頃、私は毎日のように東大病院に通っていました。
数人の患者さんへの塗布が始まってから数日後、外来に呼ばれた私は中川先生から声をかけられました。
「棚瀬さん、劇的に効いているよ!」
この外用剤は、顔や首などのデリケートな部位のアトピー性皮膚炎に特に効果があることが明らかになり、従来のステロイドとは一線を画す治療選択肢として注目を集めていきました。
やがて海外でも高く評価され、
Miracle drug(奇跡の薬)
Life-changing drug(人生を変える薬)
と称されるようになります。
「プロトピック軟膏」と名付けられたこの薬の誕生は、研究者である医師と企業の連携によって実現しました。
「患者さんが薬のおかげで結婚できた」というエピソードもあるように、新薬の開発は人の人生を変える力を持っています。
今後もこうした希望を届ける医療が生まれることを、私は願わずにいられません。

奥が中川さん、手前が棚瀬
補足:FK506(タクロリムス)とは
FK506(タクロリムス)は、T細胞の活性化を抑える免疫抑制薬で、移植医療や自己免疫疾患治療に用いられてきました。
プロトピック軟膏として使用されることで、皮膚への局所作用が可能になり、副作用を抑えつつ高い治療効果を得ることができます。
次回予告
次回は、このプロトピック軟膏を海外に展開した際のエピソードをご紹介します。
日本発の技術と情熱が、どのようにして世界の患者さんに届いたのか——ご期待ください。
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