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市場を核に、まちを歩かせる|金城市場「BOOK BOOK」から考える回遊設計【まち事005】

まち事005|イベントは「点」ではなく「線」でつくる。


気づけば、市場の外を歩いていた。


イベントは、集客ではなく回遊を設計できるかで価値が決まる。


金城市場から始まる

名古屋市北区の住宅街の一角に、1955年(昭和30年)に創業した木造平屋建ての市場がある。金城市場だ。1970年代までは20〜30の店が並び、にぎわっていたが、時代とともに需要が減少。2020年に祖父母から建物を受け継いだ夫婦が再生に取り組み、朝市・夜市・音楽ライブなど多彩なイベントを通じて、今では名古屋のカルチャーシーンで静かに注目される場所になっている。トタンの外壁に付着した茶色の錆が、樹木の年輪を連想させる——その佇まいそのものが、この場所の価値だ。

その金城市場で開催された「BOOK BOOK」。

毎年ゴールデンウィークに開催される、本を軸にしたイベントだ。今年は5月4日・5日の2日間。出店するのは全国から集まった個性豊かな本屋たち。実店舗を持つお店もあれば、日頃はオンラインショップだけで営業しているお店もある。会場は市場の中だけではない。周辺の店舗やスペースに点在し、それらを歩いて巡る設計になっている。

イベントポスター

最寄駅は名城線志賀本通駅。八事から乗り換えなしで一本だ。

私が訪れたのは夕方。天候も崩れ始め、すべては回りきれなかった。それでもひとつ、はっきり分かったことがある。

これは単なるイベントではなく、まちの使い方そのものをデザインした試みだということだ。


回遊という設計思想

通常のイベントは「点」に人を集める。

一方でBOOK BOOKは違う。市場を核にしながら、周辺に小さな拠点を散らし、人の動線を外に引き出す設計になっている。

実際に私も、尼ヶ坂サロンへ、その向かいの古本屋へと足を伸ばした。もし市場の中だけで完結していたら、この動きは生まれていない。

回遊を促すMAP

住宅街に現れた「人の流れ」

当日の人通り

最も印象的だったのは、市場に向かう道中だった。

住宅街の中を、明らかにこのエリアの住民ではない人たちが行き交っていた。本来であれば、用のない人が通らないはずの路地に、人の流れが生まれている。

この光景を見たとき、理解した。イベントが、日常の都市動線に”非日常の流れ”を上書きしている。

これは偶然の賑わいではない。設計された回遊が、実際の行動として立ち上がった瞬間だ。


SAKUMACHI商店街との接続

さらに重要なのは、SAKUMACHI商店街との関係だ。

名古屋鉄道の高架下を活用した回遊型の商業エリアだ。BOOK BOOKは、その既存の回遊構造に対して、期間限定のコンテンツを差し込んだ。

まちづくりの視点で言えば、常設のハード(SAKUMACHI商店街)と可変のソフト(イベント)を組み合わせた運用モデルだ。単発で終わるイベントではなく、エリア全体の価値を再認識させる仕組みになっている。


移動そのものが体験になる

行きは名城線、帰りは名鉄瀬戸線。

地下から入り、地上を歩き、ローカル線で帰る。この一連の移動そのものが、ひとつの体験になっていた。

イベントがなければ選ばなかったルートを、人は自然と選んでいる。つまりBOOK BOOKは、交通とまちの使い方まで含めて再設計している。


市場という装置

市場は本来、生活のための場所だ。

しかしこの2日間、金城市場は「文化のハブ」として機能していた。本、古書、喫茶、雑貨——それぞれは小さな点に過ぎない。だが、それらがネットワークとして接続されたとき、面として立ち上がる。

タウンアーキテクトとして見れば本質は明確だ。拠点を強くするのではなく、関係性を設計する。


あなたがまだ知らない好きと出会える

そして脳科学的に見ても、この場所には決定的な価値がある。

店内の様子

アルゴリズムは「あなたが好きなもの」を提示する。しかし古本屋の棚は、「あなたがまだ知らない好き」を提示する。この偶然の出会いが起きる瞬間、脳は「予測誤差報酬」としてドーパミンを強く分泌する。期待していなかったものに出会う瞬間が、期待通りの報酬より脳を強く刺激する——これがセレンディピティの正体だ。

私が古本屋に通う理由のひとつも、ここにある。目的なく棚を眺め、知らなかった何かと出会う。その体験は、スマートフォンのタイムラインでは絶対に再現できない。


回りきれなかったことの価値

今回は時間も天候もあり、すべてを回ることはできなかった。

しかし、それでいいと思っている。むしろ「回りきれなかった」という余白が、次の訪問動機になる。

イベントの完成度とは、すべてを見せることではない。次に歩きたくなる設計になっているかどうかだ。


まちを歩かせるイベントへ

BOOK BOOKは、本のイベントに見えて、その実態は回遊の実験だ。

市場を起点に人を動かし、周辺のまちへと流していく。そして実際に、住宅街にまで人の流れが生まれていた。

イベントは「集める」から「歩かせる」へ。その転換は、すでに金城市場で起きている。


あなたが最近「思わず歩いてしまった」まちはどこですか?


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