決算書はこわくない|調剤大手3社の売上と利益を薬剤師目線で読んでみた
薬局やドラッグストアで働いていると、ふと「自分の会社って、ちゃんと儲かっているんだろうか」と思うことはないでしょうか。
私自身、現場にいた頃は目の前の調剤や服薬指導で精一杯で、会社の数字なんて遠い世界の話だと感じていました。
でも、転職や職場選びを考えはじめると、急にこの「会社の数字」が気になりだします。
給料はどこから出ているのか?
この会社は伸びているのか?
それとも踏ん張っているのか?
それを教えてくれるのが、決算書です。
「決算書」と聞くと、細かい数字がびっしり並んだ近寄りがたい資料を思い浮かべるかもしれません。
私も最初はそうでした。
けれど、ポイントを絞って読めば、決算書はそんなにこわいものではありません。
今日はその「読み方の入り口」を、できるだけやさしくお話ししてみます。
■ 決算書って、結局なにを見ればいいの?
決算書にはいくつか種類がありますが、「この会社、1年でいくら稼いだの?」を知りたいときに見るのは、損益計算書という一枚です。
横文字でP/L(ピーエル)と呼ばれたりもしますが、名前は覚えなくて大丈夫です。
これは家計でいうと、1年間の「収入と支出のまとめ」のようなものです。
お店に例えると、こんな流れになっています。
まず、商品やサービスを売って入ってきたお金の合計。
これが売上高です。
お店のレジを1年分まとめた金額、とイメージしてください。
調剤薬局なら、お薬を出して受け取った調剤報酬や薬の代金がここに積み上がっていきます。
ただ、売上がそのまま手元に残るわけではありません。
ここから、いろいろな費用を引いていきます。
最初に引くのが売上原価。
仕入れたお薬そのものの代金、つまり「売るために直接かかったお金」です。
次に引くのが販売費及び一般管理費(略して販管費)。
これは薬剤師や事務スタッフのお給料、店舗の家賃、水道光熱費など、お店を回していくためにかかるお金のことです。
ざっくり言えば、売上から、この原価と販管費を差し引いて残るのが営業利益です。
これは「本業でどれだけ稼げたか」を示す、いちばん大事な数字のひとつだと私は思っています。
どんなに売上が大きくても、人件費や家賃でほとんど消えてしまえば、営業利益は小さくなります。
逆に、売上が控えめでも費用を抑えて運営できていれば、営業利益は残りやすくなります。
そして、ここから本業以外のお金のやりとり(借入の利息や、税金など)を反映させて、最終的に残る会計上の利益が当期純利益です。
家計でいえば「1年がんばって、最終的にどれくらい黒字だったか」に近い数字です。
整理すると、こういう順番です。
売上高(入ってきたお金)ー 売上原価・販管費(出ていったお金)
= 営業利益(本業でいくら稼げたか)
…いろいろ調整して・・・
= 当期純利益(最終的に残る利益)
この「売上高 → 営業利益 → 当期純利益」という3つの数字を上から順に見るだけで、その会社が1年でどう稼いだのか、ざっくりとした輪郭がつかめます。難しい用語はいったん脇に置いて、まずはこの3段階だけ覚えておいてください。

■ では、身近な調剤大手から実際に見てみましょう
実際の決算書を見てみるのがいちばんの近道です。せっかくなら、私たち薬剤師にとって身近な、調剤薬局の上場大手を題材にしてみましょう。
具体的には、アインホールディングス・日本調剤・クオールホールディングスという3社です。
名前を聞いたことのある方も多いと思います。
この3社の決算を、さきほどの「売上高 → 営業利益 → 当期純利益」の順に読んでいきます。
ここからは、アインHD・クオールHD・日本調剤の実際の数字を並べながら、「売上が大きい会社」と「利益が残りやすい会社」は、必ずしも同じではない——という点を見ていきます。まずは、調剤薬局として国内最大手のアインホールディングスから見てみます。
ここから先は、実際の決算書の数字を使って、3社の「稼ぐ力」を比べていきます。売上の大きさだけでなく、営業利益や利益率まで見ると、会社ごとの違いがかなり見えやすくなります。
■ まずはアインホールディングスの決算を、一緒に読んでみる
アインホールディングス(以下アインHD)は、「アイン薬局」を全国に展開する調剤薬局の最大手です。
コスメの「アインズ&トルペ」を運営している会社、といえばピンとくる方もいるかもしれません。
では、さきほどの読み方どおり、上から順に見ていきます。直近の決算は2026年4月期(2025年5月1日〜2026年4月30日)です。
①まず売上高は6,478億円(正確には647,834百万円)でした。
前の期が4,568億円でしたから、1年で4割以上も増えています。これは、さくら薬局グループが新しくグループに加わったことが大きいと、決算資料では説明されています。
会社が買収などで大きくなると、売上はこんなふうに一気に伸びることがあります。
②次に営業利益は298億円(29,832百万円)でした。
売上6,478億円に対して298億円ですから、「本業で稼いだ割合」(売上高営業利益率)はおよそ4.6%。
100円売って、本業の儲けが4〜5円くらい、というイメージです。調剤というビジネスは、薬価や調剤報酬という公定価格のなかで、たくさんの薬剤師さんの人件費をかけて成り立っています。
業種の特徴によって利益率は変わってきます。
③最後に当期純利益は173億円(17,264百万円)でした。
1年の事業活動を経て、最終的に残った会計上の利益がこの金額ということになります。
こうして上から順に追うだけで、「売上は買収で大きく伸びた、本業の利益率は数%台、最終的な利益は173億円」という輪郭が見えてきます。これが決算書を読む、ということです。
■ 調剤大手3社を並べて見てみる
同じ要領で、日本調剤とクオールHDも見てみましょう。ただし、ここでひとつ大事な注意があります。
3社は決算の締め月(決算期)がそれぞれ違います。
アインHDは4月期、クオールHDと日本調剤は3月期です。
さらに、日本調剤については最新の決算期がそろっていません。ですので、これは「同じ土俵での厳密な勝ち負け」ではなく、あくまで「それぞれの最新の開示数字を、フェアに並べて眺めてみる」ものとして見てください。
数字はすべて、各社が公表した決算短信から拾っています(出典は記事末にまとめました)。単位は億円で、概数に丸めています。

【調剤大手3社の決算(最新の開示ベース)】
・アインHD(2026年4月期)
売上高 約6,478億円/営業利益 約298億円/当期純利益 約173億円
・クオールHD(2026年3月期)
売上高 約2,908億円/営業利益 約148億円/当期純利益 約74億円
・日本調剤(2025年3月期 ※)
売上高 約3,605億円/営業利益 約62億円/当期純利益 約14億円
※日本調剤の決算期だけ1年古い点については、本文中で後述します。
並べてみると、いくつか気づくことがあります。
ひとつは、売上の大きさと利益の大きさは必ずしも一致しないということ。
たとえば日本調剤は売上高でクオールHDを上回っていますが(2025年3月期 約3,605億円)、営業利益で見るとクオールHDの方が大きくなっています。
「売上が大きい=利益が大きい」とは限らない、という決算の面白いところです。
もうひとつは、利益率の違いです。
さきほどの「売上に対して本業の儲けが何%か」で見ると、クオールHDは営業利益148億円÷売上2,908億円で約5%。
一方、日本調剤は2025年3月期に営業利益62億円÷売上3,605億円で約1.7%でした。
日本調剤のこの期は、一部店舗の減損や、医薬品製造販売(後発薬)事業での製造上の問題が利益を圧迫したと説明されており、その影響がこの数字に表れていると読み取れます。
同じ「調剤大手」でも、事業の構成や、その年に起きたことによって、稼ぐ力の出方はずいぶん違うのだと分かります。
■ 薬剤師の目線で、この数字をどう見るか
ここからは、現場を知る薬剤師として、私なりにこの数字をどう受け止めているかをお話しします。
あくまで一人の薬剤師の見方として、参考程度に読んでください。
調剤というビジネスは、売上のかなりの部分が公定価格(薬価・調剤報酬)で決まります。
つまり、自分たちで値段を大きく上げて稼ぐ、ということがしにくい業種です。
だからこそ、コストの大半を占める人件費や店舗運営費をどう回すかが利益の出方に直結します。
決算書の販管費や営業利益は、まさにその会社の費用構造や事業運営の特徴を映す数字となってます。
そして、これは働く側にとっても他人事ではありません。
薬剤師のお給料は、この販管費の中から支払われています。
会社が利益をしっかり出せているかどうかは、長い目で見れば、待遇や教育への投資、店舗の働きやすさにも関わってきます。
利益が出ている会社が、そのまま自分に合う職場とは限りません。
ただ、「この会社は、どういうお金の流れで成り立っているのか」を一度知っておくと、職場を選ぶときの見え方が少し変わってくると思うのです。
なお、各社とも薬剤師数や店舗数を公表していますが本筋から外れるのでここでは深追いしません。
気になった方は、各社の決算説明資料に目を通してみると店舗網や人員の規模感がつかめておすすめです。
■ 大手はこう見える。じゃあ、あなたの薬局はどうでしょう?
ここまで3社の決算を見てきました。けれど、ここで大事な前提をひとつ、正確にお伝えしておきます。
こうして数字を見られるのは、3社が「上場企業」だからです。
上場している会社には、決算を定期的に公開する義務があります。だから私たちは、アインHDやクオールHDの売上や利益を、こうして外から知ることができます。
逆に言うと、世の中の多くの薬局・調剤会社は上場しておらず、決算を公開していないことがほとんどです。非上場の会社には、原則として決算を一般に開示する義務がないためです。
あなたが今いる職場、あるいは気になっている職場の数字が見つからないとしても、それは普通のことなのです。
象徴的なのが、今回取り上げた日本調剤です。
実は日本調剤は、2025年に株式を非公開化し、いまは上場していません。
だから、3社のうち日本調剤だけは最新の通期決算がそろわず、ひとつ前の2025年3月期の数字を使っています。
非上場になった会社の数字は、その後は外から見えにくくなる。
このことが、ひとつの実例として表れているわけです。
だからこそ、と私は思います。
決算書が公開されている大手の数字は、貴重な「読み方の練習台」です。
ここで身につけた「売上高 → 営業利益 → 当期純利益」という見方は、転職サイトの求人票を眺めるときにも、面接で会社の話を聞くときにも、きっと役に立つと思います。
数字を読める目は、自分のキャリアを考えるうえでも、ひとつの助けになると私は感じています。
■ まとめ
最後に、今日のポイントを整理します。
・「1年でいくら稼いだか」を知りたいときは、損益計算書の売上高 → 営業利益 → 当期純利益を上から順に見る
・売上が大きい=利益が大きい、とは限らない。利益や利益率まで見ると、会社の「稼ぐ力」の違いが見えてくる
・調剤は公定価格の世界。人件費などのやりくりが利益の出方を左右する
・数字を読めるのは上場企業ならでは。非上場の薬局は決算を公開していないことが多い
決算書は、最初の3つの数字さえ押さえれば、思っているよりずっと身近なものです。
次にニュースで「○○社が増収増益」と聞いたとき、「ああ、売上も利益も増えたんだな」と、すっと意味が入ってくるはずです。
そして、せっかく決算を読む目が育ったらそれを自分の働き方や職場選びにも活かしてほしいと思っています。
会社の「稼ぐ力」を知ることは、自分に合う職場を考えるときの、ひとつの判断材料になるはずです。
会社の数字を、自分の働き方にどうつなげて読むか。
そこに興味がある方は、これから出していく記事もあわせて読んでいただけるとうれしいです。
ありがとうございました!
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※今後、薬剤師の転職・職場選びをテーマにしたマガジン「薬剤師転職ガイド」も準備しています。
決算書の読み方だけでなく、求人票の見方、年収の考え方、薬局ごとの働き方の違いなども、薬剤師目線で少しずつ整理していく予定です。
▶ 薬剤師の専門書・薬学書はどう処分する?捨てる前に確認したい買取という選択肢
▶ 薬剤師が遊べるサイト、作りました。(今日の薬剤師おみくじ)
所長|薬剤師の医薬研究所
薬剤師目線で、薬局・転職・業界の話を書いています。
Xでは、薬局・ドラッグストア業界の決算や転職に関する話を、短めに発信しています。
→ https://x.com/iyaku_labo
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※本記事の数値は各社の有価証券報告書・決算短信・IR資料をもとに、薬剤師である筆者が整理したものです。最新の正確な数値は各社の公式開示をご確認ください。
※本記事は投資勧誘・特定企業への就職勧誘を目的としたものではなく、薬剤師の個人的な見解です。
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