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時給1万円のアルバイト その1 母の病気

あらすじ
親が離婚をし、新しい父親、石橋響と圭子と3人で暮らしている石橋拓(25)。しかし拓は警察に追われていた。
拓は冤罪の罪を着せられたからだ。拓の母、圭子が病気でその手術代を稼ぐためにしたアルバイトが原因だった。
「時給1万円のバイト」
母の病気の為、そのアルバイトをする事にした拓。
その内容は、何もない部屋で一ヶ月過ごす、というものだった。
そしてアルバイトが終わった。が、外の様子がおかしい。一ヶ月監禁されていたはずなのに三ヶ月経っていて、しかも拓は石橋殺人の容疑で指名手配がかかっていた。冤罪を着せられ警察から逃げる拓の前に現れた実の兄、木村貴に助けられる。拓は冤罪を晴らす為、事件の事を調べ始めた。


「はぁはぁ……」
薄暗い夜道、拓が後ろを気にしながら走っている。
後ろから警察官が数人追いかけてくる。
「はぁはぁ……」
今にも息がきれそうだ。しかし、捕まるわけにはいかなかった。
公園の前を走る。慌てて草むらに隠れた。
警察官がやってきて立ち止まり辺りを見回す。
草むらからその様子を見る。警察官は拓に気づかずに走り出した。
「はぁはぁ……いったいどうなってんだ」
拓は警察官がいなくなったのを確認して立ち上がった。
「はぁはぁ。くそ!」
まったく息が落ち着かない。
ハッとし慌ててしゃがむ拓。息を殺す。
警察官が数人やってきて辺りを見回した。
警察官「どこいった?必ず近くにいるはずだ」
拓は倉村に隠れる。警察官が走っていくのを確認し、安堵の息を吐いた。
恐る恐る草むらから顔を出した。
「俺が知らない間に何があったんだ」
拓を力強く手を握り締めた。いったい俺が何をしたっていうんだ。
「くそ!いったいどうしたら」
警察官「あ!いたぞ!」
後ろから警察官の声が聞こえる。
「んだよ!」
拓はすぐさま走り出した。
足元の新聞紙を踏みながら走っている警察官。新聞紙には

「石橋拓、父親殺しで指名手配中。被害者、石橋響。親子の喧嘩が原因か!」


と書かれており、拓の顔写真が載っていた。
「なんで俺が警察から逃げてんだ」
曲がり道を曲がる。後ろから警察官が追いかけてくる。
「元はといえば、あのバイトが変だったんだ」

「実は俺が警察から逃げているのには・・・・・・こんな事があったからなんだ」

「時給1万円のバイト」


「再婚する!?」
圭子は咳をしながら拓に話した。
圭子「うん、ダメかしら」

古い2階建てのアパート。101号室。
部屋の間取りは1K。狭い部屋だ。
そこに拓とその母親の圭子、2人で過ごしている。
圭子の突然の言葉に拓は驚いていた。
「いや、ダメって言うか」
圭子はタンスの上にある写真立てを手に取ってみている。
写真には笑顔の拓、圭子、拓の兄の貴、父親の数男が写っている。
圭子「父さんが嫌いになって別れたんじゃなくて」
「知っているよ。忙しくなった父さんが家庭を見なくなったから、だろ」
圭子は無言でうなづいた。
圭子「別に父さんの事を忘れた訳じゃないの」
そういうとタンスの上に写真立て置いた。咳をしている圭子。
「なんで、再婚を?」
圭子「今、拓に負担かけてるでしょ?」
「いや、負担なんて思ってないよ」
圭子「私が離婚しなかったら、父さんの会社で働けたのに」
「そんな事思ってないって」
そういうと圭子は咳をした。
圭子「とにかく、近々、会ってほしいの・・・・・・」
「・・・・・・う、うん」
拓は複雑な気持ちになっていた。

拓は部屋を出てタバコに火をつけ、タバコを吸った。
「再婚か・・・・・・」
タバコをふかす。圭子の言葉が拓の頭によぎる

「今、拓に負担かけてるでしょ」

拓は負担をかけられているなんて思ったこともなかった。しかし、圭子はそう思っている。
「俺のせい、なのかな?」
拓はポケットからスマートフォンを取り出した。
「もしもし。兄貴」
「ん?拓か?久しぶりだな。どうした」
電話の相手は、拓の兄の貴だ。
「いや、父さん、元気かな?って思って」
「え?う、うん。まぁな。母さんは?」
「相変わらずだよ」
「そか。生活出来てるか?」

貴は拓の2つ年上の兄だ。
離婚して父親と一緒に過ごすことになった。
貴と拓は兄弟仲が良く、たまにこうやって電話をする。

「母さん元々体悪いからさ」
「わかってる。俺がしっかりしないと」
「なぁ、拓、もう1年経つな」
「もうそんな経つか。なぁ兄貴、今、何してるの?」
「何してるって?」
「仕事。やっぱ父さんの会社で?」
「まぁな。お前は?」
「バイトを掛け持ちしてるよ」
「そか。早く就職しろよ」
「うん、いい仕事見つけたら、すぐにでも」
そんな会話をするとしばらく沈黙になった。口を開いたのは貴だった。
「なぁ」
「ん?」
「俺たちっていつまでも兄弟だよな」
「え?当たり前じゃないか」
「いつまでも家族だよな」
「もちろんだよ」
貴の突然の言葉に少し驚く拓だったが、すぐに答えた。
そんな拓の言葉に安堵したような貴だった。
「なあ、母さんに会いに行ってもいいかな?」
「え?・・・・・・あぁ、もちろんだよ。また父さんと4人でご飯、行きたいな」
「・・・・・・父さん、仕事が忙しいから」
「やっぱ、そっか」
そう言うと拓は夜空を見上げた。

喫茶店。カフェと違って独特の雰囲気がある。
緊張の面持ちの拓が座っていた。新しく父親になる人と会うって…なんの話をすればいいんだろう?そんなことを考えていた。
入口のドアが開く音した。ドアの方を見ると圭子と50代くらいの男が入ってきた。
あれが新しい父親なのか?
石橋「始めまして石橋響と申します」
「・・・・・・拓、と申します」

テーブルにはコーヒーが3つ。特に話すこともないのか、すぐになくなっている。お冷も空だ。
圭子は席を立ちトイレに行く。空になったアイスコーヒーを飲む。当然、ちょっとだけ氷が溶けた水しか喉にはこない。
石橋「あの」
口を開けたのは石橋の方だった。
「はい」
石橋「お兄さん、いるんだよね?」
「はい」
石橋「圭子さんからよく話を聞くよ。」
「そうですか」
石橋「会いたいけど、会いに行けないってよく言ってる」
「なんでですか?」
石橋「自分から離婚の話を切り出しておいて、向こうには行きづらいんじゃないかな」
「・・・・・・」
石橋「お兄さんにも、一度会ってみたいな」
「・・・・・・」
拓は、なんて返したらいいのかわからなくなっていた。

そこから数か月後、圭子と石橋は再婚することになった。
小さな狭いアパートから、5階建てのコンクリートマンションに引っ越す。前に小さな公園があり、子供が遊んでいる。

501号「石橋」の表札がある。これからは自分の名前も石橋になるのか?
拓はそんなことを考えたりもした。

部屋はまだ引っ越ししたばかりなので、部屋のあちこちにダンボールがある。
石橋「さて、引っ越しも終わったな」
石橋は部屋の様子を見まわした。部屋の奥から圭子がやってくる。
圭子「今日からここが新しい住まいね」
石橋「何か、飲み物でも買ってくるか」
そういうと、石橋は外に出た。
圭子「前のアパートとは大違いね、拓」

拓は奥の部屋で写真を見ていた。
「母さん、これ。いいの?」
家族4人で映っている写真。そこには兄の姿もあるし、前の父さんも映っている。
圭子「これだけは・・・・・・ここに置きたいの」
そういうと圭子は写真立てをタンスに置いた。
「でも」
圭子「あの人もわかってくれるわ」
「・・・・・・うん」
すると突然、圭子が咳をする。次第に激しくなる。
「母さん!大丈夫?」
圭子「う、うん。大丈夫よ」
拓は圭子の背中を擦った。咳が治まり安堵の表情をする。

大きな病院。入口には「五十嵐病院」と書かれている。
診察室に拓が座っている。その前に手に資料を持った五十嵐隆洋が神妙な面持ちで座っている。
「先生、母さんは?」
五十嵐「はい、非常に言いづらいのですが」
「ハッキリいってください」
五十嵐「お母さんの病気は、ガンです」
「え・・・・・・」
拓は突然の言葉に意識が飛びそうになった。
重い病気が来るのは覚悟していたが、やはり言われるとショックなこともある。
「ガン・・・・・・」
五十嵐「はい」
「何か治す方法はないんですか」
五十嵐「ない事はないんですが」

ない事はない?その言葉がひっかかる。
五十嵐は言いづらそうにしているので拓から話を続ける。
「それは?いったい!?」
五十嵐「特別な治療が必要です」
「特別な、治療?」
五十嵐「はい。しかも、その治療には保険が利かないんです」
「どういう事ですか?」
五十嵐「自由治療ってご存知ですか?」
「自由治療?」
そういうと五十嵐は机に資料を置いた。
五十嵐「国内未承認の抗がん剤などによる治療です」
「・・・・・・」
五十嵐「健康保険等が適用されず、先進医療にもあたらない治療の事です」
「それでいったいいくらかかるのですか?」
五十嵐「・・・・・・500万です」
500万、突然の金額の茫然となる。
「500万!?そんな大金どうやって」
五十嵐「とりあえず、このまま薬の治療を続けますが、またいつ発作が起きるか……」
拓は自分が無力だと思い手を思いっきり握り締めた。
「先生、この事は、母さんは」
五十嵐「いえ、お伝えしてません」
「そうですか」
五十嵐「息子さんにしか、お伝えしてません。この意味、わかりますよね」
「……誰にも言わないでってことですよね」

家に帰ってきても、そのことが頭から離れなかった。
石橋「ん?どうした?」
不安そうな拓をみて石橋が声をかける。
「いや」
石橋「何かあったのか?」
「ううん、別に」
石橋「そか・・・・・・」
そういうと石橋はテーブルの上の新聞を読もうとした。
拓、うつむいて考え込んでいる。
石橋「やっぱ、なんかあっただろ」
「え?」
石橋を拓の前に座り目を見てきた。
石橋「なんだ?言ってみてくれないか」
「実は・・・・・・」

「息子さんにしか、お伝えしてません。この意味、わかりますよね」

誰にも言えない。どこから圭子に伝わるかわからない。
「・・・・・・いや、なんでもない」
石橋「なんでもない事ないだろ」
「なんでもないよ」
石橋「なんだ?言ってみろ」
「いいって」
石橋「拓君」

「うるさいな!」

拓は外にも聞こえる声で怒鳴った。
「なんでもないって言ってるだろ!」
そういうと拓は部屋を出て行った。
石橋「拓君!」

道を歩きながら考える拓。
「どうすりゃいいんだ…とりあえずいい仕事、早く見つけないと」

拓はコンビニの本のコーナーの前でアルバイト雑誌の立ち読みをしている。どれも時給1000円とか1200円とかだ。
「500万、だもんなぁ」

500万という金額を考えるとどうしていいのかわからない。
拓は大きくため息を吐いた。
考え事をしながら角を曲がると男とぶつかった。
「痛……」
男は何もなかったかのように歩いていく。
「んだよ。一言謝れよ……ん?」
ふと目の前の電柱を見ると、そこには張り紙をしてあった。
「時給1万円のアルバイト、スタッフ募集。期間は一ヶ月……なんだこれ?」
拓は電柱から張り紙を取った。そして指で何かを数えて始めた。
「時給1万で一ヶ月って事は……1日で24万。一ヶ月で」
ハッとする拓。
「720万!?」
張り紙を見る720万円が一か月で手に入る?
「一ヶ月で・・・・・・そんな上手い話、ないようなぁ」
張り紙を丸めて捨てた。
2、3歩歩き止まる。そして地面に落ちた張り紙を見た。

拓は家に帰れずにいた。近所の公園のベンチに座り、さっきの張り紙を見ていた。
「どう考えても怪しいよなぁ~」
拓はポケットからタバコを取り出し火をつけた。

「とりあえず、このまま薬の治療を続けますが、またいつ発作が起きるか……」

病院での五十嵐の言葉が頭から離れない。
煙を吐く拓。近くを主婦2人が話しながら歩いていた。

「松本さんのとこのおばあちゃん、亡くなったらしいわよ」
「ガンですってね」

その言葉に拓は反応する。
「大変よねぇ~」
拓は再び張り紙を見ていた。

その日の夜。拓はソファに座って張り紙を見ていた。
パジャマ姿の圭子がやってくる。拓は圭子に気づいて慌てて張り紙をポケットへ隠した。
圭子「じゃあ母さんもう寝るから」
「うん、お休み」
圭子「響さん、明日早いみたいだから、拓も静かにね」
「うん、僕ももう寝るよ」
そういうと圭子は奥の部屋に行った。
「母さん・・・・・・」

次の日。ソファに座っている拓に圭子が声をかけてきた。
圭子「ちょっと、病院、行ってくるね」
「1人で大丈夫?」
圭子「うん、ありがと」
「気をつけてね」
そういうと圭子は出かけて行った。
拓はスマートフォンを手に取り、張り紙を見た。
「なんか怪しいけど……母さんの為だ」
張り紙に書いてある番号に電話をした。
「……あ、もしもし」

黒の長袖の服を着た拓は、大きな古いビルにやってきた。
入口には何も書かれていない。雑居ビルのようだ。
こういう建物は拓は入ったこともなかった。
「ここかなぁ~?」
明らかに不安だが、意を消して中に入っていった。

2階にやってきた。郵便受があり、201号のところに「JS研究所」と書かれてある。拓はメモと郵便受を交互に見た。
「ここだな……よし」
恐る恐るノックをする。
「すいません。電話したものですが」
そういうと、ゆっくりとドアが開らいた。中から声が聞こえる。
「中へどうぞ」
中に入っていく拓。

薄暗い6畳の部屋にテーブルとソファがある。その奥に1つドアがある。
どうやら奥にも部屋があるようだ。
ソファには2人の男が座っていた。
部屋に入り辺りを見回している拓に男が声をかけた。
杉山「どうぞ、おかけください」
辺りをキョロキョロしながらソファに座る拓。
杉山「担当の杉山だ」
内山「内山だ」
「あ、履歴書もって来ました」
内山「(言葉を遮るように)面接はない」
「え?」
内山は拓の言葉を遮るように話し出した。
内山「今からすぐに始めてもらう」
「今から……」
突然のことに驚きを隠せない拓。
内山「そうだ」
「・・・・・・ちょっといいですか?」
拓はスマートフォンを取り出し2人に見せた。内山、杉山はお互いを見合って
杉山「いいだろう。終わったらすぐに始めるぞ」
その言葉を聞いた拓は部屋を出て、スマートフォンで電話をかけた。
「あ、もしもし。留守電か・・・・・・」
機械音が不気味にも聞こえる。
「あ、母さん・・・・・・えっと」
拓は意味もなくその場をウロウロする。
「・・・・・・あ、実は、就職決まりそうなんだ。それで一ヶ月、研修があってさ。帰れそうにないんだ。でも心配しないで。それじゃ」
そういうとボタンを押してスマートフォンを閉じた。
「よし」
中から杉山が出てくる。
杉山「終わったか」
拓は背中越しに杉山に答えた。
「あぁ」

拓が部屋に戻ると、内山の手に黒の長袖と黒のズボンを持っている。
内山「よし、じゃあまず、この服に着替えてもらう。
そういうと持っている服を拓に投げるように渡した。
「ん?あんまり変わらないけど」
内山「いいから早く着ろ」
「わかったよ」
首を傾げながら拓は言われた服装に着替えた。

拓は着替え終えた。今まで来ていた服と何が違うのだろう?
内山「じゃあその服は預かろう」
そう言われ、内山に服を渡たした。
杉山「次に、奥の部屋に行ってもらう」
拓は鞄を持って行こうとするが
内山「待て。何も持っていくな。荷物はこちらで預かる」
そういうと内山は拓の鞄を取った
杉山「こっちだ」
杉山に案内され、しぶしぶ奥の部屋に行く拓。

奥の部屋は6畳の窓も何もない、ただ監視カメラだけが設置してある部屋だ。牢屋に入れられるような気分だ。
部屋中に小さな小石が転がっている。
さっきまでいた向かいの部屋から、こちらの部屋が見えるようになっている。
その不気味な部屋に驚きを隠せない。ここで何をさせられるのだろうか?
「なんだこの部屋」
拓は相変わらず辺りを見ていると、杉山と内山が入ってきた。
杉山「どうだ?なんにもないだろ」
杉山が話しかけてくる。
内山「この部屋にはテレビはもちろん、ベッドもタンスも、窓もない」
「で、ここで俺に何をしろと?」

「君にはこの部屋で一ヶ月過ごしてもらう」

杉山の不可解な言葉。
「この部屋で?いったいなんの為に?」
杉山「まぁ、人間の心理状態の研究だ。何もない部屋で人は何をするか……」
杉山はそういうと部屋の中を歩きながら、さらに続けた。
杉山「今は世の中にはいろんなものが溢れている。テレビ、ゲーム、音楽、パソコン。昔はそんなものなんてなかった。現代人が昔のように、何も時間を潰すものがなかったら、いったい何をするか。我々はそんな研究をしてるんだ」
拓は一瞬、言葉を理解出来なかったが
「つまり、この部屋に一ヶ月居れば」
杉山「あぁ、報酬を出す」
「そんな事で本当に金はもらえるんだな?」
杉山「もちろんだ。ただし、ルールがある」
「ルール?」
そういうと内山はここのルールを話し出した。

「1つ、食事は朝昼夕、1日3回出す。6時、12時、7時の3回だ」

「1つ、基本何をやってもいい」

「1つ、部屋から出たら即失格。まぁ報酬の権利を失うって事だ」

「そして、最後にもう1つ。数日に1回、物を与える」

物を与える?どういうことだ?
「物?」
内山「まぁ、暇つぶしアイテム。こちらの優しさだな。以上がルールだ」
そういうと内山と杉山は部屋を出た。
足元に石を見つける拓。
「本当に一ヶ月で金がもらえるんだな?」
内山「あぁ」
拓、石を拾って壁に横線のキズをつけた。
「さっさと始めようぜ」

こうして、拓の一か月が始まった。

#創作大賞2024 #ミステリー小説部門


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