糸に紡がれる記憶の中へ
美術館の空間はアートへの気持ちを高揚させるように
今回、訪れたのは、塩田千春さんの展覧会。作品との
出会いは、福岡のイムズというビルでの最後の展覧会
で初めて目にした赤い糸。糸につながれた物と記憶。
その後、福岡市美術館の常設展示に追加された作品に
もふれ、そして大阪に戻り、ようやく大規模な個展へ。

エスカレーターの先へ吸い込まれるように、作品の世界へ

塩田千春さんのつながる私(アイ)

天井から吊るされた大量の赤い糸

アイ。それは愛を表す言葉でもあり、空間にうっすらと

そこに浮かび上がる赤いドレスに、愛への記憶が投影される

赤い糸は天井から降り注ぐ雨のように、線が幾重にも

連なって、空間全体を赤い色で満たす

赤いドレスは空間に溶け込むように、一体となり

圧倒的な色の連続の中で、じんわりと全体像が浮かび上がり

赤い糸は、天井から柔らかく空間を包み込み

絶え間なく連続する線のつながりは

空間をにじませるように、おぼろげに記憶を表現する

塩田千春さんの空間全体を使うインスタレーションは

その奥の、巡る記憶という作品へとつながっていく

壁面に止められた白い糸。それは無数に干渉しあい

複雑に絡まり合って、緩やかな白い面を形作る

白い糸は、1本1本、幾何学模様に編み上げられるようにして

空間を柔らかな、白い繭のような形へ

白い糸の連なりは、線から面の情報へと変換され

線によって形作られる多角形が、無数に結ばれて

幾何学模様は、模様をなくし、白い空間の一部となる

白く柔らかで、どこか不完全な、生成の途中のような

空間は、水面によって反転し、奥行きを与えられ

どこまでも続くような、白く柔らかな空間を形成する

静かな水面に落ちる水滴。緩やかに波紋は広がり

水面に与えられた細波は、記憶の襞を揺らすように

記憶の連鎖となって、人々の心に語りかけ
その波紋に、奈義町で感じたうつろひを思い

揺らめく水面に映る線や面の連なりに
福岡で出会った水面にうかぶ作品を思い起こす

波紋は実体を揺らし、存在をおぼろげなものとし

その揺らぎは、そっと記憶に語りかけるようで

反転する白い糸の連なりは

繭のように空間に広がり、いつかの記憶へとつながるように
訪れたのは、塩田千春さんのつながる私

塩田千春さんの作品に出会ったのは

イムズで行われた最後の展覧会。そこで結ばれた糸に
つなげられるように、結ばれるように

それは、福岡市美術館での常設展示へとつながり

赤い糸は、記憶のかけらを結びつけながら
愛される建物ともにある

赤い糸のイメージは、赤いドレスと重なるように
神戸ポートタワーの優美なシルエットを見上げ

白く連続し、絡み合う糸の記憶は
京都駅で見上げた複雑なトラスの記憶へとつながって
柔らかな糸によって圧倒的な空間が構築されていた。
線としての糸が連なることで、ボリュームを感じさせ、
糸という直線が絡み合いながら、ゆるやかにつながり、
曲面へ、そして空間を作り出している。一本ではたより
ないものが、つながり重なりあうことで、包みこまれる
ような空間が創出される。それは糸というイメージを
超え、人の記憶に語りかけるような空間の装置となる。
