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旅を舞台のように楽しんで

朝、立ち込める靄の中を進み、坂の上の神社で、

舞台の上に立つ。それは田熊神社に設けられた舞台。
開口部が切り取る風景に引き寄せられるように、舞台
に上がる。視線が高くなり、風景が変わる。気持ちが
すっと高まる。役者ではないのだが、旅を舞台のような
ものだとすれば、私も旅という舞台の上の役者という
ことにもなる。続く旅を舞台のように、楽しんでいる。

神社の境内に面して広がる舞台空間に引き寄せられるように
見学も可能なようなので、靴を脱いでそっと舞台へと上がる
中央の大きな回り舞台の縁に沿うように
しんとした空気をすいこみ、空間に立つ
舞台後方の大きな開口部は、朝靄の風景を縁取り
借景となりながら、舞台に柔らかな間接光を取り込んでいる
舞台の上では、視点が高く、風景が異なって見える
あらためて中央に設けられた円形の回り舞台を眺めれば

円でつながる旅の形が立ち上がる

板壁に描かれた二つの火灯窓。雲のような形の窓は
あまり出会うことがないもの。天井に刻まれた落書きは
使い続けられた舞台の歴史を語るようで、竹林の書割と
太夫座に設けられた屋根には鶴の彫刻。舞台に散りばめられた

形の記憶に、旅で出会った縁を重ね合わせるように

建物の持つ素材感にも触れながら、藁すさを含む
柔らかな漆喰の壁に沿って、建物の周囲をめぐる
正面からは平屋のように見える舞台は、背面では二層となり
舞台の下には奈落の空間を持つ。側面の入口から中を伺えば
舞台が今も息づいているという空気感が漂う
奈落の中央に設けられた柱。そこから四方に伸びる丸太の先に
木で設けられた車輪があり、これが回り舞台であることを
確かに感じ、木だけで作られる大掛かりな機構に圧倒される
太夫座の屋根、舞台の入り母屋の屋根が連なる美しい
田熊の舞台は、靄の中に浮き上がるようにして建っていた

そして今も引き継がれる田熊の舞台

岡山県は農村歌舞伎舞台の多い地域といい

ここ美作地方では、江戸時代末期から明治時代の初期にかけて、歌舞伎芝居が盛んに行われていたという。
舞台の数は約130棟、内現存するのは約22棟で、田熊
の舞台は保存状態が良く、歴史を物語る貴重な資料に。

国の重要有形民俗文化財にも指定される舞台と

神社の境内の静けさが流れる空間を後にして
慎重に石段を下り、もと来た参道を引き返し
また靄の広がる風景の中へ。この田熊の舞台に立ち寄ることが
できたのも、きっと何かの縁で、旅への思いが
つなげるものではないかと、朝靄に包まれた風景に

人生の偶然や、必然に思いをはせる

津山の地に散りばめられた美しい建築の一つの

田熊の舞台は、文字通り舞台となって、歴史を刻む

旅の途中に立ち寄った田熊八幡神社

旅にひかれている。旅の魅力は目的地だけではなく、
目的地に至る経緯にもあると感じている。その日の
状況に合わせ道順を選び、それによって思わぬ縁が
生まれ、道が開けることもある。旅の一日目に訪れた
稲葉なおと氏の写真展覧会。そこでご本人にお会いし、
津山への思いをうかがい、田熊の舞台を紹介頂いた。
そこは次の目的地への途上にある。旅は偶然のようで
必然ではないかと感謝しつつ、津山の旅はその先へ。



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