国際送金市場は「レッドオーシャン」 ― SoFiは“違う獲物”を狙っている
今回は、SoFiが2025年に開始した国際送金サービスについて解説する。ただし、主題は「国際送金サービスの便利さ」ではない。
むしろ、今回の結論は「この市場では、普通に戦っても大きくは儲からない」という点にある。
それでもなぜSoFiは、あえて「レッドオーシャン」と呼ばれる国際送金市場に参入したのか――。
<個人向け国際送金サービス概要>
SoFiが開始した個人向け国際送金サービスは、従来の銀行の国際送金とは異なり、ブロックチェーン技術を用いた新しい仕組みに基づいたものとなる。
・送金手法
🤔従来:送金人→国内銀行→中継銀行①→中継銀行②→受取国銀行→受取人
⛔送金時間:数日程度あるいはそれ以上(銀行の営業時間にも左右される)
⛔手数料:不透明、高い(中継銀行への支払も発生)
😰送金コスト:世界平均6.49%、銀行14.55%‼️(出元:世界銀行)
😰コストは事前にはわからないことも多く、「非効率の塊」
💡今後:送金人→SoFi→受取国銀行→受取人
✅送金時間:数秒〜数分
✅手数料:事前提示、激安0.5%~(2025年10月16日時点)
✅SoFi預金口座から直接送金が可能
※受取国の状況に応じて、既存の中継銀行が介在するケースもある。ただし送金の仕組み上、中継銀行の数が減りやすい。
・送金対象国
メキシコ、インド、ブラジル、欧州など30か国以上(2025年末時点)
・SoFi USDの役割:銀行口座とブロックチェーンの法的な橋渡し
⛔SoFi USDがない場合:暗号資産送金(法的あいまいさ:銀行監査不成立)
✅SoFi USDがある場合:SoFi USD(銀行預金)を用いた国際送金(銀行監査成立)
※SoFi USD:法律に基づいて発行され、銀行の枠組みで監督されるステーブルコイン
※銀行規制に基づき、AML(資金洗浄防止)/KYC(本人確認)済
<個人向け国際送金市場>
世界の個人向け国際送金市場は、年間総額9,000億ドル規模の巨大市場である。その中でも、米国から海外への送金は年間1,000億ドル程度に達する。
巨大に見えるこの市場は、実は単純ではない。
通常の国際送金市場の延長線上で考えるのであれば、以下の要因から、高いシェアの獲得は極めて難しい。
⛔国ごとに法律・規制が異なる
⛔銀行ネットワークが国単位で閉じられている
⛔中継銀行が複雑に絡み、コストと時間がかかる
⛔ローカル事情に精通した小規模フィンテックが各地に存在
このような状況のため、次のようになる。
🤔「世界共通の勝者」は生まれにくい
🤔地域ごとに強いプレイヤーが固定化している
🤔もっとも高いと言われるWestern Unionでさえ、10~15%程度のシェア
SoFiも例外ではない。そのシェアは3年後でもせいぜい1~2%くらいと考えるのが妥当だ。この前提に立つ限り、国際送金“単体”では「大きく儲かる事業」にはなり得ない。
<個人向け国際送金市場からの期待収益>
たとえば仮に数年後に想定以上のシェア10%を取れた場合でも、最終利益は
🎯1,000億ドル×10%×手数料率0.5%×利益率50%×(1-税率25%)=1,875万ドル
となる。※手数料率0.5%、利益率50%は仮想定
また以前解説をした「フロート収益」も、B2C国際送金の場合、
・滞留期間:数時間〜1日程度
・金額:個人送金のため、小口
という状況から、限定的となる。
どれだけ技術が優れていても、「B2C国際送金」という枠組みの中では、構造的に大きな利益は生まれにくいのが現実だ。
<SoFiの構造的アドバンテージ>
一方、SoFiの場合、用いる技術がまったく異なり、従来のサービスとスピードもコストも格段に違う。なぜ優位性を持てるのかというと、SoFiが以下のすべてを同時に満たしている唯一の存在だからである。
✅銀行(AML/KYCなどの規制に完全準拠)
✅ステーブルコイン発行体
✅ブロックチェーン技術への造詣が深いテクノロジー企業
✅米国最大級のオンライン銀行という口座基盤
これは簡単には埋められない構造的アドバンテージである。
もちろん、これらは「個人向け国際送金サービス」だけの優位性ではない。
<SoFiが狙う「新しい国際決済レイヤー」>
そう考えると、SoFiが国際送金サービスで本当に狙っているものは、「B2C市場でのシェア争い」ではないように見えてくる。
SoFiにとって、この市場は
・安定的な顧客接点
・規制下での運用実績の蓄積
としての意味合いが強いのではないだろうか。
というのも、表面上は「個人→個人」の送金であっても、実際の資金移動の裏側では、
・銀行
・決済インフラ
・規制
が複雑に絡み合っている。
つまり、国際送金とは本質的に
「銀行と銀行の間で行われる取引=B2Bの世界」
である(詳細は次回解説)。
個人向け国際送金は、そのわかりやすい入口に過ぎない。SoFiは、この入口を使って
・銀行間送金
・クロスボーダー決済
・規制下での資金移動
という、より大きな市場への足場を築こうとしているのではないだろうか。
国際送金がなぜ「B2Cに見えて、実態はB2B」なのか、そしてSoFiが本当に見ている市場はどこなのかを、もう一段深く掘り下げていく。
次回「国際送金はB2Cに見えてB2B ― SoFiはレッドオーシャンで戦わない」へ続く。
【補足】
USDTやUSDCも、技術的には国境を越えた送金を即時かつ低コストで実行できるステーブルコインである。しかし、規制下にある銀行や大企業が個人向け国際送金サービスとして、これらステーブルコインを採用することは、極めて難しい。
理由は明確で、USDTやUSDCは、受取人がその後どのように資金を移転するかを統制できないためである。たとえ送金時点で送金人・受取人のKYCを実施し、規制を満たしたとしても、受取後にP2P(個人間送金)で第三者へ自由に送金可能だ。
規制当局は、資金の最終的な流れに対しても合理的な管理体制を求めるため、このような通貨を用いた送金は、銀行や規制企業にとって過大なコンプライアンスリスクを伴う。結果として、(規制の緩い国は別として)規制下にある企業の個人向け国際送金インフラとしての使用は極めて難しい。
また、J.P.モルガンやシティグループの「銀行内・取引先限定の決済トークン」は汎用ステーブルコインではなく、B2Cでの利用は想定されていない。
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