#09 見落とされやすい借上社宅の落とし穴
― 税務上の否認リスクにつながりやすい設計ミスを整理 ―
※本記事は借上社宅制度シリーズの一部です。
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【ご留意事項】
本記事は、借上社宅制度に関する一般的な情報提供および制度理解を目的として作成しています。記載内容は、一般的な制度上の考え方や実務上の整理を説明するものであり、特定の状況に対する税務・法務・労務上の判断、助言または保証を行うものではありません。
実際の運用にあたっては、会社ごとの制度設計・契約内容・運用実態等によって取扱いが異なる場合があります。個別案件については、必ず税理士、社会保険労務士、弁護士、または管轄の行政機関等へご確認・ご相談ください。
また、制度改正や行政解釈等により、将来的に取扱いが変更される可能性があります。最新情報については、国税庁・厚生労働省等の公表情報をご確認ください。
内容の正確性には十分配慮しておりますが、本記事に基づいて生じたいかなる損害等についても責任を負いかねます。
1. ■借上社宅は「形を整えれば安全」ではない
借上社宅制度は、適切に設計・運用することで、従業員の
住居費負担の軽減や、採用・人材定着への効果が期待できる制度です。
一方で、
・会社名義で契約している
・社宅規程を作成している
・従業員から一定額を徴収している
という形式だけで、
すべての取扱いが決まるわけではありません。
借上社宅では、
✅契約名義
✅会社が負担する費用
✅従業員から徴収する社宅使用料
✅税務上の賃貸料相当額
✅社会保険上の現物給与評価
✅社宅規程と実際の運用
などを
総合的に確認する必要があります。
一つの数字や書類だけではなく、
制度全体として説明できる状態にしておくことが重要です。
本記事では、借上社宅制度で見落とされやすい設計・運用上の注意点を
整理します。

2. ■落とし穴① 家賃の「割合」だけで社宅使用料を決める
借上社宅では、
・会社負担70%、従業員負担30%
・家賃の20%を社宅使用料とする
・役職に応じて一定割合を徴収する
といった
設計が行われることがあります。
負担割合を決めること自体は、制度設計の一つです。
ただし、税務上の取扱いを確認する際には、市場家賃に対する割合だけ
ではなく、賃貸料相当額との関係を見ることが重要です。
例えば、
・会社が支払う家賃:30万円
・従業員負担:9万円
・賃貸料相当額:10万円
という場合、
従業員は市場家賃の30%を負担しています。
しかし、従業員負担額が賃貸料相当額を下回っているため、差額について
給与課税の対象となる可能性があります。
つまり、
「何%負担しているか」ではなく、税務上求められる基準を満たしているか
を確認することが大切です。
[参考]実務では「20%なら安全か」「30%なら問題ないか」といった
割合ベースで判断されることもありますが、実際は賃貸料相当額
との関係や物件条件によって結果が変わる場合があります。
▶【Q&A:社宅の家賃は何%負担(社宅使用料)なら妥当ですか?】
👥社宅使用料の決め方を詳しく知りたい方へ
3. ■落とし穴② 「会社が全額支払う」と「従業員負担0円」を混同する
借上社宅では、会社が貸主へ家賃の全額を支払うことが一般的です。
そのうえで、会社が従業員から社宅使用料を徴収します。
したがって、
会社が貸主へ家賃を全額支払うことと、従業員の負担が0円であることは
同じではありません。
確認したいのは、
✅社宅使用料を徴収しているか
✅どのような基準で金額を決めているか
✅税務上の賃貸料相当額との関係はどうか
✅規程と実際の徴収額が一致しているか
という点です。
一方で、従業員から社宅使用料を徴収せず、会社が住宅費をすべて負担している場合には、従業員が受ける経済的利益について、給与課税の対象となる可能性があります。
会社負担割合だけで安全・危険を判断しないことが重要です。
⚖税務・社会保険を詳しく知りたい方
4. ■落とし穴③ 役員社宅と従業員社宅を同じ基準で扱う
役員社宅と従業員社宅では、
税務上の賃貸料相当額の考え方が異なる場合があります。
そのため、
・同じ社宅規程を使っている
・どちらも家賃の30%を負担している
・同じ会社名義で契約している
という
理由だけで、同じ取扱いになるとは限りません。
特に、
・役員のみ高額物件を利用している
・役員の自己負担額が低い
・家賃上限や物件選定基準がない
・役員だけ例外的な運用をしている
といった場合には、
制度の合理性や経済的利益について、慎重な確認が必要になることが
あります。
役員社宅と従業員社宅は、
同じ「社宅」であっても分けて整理することが重要です。
具体的な判定や計算については、税理士や管轄税務署等へご確認ください。
5. ■落とし穴④ 費用の名称だけで判断する
借上社宅の請求には、
・家賃
・共益費
・管理費
・駐車場代
・家具・家電使用料
・水道光熱費
・インターネット利用料
などが
含まれることがあります。
ここで注意したいのは、
「家賃と書かれているから住宅費」
「共益費と書かれているからすべて社宅費用」
とは限らないことです。
例えば、共益費の中に、
・建物管理費
・清掃費
・家具レンタル料
・付帯サービス料
などが
含まれている場合があります。
重要なのは、費用の名称ではなく、何の対価として支払われているかです。
住宅と直接関係のないサービスを会社が負担している場合には、
その部分について給与課税などの確認が必要になる可能性があります。
契約書や請求書を確認し、
住宅費とその他の費用をできる限り区分しておくことが大切です。
[参考]共益費や駐車場代も、実は見落としやすいチェックポイントです。
▶【第15回:共益費・駐車場代の扱いはどう整理する?】
👥共益費や付随費用の整理方法を知りたい方へ
6. ■落とし穴⑤ 駐車場代を家賃と同じように扱う
駐車場が住宅に併設されていても、
駐車場の使用は住宅の貸与とは別の性質を持つ場合があります。
例えば、
・従業員の私有車を保管する
・通勤に使用する
・会社の業務でも使用する
・会社の営業車を保管する
など、
利用目的によって事情が異なります。
私有車の駐車場代を会社が負担している場合には、
従業員への経済的利益として給与課税の対象となる可能性があります。
一方で、会社の業務上の必要性から駐車場を確保している場合には、
利用実態や会社の管理状況などを踏まえ、社宅費用とは別に整理される
ことがあります。
また、地方の賃貸物件などでは、
・駐車場込みの家賃である
・駐車場を使わなくても金額が変わらない
・契約上、住宅と駐車場を分けられない
というケースもあります。
この場合は、地域の賃貸慣行、契約内容、住宅との一体性などを踏まえて
確認することになります。
「社宅に付いているから家賃と同じ」と単純に考えないことが重要です。
7. ■落とし穴⑥ 実態が住宅手当に近くなっている
借上社宅では、
一般的に会社が住宅の契約主体となり、従業員へ住宅を貸与します。
一方、住宅手当では、従業員が契約した住宅について、会社が現金などで
一定額を支給する形が多く見られます。
借上社宅として運用していても、
・契約が従業員名義のままである
・会社は一定額を補助するだけである
・物件条件や家賃上限を管理していない
・退去や契約変更に会社が関与していない
といった場合には、
実態として住宅手当に近い仕組みと考えられる可能性があります。
ただし、従業員が物件を探すこと自体が問題になるわけではありません。
従業員が候補物件を探し、
会社が条件を確認・承認したうえで法人契約を締結する運用もあります。
確認したいのは、
✅契約主体は誰か
✅会社が物件条件を管理しているか
✅会社と従業員の権利義務が明確か
✅社宅規程に沿って運用しているか
という点です。
⚖ 税務・社会保険を詳しく知りたい方
8. ■落とし穴⑦ 社宅規程があれば問題ないと考える
借上社宅制度では、社宅規程を整備することが重要です。
しかし、
規程が存在するだけで制度上のリスクがなくなるわけではありません。
例えば、
・規程では家賃の30%負担だが、実際には役職ごとに調整している
・規程では家賃上限10万円だが、超過物件を恒常的に認めている
・規程では転勤者のみ対象だが、対象者が拡大している
・規程では退職時に退去するが、期限なく居住を認めている
といったケースです。
例外対応が直ちに問題になるわけではありません。
会社や従業員の事情により、例外的な取扱いが必要になることもあります。
ただし、例外対応が積み重なり、判断基準が不明確になると、
・対象者間の公平性
・制度運用の一貫性
・給与としての性質
・会社負担の合理性
について
説明が難しくなる可能性があります。
規程の内容、例外対応、実際の運用を一致させることが重要です。
[参考]「社宅規程はなくても大丈夫?」見落とされがちな制度設計の
ポイントをわかりやすく整理します。
▶【第3回:借上社宅に社宅規程は必要?】
👥社宅規程の役割を詳しく知りたい方へ
9. ■落とし穴⑧ 税務だけを確認している
借上社宅では、税務上の賃貸料相当額と、社会保険上の住宅の現物給与評価は同じ仕組みではありません。
そのため、
税務上、給与課税が生じないように設計していても、社会保険上の現物給与が0円になるとは限りません。
社会保険では、住宅の現物給与価額と、従業員から徴収する社宅使用料
との差額を、報酬へ加算する場合があります。
⚖ 税務・社会保険を詳しく知りたい方
実務では、
・税務上の賃貸料相当額だけを確認している
・現物給与を給与システムへ登録していない
・転勤後も以前の単価を使用している
・入退去時の取扱いが統一されていない
・算定基礎届や月額変更届への反映を確認していない
といった
見落としが考えられます。
社会保険上の現物給与が正しく反映されていない場合には、
標準報酬月額や社会保険料に影響する可能性があります。
また、2026年10月には住宅の現物給与評価方法が見直されるため、
既存制度や給与システムの確認が必要となる会社も考えられます。
税務と社会保険は、別々の基準で確認することが重要です。
[参考]まずは「現物給与」という言葉そのものを整理しておくと、
この後の住宅評価も理解しやすくなります。
▶ 【Q&A:現物給与とは何ですか?】
👥現物給与の基本から確認したい方へ

10. ■リスクが生じやすい会社の共通点
ここまで取り上げた落とし穴には、共通点があります。
それは、制度の内容や運用について合理的な説明ができないことです。
例えば、
・なぜこの社宅使用料なのか
・なぜこの家賃上限なのか
・なぜこの費用を会社が負担するのか
・なぜこの従業員だけ例外なのか
・なぜ税務と社会保険で異なる金額を使うのか
といった点を、
制度目的や規程に基づいて説明できることが重要です。
リスクが生じやすい制度には、
・制度目的が明確ではない
・負担割合などの数字だけで決めている
・規程と実際の運用が異なる
・費用の中身を確認していない
・税務と社会保険を同じ基準で考えている
・制度導入後に見直していない
といった傾向があります。
制度は導入して終わりではなく、継続的に確認・見直すことが大切です。
11. ■まとめ
借上社宅制度のリスクは、
明らかに特殊なケースだけで生じるものではありません。
実務でよく行われる、
・家賃の一定割合で社宅使用料を決める
・付随費用をまとめて会社が負担する
・規程外の例外対応を認める
・税務上の基準を中心に制度を設計する
といった
運用の中にも、確認すべきポイントがあります。
特に重要なのは、
✅家賃の割合ではなく、賃貸料相当額との関係を確認すること
✅費用の名称ではなく、実際の内容を確認すること
✅役員社宅と従業員社宅を分けて考えること
✅規程と実際の運用を一致させること
✅税務と社会保険を分けて整理すること
✅例外対応の理由や承認内容を記録すること
✅制度全体を合理的に説明できる状態にすること
です。
借上社宅制度は、適切に設計・運用すれば、会社と従業員の双方にとって
有効な制度となります。
一方で、税務、社会保険、契約、人事制度および給与実務など、複数の分野が関係するため、一つの数字や書類だけで判断することはできません。
契約、規程、費用負担、税務、社会保険および運用
実態を一体として整理することが、安定した制度運営につながります。
▶ 借上社宅Q&Aシリーズまとめ|実務で迷う論点一覧
👥実務で迷いやすい個別論点を確認したい方へ
次回予告
次回は
「借上社宅の家賃設定、その決め方で本当に大丈夫ですか?」
について整理していきます。
🧭 次に読む記事を探したい方へ
借上社宅制度について、
「基礎から順番に学びたい」
「実務上の疑問を調べたい」
「税務・社会保険を詳しく知りたい」
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制度の基本から、教科書・実務Q&A・税務・社会保険・制度改正・
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■ 本シリーズについて
借上社宅制度は、税務・社会保険・規程設計など、
複数の論点が関係する制度です。
そのため、同じように見えるケースでも、
前提条件や制度設計によって整理の方向性が変わることがあります。
本シリーズでは、
制度理解や実務整理の参考となるよう、
全体像をできるだけ分かりやすく整理して発信しています。
現在は情報発信を中心としていますが、
今後は制度運用に関する実務上のコミュニケーションの場も
広げていければと考えています。
なお、記事テーマに関するご質問やご感想があれば、
コメント等でお寄せいただけますと、
今後の発信の参考にさせていただきます。
著者
Yoshihiko Tagawa|借上社宅制度の研究家
借上社宅制度について、制度運用や社宅管理の観点から
情報整理・発信を行っています。
毎月3000戸超の社宅運営に携わる中で、
借上社宅制度の運用面・管理面に関する情報整理を行ってきました。
本noteでは、借上社宅制度に関する一般的な仕組みや運用上の考え方を
情報整理を目的としてまとめています。
借上社宅制度にはメリットがある一方で、
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