#11 借上社宅は社会保険料に影響するのか?
― 現物給与の仕組みと給与との違いを解説 ―
※本記事は借上社宅制度シリーズの一部です。
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【ご留意事項】
本記事は、借上社宅制度に関する一般的な情報提供および制度理解を目的として作成しています。記載内容は、一般的な制度上の考え方や実務上の整理を説明するものであり、特定の状況に対する税務・法務・労務上の判断、助言または保証を行うものではありません。
実際の運用にあたっては、会社ごとの制度設計・契約内容・運用実態等によって取扱いが異なる場合があります。個別案件については、必ず税理士、社会保険労務士、弁護士、または管轄の行政機関等へご確認・ご相談ください。
また、制度改正や行政解釈等により、将来的に取扱いが変更される可能性があります。最新情報については、国税庁・厚生労働省等の公表情報をご確認ください。
内容の正確性には十分配慮しておりますが、本記事に基づいて生じたいかなる損害等についても責任を負いかねます。
借上社宅について、
「所得税が非課税なら、社会保険料にも影響しない」
と考えている方もいるかもしれません。
しかし、借上社宅では、
所得税と社会保険で住宅を評価する仕組みが異なります。
所得税では「賃貸料相当額」という基準があります。
一方、社会保険では、
住宅を現物で提供する場合、「現物給与」という考え方があり、
厚生労働大臣が定める価額に基づいて住宅の利益を金銭に換算します。
そのため、
所得税では給与課税されなくても、社会保険では住宅に関する現物給与額が発生するということがあります。
借上社宅制度を理解するうえでは、この違いを整理しておくことが
重要です。
今回は、借上社宅と社会保険料の関係について、基本的な仕組みから整理します。
1.■ 借上社宅は社会保険料に影響するのか?
結論からいえば、
借上社宅は、社会保険料に影響することがあります。
健康保険・厚生年金保険では、会社から従業員へ労働の対償として支給
されるものは、現金だけではなく、一定の現物による給付についても
「報酬」として取り扱われます。
その代表例の一つが住宅です。
会社が従業員へ社宅や寮などを提供している場合、
その住宅について一定の方法で価額を算定し、
必要に応じて給与などの金銭による報酬と合算します。
そして、その報酬をもとに標準報酬月額が決まり、
健康保険料や厚生年金保険料の算定へつながります。
つまり、
借上社宅そのものの家賃を社会保険料の計算へそのまま加えるわけでは
ありません。
社会保険上の基準で住宅を評価したうえで、従業員負担額などを反映し、
報酬へ算入する現物給与額を確認することになります。
2.■ 現物給与とは?
給与というと、毎月銀行口座へ振り込まれる現金をイメージする方が
多いと思います。
しかし、会社から従業員へ提供されるものには、
・住宅
・食事
・通勤定期券
・自社製品
など、現金以外のものもあります。
このような金銭以外の形で支給される一定の利益を、
社会保険では「現物給与」として取り扱う場合があります。
借上社宅もその一つです。
例えば会社が賃貸住宅を借り、
その住宅を従業員へ社宅として提供している場合、
社会保険では住宅の価値を一定の基準により金額へ換算します。
ここで重要なのは、
会社が貸主へ支払っている実際の家賃を、
そのまま現物給与として扱うわけではないという点です。
社会保険では、都道府県ごとに定められた住宅の現物給与単価を用い、
住宅の面積に応じて住宅現物給与価額を算定します。
[参考]借上社宅では、所得税と社会保険で確認する基準が異なります。
この違いを踏まえた家賃設定の考え方については、
こちらの記事で詳しく整理しています。
▶【第10回|借上社宅の家賃設定、その決め方で本当に大丈夫ですか?】
⚖ 税務・社会保険を詳しく知りたい方
3.■ 住宅現物給与価額はどのように決まるのか?
借上社宅の社会保険を考えるときには、
「住宅現物給与価額」
という金額を確認する必要があります。
これは、住宅そのものを社会保険上の基準によって評価した金額です。
住宅の現物給与価額は、厚生労働大臣が定める基準により、都道府県ごとに単価が設定されています。
そして2026年10月1日以降は、基本的に、
住宅の総面積 × 都道府県ごとの1㎡当たりの住宅現物給与単価
という考え方で評価することになります。
例えば、
・住宅の総面積 40㎡
・1㎡当たりの住宅現物給与単価 1,000円
と仮定すると、
40㎡ × 1,000円 = 40,000円
となります。
この40,000円が、住宅そのものを社会保険上の基準で評価した金額にな
ります。
ただし、
住宅現物給与価額=そのまま社会保険上の報酬へ加算される金額
とは限りません。
従業員が社宅使用料などを負担している場合には、その負担額も確認する必要があります。
4.■ 従業員負担額がある場合はどうなる?
借上社宅では、
多くの会社で従業員から一定の社宅使用料を徴収しています。
社会保険では、住宅の現物給与価額から従業員が負担している家賃等を
差し引き、実際に現物給与として報酬へ算入する金額を確認します。
例えば、
・住宅現物給与価額 40,000円
・従業員負担額 25,000円
であれば、
40,000円 − 25,000円 = 15,000円
となります。
この場合、15,000円が住宅に関する現物給与として整理されることに
なります。
一方、
・住宅現物給与価額 40,000円
・従業員負担額 40,000円以上
であれば、
住宅の現物給与として加算する金額は生じないことになります。
このため、借上社宅の社会保険を考えるときには、
① 住宅現物給与価額
② 従業員負担額
③ 両者の差額として生じる現物給与額
を分けて考えることが重要です。

5.■ 所得税と社会保険では何が違うのか?
ここが借上社宅制度で特に混同されやすい部分です。
所得税と社会保険では、住宅を評価する基準が異なります。
● 所得税
使用人に社宅を貸与する場合、税務上は一定の方法で計算する
「賃貸料相当額」
を基準として考えます。
一般的な使用人社宅では、従業員から賃貸料相当額の50%以上を受け取っている場合、一定の取扱いのもとで住宅貸与による差額を給与として課税
しない考え方が示されています。
● 社会保険
一方、社会保険では、
「住宅現物給与価額」
を基準として考えます。
住宅現物給与価額と従業員負担額との関係から、社会保険上の現物給与額を確認します。
つまり、
所得税 → 賃貸料相当額
社会保険 → 住宅現物給与価額
というように、そもそも確認する基準が異なります。
そのため、
「所得税で非課税だから、社会保険でも現物給与は発生しない」
とは限りません。
反対に、制度設計や住宅の条件によっては、社会保険上の現物給与額が
生じない場合もあります。
重要なのは、
所得税と社会保険を同じ基準で判断しないことです。
[参考]所得税と社会保険の評価方法の違いについては、
こちらの記事でも詳しく整理しています。
▶【Q&A|現物給与評価は所得税と社会保険で違うのですか?】
⚖ 税務・社会保険を詳しく知りたい方
6.■ 社会保険料に影響するのはどのような場合?
住宅に関する現物給与額が発生すると、その金額は給与などの金銭による
報酬と合わせて、標準報酬月額を決定する際の基礎となります。
例えば、
給与などの金銭による報酬
+
住宅に関する現物給与額
↓
社会保険上の報酬として整理
↓
標準報酬月額を決定
という流れになります。
ただし、
現物給与額が発生したからといって、必ず社会保険料が上がるわけでは
ありません。
健康保険・厚生年金保険では、標準報酬月額を一定の等級に区分して
保険料を計算します。
そのため、現物給与額を加算しても同じ等級の範囲内であれば、
標準報酬月額が変わらない場合があります。
一方で、現物給与額を加算した結果、標準報酬月額の等級が変われば、
社会保険料に影響する可能性があります。
したがって、
「現物給与額が発生するか」
と、
「実際に社会保険料が変わるか」
は分けて考えることが大切です。

[参考]社会保険上の現物給与額は、住宅現物給与価額と従業員負担額との
関係によって変わります。従業員負担額をどのように設定する
のか、その基本的な考え方についてはこちらの記事で詳しく整理
しています。
▶【第2回|借上社宅の従業員負担家賃の決め方】
🛠 制度設計を学びたい方
7.■ 2026年10月改正で何が変わるのか?
住宅に関する現物給与の評価方法は、2026年10月1日から変更されます。
これまで住宅の現物給与価額は、主に居間・寝室などの「居住用の室」を
対象として、1畳当たりの価額を用いて計算していました。
2026年10月1日以降は、
住宅の総面積を対象として、1㎡当たりの価額で評価する方法
へ変更されます。
例えば、これまで計算対象となっていなかった、
・玄関
・台所
・トイレ
・浴室
・廊下
・押し入れ
なども、住宅の総面積に含まれることになります。
一方で、マンションなどの共同住宅では、共同で使用する廊下や階段などの共用部分は基本的に除かれます。
この変更によって、
同じ社宅・同じ従業員負担額であっても、
2026年10月以降は住宅現物給与価額が変わる可能性があります。
そして住宅現物給与価額が上がれば、
住宅現物給与価額
−
従業員負担額
=
現物給与額
の差額が大きくなる場合があります。
その結果、標準報酬月額へ影響するケースが生じる可能性があります。
そのため、借上社宅制度を運用している会社では、改正後の評価額を
確認し、既存の従業員負担額との関係を確認しておくことが重要です。
[参考]2026年10月改正の内容については、こちらの記事で詳しく整理しています。
▶【2026年10月改正】借上社宅の現物給与(社会保険)が変わる
📅 制度改正
8.■ 実務で確認しておきたいポイント
借上社宅を運用している会社では、社会保険の観点から次のような点を
確認しておくことが重要です。
① 住宅現物給与価額を確認する
まず、対象となる住宅について、
社会保険上どの程度の住宅現物給与価額になるのかを確認します。
2026年10月以降は、
住宅の総面積と都道府県ごとの1㎡当たり単価が重要になります。
② 従業員負担額を確認する
次に、実際に従業員から徴収している社宅使用料などを確認します。
住宅現物給与価額と従業員負担額との差額によって、社会保険上の
現物給与額が変わるためです。
③ 所得税と社会保険を別々に確認する
所得税では賃貸料相当額、社会保険では住宅現物給与価額を確認します。
したがって、
「従業員から家賃の○%を取っているから大丈夫」
という考え方だけでは、制度全体を整理することはできません。
税務・社会保険それぞれの基準を確認することが重要です。
[参考]社宅使用料を何%に設定するのかという考え方については、
こちらの記事で詳しく整理しています。
▶【Q&A|社宅の家賃は何%負担(社宅使用料)なら妥当ですか?】
⚖ 税務・社会保険を詳しく知りたい方
④ 標準報酬月額への影響を確認する
現物給与額が発生する場合には、
給与などの金銭による報酬と合算したときに、
標準報酬月額へどのような影響があるのかを確認する必要があります。
特に2026年10月改正では、
住宅現物給与価額が変わる従業員がいる可能性があります。
そのため、制度全体を一律に見るのではなく、
「誰に」「どの程度の影響が生じるのか」
を確認することが実務上重要になります。
9.■ よくある誤解
「所得税が非課税なら社会保険も関係ない」
所得税と社会保険では評価基準が異なるため、必ずしも同じ結果には
なりません。
「会社が支払っている家賃をそのまま社会保険へ加算する」
社会保険では、実際の家賃そのものではなく、
厚生労働大臣が定める住宅の現物給与価額を基準として評価します。
「現物給与が発生したら必ず社会保険料が上がる」
現物給与額は報酬へ反映されますが、標準報酬月額の等級が
変わらなければ、直ちに保険料が変わるとは限りません。
「家賃の20%・30%を負担していれば問題ない」
借上社宅では、
実際の家賃に対する負担割合だけで判断することはできません。
所得税では賃貸料相当額、社会保険では住宅現物給与価額という
別々の基準があります。
10.■ まとめ
借上社宅は、社会保険料に影響することがあります。
その理由は、会社から従業員へ住宅を提供することが、
社会保険上の現物給与として評価される場合があるためです。
社会保険では、
住宅現物給与価額
↓
従業員負担額を反映
↓
現物給与額を算定
↓
給与などの金銭による報酬と合算
↓
標準報酬月額へ反映
という流れで考えると分かりやすくなります。
また、借上社宅では、所得税と社会保険を分けて考えることが重要です。
所得税では「賃貸料相当額」
社会保険では「住宅現物給与価額」
という異なる基準が使われます。
そのため、
「所得税で非課税だから社会保険も問題ない」
と一律に考えるのではなく、
それぞれの制度に沿って確認する必要があります。
さらに、
2026年10月1日からは住宅の現物給与評価方法が変更され、
居住用の室を1畳単位で評価する方法から、
住宅の総面積を1㎡単位で評価する方法へ変わります。
これまでと同じ社宅使用料を徴収していても、
住宅現物給与価額や現物給与額が変わる可能性があります。
借上社宅制度を運用する会社では、
✅住宅の評価方法
✅従業員負担額
✅所得税との違い
✅標準報酬月額への影響
✅2026年10月改正への対応
を一体として確認していくことが重要です。
借上社宅制度は、
単に「会社が家賃を負担する福利厚生制度」ではありません。
税務・社会保険・給与計算・社宅規程など複数の仕組みが関係する制度
だからこそ、それぞれの基準を分けて理解したうえで、
制度全体として運用していくことが大切です。
[参考]社会保険の現物給与についてさらに理解を深めたい方は、
こちらの記事もおすすめです。
▶【Q&A|住宅現物給与価額と現物給与額は何が違いますか?】
⚖ 税務・社会保険を詳しく知りたい方
次回予告
次回は、
「税務はOKなのに社会保険でNG?評価が逆転するケース」
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■ 本シリーズについて
借上社宅制度は、税務・社会保険・規程設計など、
複数の論点が関係する制度です。
そのため、同じように見えるケースでも、
前提条件や制度設計によって整理の方向性が変わることがあります。
本シリーズでは、
制度理解や実務整理の参考となるよう、
全体像をできるだけ分かりやすく整理して発信しています。
現在は情報発信を中心としていますが、
今後は制度運用に関する実務上のコミュニケーションの場も
広げていければと考えています。
なお、記事テーマに関するご質問やご感想があれば、
コメント等でお寄せいただけますと、
今後の発信の参考にさせていただきます。
著者
Yoshihiko Tagawa|借上社宅制度の研究家
借上社宅制度について、制度運用や社宅管理の観点から
情報整理・発信を行っています。
毎月3000戸超の社宅運営に携わる中で、
借上社宅制度の運用面・管理面に関する情報整理を行ってきました。
本noteでは、借上社宅制度に関する一般的な仕組みや運用上の考え方を
情報整理を目的としてまとめています。
借上社宅制度にはメリットがある一方で、
運用方法や会社ごとの事情によって、税務・労務上の取り扱いが異なる場合があります。
中小企業の制度理解や運用整理に役立つ視点で発信しています。
