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舞台 「狂人なおもて往生をとぐ ー昔、僕達は愛した」 観劇レビュー 2025/10/18


写真引用元:舞台『狂人なおもて往生をとぐ』 公式X(旧Twitter)


公演タイトル:「狂人なおもて往生をとぐ ー昔、僕達は愛した」
劇場:IMM THEATER
企画・制作:スマートリバー
作:清水邦夫
演出:稲葉賀恵
出演:木村達成、岡本玲、酒井大成、橘花梨、伊勢志摩、堀部圭亮
期間:10/11〜10/18(東京)
上演時間:約2時間20分(途中休憩なし)
作品キーワード:家族、難解、妖艶、考えさせられる
個人満足度:★★★★☆☆☆☆☆☆


戦後を代表する日本の劇作家の一人である清水邦夫さんが、1969年に俳優座に書き下ろした彼の代表作である『狂人なおもて往生をとぐ』を、『狂人なおもて往生をとぐ ー昔、僕達は愛した』として文学座演出部の稲葉賀恵さんの演出で上演されるということで観劇。
『狂人なおもて往生をとぐ』は、2023年10月にタカイアキフミさん主宰の演劇ユニット「TAAC」で上演されたものを観劇したことがあり、あらすじは事前に知っていた。
また、稲葉さんは、2023年、オフィスコットーネ『加担者』、PARCO劇場『幽霊はここにいる』の演出で第30回読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞していて、私は稲葉さんの演出作品は、ゴーチ・ブラザーズ『ブレイキング・ザ・コード』(2023年4月)、エイベックス・ライブ・クリエイティブ×coSept『ラフへスト〜残されたもの』(2024年7月)で拝見したことがある。

物語は、女主人であるはな(伊勢志摩)と青年の出(木村達成)が経営している娼家を舞台にした話である。
この娼家に男性客である善一郎(堀部圭亮)が訪れていて、ピンクの照明を付けたり消したりしながら大笑いしている。
善一郎は、はなに手を出そうとするが、出ははなのヒモになっていてそれを許さなかった。
出ははなの優しさに惹かれてお互いに特別な感情を抱いているようであり抱きしめ合う。
そんな娼家には娼婦である愛子(岡本玲)がいた。
愛子の男性客として敬二(酒井大成)がやってくる。
やがて彼らは娼家で家族ごっこを始める。
善一郎は父、はなが母、出が長男、愛子が長女、敬二が次男という設定である。
しかし出は精神疾患を患っていて、精神的に不安定で意識を失って倒れてしまい...というものである。

私は以前TAAC版の『狂人なおもて往生をとぐ』を観劇していたので、この作品が何を言わんとしているのか、ある程度事前に理解していた部分があったので退屈はしなかったが、初見の観客がこの作品を観てどう感じたのかは非常に気になるところであった。
戯曲が非常に難解で、この作品は演出家の腕が試される作品だと私は思っている。
TAAC版の『狂人なおもて往生をとぐ』からは、精神疾患を患った出が描いている家族ごっこが妄想なのか現実なのか曖昧に描かれながら進行することで、観客はその見せ方に引き込まれて面白さを感じられたのだが、今回の上演では劇場のキャパシティが大きかったせいか、ほとんどの台詞が流れてしまったように感じて内容が全然入ってこなかった。
事前にあらすじを知っている私でさえそうだったのだから、きっと初見の観客の方は特に理解が難しかったのではないかと思った。

その大きな要因として、舞台美術も影響していると感じた。
岩盤で出来たような舞台セットが設置されていて、その頭上には昇降式のピンク色と白色で光る照明がある。
まるでどの時代の何を表しているのかさっぱり分からない舞台装置となっていて、その時点で観客は混乱したのではないかと思う。

TAAC版の本作は娼家であることが明確に分かるようなセットで、戦後の昭和のレトロさも漂うようなセットだった点も、この戯曲が描かれた時代を反映していてよく伝わったのだが、今回の舞台装置は世界観をイメージするのに苦労して入り込めなかったのかなと思う。
舞台美術担当が山本貴愛さんで、今作のような正攻法でない舞台美術になる予想はしていたが肌に合わなかった。
また舞台美術の美しさが内容の描写に勝ってしまった感じもあって、それも内容が入ってこなかった一因かもしれないと思った。

ただ、終盤の核家族からの解放に関してはTAAC版の本作よりも、より明確に描かれている感じがあり、子供が親元から巣立っていくという表現は好きだった。
私は、今作のテーマが核家族に対するアンチテーゼと、その家族からの解放だと理解していたので、終盤の描写がスッと入ってきて最後は爽快に思われて良かったと思えた。

出演者は舞台を中心に活躍されている実力派ばかりで皆素晴らしかった。
主人公の出役を演じた木村達成さんは、精神疾患を患って狂ってしまった感じのある青年役がとても素晴らしかった。
そして愛子役を演じた岡本玲さんの演技も、真っ赤な衣装に真っ赤な花を並べる感じが存在感があり、出のことを思う感じもとても妖艶で良かった。
また、西川めぐみ役を演じた橘花梨さんの演技も、良い意味で鼻につく感じと他の人々を見下す感じがとても上手く表現されていて素晴らしかった。

今作は非常に難解な戯曲で演出の余地も沢山あるため、演出力が非常に問われる作品だと思う。
もっと戯曲と向き合ったクリエイションにして欲しかったとも感じたが、こういった難解な戯曲が多くの観客の目に止まること自体は良いことだと思った。

写真引用元:ステージナタリー 「狂人なおもて往生をとぐ~昔、僕達は愛した~」より。(撮影:引地信彦)


↓ティザー映像




【鑑賞動機】

TAACの公演で本作を初めて拝見した時に、あまりにも難解だけれど非常に既存概念を批判していて興味深い作品だったので、稲葉さんの演出だとどうなるか気になったので観劇してみることにした。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ストーリーに関しては、私が観劇で得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。

岩盤のような硬い床面と壁面のある空間の上部に、巨大な正方形でピンクと白色に光る照明が設置されている。善一郎(堀部圭亮)はジャンプをすると、その照明がピンク色に変わり、再度ジャンプすると照明が白色に変わる。それを繰り返して、照明がピンク色に輝いたり白色に輝いたりするのを善一郎は面白がっていた。
ここは娼家であるようで善一郎は、この娼家に通う男性客のようであった。この娼家には女主人のはな(伊勢志摩)がいた。善一郎は女主人であるはなと良い感じの関係になって話していた。
しかし、そこへこの娼家で働き、女主人はなのヒモである青年の出(木村達成)がやってくる。出ははなと善一郎が良い感じになっているのを見て警戒し、はなに手を出さないように言う。
そこへ、この娼家の娼婦である愛子(岡本玲)がやってくる。
出ははなとイチャイチャし始める。出ははなの優しさに惹かれているヒモなので、お互い体を抱きしめあったりする。
愛子がいるところで、男性客の敬二(酒井大成)がやってくる。敬二は会話したのち、すぐにこの娼家を去る。
出は家族ごっこをしたいと申し出る。善一郎が父親で、はなが母親、出は長男で愛子は長女、敬二は次男であるという設定で。しかし、その家族ごっこを始めると、出は実は精神疾患を患っていて精神的に不安定になっていき、岩盤の壁面を登り始めて、そこで気絶して床面に落下して意識を失う。善一郎は気絶した出を介抱する。

照明が切り替わる。
敬二が西川めぐみ(橘花梨)を連れて娼家にやってくる。西川はお金持ちらしく、この辺鄙な娼家を見下しているような感じであった。
善一郎とはなが敬二と西川めぐみを迎え入れる。敬二は西川が結婚したい女性であることを告げる。善一郎は教育学部の大学の教授をやっているようであった。
愛子がやってきて、床面に赤い花を一つ一つ並べ置き始める。
再び家族ごっこを始める。今度は、出が父親で愛子が母親、そして長男が善一郎で長女がはなであると。西川はこんな狂気的な家族は変だと受け付けなかった。
突然善一郎が倒れてしまう。出は必死で介抱する。善一郎が倒れてしまったことで、この建物が崩れ始めるんじゃないかとはな、愛子、敬二は必死で岩盤で出来た建物を支えようとする。
西川は、このあまりにも狂気的な家族ごっこに付き合いきれないと言って、その場から立ち去る。それを追いかけるように敬二も西川の後を追いかける。
出と愛子は二人娼家に残る。そして二人はステージの中央で抱きしめ合いながらキスをし、そしてそのままステージ中央の壁面に開けられている小さな四角い穴の中へと入っていく。

朝になる。娼家には善一郎とはなが二人で眠っていた。善一郎は新聞を手にする。そこには戦後の日本の復興についての記事が掲載されていた。
敬二がやってくる。敬二は西川を殺してしまったと言いながら善一郎とはなの元にくる。
そこへ、出と愛子が小さな穴から出てくる。二人は、この娼家から出ていくのだと言う。そして壁面に吊り下げられたロープをつたって上部に登っていく。出、愛子、敬二の3人は登る。善一郎とはなは呼び止める。しかし出と愛子は上まで登ると、そこから向こうへ飛び降りる。敬二は飛び降りなかった。
上部から吊り下げられているピンクと白色の照明のセットが降下してくる。そして善一郎とはなは、この娼家に閉じ込められたようになる。
ここで上演は終了する。

難解であるということは前提としてあるのだが、それでもTAAC版を観たとき以上に内容があまり頭に入ってこず、台詞が流れているような感覚があった。これは何が原因なのか分からないのだが、TAAC版は割と出を中心として作品に没入することで、家族という概念の脆さや狂気性みたいなものを上手く描いているように思えたのだが、今作は作品全体を俯瞰している感じに思えて出を中心に物語を観るという感覚がなくて、家族というものの脆さの描き方が弱かったように思えた。
この人たちは家族なのか、そうでないのか、ごっこ遊びをしているだけなのかとグルグル頭を巡らせるのが醍醐味だと思っていただけに、そこに引き込まれることがなかったので没入できなかった。
しかし、終盤の親からの解放は上手く描いているなと感じた。出と愛子が二人で愛し合い、穴の中に向かっていく、そしてラストは頭上に登って飛び降りるというのは、家族からの解放、つまり既成概念や囚われた空間からの解放を象徴していて、そこは非常に分かりやすく感じた。
ただ、輪廻転生とかそれ以外のこの作品に含有されているテーマはやはり捉えられなかった。

写真引用元:ステージナタリー 「狂人なおもて往生をとぐ~昔、僕達は愛した~」より。(撮影:引地信彦)


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

演出が稲葉賀恵さん、そして出演者が岡本玲さん等でそれだけでも世田谷パブリックシアター系列で上演されそうな座組だなと感じたが、舞台美術に山本貴愛さん、照明演出に吉本有輝子さんが担当されていて、いよいよ世田谷パブリックシアター系列でありそうなスタッフ陣だなと感じた。シアタートラムで上演しましたと言っても違和感のない座組だった。
舞台装置、舞台照明、舞台音響、その他演出の順番で見ていくことにする。

まずは舞台装置について。
ステージ上には、床面とステージ後方側にだけ壁面のある岩盤のような舞台装置が仕込まれていた。TAAC版で本作を観たことがあったので、その時と同じ戯曲であるにも関わらずここまでセットが異なることに驚く。
公演パンフレットには、この岩盤の舞台装置はエッシャーの階段をモチーフにしていて、永遠に登り続ける階段のように段差がついていると記載されていてなるほどと思った。公演パンフレットに書かれるまでは気が付かなかった。
舞台装置の頭上、つまり天井からは巨大な正方形の照明が中に入った装置が吊り下げられており、昇降するようになっていた。この巨大な正方形のセットが娼家の照明として機能し、ピンク色に輝いたり白色に輝いたりした。
ステージ後方の壁面の中央には小さな四角い穴が開けられていた。そこから終盤に出と愛子が出入りしたりする。そしてその上部からは中盤くらいからロープが垂れ下がっていて、そこから壁面の上部に登れるようになっていた。ラストは、出も愛子も敬二もこのロープを伝って上部に行く。
ステージ下手側の壁面にははしごのようなものも設置されていた。出は前半にそのはしごを登って、そこから気絶して床面へと落下して倒れてしまう。
あとは、ウイスキーなどのアルコール度数の強い酒が置かれていたり、赤い花が愛子によってステージ下手側に置かれたりと、この辺りはTAAC版と共通していた小道具だったと思う。善一郎があまりお酒を飲むみたいなシーンはなかったように思えた(見逃していたかも)。
終盤に赤い花が頭上から降ってくるシーンは印象的だった。どういう意味があったのかはよく分からなかった。
山本貴愛さんらしい完成度の高い舞台美術であった。しかし、どうしてこのようなセットになったのかはいささか疑問ではある。まず、舞台セットに自由度はあるといえど娼家が舞台になっているのに、岩盤で出来た舞台装置なのはなぜなのだろうか。これではまるで、どこかのほこらで家族ごっこをしているのではないかと思ってしまうくらいであった。そして、そうであるが故に設定をイメージするのにもだいぶ時間を要してしまうように思う。家族ごっこをしているという設定なのだから、場所でさえ抽象的などことも分からない場所をイメージしているのかもしれないが、そうであるが故に全く世界観に入り込めないというのはあると思う。
一番気になったのは、頭上に吊り下げられていた正方形の照明のセット。あの装置だけ見ると近未来的な印象を受けてしまって、個人的には?であった。善一郎がジャンプすると勝手に照明が切り替わる様はまさにSF的であるなと感じた。
おそらく今作の演出では、本作が輪廻転生をテーマにしているということもあって時空を越えるようなイメージがあって、少しSF的な舞台セットになったのかと思われる。しかし、戦後の核家族化に対するアンチテーゼの色が強いので、そこまで輪廻転生を強調して時空を超えたような世界観にしてしまうと、特に既存のアングラ劇のイメージを持っていた私からすると混乱してしまうなと感じた。

次に舞台照明について。
舞台照明は、カットインで入ったりと凄くスタイリッシュな印象を受けた。この辺りも山本さんの舞台美術とのタッグということを意識している感じがあって、TAAC版の本作とは全く異なっていた。
開演すると、カットインで明かりが入るのも印象的だった。ピンク色と白色でかなりステージの印象が変わるので、そのスタイリッシュさも際立っていた。TAAC版と比べると、ピンク色の照明と白色の照明の違いも明確で分かりやすかったように思う。しかし、そのピンク色が娼家を表す妖艶なピンクなのかというと、そういう感じはしなかった。
徐々に照明の色が切り替わっていく見せ方も良いなと思った。気がついたら全体的にオレンジ色だったり、赤色だったりと、照明がジワジワと色彩的に変化していたのも特徴的だった。
あとは、終盤の朝のシーンの明かりも好きだった。それは出と愛子の家族からの解放でもあり希望でもある。白い感じで娼家に光が差し込んでいる構図が綺麗だった。
そしてラストで、頭上から正方形の巨大なセットが降下してくるが、それに閉じ込められるような形で善一郎とはなが残される時の、冷たい感じの舞台照明も良かった。終盤のシーンの主張したい内容は割と舞台セットで明瞭になっていたなと思う。

次に舞台音響について。
TAAC版では全く舞台音響は入らなかった記憶なのだが、今作ではいくつかのシーンでBGMが流れていた。BGMが入った方が多くの観客は観やすいなどあるかもしれないが、個人的にはノイズに思えた。
IMM THEATERという割と大きな劇場でストレートプレイを上演しているというのもあるのかもしれない。そうであるが故に、音楽なしでは戯曲が難解なのもあって観客が退屈してしまうみたいなのもあるかもしれないが、個人的には音楽によって解釈の余地を色々与えてしまうよなと感じた。

最後にその他の演出について。
やはり全体として、戯曲に対して舞台美術の存在感が勝ってしまっている感じがあってバランス的に釣り合っていないなと感じた。その方が観客にとっては観やすいとかあるのかもしれないが、清水邦夫の戯曲は活かされていない上演になっていたと思った。
ラストの出と愛子の家族からの解放などは象徴的に描いてはいると思うが、それまでの家族ごっこの会話のやり取りからもっと引き込まれるものを作って欲しかったと思った。きっと舞台美術が優ってしまったからこそ、舞台は観ていられるのだが、それは内容ではなく美術を楽しんでいるという感じになってしまったのだと思った。
あとは、あれだけ大きなステージであるにも関わらず、出演者が客席通路を使って退出していくシーンがあったのは驚いた。自分が座っていた真ん前を敬二役の酒井大成さんと西川めぐみ役の橘花梨さんが通っていったのでびっくりした。

写真引用元:ステージナタリー 「狂人なおもて往生をとぐ~昔、僕達は愛した~」より。(撮影:引地信彦)


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

商業演劇から小劇場演劇で活躍する実力派俳優のキャスティングで、皆演技力が素晴らしかった。
特に印象に残った役者について見ていく。

まずは、主人公の出役を演じた木村達成さん。木村さんの演技は、世田谷パブリックシアター『セツアンの善人』(2024年11月)、KERA CROSS『SLAPSTICKS』(2022年2月)で拝見している。
出という精神的に不安定な青年役を演じるのは凄く難しかったと思う。まず台詞がかなり抽象的で難解なので、その役に落とし込んで力強く演じること自体至難の業だと思うが、それをやって退けていて素晴らしかった。
最初は女主人のはなのヒモという設定で、はなと懇意にしている様子から、徐々に愛子に惹かれていくという感情の変遷がある。その辺りの感情のコントロールをどのように表現していったのかなど、木村さんの役作りはどのようにされたのか気になった。
たしか出というのが、学生運動に参加して警官に頭を殴られて精神疾患になったという設定があった気がする。そうであるが故に、現実と妄想の区別がつかなくなってしまい、この家族を家族だと思わず娼家を経営していて家族ごっこをしていると捉え違えていたという記憶である。
これは木村さんの演技云々では全くないのだが、やはり劇後半にたどり着くまでは観客は出の立場で物語に入り込むことが出来ればもっと楽しめたのだと思うが、舞台セットなどの周囲のインパクトが強すぎて入り込めなかったのがあった。

次に、愛子役を演じた岡本玲さん。岡本さんの演技は、世田谷パブリックシアター『みんな鳥になって』(2025年7月)、『ポルノグラフィ/レイジ』(2025年2月)、ゴーチ・ブラザーズ『ブレイキング・ザ・コード』(2023年4月)、劇団時間制作『迷子』(2020年11月)で演技を拝見している。
娼婦という設定として、赤い服を着て、赤い花を並べるという情熱の愛に満ちた妖艶な感じがとても素晴らしかった。岡本さんの演技は、凄く自立した女性という感じがあって、家族から巣立つ前からとっくに自立している感じはあった。
岡本さんの演技はいつ観ても思うが、とても力強くて見入ってしまう。だからこそ、難解な戯曲でも引き込まれるものがあったのだろうなと思った。
岡本さんの存在感が強すぎて、作品全体の中で愛子がかなり目立っていたように感じた。バランス的には出がもっと目立っても良いのではとも感じた。
出と愛子は兄妹という設定なはずなのだけれど、徐々に二人が惹かれあっていくように見えるカラクリが好きだった。ラストでは、男女二人がこの家族と決別して巣立っていくように感じた。

西川めぐみ役を演じた橘花梨さんも素晴らしかった。橘さんの演技は、ムシラセ『なんかの味』(2025年4月)、『ふくすけ2024ー歌舞伎町黙示録ー』(2024年8月)、ぽこぽこクラブ『あいつをクビにするか』(2023年8月)、果報プロデュース『あゆみ』(2022年10月)で拝見している。
良い意味で鼻につく感じというか、この家族に対して距離を取っていく感じがとても上手く表現されていた。箱入り娘っぽさというか、育ちが良いのだろうなという印象がしっかりと伝わっていて、他の出演者とは異質である感じが十分伝わった。
敬二と西川の二人の関係性も良かった。完全に敬二はこの西川に振り回されている感じで、それがまた良かった。
また橘さんはいつも思うが、本当に声が高いなと思う。その声のトーンの高さが、また西川の役に似合っていた。

写真引用元:ステージナタリー 「狂人なおもて往生をとぐ~昔、僕達は愛した~」より。(撮影:引地信彦)


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

ここでは、今作で描かれているテーマについて考察していこうと思う。

私がTAAC版の本作の観劇レビューで記載した通り、『狂人なおもて往生をとぐ』では、戦後の日本において急速な核家族化が進んだことに対するアンチテーゼだったと記載した。
令和の時代では徐々に核家族という家族形態は少なくなりつつあり、旦那と妻がいて、子供が二人という構造は減少傾向にある。
しかし、高度経済成長を遂げていた戦後の日本では、この核家族化がマジョリティと定義されていた。そういうご時世であったが故に、そういった家族のあり方を批判した演劇になっているということである。
劇中、父親である善一郎が倒れてしまうという描写がある。それによって出、はな、愛子、敬二たちは家が崩れるのではないかと思い、舞台装置を支えようとする演出がある。これは、大黒柱である旦那を失ってしまうことで家族が崩壊してしまうという脆さを表現しているのではないかと思った。
そしてそういう形態であるが故に、核家族には弱点があるということも表現されている。大黒柱に支えられているが故に、その存在を失ったらたちまち家族は崩壊してしまうというリスクである。それを描いていたように思う。

だからこそ、ラストは出も愛子も家族からの解放を目指したのだと思う。この作品で訴えたいのは、家族や国家といった私たちを縛る既成概念からの解放だと思われる。
ラストの描写には、戦後の日本ということについても書かれている。戦時中は天皇を父とした国家として国民はその天皇に従属する子供でしかなかった。しかし、戦争によって敗れてそういった国家体制は失われた。しかし、核家族化という形で家父長制の父親に従属する子供として、私たちは家族に縛られている。
子供は、生まれた時から親を大切にするように育てられ、それがあくまでも一般的なこと、常識的なこととして教育されるが、そうではなく、そういう既成概念を打ち破って自立することこそが求められるということが今作は言いたいのだろうか。

ラストには父の善一郎と母のはなが閉じ込められる形で終了する。これは家族の崩壊であることを意味する。その前に出と愛子は二人でこの家族の元を去っている。
しかし、西川を殺してしまった敬二は逃れられる場所がなかったので、最後飛び降りることができなかった。
出と愛子だけが、この狂気に満ちて崩壊する家族から逃れることが出来たのである。

しかし、出と愛子もまた二人は結婚して子供を産むことで家族を作る。するとまた同じことが起きる。これを今作は、親鸞の『難異妙』の一節を取って『狂人なおもて往生をとぐ』とすることで、輪廻転生の概念を取り入れているのだろうか。
公演パンフレットはお経をモチーフにしているように感じられ、それは親鸞の『難異妙』から由来しているように思う。今まで、今作が輪廻転生を意味する理由がよく分かっていなかったが、今やっとそう解釈できて腑に落ちたような気持ちである。

難解な戯曲なので全然まとまりがないが、TAAC版を観劇した時よりも少しこの作品への理解は増したような気がする。

写真引用元:ステージナタリー 「狂人なおもて往生をとぐ~昔、僕達は愛した~」より。(撮影:引地信彦)


↓TAAC版


↓稲葉賀恵さん演出作品


↓木村達成さん過去出演作品


↓岡本玲さん過去出演作品


↓橘花梨さん過去出演作品


↓伊勢志摩さん過去出演作品


↓堀部圭亮さん過去出演作品


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