会話の世界へ誘う~『できる日本語』授業実践②
以下は、私が『できる日本語』を用いて、どのように授業を設計し、行ったのか、そして、その結果の考察である。
【授業実践①】
・課題の見立て
・授業のねらい
・軸を立てる(教材分析と解釈)
・授業の流れ(160分/約4コマ)
・アイスブレイク(身体性を活用した学習体制づくり)
今日は、その続きを書く。
【話してみよう】
【話してみよう】のねらいは、テーマに学習者を引き付けることと、それまでに学んだ日本語を用いて話すことにあります。教師は学習者が話せるように促したり、他の学習者に質問をしてもらったりしてください。
ウォームアップ
教科書の見出しページのイラストを用いて、
Step1:プレゼントに関する話題(経験の語り/自分の話)、
→ターゲット文型(復習):Nをもらう/Nを・Nにあげる/Nがくれた
Step2:駅で女の人の荷物を持ってあげようとしている男の人のイラストを見て、何をしているのが絵を説明してもらう(描写)
〇〇さんだったら、どうしますか?(自分の話)
→ターゲット文型(未習):NをV‐てあげる
*言いたいことがうまく表現できない状態を体験してもらう。
(⇒ここで、授受表現の既習文型の習熟度、クラスのレベル感を確認する)
私の話(デモ)
みなさんは、週末、どこかに行きましたか。
どこに行ったの?へぇ、いいですねぇ。
私は先週、誕生日だったので、夫がおいしいものを食べに連れて行ってくれました。〇〇さんだったら、奥さんに誕生日のプレゼント何をあげますか?
え、お金?(笑)そうなの?物じゃなくて?あっ、そうなんだ・・。
ねぇ、◎◎さん、誕生日にお金もらってうれしい?へぇ、嬉しいんだ。
私たちは、そのあとで、動物園に行きました。

どう思いますか?ですよね。この暑い日にね!
むちゃくちゃ暑かったです。
そこで、めずらしい動物を見ました・・・・(以下、省略)
目標提示

出来事をストーリーとして語ること、友達とおしゃべりすることが目的であることを提示する。
ここで悪い見本として、先ほどの私の話を、一方的に1人で話し、相手は、無表情、無反応で聞く演技を見て、どのように感じるかクラスに問う。
話の聞き方には、文化差がある。中国語では、日本語ほど頻繁にリアクションを返したりはしないのだと学生たちが言ってくれた。
日本語は話の途中で、相槌やら、リアクションをよく返す言語であることを共有し、もう一度、私が先ほどの誕生日の話をするので、上手に話に相槌を打つようにクラスにいう。
先週、私の誕生日だったので、夫がおいしいものを食べに連れて行ってくれました。
はい、どんなリアクションを返しますか?
すごいーー!
おめでとう!
わぁーお!
そうですか。
「おいしいものを食べに連れて行ってくれました。→すごい!!!」ってリアクションは、自然ですか?本当に「うわぁ、すごい!!」と思っていますか?
(学生、首をふる)
便利な相槌を教えます。
「へぇー。」です。
あなたの話に興味があります。もっと話を知りたいです。話してください、の意味です。
私:「こないだね、夫が誕生日においしいものを食べに連れていってくれたんだ。」
クラス:「へぇ。」(リピート、イントネーション練習)
そのあとで、発言の少ない大人しめの学生数人の前に行って、このやり取りを繰り返し、声を出してもらうことへの抵抗を和らげてもらう。
・・・などというようなやりとりをして、私の話から、相槌、自然なリアクションの返し方を引き出していく。
【聞いてみよう】
【話してみよう】が終わったら、【聞いてみよう】に移ります。【話してみよう】でテーマについて、学習者の興味が引き寄せられていたら、CDを聞くときには、学習者は聞くことに集中できると思います。既習の学習項目や語彙が増えていることや効果音が使われていることから、どんな状況かがつかめると思います。
私は「聞いてみよう」には、いつもChat GPTでイラストをつけ、紙芝居を聞いてもらうような感じにしている。
誰かの会話のやり取りを映像情報なしで聞くというのは、どうも真正性に欠ける気がして、また、このクラスの学生たちの聴解能力向上に寄与できるのか疑問に感じたからだ。
そして、聞く前に何に注意して聞いてほしいのか提示するようにもしている。目的がない中で長い話を聞かされても、集中することは難しい。
今回は、誰と誰がどんなスピーチレベルで話しているのかに注意して聞くように指示を出した。



ワンさんと朴さん同士では、普通体で話している。
学生に問い、気づきを促す。
聞くことへのメタ認知を上げ、母語との文化差を意識してもらいながら、日本語会話の世界へ誘う。
【チャレンジ!(復習)】
(状況イラスト):教室で、休み時間に クラスメイトと週末の出来事を話して います。
【チャレンジ!】では、マリアムさんとアンナさんがどんな関係であるかに注目しながら、会話を再現してもらってください。ここでは、アンナさんとマリアムさんが「クラスメイト」であるということがポイントです。相手が自分より目上の人である場合には、 「Vてあげます」は用いられないということも伝えてください。
コマイラストを見て、会話内容を推測
言いたいが言えない状態に持っていく
聞く
聞いたことをなんとなく再現してもらう
聞く
新しい文型の箇所に焦点化し、意味理解できているか確認
シャドーイング/リピート
再話
ペアで練習
再話発表
このクラスの多くの中国の学生たちは、読み書き能力は高く、文法知識は在籍クラス相当ではあるのだが、口頭能力との差が大きい。
そのため、音を集中して聞かせる、声を出すといった口慣らしの工程をかなり丁寧にふんでいる。
(私は、会話の再現で、声色を使って、感情表現を言葉に出すようにもしている。感情・意味は、韻律にのる。韻律も言語知識である。)

【あいづち例】へぇ!えっ、それで?よかったね。うんうん。
【やってみよう(オリジナル)】

前日の復習なので、授受表現の文法説明や練習的なことは済んでいるはずである。
さっそくペアでTASKを実行してもらう。
何を評価するのか予め提示しておき、後で前で発表してもらうことをアナウンスしておく。
私は評価項目に、「授受表現を使うこと」のような形式指定はいれていない。
今回の会話の目的は、人間関係構築だ。クラスメイトとの「イマーココ」での会話を文型のためのエクササイズにはしたくなかった。

ペア練習
何組かに発表してもらう
フィードバック(Focus on Form)
同じ要領で次の【チャレンジ!(新出)】の会話に進む
【言ってみよう】
A さんがBさんに週末の出来事を聞いたところ、B さんは映画を見に行ったと答えたの で、それを聞いた A さんは B さんが楽しい週末を過ごせたと思い、「へえ」と言って、さ らに楽しい話の続きを期待しています。しかし、それに反して、B さんが大変だった週末 について話し始めます。「~て、大変だった」は 5 課で練習済みです。「~ちゃって」は 「~てしまって」の話し言葉であることも一緒に確認してください。
私:Sさん、週末、何した?
S:(自分のことを話してもらう)
私:へぇ、いいねぇ。
でも、Sさんは、そのあと、こんなことがありました。

ここで、今回の学習目標
自分が経験した出来事を、順序立てて、一つのまとまりのある話として話す
の能力が求められてくることになる。
このクラスの学生たちには負荷が高いが、何を求められているのかはわかっているので、まずは、ノートに会話を書き出し、そのスクリプトを覚えて発表しようと試みる学生が非常に多い。
私は、予定調和された“会話“を目指しているわけではないのだが、それを止めることは今の段階ではしていない。
しかし、相手を見て、発表してもらう時にスクリプトを書いたノートをそっと私が引き取ることはする。
声を出して、人前で発表するだけでもハードルが高い学生にはノートを読むことを許すし、
できそうだと考える学生には、次のチャレンジを促す。
スクリプトを書いたノートから離れることを不安そうにする学生に対し、
「大丈夫、できるよ。」と言い、「私が助けるから。」とも伝え、実際には、クラスメイトたちに助け船を出すように促し、協働の雰囲気を作る。
自動化が進んでおり、音声インプットから上手に取り込める学生は、スクリプトなど書こうとせず、自由に自分のことが話せる学生もいる。
また、音声言語と筆記能力に差がありすぎたのだろうか、プレースメントテストでなぜこのクラスに振り分けられることになったのか、どう考えても、このクラスと会話能力のレベルが合っていない学生もいるのだが、いつも堂々と母語(中国語・英語)で話すので、私も彼女と話すときは、基軸言語を中国語にして日本語と英語を混ぜて話すようにしている。
トランスランゲージングの考え方だ。
「トランスランゲージング(translanguaging)」:学習者が持っている複数の言語や表現手段を分けずに、一つの統合された言語資源として柔軟に使いながら、考えたり、理解したり、伝えたりすること。
実際、私も、座学ではなくて、この方法で中国語会話をB1レベルくらいまでは習得した。
学生とのインターアクション
いつも一番後ろの席で、雑談が多く、授業に全く集中していないと引継ぎに書かれがちなAさんとBさんがいる。
確かに、このクラスは、一斉授業を展開すると違うことをし出す人が多い。
直力、説明を一方的に聞くだけの時間を作らないようにしたり、テンポよい授業展開、Focus on Formでの個別化したフィードバックを返すことを目指してはいるが、
それでも集中できない学生たちは、「やる気」の問題ではなくて、何らかの困難があると、まずは、考える。
その困難に対して、私は対応(スキャフォールディング)できる先生なのだと信頼を得なくてはならない。
学生たちにペア練習をさせているときが、個別対応しにいくことのできるチャンスである。
Aさんの席に行ったときに、Aさんが「先生、あげます。」といってこれをくれた。
日本語教師のみなさんなら、分かるはず。
今日の学習項目は授受表現なのだ。
私は、心の中で歓喜しながら、これをいただいた。

さて、タイミングを見つけ、Aさんからお菓子をもらったこと、どこのお土産なのか、おいしそうなどとお菓子についてクラスでひとしきり話題にした後に、
Aさんの好意をありがたく受け取ったことを十分に表現したのち、
「~あげます/~てあげます」がどのようなニュアンスを持つのか、目上の人に使うときには失礼になることを提示し、母語ではどうなのか問いかけてみる。
そして、代わりになんと言えばいいのか真剣になって聞かれたので、クラス全体に問うと、
「食べてください。」「めし・・・・あがって…?」などと頑張って答えてくれたが、
誰かが
「いかがですか?」と言ってくれたので、正解だと答え、
他にも「どうぞ」や、
「よかったら、」を付け加えるとさらに丁寧であることも説明する。
「よかったら~」は、『初級・赤15課』で、既習事項でもある。
その後、授業が終わったとき、Aさんは、
「先生、よかったら、どうぞ」

と言って、今度はこれを私にくれた。
本当にうれしかった。
**************
結果の考察(AI補助)
今回の実践では、学生たちはおおむね活発に活動し、特に発言の多い学生からは自発的な反応や発話を引き出すことができた。学生の授業へのコミットメントの低さを課題と捉えたことからの実践の試みだったが、学生が参加できる条件を整えることで、学生の主体性を引き出していくことができると考える。
最初のボール活動では、学生たちはクラスメイトの日本語名を十分に知らず、相手を見て呼びかけることにも慣れていなかった。しかし、名前を提示し、活動の目的と手順を明確にすると、活動は成立した。このことから、学生が協働活動に消極的だったというよりも、協働するための前提がまだ整っていなかったと考えられる。学習体制づくりは授業を始める前の準備ではなく、それ自体が必要な学習であった。
また、相づちやリアクションの意味を具体的に示すことで、学生たちは日本語の会話における聞き手の役割を理解し、実際に試すようになった。会話へのメタ認知を促したことが、参加の仕方を理解する足場になったと考えられる。
一方、マンツーマンでは活動に参加できても、一斉授業になると別のことを始める学生もいた。この差は、意欲の低さではなく、口頭での指示や会話を処理する難しさ、活動の見通しの持ちにくさなどを示している可能性がある。読み書きや筆記試験の結果だけでは見えにくい、口頭でのやり取りの力をさらに観察する必要がある。
さらに、Aさんが「先生、あげます」から「先生、これ、よかったら、どうぞ」へと表現を変え、実際の場面で自発的に使用したことは、意味のあるやり取りの中で形式への気づきが生じた例である。「集中しない学生」と見られていたAさんが、日本語を使って教師との関係をつくろうとした出来事でもあった。
ただし、今回確認できたのは一回の授業における即時的な変化である。今後は、相づちや質問が自発的に現れるか、経験をまとまりのある話として語れるようになるか、一斉授業で参加しにくい学生にはどのような支援が有効かを継続して観察する必要がある。
日本語を「試験のための知識」だけでなく、「他者と関係を築くためのことば」として経験してもらうこと。今回の実践では、そのような言語使用を経験する場を作ることはできた。しかし、それを学生自身がどのように意味づけたのかまでは確認できていない
以上、『できる日本語 初中級 第8課ST1』(目標文型:授受表現)の私の授業実践でした。
続き
