【とんま村の物語】第14話:その名も、くさりタブレット~DAOやブロックチェーンで、“村のモノ”をこっそり握れなくする話~
🍃登場どうぶつ紹介とあらすじ
🍃 第13話:「それ、村のモノです。〜チャ~リン発行益と運用益の持ち主〜」
🌻論考:「税収でも国債でもないマネーの入口をつくれるか-公共通貨を、法律の内側で制度化する条件」
🌻解説:第14話「新しいお金を、誰がどう管理するのか―公共通貨型ベーシックインカムを支える統治・運用・技術」
🐝前話+第14話サマリー
前話、とんま村のどうぶつたちは、バクの趣味の捜査によって、中央銀行の総裁アリクイの上の方に静かにたまっていたものの正体を知りました。
それは、中央銀行がチャ~リンを出すたびに取っていた発行益、村の「あとで返します約束」にくっついていた利子、そしてそれをさらに回して増やしていた運用益でした。
そしてカメの長老は、それらは総裁だけのモノではなく、まず村のモノだと静かに言い切りました。
ただし、“村のモノ”だと分かっただけではまだ足りません。次に必要なのは、それをどうやって、また別の誰かにこっそり握らせないようにするかということです。
そして今話。
とんま村は、「村のモノ」をほんとうに村のモノとして扱うための、新しい仕組みを手に入れます。
①天の声

「……日曜日の夜、皆さんは“みんなのモノ”という言葉を、どのくらい信じて眠りにつくでしょうか。
その“村のモノ”を、誰にもこっそりいじれなくするにはどうしたら良いか。
これは、そんな少し面倒で、でもだいぶ大事な、“見える仕組み”づくりの記録なのです」
② バク開発の「くさりタブレット」

次の日の朝。広場の真ん中に、見たこともないものが立っていました。
青白く光る、薄くて硬い板。
ふちには、光のくさりのような模様が、するすると流れています。
表面にはまだ何も書かれていないのに、見ているだけでなぜか、
「ここでズルすると、あとで面倒そう」
という空気だけは、もう出ていました。
ライオン
「……なにこれ。板のまわりに、光るくさりが巻きついてる?」
シマウマ
「なんか、字が……まだ何も書いてないのに、浮いて見える……」
アリクイ
「おーおー! なにこの、見た目だけで自由(ズル)を減らしてくる板!」
その前で、バクが板の表面を、すい、と撫でました。
バク
「……うん。いい感じに、こっそりしにくそうだね。これ、僕が前からこっそり作ってた“くさりタブレット”」
ライオン
「……いや、ちょっと待って。なんでこんなの作れるの?」
シマウマ
「そうだよ。前まで落とし物係だったのに、急に何?」
アリクイ
「そうそう! 前から思ってたけど、バクくんって時々、“村の空気に対して知識量が変”なんだよ!」
バク
「……昔ちょっと、HARバード大学工学部にいたからね」
ライオン
「ハー……?」
シマウマ
「HARバード?」
イグアナ
「……補足いたします。“ハーバード”ではなく、“HARバード”。鳥類の名門大学でございます」
アリクイ
「なんで鳥の大学にバクが入れるの!?」
バク
「……交換留学。あと、あそこは意外と、種族より壊れた好奇心を重視するから」
シマウマ
「いちばん信用できそうで、いちばん信用しきれない経歴……」
ライオン
「しかも工学部なんだ……なんで落とし物係やってるのよ?」
バク
「……それは良いとして。昨日の話を聞いて、前々から考えていた新しい仕組みを試すべきと思ったんだ。
チャ~リンの発行益も、利子も、運用益も、村のモノだと分かったのに、また誰か一匹が“じゃあ僕が預かるね”をやったら、意味ないでしょ」
アリクイ
「うっ」
バク
「……この板、広場の親板に書いたことが、村じゅうのみんなの板にも同じように残る。
だから、一枚だけこっそり直しても、ほかとズレてすぐバレる。……みんなに残るってこと」
ライオン
「うわぁ……。悪いことする気が、先になくなる……」
シマウマ
「“やろうと思えばできる”じゃなくて、“やるとすぐバレる”んだ……」
バク
「……それに、“村のモノ”をどう使うかも、一匹で決めない。
“これでどう?”って案を流して、みんなの板で確かめるんだ。
誰に、どれだけ、何のために使うかを、ひとりで決めない。……そういう仕組み」
ライオン
「じゃあ、総裁が“やっぱやめた”って言っても?」
バク
「……もう遅いね。みんなの板に残ってるから」
アリクイ
「なんで毎回、僕だけ生きにくくなっていくのさぁ……」
バク
「……まあ、なんでも通すわけじゃないけどね。
たとえば、“チャ~リンをみんなに同じだけ戻す”とか、“井戸や道みたいに、みんなが使うところから直す”とか、“ひとりだけ得する案は通りにくくする”とか。
……そういうところから始めるのが、たぶん無難」
シマウマ
「なるほど……。“戻す”って言っても、また誰かのポッケだけ太らせたら意味ないもんね」
ライオン
「じゃあ、“ライオンのお肉を毎日二倍にします案”は?」
バク
「……出すのは自由。でも、たぶん半分も通らないね」
イグアナ
「……たいへん残念でした。“個人的な野望は、この仕組みだとやや通りにくい”模様です」
③ これからは「なんとなくすごいどうぶつ」を作らない
カモが、自分の羽の下から小さな板を取り出しました。
どうやら、ほんとうにみんなに配られているらしいです。
カモ
「……なるほど。これはたしかに、前よりずっと見えますね」
ライオン
「前より?」
カモ
「……はい。前は、総裁が“私が預かります”“私が書きます”“私が保管します”……と、だいたい全部“私が”で始めていたので」
アリクイ
「うわっ。カモさん、今日はずっと議事録係みたいだねぇ……」
カモ
「……その時は、私も“そういうものなのかな”と思っていたんです。
でも今思うと、チャ~リンの発行益がどれだけあって、利子がどれだけついて、さらにどれだけ運用益が増えていたのか、かなり見えにくかった」
ライオン
「で、なんとなく足りなくなった」
シマウマ
「今回はそれが、板で見えるんだね」
バク
「……うん。だから今回は、“なんとなくすごいどうぶつ”を作らない」
アリクイ
「それ、かなり僕のこと言ってるよねぇ……」
④ カメの長老の「おそい制度設計」

その時、広場の隅の岩が、もぞ……と動きました。
カメの長老
「……あ、代表です。“村のモノ”という言葉は、便利すぎます。便利すぎる言葉は、放っておくと、だいたい誰かに利用されます。
ですので、何枚あるかを見えるようにする。使い方を一匹で決めないようにする。
そして、一度決まったことを、あとでこっそり変えにくくする。
そのための板にしましょう」
そして、持ち主だけ村で、決め方が一匹のままなら、それはもう村のモノとは言えません」
広場が、すこしだけ静かになりました。
バク
「“村のモノです”って言うだけなら簡単なんだよ。ほんとに村のモノにしたいなら、ズルしにくいくらい面倒じゃないとダメなんだ」
カモ
「……なるほど。“面倒だからこそ安心”なんですね」
アリクイ
「僕はどんどん、生きにくくなってる気がするなぁ……」
イグアナ
「……たいへんよろしいですねぇ。“善良などうぶつが安心し、総裁だけがやや不便になる仕組み”でございます」
⑤ イグアナの突撃インタビュー

イグアナは、くさりタブレットの角によじ登ると、広場を見下ろして言いました。
イグアナ
「……あ、ちょっと失礼。本日、とんま村では、“村のモノ”を次は別の誰かがこっそり握らないための“くさりタブレット”が導入されました。
……要するに、“みんなに残る”“ひとりでは決めにくい”“こっそり消しにくい”という、たいへん総裁泣かせで、わりと村民向けの板でございます」
アリクイ
「泣かせる前提で作られてない?」
イグアナ
「……では、バクさん。
今、村では“みんなのモノ”を、本当にみんなのモノとして扱うために、わざわざこんな面倒な形を選びました。
正直、今どんなお気持ちですか」
バク
「……いや、気持ちっていうか。
昨日の話を聞いて、これを出さない方が不自然だっただけだよ。
…楽に握れる“みんなのモノ”は、だいたい誰かのポッケに落ちるからね」
イグアナ
「出ました。“共有財産は、雑に扱うと最速で私物になる”という、本日のたいへん身も蓋もない結論でございます」
⑥ イグアナの締め実況

イグアナは、くさりタブレットの上で、くるりと向きを変えました。
イグアナ
「……えー、とんま村、本日の記録をまとめます。本日は、“村のモノ”を、次は別の誰かが気分で握らないための板が置かれました。
見える。ひとりでは決めにくい。あとでこっそり消しにくい。
……いやはや。お金というのは、隠し場所が変わるだけでも、すぐ顔つきが悪くなりますねぇ。
けれど、これで村の問題がぜんぶ終わったわけではありません。
そもそもチャ~リンの仕組みそのものが、どうぶつたちに“足りないぶんを追いかけること”や、“ほかより先に取らないと困ること”を、どこかで強いてきたからです。
村は動く。けれど、その動き方が、いつも誰かを急がせ、競わせ、取り合いに寄りやすい――。
どうやら、とんま村が次に考えなければならないのは、“回るためのしるし”だけではなく、“生きていてよい土台そのものを支えるしるし”のようです。
……さて次回。
とんま村、ついに“競わないと足りなくなりやすいチャ~リン”とは別の役目をもつ、新しいしるしを考えはじめます。
その名も、ぷるり~ん。
みんなが生きていくための安心を、先に支えるための、ちょっとふしぎで、だいぶ大事なしるしです。
……それでは、次回もどうぞお楽しみに」
