【とんま村の物語】第15話:はじめてのベーシックインカム~毎月くばられる、暮らしのためのお金~
🍃登場どうぶつ紹介とあらすじ
🍃前話:「その名も、くさりタブレット~DAOやブロックチェーンで、“村のモノ”をこっそり握れなくする話~」
🌻解説:第15話「地域通貨型ベーシックインカムの全体像ー生活のためのお金を、すべての個人へ毎月届ける」
🐝前話+第15話サマリー
前話、とんま村では、“村のモノ”をほんとうに村のモノとして扱うために、くさりタブレットが配られました。
広場の親板に書いたことが、みんなの板にも残る。
ひとりでは決めにくい。
あとからこっそり変えにくい。
こうして村は、“見える”“みんなで決める”“こっそりできない”仕組みを手に入れたのです。
けれど、見えるようになっただけでは、暮らしはまだ回りません。
そして今話。とんま村は、そんなチャ~リンとは別に、村が暮らしのために回す新しいお金を考えはじめます。
その名も、ぷるり~ん(地域通貨型ベーシックインカム)。
① 天の声

「……足りないものにも、いろいろあるのかもしれません。
遠い夢のために足りないもの。明日の朝ごはんのために足りないもの。どちらも足りないには違いないけれど、たぶん同じ顔ではありません。
とんま村が今夜考えはじめるのは、増やすためのお金ではなく、止めないためのお金。しかも、ずいぶん気の抜けた名前といっしょに。……その名も、ぷるり~ん」
② ぷるり~んという新しいお金(ベーシックインカム)

次の日の朝。広場の親板には、こう書かれていました。
『本日の提案』
提案者:バク、カメの長老、カモ田
議題:村の暮らしを止めないための、新しいお金について
名称案:ぷるり~ん
ライオン
「……なんか急に、会議がやさしくなってない?」
アリクイ
「おーおー! でもさぁ、なんで急に“ぷるり~ん”なのさぁ!」
シマウマ
「その名前、どういう意味?」
バク
「……チャ~リンみたいな石ではなく、どんぐりのお金だよ」
ウサギ
「……石じゃないの?」
バク
「うん。森のどんぐりが、ころん、とこぼれてくるみたいに、毎月ひとつずつ、みんなの手に届く感じなんだ」
ライオン
「……どんぐり」
バク
「手にのせると、なんだか少し、気がゆるむだろ。明日のぶんまで全部こわがらなくていいかも、って。ころん、でもあるし、ちょっと、ぷるりん、でもある。だから、その名前」
アリクイ
「なるほどねぇ……。名前は気が抜けてるのに、言ってることはわりと深いんだねぇ」
イグアナ
「……はい。本日も“へんな名前のわりに中身が重い案件”でございます」
③ イグアナ、バクに聞く――ぷるり~んは何のためのお金?

イグアナ
「……ではバクさん、実況席から素朴な質問です。ぷるり~んとは、結局なんなんでしょうか」
バク
「……チャ~リンとは、役目の違うお金だよ」
イグアナ
「役目が違う、と言いますと?」
バク
「チャ~リンは、村を大きく動かしたり、先の話を進めたりするのには向いていた。でも、毎日の暮らしの土台まで、全部それで支えようとすると、どうしても苦しくなりやすかった」
カモ
「……だから、別のお金を考えるんですね」
バク
「そう。ぷるり~んは、増やすためというより、まず止めないためのお金。ごはんが止まらない。ミルクが切れない。桶が壊れたままにならない。そういう下の方を支えるためのお金なんだ」
イグアナ
「……なるほど。では、今あるチャ~リンをうまく使えばよい、ではダメだったのでしょうか」
バク
「……この村、今まで何でも同じチャ~リンで回そうとしすぎたんだよ。増やしたい時も、足りない時も、転んだ時も、お腹が減った時も」
シマウマ
「……全部ひとつでやろうとしてたってこと?」
バク
「そう。けど、遠くへ伸ばすためのお金と、今日ちゃんと暮らせるようにするためのお金は、たぶん同じ働きをしない。だから、別にするんだ」
アリクイ
「おーおー! つまり、“全部アリクイ方式でやるな”ってことかぁ」
イグアナ
「……たいへん丸く言い換えると、そのような理解でだいたい合っております」
④ ぷるり~んの特徴――毎月くばる。でも、ためこみにくい

ライオン
「……へえ。でも、それって一回だけ出すの?」
バク
「……ううん。ぷるり~んは、毎月、村のみんなに一定ずつ配るつもり」
ウサギ
「毎月もらえるの?」
シマウマ
「それ、ちょっと助かるかも……」
アリクイ
「でもさぁ、それなら貯めまくった者勝ちにならない?」
イグアナ
「……実況席からも同じ疑問が出ております」
バク
「……そこは、ならないようにする。ぷるり~んは、時間がたつと少しずつ減っていくんだ」
ウサギ
「……えっ。少なくなるの?」
バク
「うん。ぷるり~んは、“回ってほしいお金”だから。使われなかったらどんぐりだから腐っていくんだよ」
シマウマ
「……じゃあ、“持ってること”より“流れること”が大事なんだ」
バク
「……そう。ため込んでえらくなるためのお金じゃない。暮らしの中を回って、助けるためのお金」
カメの長老
「……抱えて眺めているだけでは、お腹はふくれません」
⑤ くさりタブレットを、ぷるり~んの前に配った理由
イグアナ
「……では、もうひとつ。なぜ昨日、先にくさりタブレットを配ったのでしょうか」
バク
「……せっかく新しいお金を回すなら、“じゃあ僕が管理します”“私がいい感じに配ります”で始めたら、また同じことになるでしょ」
シマウマ
「……たしかに。次は“別のなんとなくすごいどうぶつ”のポッケが太るだけかも」
バク
「……そう。だから先に、見えるようにした。ひとりで決めにくくする。あとでこっそり変えにくくする。そうしないと、ぷるり~んも、ただの“新しい握られ先”で終わるから」
イグアナ
「……なるほど。新しいお金の前に、新しい勝手をしにくくしておいたわけですね」
カメの長老
「……順番が逆だと、たいてい失敗します。先に配ると、“それは誰が決めたのですか”となる。先に見えるようにすると、“どこへ流れたか”が残るのです」
アリクイ
「おーおー! つまり昨日は“こっそりできなくする日”で、今日は“実際に回し方を考える日”ってことか」
⑥ 朝ごはんで、はじめて使ってみた

板には、今日ぷるり~んで回してみるものが書かれていました。焼きたてパン、ミルク、干し草、井戸の桶修理。どれも派手ではありませんが、ないと普通に困るものばかりです。
ライオン
「……地味!」
シマウマ
「でも、全部ないと普通に困るやつだね……」
バク
「……最初は、こういうのでいいんだよ。ぷるり~んは、夢を大きくするより先に、暮らしの土台が抜けないようにするお金だから」
最初に前へ出たのは、パン屋のシマウマでした。
シマウマ
「……じゃあ、今日の昼までなら、うちの焼きたてパン、ぷるり~んでも受け取ってみる。でも、あとで“やっぱナシ”ってならない?」
バク
「……それは板に残る。誰が何枚受け取ったか、どこへ流れたか、あとでどうなったか。全部、みんなの板に残る」
シマウマ
「……安心だけど、逃げ道も減るね」
そのとき、ぴょん、とウサギが前に出ました。
ウサギ
「……じゃあ、パンひとつください。ぼく、ぷるり~んで朝ごはん食べたい」
シマウマ
「……はいよ。焼きたてパンひとつ、ぷるり~ん一枚」
広場が、少し静かになりました。
ライオン
「……え、今の、もう使えたの?」
カモ
「……使えましたね」
アリクイ
「おーおー! 地味すぎて革命感ゼロなんだけど、逆に怖いねぇ!」
バク
「……うん。でも、本当に村が変わる時って、案外こういう感じだよ。誰も拍手しないところで、普通に朝ごはんが回る」
ウサギはパンを受け取ると、いつも通り広場の隅に座って食べはじめました。特に感動の音楽も鳴らず、空から光も差しません。でも、どうぶつたちはなぜか、その“何も起きなさ”を少し長く見ていました。
シマウマ
「……ぷるり~んで、ちゃんと食べられてる」
ライオン
「……うん」
カモ
「……しかも、チャ~リンを使う時の、あの誰かがまた無理に走る感じが、少し薄い」
イグアナ
「……はい。“何も起きないように見えて、暮らしの下の方が静かに変わっている”という、いちばん実況しづらく、しかし大事な場面でございます」
⑦ イグアナの締め実況

イグアナは、くさりタブレットの角によじ登ると、広場を見下ろして言いました。
イグアナ
「……えー、本日のとんま村。村は本日、これまでのチャ~リンとは別に、暮らしの土台を支えるためのお金を考えはじめました。その名も、ぷるり~ん。毎月配られる。ためこむより、流れて使われる方が向いている。……やさしい顔をしながら、意外と設計は細かいようです。
チャ~リンが村を動かしてきたのは、本当です。けれど、それだけでは、どうしても競争や取り合いが起こりやすかった。だから村は今度、“生きていてよい土台”の方を、先に支えるしるしを回しはじめた模様です。
……さて次回。“転んでも、すぐ終わりじゃない”とは、どんな気分なのか。どうぶつたちは、そのへんを少しずつ知っていくようです。それでは、また」
