【家族信託リアル体験記 その12】すべての親が、子供のために全力を尽くすとは限らない。
■2021年7月20日(火曜日)
先週末の家族会議の結果、SセンターとのZoom面談は水曜日に決まった。
月曜日は義母イノコの歯医者の予約が入っていたので仕方ないとして、なぜ火曜日ではなく水曜日なのだろう?
👦「たぶん美容院に行きたいんじゃないか。あの人、すごい見栄っ張りだから、面談の前にカットしておきたいんだろ」
え?たかがZoom面談ごときで美容院?と半信半疑だったが、火曜日の午後、イノコは本当に美容院へ行ってしまった。
びっくりした。
■2021年7月21日(水曜日)
SセンターとのZoom面談は14時開始。だがイノコは、1時間も前から席に着いていた。緊張した面持ちで、ピリピリしているのがわかる。
「大丈夫ですか?」「何か先に聞きたいことはありますか?」と声をかけても、「大丈夫」と一言返すのが精一杯。
日ごろパソコンはおろか、携帯電話すらまともに使えない彼女にとって、画面越しに他者と会話するというのは、理解を超えた世界なのだろう。
今回の面談の目的は、委託者であるイノコが家族信託の仕組みを理解しているか、本人の意志による話かどうかを確認すること。当然、認知症の兆候もチェックされる。
また、いつものように「知らないの」「分からないの」で逃げようとするのではないか、もし話が立ち消えになったらどうしよう ── そんな不安を抱えながら、オットと私はイノコの横に座った。
松岡さんが画面に登場。「ではお母さまと直接お話させて頂きますね」と、暗に家族の口出しを制してきた。
(以下、会話パートはそのまま。適宜読みやすくなるよう、少しだけ表現を整えました)
🐹「家族信託について、家族間で話し合っていますか?」
👱「話し合っています。だいたい理解しています」
🐹「将来ご自宅を売却予定と聞いていますが、賃貸や土地の分割、新しい不動産購入などは考えていませんか?純粋に売却だけですか?」
👱「売却だけです」
🐹「家族信託の効力はいつからにしますか?契約に書くこともできますが、契約時スタートが一般的です」
👱「契約時スタートで構いません」
🐹「第三者監督人を置きますか?基本的には置かないケースが多いですが、家族間で問題が発生しそうな場合は兄弟に依頼することもありますし、資産が多い方は専門家に頼むこともあります」
👱「他に頼む人もいないし、息子だけと考えています」
🐹「信託のお金についてですが、これはすべてイノコさんのために使われるものです。安心してください」
👱「はい」
🐹「祭祀の継承についてですが、信託金からお墓の管理や処分代を出すということでよろしいですか?」
👱「はい」
🐹「委託者兼受益者であるイノコさんの死亡をもって契約終了としますか?」
👱「はい」
🐹「権利帰属者は誰にしますか?残った信託金や不動産はどうしますか?」
👱「……?わかりません」
⇒ 宿題①
🐹「受託者に報酬を出すことができます。これは贈与に当たらず、所得税もかかりません。月々定額でも、まとまった額でも可能ですが、どうしますか?」
👱「わかりません」
⇒ 宿題②
🐹「家族信託契約の内容を変更する場合、どうしますか?“契約変更は合意の上で”とするか、“変更不可”とするか。ただし、同意が必要な場合、万が一イノコさまが認知症を発症したら変更できなくなるリスクがあります」
👱「わかりません」
⇒ 宿題③
🐹「信託用の専用口座を開設する必要があります。銀行の信託口口座であれば口座番号の記載は不要ですが、息子さん名義の専用口座にする場合は、公正証書に明記が必要です」
👱「はい」
🐹「事前調査に必要な書類(戸籍謄本など)はどちらで用意しますか?当センターでも無料で取得可能ですが、委任状が必要で、少し時間がかかります」
👱「息子に確認してください」
🐹「今後の流れですが、打ち合わせ⇒契約書作成⇒松岡による確認⇒家族信託協会による確認⇒イノコ様ご家族で内容確認・加筆修正⇒公証役場で手続き⇒信託不動産の名義変更と進み、トータルで3か月ほどかかる予定です」
👱「はい」
🐹「では、先ほどの3つの宿題について、来週月曜日にメールでお知らせください」
👱「はい」
面談は、40分ほどで終了した。
面談中、イノコは膝に汗をボタボタと垂らすほど冷や汗をかいていた。特に「権利帰属者」の話題あたりから様子がおかしくなり、腹痛も起こしていたようだ。Zoomを切った途端、トイレへ駆け込み、しばらく出てこなかった。
ボケ老人と思われたくない一心なのだろうが、そこまで緊張するものなのか。
トイレから戻ってくるなり、イノコは「さっきの宿題なんだけど」と自ら話を切り出してきた。とにかくこの話題から一刻も早く解放されたいのだろう。
👦「じゃあ宿題①だけど、おふくろの死後、この家が売れ残ったらどうしたい?」
👱「どうしたらいいかしら」
👦「いや、まずは自分で考えてよ」
👱「わからないわ」
👦「金と違って、不動産は2つに分けられないだろ。俺とまるきが2人で相続したら、売却手続きが煩雑になるし、だいたいあいつがきちんと対応するわけがない。ぶっちゃけ俺はこの家はいらないんだよ。だからあいつに相続させてもいいんだよ」
👱「でもそしたらあの子も大変でしょう?」
👦「俺は大変じゃないのか?」
👱「そうじゃないけど……でもあの子がここに住むのは無理だと思うの」
👦「じゃあ俺ならいいのか?」
👱「そうじゃないけど……」
👦「とにかく俺でもあいつでもいいから、不動産を誰にするかはっきり決めてくれ」
👱「じゃあ財産は使い切って、家は相続放棄すればいいじゃない?」
👦「財産使い切ってって、自分がいつまで生きるか分からないのに?」
👱「じゃあここを更地にして、国に寄付したらいいのよ。テレビで見たわ」
👦「こんな中途半端な土地、国だっていらねーよ」
👱「じゃあどうしろっていうのよ!」
👦「なんでそんなに当事者意識がないんだよ!子供たちが揉めないように全力を尽くすのが親だろう?」
👱「そんなの、わからないわっ!」
あーあ。
言いたいことは山ほどあったが、部外者が言っても仕方ない。
私はさっさと2階へ上がり、耳栓をして自己防衛に徹した。
なんで家族信託なんてしようと思ったんだろう。
なんであんな人の老後の心配をしなきゃいけないんだろう。
なんであんな人の面倒を看なきゃいけないんだろう。
なんでオットの親があの人なんだろう──。
そんなことを考えつつ、図書館で借りた本を読んだり、自己愛性人格障害についてのサイトを眺めたりして過ごした。
★最低イノコはこんなヒト。あの頃は本当にひどかったけど、今はずいぶん大人しくなりました。
★マガジン【家族信託リアル体験記】もぜひご覧ください!
このnoteでは、義母イノコと家族信託を締結するまでの道のりを綴っています。ここに書かれていることはすべて当時の話であり、現在と状況は異なる可能性があります。また家族信託を検討中の方は、私の体験談を参考程度にとどめ、必ず専門家にご相談ください。
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