PROFILE: 左:ピエール瀧/ミュージシャン、俳優 右:下津優太/映画監督
映画「みなに幸あれ」で強烈な長編デビューを飾った下津優太監督の新作映画「NEW GROUP」(6月12日公開)は、学校、集団行動、人間ピラミッドという日本人にとって身近なモチーフを、異形のジャンル映画へと変貌させた一作だ。SFサイコエンタテインメントと銘打たれた本作は、ぶっ飛んだ設定やユーモアで観る者を翻弄しながら、同調圧力で思考停止した現代社会の歪みを鋭くあぶり出していく。
その中で圧倒的な存在感を放つのが、高校の校長役を演じたピエール瀧だ。登場時間は決して長くないものの、不可解な世界に説得力を与え、本作の異常なトーンを一段押し上げている。下津監督はなぜ“集団”に恐怖を見出し、ピエール瀧はこの不可思議な映画に何を感じたのか。2人に、本作の出発点、撮影現場の空気、そしてホラーと笑いの関係について聞いた。
規律の取れた集団の怖さを
「人間ピラミッド」で表現
——「みなに幸あれ」も独特の世界観や画作りに驚かされたのですが、本作はさらにエッジが効いていて最高でした。ぶっ飛んだジャンル映画であると同時に社会構造を風刺するという意味では前作とも共通していると思いますが、まずは本作がどういう経緯で出発したかを教えてもらえますか?
下津優太(以下、下津):以前「これ一冊でよくわかる社会学」みたいな本を読んだときに書かれていた「この社会はさまざまな集団でできている」という文言が面白いと思って、頭に残っていたんです。集団って見方を変えると怖いじゃないですか。ゾンビのような自由な集団も怖いけど、規律の取れた集団だって怖い。それで「では規律の取れた集団とは?」と考えたときに、集団行動が浮かび、さらにその頂点は何だろうと考えていった末に「人間ピラミッド」にたどり着いたんです。そこに思考停止した日本社会を重ね合わせて物語をつくっていきました。
——校長という役にピエール瀧さんを起用した理由を教えてください。
下津:一番は唯一無二の存在感ですよね。やはり突飛なお話ではあるので、そこに現実味や説得力を持たせるためには演じる人の存在感が必要でした。だからもうピエールさんしかいないなと思いまして。
——本作はSFサイコエンタテインメントと銘打たれていますが、大きな枠組みで言えばホラー映画にあたるかと思います。ピエールさんのこれまでのフィルモグラフィを振り返ると、あまりホラー映画には出られていませんが、本作のどういう部分に惹かれて出演を決めたのでしょうか?
ピエール瀧(以下、ピエール):最初に脚本を読んだときの感想は「なんだこれ?」でした。そしてこの「なんだこれ?」を映画にしようと思っている人たちって、絶対に変わった人たちじゃないですか。その変わった人たちが、変わったポジションに「瀧さんが必要」と言ってくれているならいっとくか、という気持ちで決めました。もちろん観る人によっては「何なの?」と困る人もいると思うんですが、そもそも恐怖と笑いって表裏一体で、それこそホラー映画の現場ってみんな爆笑しながらやっていると思うんですよ。スプラッターな場面で「うわ、怖ッ」「エグッ」とか言いながらゲラゲラ笑って「はい、カット」っていうように。怖さと笑いを行ったり来たりと言いますか。それをこの脚本を読んでいても感じましたし、魅力に感じた部分でしたね。
——脚本を読んで、ストーリーはすんなり腑に落ちたんですか?
ピエール:腑に落ちてもしょうがないですよね(笑)。監督に「これはどういうこと?」と聞くのも野暮だし。だから自分が笑ったならそれでいいし、怖いと思ったならそれでいい。ある意味でアトラクションのようなものですよね。
——恐怖と笑いは表裏一体と先ほどピエールさんが仰っていましたが、とりわけ本作は恐怖の中にコミカルさもしっかり入れ込んでいましたね。監督の中で恐怖と笑いのバランスを保つために意識していることはあるんですか?
下津:そもそも今回は怖がらせてやろうとは一回も思っていなくて。ただ構造自体はやはり恐怖になっているので、その中でどう遊びを持たせるのかは考えながらやっていました。やっていること自体はコミカルだけども、絵のトーンや撮り方が落ち着いたものを意識したり、その違和感やマッチングでちょうどいい塩梅を目指していたのではないかと思います。
——「みなに幸あれ」のインタビューで「大前提として日常を描けないと恐怖も描けない」というお話をされていました。本作においては学校の日常をどう描くかが重要だったのではないかと思いますがいかがでしょうか?
下津:日常に説得力を持たせるように、生徒一人一人の設定を書いていましたね。例えばこの人はこの人と仲が良い/悪いだったり、この人はうるさいとか読書が好きとかキャラ付けしていって、それを演じる人に渡したと記憶しています。
校長を演じるにあたって
——ピエールさんに校長を演じてもらうにあたって、現場でどういう会話をされたのでしょうか?
ピエール:基本的には「聞いてもしょうがないし、思ったようにやって違ったら言って」というスタンスでした。この監督はとにかくどんどん撮りたい人なんですよ。リハーサルとかをやって芝居を詰めていくよりかは、場当たり的に動きだけ決めたら「次、カメラ回して」という感じで。きっとイメージが具現化していくのが嬉しいんでしょうね。そうやってどんどん進めていくので、こっちもそれに合わせてやっていました。
——実際、お互い一緒にお仕事してみていかがでしたか?
下津:とにかく最高の経験でしたね。ピエールさんが出てくれたから映画が成立したと言いますか。本当に2段階くらい映画の価値を高めて頂いたと思っています。
ピエール:脚本を読んだ段階では「暗い感じのボソボソ喋るようなダークサイドの澱(おり)を集めてつくったような人かもしれない」と思っていたんです(笑)。実際そんな人もいますから。でも実際会ったらこの通りで和やかだし、声も大きいし、現場でずっと楽しそうにしてるし。それが初日から分かって、「そういうマインドの人がこれを作るんだ」って自分の中でもバッチリはまりました。本当に「現場で撮るのが楽しい!」という感じだったので、こちらとしても非常にやりやすかったですよ。
——撮影中に印象に残っていることはありますか?
ピエール:あまり長く話したりはしてないんですよね。ただ衣装合わせやいろんなところで、校長のキャラクターについて「こういうのやああいうのもアリじゃない?」って僕なりにいくつか提言させてもらったんですけど、いざ本番になったら僕が提言したものが全部カットになっていたのは印象に残っています(笑)。そういう風に撮りたいのに余計なこと言っちゃったなと思って、すぐ「監督の撮りたいように撮る方がいい」という風に方向転換しましたが。こだわりがあるなら変えない方がいいので。
下津:そこを尊重してやって頂けたので本当にありがたかったです。僕は特定の場面が印象に残っているというか、ずっと「Netflixで観たやつだ!」「すごい表情!」とかってワクワクしながらやっていました。あの手拍子のとこも「最高だな〜」って(笑)。やはりピエールさんしか出せない顔の感じがあると思うんですよ。それは本作でも拾えていると思うので、一監督としてすごく堪能させてもらいました。
——ピエールさんがキャスティングされたことで台詞などを変えた部分はあったんですか?
下津:いえ、基本的にはそのままです。途中でシーンを変えた部分もありますが、ピエールさんにお会いする前でしたし。ピエールさんが校長役に決まった瞬間「勝ったな」という気持ちだったので、そこから大きく変えることはしていません。
——「もういいでしょ」「まあいいでしょ」という台詞もありましたが、それは最初からだったんですね。
下津:そうですね(笑)。
ピエール:取材でみんな僕にそれを言ってくるんですよ。言っとくと、あの台詞は別に僕のもんでもないですからね。
——観た人はみんな「あっ」てなりますよね。ビジュアル面では、校長ということで今回は眼鏡をかけていましたね。
ピエール:「瀧が校長をやっている」って見えるのか、「すごく瀧に似た校長がいる」って見えるのかで違うじゃないですか。そこはいろんなアイテムを使って、より校長っぽく見えるようにしていましたね。眼鏡をかけたり、地味めなジャケットを着たり。
——見た目は見事に校長でしたが、その分言動とのギャップがすごくて強烈でした。中でも手拍子しながらの歌が印象に残っていますが、あのパートはどのように生まれたのでしょうか?
ピエール:もともと脚本に書いてあって、監督に「一応歌ったやつがあるんです」と言われたのでそれを聞いたんですよ。 そしたら歌詞の乗り方がクソダサかったので、「クソダサくない?」って(笑)。で、「ラップにしたいならもうちょっとラップにするとか、音頭的なものにするとかの方がいいんじゃない」ってチラッと提案したんですが、結局本番も最初のままだったので変えたくないんだろうなと。今思うとめちゃくちゃ失礼ですよね(笑)。
——その手拍子の歌も含めて、音楽もかなりエッジが効いてきて印象的でした。
下津:仮編集で名作の音楽みたいなものをバンバン当てて、そのまま音楽チームにぶん投げて、それを良いかたちにつくりあげて頂いて。音楽チームには本当に頑張ってもらいました。
ピエール:組体操のときのイケイケっぽい音楽だっけ。パチンコになれば良いのにね。「組体操リーーーーーチ!!!」って(笑)。なんか盛り上がりそうじゃないですか。
下津:あはは!営業してみます(笑)。
日体大の協力で完成した人間ピラミッド
——校長室のシーンはたくさんの組体操をする生徒たちに囲まれていてかなり異質な空間だったと思いますが、撮影中の雰囲気はいかがでしたか?
ピエール:生徒役の子同士はみんな長く一緒にやっていたから、あの子たちのノリはもうできていて。校長室のシーンではそのノリができているところに瀧がやってきたので、本当にみんな「校長室に呼ばれたんだけど……」みたいな感じが出ていてちょうど良かったです(笑)。みんな監督が無理難題を言っているところは半笑いで突っ走っていましたし、変な緊張感もなく良い雰囲気でした。妙に緊張感があるまま撮るといろいろ変わってくると思いますし。
下津:僕はそれを隣の部屋で、モニター越しに笑いながら見ていました(笑)。作品全体を通して、みんな何かに巻き込まれているのは確かだけれど、何に巻き込まれているのかは分からない。巻き込まれつつも、「何、この作品のトーンは?」「何、この現場は?」「何、この監督は?」という戸惑いや分からなさがあって、それはきっとうまく作品の中にフィードバックできたのではないかなと。自信満々のあの子たちに人間ピラミッドをやってもらって、「何これ?」と思いながら撮影してもらう。そのほうが、良いものが撮れそうな気もしていました。
——実際にピラミッドをやってもらうのは大変だったのでは?
下津:そうですね。最初の方のグラウンドのピラミッドは本当に組んでいるんですよ。下4段の内側は雛壇のセットを置いて外側だけ人にやってもらって、あと上5段は日本体育大学の学生さんにつくってもらいました。だから本当に日体大あっての映画なんですよ。
——若者だけでなく大人たちも組体操をやっていましたよね。サボテンとか。
下津:宇都宮で撮ったんですが、組体操は宇都宮の市民の方々にやって頂いたんですよ。
地方の空気感を表現
——そうなんですね。宇都宮で撮影したとのことですが、舞台をあえて都心部ではなく自然に囲まれた地方の高校にした理由はあるんですか?
下津:東京の高校は多様性が尊重されて、先生との距離も近そうなイメージがあるんですが、やはり地方はもう少し違うのかなと。先生もピリッとしているし、伝統的なノリのようなものが根付いている感じがあると思い、その設定を選びました。
ピエール:地方の方が逃げ場がないですしね。学校以外のコミュニティーが少ないので、同調圧力が強く、囲いができていて逃げられないと言いますか。家族揃って食事もしないといけないし、嫌だとしても学校に行かなきゃいけない。そういう居心地の悪さは強いのかもしれません。東京だと他にコミュニティーがたくさんあるので、他にエネルギーの逃し方はたくさんありますから。
——私も地方出身ですが、たしかに田舎の方が学校における同調圧力も強い気がしますね。その閉塞感や居心地の悪さが作中にしっかり落とし込まれているように感じました。ちなみにお二人にとって高校とはどういう場所でしたか?
下津:僕は結構荒れている地域で育ったので、その分厳しくて締め付けがすごかったんです。大人になってそれは異常だと気付いたんですが、当時はそれが当たり前だと思っていて。先生も先輩への恐怖から、どうにか殴られないようにしたり。教育の本来の意味を失っていて、まさに恐怖で思考停止した暮らしだったんです。だからこの映画は、それをそのまま持ち込んで描いたとも言えるかもしれません。
——監督はたしか福岡出身ですよね。
下津:それも北九州なんです。河川敷でロケットランチャーが見つかったりしてる場所ですね(笑)。
——かなり苦労されたでしょうね……。ピエールさんはいかがでしたか?
ピエール:小中学校では割と友達も多かったし、高校に関しては自分で選んで行ってますからね。学校内では野球部に入っていてそのコミュニティーにいたし、校外活動では(石野)卓球くんと友達で学外にそのコミュニティーもあったので、その頃には既に同調圧力のようなものからはドロップアウトしていましたね。
「目を覚まして自分の頭で考えよう」
——本作は学校を集団の象徴として描きながら、合間に挟まるシーンでは、メディアの暴走、格差を広げるシルバー民主主義、SNS中心の思考によって失われていく人間性など、現代社会のさまざまな歪みも描いています。一つの映画の中で、ここまでレンジを広げようと考えたのはなぜでしょうか?
下津:この映画の中で一本芯を通しているのは「目を覚まして自分の頭で考えよう」ということ。で、本作で描いたシチュエーションの人たちも盲目的になっていると思うんです。だから「そこから目を覚まして」という意味で、学校を幹として枝葉のように自分が思っているものを入れ込んでいきました。
——集団行動や同調圧力を風刺しつつ、連帯することの重要性も描いていますよね。監督自身は集団と連帯の違いをどのように定義しているのでしょうか?
下津:今回ピエールさんが作るのが「グループ=集団」、そして最後に山田杏奈さんが作るのを「ニューグループ」と定義しています。前者は洗脳されたり自分の考えを持たずただ従う人たち、後者は自分の考えを持って集った人たちというように考えていて。みんな後者になれると良いよねと思って作りました。
——前作ではプロデュースとして入っていた清水崇監督が作品屈指の常識人役として登場しますが、清水監督とは何かやりとりされたんですか?
下津:特にお話はしていないですね。ただ清水監督には役を通じて、僕の言いたいことを代わりに熱弁してもらったとは思っています。清水さんは本人役っぽいですが、実は「清水祟」という名前で出てもらっているんですよ。それは以前に清水さんが「崇と祟をよく間違えられるんだよ」って仰っていたのが残っていたからなんですが。
ホラー映画の魅力
——海外ではものすごい熱量で迎え入れられたそうですが、印象に残っている反応はありますか?
下津:「ジャンル映画界のカンヌ」と言われる、スペインのシッチェス映画祭に行ったんです。そこはもうぶっ飛んだ映画が好きな人しか来ないのでノリも良くて。僕が「ポー」って言ったら、会場中から「ポー」って返ってくるコール&レスポンスが巻き起こったんですよ。ちょっと怖かったですけど(笑)。それは印象に残っていますね。
——下津監督はどういう映像作家に影響を受けてきたのでしょうか? 作品を観ていても、特定の系譜に簡単には収まらない印象があるのですが。
下津:作品全体で言えば、ジョーダン・ピールやM・ナイト・シャマラン、ヨルゴス・ランティモスとかですかね。映像のトーンであればデヴィッド・フィンチャーやドゥニ・ヴィルヌーヴもですね。その辺りをぐちゃぐちゃに混ぜた感じといいますか。
——国外の監督なんですね。ちなみにお二人がホラー映画と言われて思う作品はなんですか?
ピエール:やっぱ「エクソシスト」ですかね。歪な雰囲気だったり、ラストの階段の絵画的なショットまで含めなんかめっちゃ怖かった印象があります。最近も観返しましたし。
下津:純粋なホラーではないですが「チタン」ですね。一作目を作り終わるかぐらいの時に観たんですが、めちゃくちゃぶっ飛んでて「映画ってこんな自由でいいんだ」と思わせてくれたのを覚えています。
——最後に、ホラー映画を作る/参加する面白さをどう感じていますか?
下津:やはりその受け皿の大きさですよね。こんな変なことをしても受け入れてくれるホラーって器がすごいじゃないですか。だから好き勝手暴れられる。表現の自由さが一番あるジャンルだと思っていますね。
ピエール:異常ありきの世界設定なので、普通にしていてもそれが逆に怖く見えたりとか、何も起きないのが怖かったりとか、そういう面白みや強みはあると思いますね。この映画でも、カーテンからニヤニヤ見てるだけでも恐ろしいじゃないですか。ただ僕はこれをホラーだと思って出ていないので、そこは少し違う観点かもしれませんが。
PHOTOS:MASASHI URA
映画「NEW GROUP」
◾️映画「NEW GROUP」
6月12日から全国公開
<ストーリー>
これは愛(I)と優(YOU)の物語。私とあなたの物語でもある。愛は引っ込み思案な普通の⼥⼦⾼⽣。家族に問題を抱えている。ある⽇、転校⽣の優がやってきた。海外
帰りの優は⽇本の学校の集団⾏動に馴染めない。愛は優のことが気になるが、⾃分をなかなか出せない愛に優は苛⽴ちを感じていた。
そんなある⽇、校庭で⼀⼈の⽣徒が四つん這いになり、動かなくなった。教師や友⼈が⽌めようとしても動かない。そして、時間を追うごとにその⽣徒の横に同じように四つん這いになる⽣徒が並び始めた。不思議なことに学校も⼈間ピラミッドを“良いもの”として参加を勧めている。そして、積み重なった⽣徒たちはみな⼀様に穏やかな表情を浮かべている。⽣徒たちはどんどん集まり、集まってくる⽣徒たちはものも⾔わず従っていく。愛もなぜか、朦朧となり、ピラミッドに加わりそうになる。
これは、その後地域全体を巻き込む、集団怪現象の始まりに過ぎなかった——。
原案・監督:下津優太
脚本:下津優太、佐原百⼦
出演:⼭⽥杏奈 ⻘⽊柚 ピエール瀧
企画:KADOKAWA
幹事会社:KADOKAWA
製作:KADOKAWA 佐々⽊興業 ムービーウォーカー
制作プロダクション:Gemini Films
配給:KADOKAWA
©2026 映画「NEW GROUP」製作委員会
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