銀河フェニックス物語 <出会い編> 第四十一話(4) パスワードはお忘れなく
ロベルトと呼ばれた若者がいきなりレイターの頬を殴りつけた。
・銀河フェニックス物語 総目次
・第四十一話(1)(2)(3)
「ったく、いきなり殴るなよ。手荒なことは嫌いじゃなかったのかよ」
「俺の名は、ロベルト・カールダイン」
その名前にレイターがピクリと反応した。眉間にしわを寄せて若い男の顔を見つめる。
「カールダイン? アリオロンの『ハゲタカ大尉』か?」

「覚えていたか、俺の父のことを」
ロベルトはレイターの襟ぐりをつかみ締めあげた。
「十年前、お前が父を殺したんだろ」
殺すと言う言葉にドキッとする。
「……」
レイターが答えるのを躊躇している。
「答えろ!」
ロベルトが追及する。
「そうだ、俺が殺した」
レイターは今、「俺が殺した」と口にした。
その言葉が、わたしの心の回路にグサリと刺さった。頭が働かない。

「父を返せ!」
ロベルトは再度レイターの顔を殴りつけた。
椅子ごとレイターの身体が床に転がる。
「父は俺の誇りだった。父はなぁ、あれが最後の出征だったんだ。後は本部へ帰ってきて俺たち家族と一緒に暮らすはずだったんだ。それをお前が、お前が、すべてぶち壊した」
今度はレイターの腹を思いっきり蹴る。固そうなブーツ。
ガシッ、ガシッツ。
鈍い音が響く。手加減というものがない。
「英雄だった戦闘機乗りの父さんを撃ち落して、お前はさぞやうれしかったことだろうよ。将軍家に引き取られて、銀河一の操縦士だと。笑わせるな!」
ロベルトの殺気に気圧される。
レイターは十代の前半、アーサーさんと一緒に連邦軍の軍艦に乗っていた。

そして、戦闘機の実戦で五十二戦五十二勝の成績と聞いた。
ドカッツドカッツ。
ロベルトは、さらにレイターの身体を立て続けに踏みつけた。
止めなきゃ。
「や、やめて」
声をかけるわたしに銃が押し付けられた。
「母も気がおかしくなって、父の後を追った。妹も弟も施設に引き取られ、俺たち家族はバラバラだ。お前が父を殺さなければ、お前さえいなければ…」
ロベルトは涙を流しながら、感情にまかせてさらにレイターを蹴り続けた。
レイターは、何も言わずただ蹴られていた。
まるで、このまま殺されてもいい、と死刑を受け入れた死刑囚のように。
* *
わかっていたことだが、父の仇は若い男だった。

S1レーサーとして一躍有名人となった男、レイター・フェニックス。
この名前を、俺はこの十年、一日たりとも忘れたことはない。
俺には父と一緒に遊んだ思い出は、ほとんどない。父はいつも戦地へ赴いていた。
優秀な戦闘機パイロットで、次々と敵を仕留める国民的英雄の『ハゲタカ大尉』。
我が家はいつも周囲の人から感謝されていた。
学校でも父は羨望のまなざしで見られていて、俺には自慢の父だった。

その父が帰ってくることが決まった。俺が十二歳の時だった。
前線から引き上げて、学校で若い兵士の教育にあたると聞いた。
母は喜んでいた。
妹も弟も父が帰ってくるのが楽しみで、家族みんなで父の部屋を掃除して帰りを待った。
俺は少し複雑だった。
学校の先生だなんてヒーローじゃなくなってしまう気がしたからだ。
とは言え、俺も父の帰還を待ち焦がれていた。
だが、その日は来なかった。 (5)へ続く
裏話や雑談を掲載した公式ツイッターはこちら
・第一話からの連載をまとめたマガジン
・イラスト集のマガジン
いいなと思ったら応援しよう!
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」