銀河フェニックス物語 <出会い編> 第四十一話(5) パスワードはお忘れなく
ロベルトは英雄の父親が帰ってくる日を待ち焦がれていた。
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・第四十一話(1)(2)(3)(4)
父は遺体で帰ってきた。
まるで眠っているようだった。
連邦軍のエースパイロットと戦い、戦闘機から宇宙空間へ投げ出されたと聞いた。
母と弟たちは父の遺体に取りすがって泣いた。
英雄である父は国葬となり、弔砲が鳴り響いた。
葬儀を終えてしばらくして、父を撃ち落としたのが、連邦のエースパイロットではなく俺とほとんど年齢の変わらない少年兵だ、という噂が流れた。

英雄だった父を表向き非難する人はいなかったが、何となく周囲の空気が変わるのを俺は感じた。
英雄は虚像だったんじゃないかと。
その後、軍は正式に発表した。
英雄カールダイン大尉は連邦のエースパイロット、ハミルトン少尉と相撃ちになり戦死したと。

父の名誉が回復しても父が帰ってくるわけじゃない。
母の酒の量が増えた。
俺は知っていた。元々母は、父がいない寂しさを紛らせるためにキッチンでこっそり、酒を飲んでいた。
父が帰ってくると聞いてからは、酒を飲むのを止めていたことも。
それが、朝昼晩、構わず酒に手を出すようになった。
そして、おかしくなった。
俺たち兄弟は施設に引き取られ、一年後、母が死んだ。
俺たちは英雄の家族ということで施設でも優遇されていた。経済的には困らなかった。だが、それを妬む奴はいる。
妹や弟はいじめられてしょっちゅう泣いていた。
どうしてこんな目に遭わなくちゃいけないのか。父さえ生きていてくれたら…。
軍で父と同期だったライロットおじさんは、俺たちのことを気遣ってくれた。

おじさんは、いつも忙しくしていた。軍の経理部に籍を置いていたけれど、本当の任務は別にあったのだろう。仕事の合間を縫って俺たちに会いに来てくれた。
ある日、おじさんに聞かれた。
「ロベルト、君は父親の死について真実を知りたいかい?」
「もちろんさ」
「それを受け止める勇気はあるか?」
おじさんの口調から、俺にとっていい情報じゃないのだろうと想像ついた。それでも、俺は知りたい。
聞いた後に少しだけ後悔した。
父を殺したのは、連邦軍のエースパイロットではなかった。
昔、流れた噂が正しかったのだ。父を撃墜したのは俺と年が二つしか違わない、レイター・フェニックスという少年だった。
父を殺した仇は連邦軍の将軍家に引き取られていた。
父という英雄を倒した奴の人生は開かれていた。俺たち家族を踏み台にして、あいつはのうのうと幸せに暮らしている。
父の仇、母の仇、家族の仇。
俺は復讐することを心に誓った。
ライロットおじさんには何も告げず、俺は施設を抜け出した。
連邦を敵として戦うゲリラの少年兵に志願した。
あいつを倒すためなら自爆テロでも何でもやってやる。レイター・フェニックスの情報を求めて戦地を転々とした。
標的は現われた。
銀河連邦のS1レーサーとして。

俺は奴の姿を初めてテレビで見た。
S1最終戦。あいつの操るS1機は確かに凄かった。『無敗の貴公子』なんて目じゃない。戦闘機乗りの飛ばしだ。あの腕で英雄だった親父を殺したのだ。
そして、復讐のチャンスは訪れた。
今、レイター・フェニックスは俺の前に転がっている。
* *
ティリーは、どうしていいのかわからなかった。

こんなに激しい人間の憎悪を目の当たりにしたのは、初めてだ。
大丈夫だろうか。あんなに殴られたり蹴られたりしたら、死んでしまう。
思わず目を閉じる。レイターを踏みつける鈍い音が耳の奥に張り付く。
止めなくちゃ。暴力は許されない。
わかっているのに、ロベルトの顔を見ると声が出ない。
暴力を振るう。
その理由が理解できる。同情できてしまう。
家族を殺された。なのに、殺した相手は何の罰も科されないどころか、評価が上がる。それが戦争。
残された家族の怒りと悲しみはどうやって解消されるのだろう。
復讐は銀河法で禁止されている。復讐はやってはいけない。頭でわかっているのに感情がどこかで許容している。
レイターが彼の大切な家族を殺したのだ。蹴られても仕方のないことをしたのだ。苦しくて息ができない。

黒ずくめのリーダーが口を開いた。
「ロベルト。そのくらいにしておけ。殺すにはまだ早い。我々の狙いはキーパスワードを聞き出すことだ。自白剤の出番だ」
ロベルトは我に返ったようにレイターから離れた。肩で息をしている。
リーダーはしゃがむと、床でぐったりしているレイターの顔をはたいた。
「起きたまえ。レイター・フェニックス」
リーダーは注射器を手にしていた。 (6)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」