銀河フェニックス物語<出会い編> 第二十三話(5) 気まぐれな音楽の女神
・第一話のスタート版
・第二十三話(1)(2)(3)(4)
「謝礼としていくらか出してもらえれば、文句はないだろう」
アーサーさんの言葉に、レイターは渋々承諾した。
「ちっ、やりゃあいいんだろ」
*
観客席の照明がゆっくりと落ちて暗くなった。
わたしたちは舞台の袖へと移動した。
ステージにライトがあたる。
チャムールたち六人が、ステージの真ん中に並び一礼をした。
レイターが舞台の端に置いてあるグランドピアノに座る。
無理言って頼んだけれど、大丈夫だろうか。
よく考えたら、わたしはレイターが音階を弾いているところしか聞いたことないのだ。
緊張でドキドキしてきた。
*
レイターが前奏を弾き始めた。

あのピアノ協奏曲のような旋律が流れ出す。
ほっとすると同時に驚く。
人間業とは思えない、超高速トリル。
フェニックス号で聞いた『はる』そのままだ。
隣のアーサーさんは落ち着いている。
「レイターは、耳で得た情報を楽器で再生することができますから」
春の情景。
優しい風がそよそよと花びらを揺らす。
チャムールたちのソプラノがわらべうたを響かせる。 追いかけるアルトが美しいハーモニーを織りなす。
そして、レイターの超絶技巧な伴奏。
第一楽章は五分しかない。聞き惚れている場合ではなかった。
「アーサーさん、急いでリウミンさんを探しにいかないと」

あせるわたしにアーサーさんは一点を指さした。
「大丈夫です。カルロスが見つけました。彼女ならあそこにいます」
アーサーさんが暗い観客席の後方を示した。
リウミンさんが、呆然とした顔で扉の前に立っているのが見えた。
「彼女はいなくなることで、自分の存在を示したかったのでしょう。でも、代わりにレイターが弾いてしまった」
アーサーさんと一緒に、観客席の脇を通ってリウミンさんのもとへ急いだ。
レイターの演奏は見事としか言いようがない。

オクターブの激しい跳躍。
春の嵐をピアノが表現する。
耳でコピーしたものを再現しているとは思えない。
というか、楽譜を読み込んで長期間練習したとしても、こうは弾けない。
*
ステージを凝視しているリウミンさんに、顔見知りであるわたしが小声でそっと声をかける。
「リウミンさん。戻ってください、お願いします」
リウミンさんの顔に表情がない。
「もう私には存在意義が無いわ。私がいなくてもステージは続く・・・」

チャムールたちのわらべうたが、サビに差し掛かる。
演奏中だけれど、隣のドアから子どもたちが出入りする。
合唱がホールの外まで響く。
興味を持った人たちが、ドアから次々と入ってきた。
アーサーさんが静かに言った。
「リウミンさん、貴方は作曲家です。貴方が音を表の世界に引き出してあげなければ、まもなく、この曲は未完のまま終わってしまいますよ」

リウミンさんは、泣きそうな顔でアーサーさんを見た。
「そうよ私は作曲家。演奏ではなく作曲の魅力に取り憑かれたのよ。でも、誰もわかってくれない」
「貴方の曲、素敵ですよ。観客の顔を見てご覧なさい。貴方が存在しているから、貴方の作品が人々の心に届くのです」
子どもたちが、チャムールたちのハーモニーに合わせて、わらべうたを口ずさんでいた。
大人たちは懐かしそうに身体を揺らしている。
そして、間奏。
レイターのピアノはプロのリサイタルみたいだ。

不思議な空間だった。
素人のチャムールたちのわらべうたと、レイターの高度な技術が調和している。
観客が心をつかまれ聴き入っている。 (6)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」