銀河フェニックス物語 父の出張 第一話【創作大賞2025】
<あらすじ>
軍隊嫌いの父と、スパイの彼氏。二人の出会いは最悪だった。
出張帰りに父が突然ティリーを訪ねてきた。真面目一筋な父と、裏番だったレイター。話が噛み合うはずもなかった。
ティリーは父との関係修復を図ろうと、レイターを連れて故郷へ帰る。そこで皮肉にも、父親の信頼が厚い元彼のアンドレと再会してしまう。アンドレは今もティリーを忘れられないでいた。そんな元彼とレイターが父の前でテニス対決することに。レイターと違って優しいアンドレにティリーの心はざわめく。
平和な街で発生するタクシー暴走事件。そして、レイターの隠された特命諜報部の任務とは。父との確執、元彼との因縁、絡み合う人間関係の間で二人の恋は揺れ動く。
第二話 https://note.com/48nomoon/n/n87848f8b3afd (6/28 公開)
第三話 https://note.com/48nomoon/n/n55d107bfee12 (7/5 公開)
第四話 https://note.com/48nomoon/n/n5a68e262c22b (7/8 公開)
最終話 https://note.com/48nomoon/n/n9e9b4e7d72a2 (7/19 公開)
「ティリーさん、あんた後をつけられてるぞ」
自宅へ迎えにくるなりレイターが言った。
「え? どういうこと」
「あんたのこと、嗅ぎまわってる奴がいる」

「気持ち悪いこと言わないでよ」
「とにかく、時間だ。表へ出るぜ」
並んでエントランスから外へ出た。珍しくレイターがピリピリしている。
「気にいらねぇ、様子をうかがってやがる」
「ほんとなの?」

「俺はプロだぜ、引っつかまえてやる。いいか、そこの角、曲がったら走るからな」
一緒に小道を曲がる。と同時にレイターが全速力で走りだした。わたしは小走りで後から追いかける。折角のおしゃれが台無しだ。足の速い彼氏は見る間に遠ざかる。
曲がって曲がって、もとの大通りに出た。
スーツ姿の男性にレイターが近づく。あ、あれは……
「あんた、誰、探してんだ?」
レイターが襟をつかんで締めあげた。
「き、貴様こそ、何者だ?! 許せん」
「あん? 何が許せんだ、それはこっちの台詞だ」
「パパ!!」
わたしは大声で呼んだ。
「パパ?」
レイターが驚いた顔をして手を離す。
「ティリー! 何なんだこいつは! 出張帰りに寄ってみれば」

真っ赤な顔をして怒鳴るパパを見るのは久しぶりだ。
「落ち着いて、彼はわたしの彼氏なの」
「か、彼氏だと! おまえ、こんな奴とつきあってるのか?」
「こんな奴で悪かったな」
「暴力を振るうなんて最低だ」
「まだ、殴ってねぇだろが」
あわてて二人の間に入る。
「パパ、ちゃんと紹介するわ。彼は操縦士でボディーガードのレイター・フェニックスさん」
不機嫌な顔のままレイターが軽く会釈した。
「どうも、銀河一の操縦士です」
まずい、第一印象が最悪だ。
「ティリー、おまえ、社長さんとの話はどうなったんだ?」
「社長さん?」
「勤務先の社長さんとお付き合いしとると聞いていたのに」

パパが言う「社長さん」というのは、私が勤める宇宙船メーカーの社長で元人気S1レーサーのエースのことだ。前にわたしとの交際報道が出たことがある。と言っても誤報だし、匿名でわたしの名前はでなかったから、パパたちには何も話していなかった。
遠いアンタレスまで届いているはずがない、と思っていたのに。
「お前は、あの社長さんを追いかけて家を出て行ったじゃないか」
学生時代からわたしは社長の大ファンだった。推しの会社で働きたいと、地元企業の内定を蹴り、パパとは喧嘩別れのような状態でソラ系まで出てきたから、ちょっとばつが悪い。
「とにかく、あの話は終わったの」
「それで、社長さんじゃなく、こんな奴とつきあってるということか?」「こんな奴とか言わないで、彼氏なんだから」
「それは良かった」
パパの反応に拍子抜けした。
「およっ? 親父さん話がわかるじゃん」
「大会社の社長とつきあうとなると、住む世界が違うだろう。ティリーがいろいろ苦労すると思ったんだが、あまりに条件が良すぎて、どう断っていいのか悩んでいたんだ。それに引き替え、こんな奴なら正面切って反対できる」
「こんな奴じゃなくて、銀河一の操縦士だっつうの」
レイターが口を尖らせた。
「ん? 銀河一の操縦士だと! 思い出した」
「あん?」
「ティリー、おまえの宿敵じゃないか」
「しゅくてき?」
「社長さんとS1で対決した、憎っくき相手だろ。ティリーが社長を優勝させようと頑張っているのに、こいつが邪魔をしおって」

宇宙船レースの最高峰S1グランプリ。無敗を誇っていたエース社長の引退レースにレイターは新人レーサーとして出場し激戦を繰り広げた。
「しょうがねぇだろが、レースなんだから」
「私はお前さえいなければ、とハラハラしておったんだ!」
「知るか!」
「もっともエース社長の前に破れ去ったがな」
パパはレイターを見て勝ち誇ったように笑った。
「うるせえ親父さんだな、ったく」
「レイター、もうこんな時間よ。パパ、悪いけどわたしたちきょう友だちと食事の約束があるの。後で連絡するわ」
パパが肩を落とした。
「そうか、おまえの予定も聞かずに突然来て悪かったな」
レイターが力の抜けた声で呟いた。
「親父さんが一緒でも構わねぇぜ、どうせ相手はロッキーだ」
「いいの?」
「ああ」
レイターが気を使ってくれるのがありがたい。
せっかく立ち寄ってくれたパパを追い返すのは、わたしも忍びなかった。
* *
お酒が飲めるカジュアルなレストランバルが待ち合わせの場所だ。ロッキーは店内を見回した。ティリーさんはいつも五分前には姿を見せるのに、珍しくきょうはいない。
案内された席について待っていると、不機嫌そうな顔をしたレイターが店に入ってきた。ティリーさんの横に年配の男性がいる。

「ロッキーさん、わたしの父です。ごめんなさい。仕事でソラ系へ出てきたんです。食事、一緒でもいいですか?」
ネクタイをかっちり締めたスーツ姿の親父さんは、ティリーさんと同じ緑の髪と赤い瞳をしていた。いやあ、レイターとの仲がそこまで進展していたとはびっくりだ。
「もちろんですよ。初めまして、ロッキー・スコットです。アンタレスから出ていらしたんですか?」
「ええ」
あいさつしながら握手をする。俺は普通の社会人だ、ちゃんとマナーはわかってる。
「長旅、お疲れでしたでしょう」
「出張のついでに時間があいたもので、突然おじゃまして申し訳ありません」
真面目な雰囲気はいかにもティリーさんの親父さんだ。
「とんでもありません。ご一緒できてうれしいです」
レイターの奴、柄にもなく緊張しているのか表情が固い。耳元で声をかけた。
「良かったな。親父さんと食事だなんて」
「ちっともよくねぇ」
「どうして?」
「話してみりゃ、すぐわかる」
*
俺の隣に親父さんが腰掛け、向かいにレイターとティリーさんが並んで座った。食前酒とつまみのカナッペが運ばれてくる。
レイターの言うことはすぐにわかった。
親父さんは目の前のティリーさんに「仕事はどうだ?」とか話しかけているが、レイターとは目を合わそうともしなかった。
こいつ、何やらかしたんだ?
しょうがない、こういう時にできるだけレイターのことを誉めといてやるのが、友人ってもんだ。
「僕はレイターとはハイスクールの頃からの付き合いで、同級生だったんですよ」
「そうでしたか」
「とにかく、こいつは学校でも人望があって、みんなから一目置かれていたんです」
「ほう」
「何せ、裏番張って……」

テーブルの下でレイターが俺の足を蹴った。
「裏番?」
「あ、いやいや。不良グループも手が出せないってことです。こいつ、あの頃はチビでしたけど喧嘩が強くて」
レイターが怖い顔で俺をにらみつけている。まずいな、この話は止めたほうがよさそうだ。
「何というか、レイターは統率力に秀でてましてね。ハイスクール中退してからも」
「中退?」
「えっと、バイトが忙しくなって、学校を途中で辞めたんです」
レイターは伝説の宇宙船設計士の『老師』に弟子入りして退学した。間違ったことは言っていないのに、ティリーさんが心配そうに俺を見ている。
「とにかく、レイターはすごかったんですよ。その頃から『銀河一の操縦士』でしてね。免許はなくても、銀河中の飛ばし屋に負けたことがなくて」
ほめているのに、またレイターに足を蹴られた。
「無免許の暴走族かね」
親父さんがレイターを見る視線は冷たかった。
* *
ティリーは不安になってきた。ロッキーさんの話は嘘じゃない。だからフォローのしようがない。

隣のレイターは黙々と食べている。このお店の料理はおいしいのに、味わっている余裕がない。
ロッキーさんは一生懸命に気まずい雰囲気を修正しようとしてくれているけれど、これ以上オウンゴールはしないでほしい。
「いやあ、僕はハイスクールを卒業して地元の小さな映像制作会社に就職したんですけどね、こいつは大企業のクロノス社に入社しましたし」
「ほう、ティリーの先輩だったのかね」
「そうなのよ」
一応我が社は一流企業だ。パパは公務員で安定的なことに価値を見出していて、わたしの就職もクロノスだから見逃してくれたということがある。
「何といってもレイターには将軍家がバックについてますから。就職にも困りませんよ」
まずい、パパは軍隊を毛嫌いしているのだ。
「それは、将軍家のコネ入社ということかね?」
「コネで悪いか」
聞こえるようにレイターがつぶやいた。パパは不正とか癒着が大嫌いだ。二人の出会い頭にできた小さなひびは、ロッキーさんのおかしな援護射撃でどんどん亀裂が広がっている。何とか取り繕わなくちゃ。
「レイターは営業マンとしても優れてたのよ。クロノスにいたころは、月間最高売り上げも記録していて、ね」
レイターに同意を求めた。彼は無表情をくずさなかった。うなずくなり反応してほしい。いつもはおちゃらけたお調子者なのに、きょうはほとんど口を開かない。

「では、なぜ君はクロノスを辞めたのかね?」
「……」
パパの質問を無視してレイターはフライドチキンを口に入れた。
代わりにロッキーさんが答えた。
「処分受けて、一年で辞めたんだよね」
「そんなことだろうと思ったよ」
うなづくパパにあわててフォローを入れる。
「パパ、処分と言っても懲戒免職とかじゃないから。自分で辞めたんだから」
レイターがクロノスを辞めた理由。社内の非公式レースでエースに勝ったことが原因だ。会社を騒がせたとしてテストパイロット部への出入りが禁止となり、彼は辞表を出した。
ロッキーさんが目を丸くした。
「え? そうだったんだ。会社、首になったんだと思ってたよ。あの頃、こいつ、飛ばし屋相手に怪しい副業やってたから」
「え? そうなの?」
今度はわたしが驚いた。いや、驚くことじゃない。レイターなら十分あり得る。
パパがロッキーさんに顔を向けた。
「ロッキー君、ガールフレンドはいないのかね?」
「レイターは昔から女の子にもてましたけどね、僕はさっぱりで」
「君はティリーのことをどう思うかね?」

「いやあ、かわいくて素敵ですよ。レイターにはもったいない……」
机の下でドンっと音がした。レイターがロッキーさんの足を蹴飛ばしたようだ。
「というか、うらやましいです」
パパがまじめな顔でわたしを見た。
「ティリー、お前はロッキー君のことはどう思っている?」
「いい人よ」
「じゃあ、ロッキー君とつきあったらどうだ」
「は? パパ、何言ってるの」
「おまえは、まだ人を見る目ができていないんだ。危険な感じに憧れるのもわからんでもないが、こんな危なっかしい奴と一生生活できると思うか」
「一生ってパパ、考え過ぎよ」
「何だ、結婚する気はないのか」
パパの言葉に少なからず動揺した。
結婚、そこまで考えてない。だってまだつきあいだして間がないんだもの。でも、レイターはどういうつもりでいるんだろう。

ちらりとレイターの様子を見る。聞こえないふりをして、グラスのお酒をあおっていた。
疲れる夕食だった。
*
ホテルへ帰るパパとは店の前で別れた。まだ、三人で飲みなおすことのできる時間だ。わたしはレイターに謝った。
「ごめんね。パパが変なことばかり言って」
「ま、俺は昔から一般人の受けが悪りぃんだ」
と肩をすくめた。
「そうだよな。親父さん、俺ん家ちの親の反応と似てたな」
「ったく、あんたが俺のこと、変な紹介するからだろが」
レイターがロッキーさんの頭をパシっとはたいた。

いつもなら「やめなさい」とレイターを止めるところだけれど、きょうは許せる。
「痛ってぇなあ。間違ったこと一つも言ってないぞ。そうだ、お前、業務用の顔をすればいいじゃん」
「あん?」
「お偉いさんを警護する時は顔が変わるじゃん」
確かにレイターは要人警護の時は背筋の伸びた『よそいきレイター』になっていて普段とはまるで違う。身のこなしから何から、とにかく別人のようにかっこいい。
あのレイターなら、堅物なパパが許してくれそうな気がする。

「親父さんの前で一生仕事の顔してろ、っつうのかあんたは」
再度ロッキーさんの頭をはたいた。
ドキン。今、レイターは「一生」って言った。深い意味はなく使ったと思うけれど、パパが使った「結婚」という二文字を思い出した。
「いいこと思いついた!」
ロッキーさんが手を打った。
「おまえさあ、ティリーさんのお袋さんから攻略すればいいんじゃないか?」
「はあ?」
「だって、おまえ、女には業務用じゃなくても愛想がいいじゃん」

「それってどうなのかしら?」
本当のことだけにイラっとする。
「ティリーさんの親父さんが、レイターのことをとんでもない奴だ、ってお袋さんを洗脳する前に手を打った方がいいよ。ティリーさん、とりあえず、アンタレスの実家に通信を入れてみたらどうだい?」
「あんた、次から次へとよく思いつくな。で、ロッキーのお袋さんと同じように嫌われて終わりかよ」
「そうでもないぞ」
「あん?」
「お袋さあ、この前のS1、おまえのこと応援してたんだぜ」
「ど、どうしたんだよ。悪いもんでも食ったのか?」
レイターがあわてている。
「だから、大丈夫だ。ティリーさんのお袋さんと話してみなよ」
ロッキーさんが太鼓判を押す根拠はよくわからないけれど、確かにママに連絡をいれておいた方がいい気はする。彼氏ができたということも報告していないし、エース社長とつきあっていると思われていても困る。
「そうね、ママに連絡しよっかな」
* *
ロッキーの奴をティリーさんの親父さんと同席させるんじゃなかった。俺の判断ミスだ。レイターは後悔していた。
こいつは間が悪くて、一言多い。そのくせ、変なところで妙に鋭い。昔から、想定外の破壊力で攻め込んでくる。
ティリーさんは、何だかんだ言って親父さんと会えたのを喜んでた。
俺はその場の雰囲気を壊さねぇように、業務用の顔だって、愛想笑いだってできた。いつものようにおしゃべりと話術で、人の好い青年を演じることもできたんだ。彼氏としては、親父さんに気に入られるよう努力するのが正解だったんだろうな。
なのに、身体が動かなかった。いや、動けなかった。
親父さんが真剣だったからだ。娘が心配で心配で仕方なくて、ティリーさんの幸せを願う真剣さが十Gの重力並みに襲い掛かってきた。
調子のいい俺の言葉に、この人は騙されない。
親父さんの瞳には、ロッキーなら娘を幸せにできると映っていた。そうだよな、どんくさいところはあるが、俺と違ってロッキーは人殺しじゃねぇし、命を狙われることもねぇし、何よりいい奴だ。親父さんの目に狂いはねぇ。
そのロッキーがまた訳のわかんねぇことを言い出した。ティリーさんの母親に連絡しろだと。
「そうね、ママに連絡しよっかな」
つきあってらんねぇ。
「勝手にしろ。俺は帰る」
「お前、帰っちゃうの? じゃあ、代わりに俺がティリーさんのお袋さんと話しとくよ」
俺は反射的に応えた。
「やめろ」
「なんで? 恋愛している当人より、第三者が褒めたほうが効果があるんだぜ」
普通はそうだ。だが、きょう親父さんとうまくいかなかった元凶が自分だってわかってんのか。
「もういい。俺が直接話すから、ロッキーは今日は帰れ」
これ以上かき乱されたくねぇ。
*
ティリーさんが自宅の通信モニターをセットしている。勝手知ったるキッチンで俺は二人分のコーヒーを用意した。
俺はこれまで命のかかった修羅場を何度も潜り抜けてきた。どんな不測の事態にも対処できるはずだ。
「あれ? 香りがいい」
「俺が淹れたんだ。当然だろ」
かぐわしい匂いが気持ちを落ち着ける。物事はなるようにしかならねぇ。
覚悟を決めて通信機の前でコーヒーを一口すすった。
長距離通信の呼び出し音の後、モニターに優しそうなご婦人が映った。
「あら、ティリー、久しぶりね。パパに会った?」

初めて見るお袋さんはティリーさんに似ていた。髪の色も瞳の色も同じだ。だが、おっとりしていて雰囲気が違う。
「会ったわよ。パパったら、突然押し掛けてきたの」
ティリーさんのちょっと勝気なしゃべり方は親父似だな。
「連絡してから行けば、って言ったんだけど、ティリーを驚かせたい、って楽しそうにしてたから……」
「あのね、ママ聞いて。わたし付き合ってる人がいるの」
「まあ、それはうれしい報告ね。でも、あわてて連絡してきたってことは、パパとうまくいかなかったってことかしら」
「そうなの……それで」
ティリーさんがいきなり俺をカメラの前へと引っ張った。
「彼がわたしがおつき合いしている。レイター・フェニックスさんです」
「初めまして」

カメラに向けて頭を下げた。とりあえず一般社会人モードだ。
「あら、あなたS1レーサーの」
「もう辞めましたが」
「パパが怒るはずだわ。『ティリーの敵だ!』って騒ぎながらこの前のS1中継を見ていたもの」
楽し気なお袋さんの笑顔はティリーさんとそっくりだ。
「それでねママ、パパはレイターのこと『とんでもない奴』とか言ってママに報告すると思うの。でも、そんなことない……」
ティリーさんは一瞬言葉を切って、俺の顔を見た。
「とは言い切れないけど」
「ティリーさん!」
俺がちゃんとしてる、ってアピールする場じゃねぇのかよ。思わずコーヒーをこぼしそうになる。
「ママが心配するほどじゃないから」
お袋さんはにっこりと微笑んだ。何ていうか安心感のある人だ。
「大丈夫よ。あのS1はすごかったわね。レースを見ている時から、私、パパに内緒でレイターさんのことも応援していたもの。だって、新人さんなのに、ものすごい操縦でびっくりしたわ」

お袋さんが俺を応援していたと聞いて、驚く一方でうれしくなる。操縦をほめられると俺は弱い。
「エース社長とレイターさんのどちらにも勝って欲しかったわ。だから安心して。ねぇティリー。今度、休みが取れたら、レイターさんと一緒に家に帰ってきなさいよ。本物の彼氏さんから、ぜひお話をうかがいたいわ」
「そうね、うん、わかった。じゃあ、また連絡するね」
と、ティリーさんはあっさり通信を切った。いや、ちょっと待て。
「おい、ティリーさん。何が『うん、わかった』だよ」
「え?」
「俺に、あんたんちに行けってのか?」
「だめなの?」
「っつうか、家にはあの親父さんもいるんだろが」
「忘れてた。でも、何とかなるわよ。ママと話がついたし」
「はぁ?」
今ので話がついたのか? ティリーさんはいつも俺の想定を踏み越える。母娘の関係はよくわかんねぇ。不安の種は消えねぇが、故郷へ帰ることがうれしくてたまらないといった様子の彼女を見ていると、それ以上何も言えなかった。
第二話へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」