銀河フェニックス物語<出会い編> 第十八話(5) オールスター狂騒曲
・第一話のスタート版
・第十八話(1)(2)(3)(4)
チョコレートドーナツを手にしたベルが言った。
「うちの従兄弟はさ、社長の警護とかしているから、あたしの年収の五倍以上もらってるよ」
「へえ、そうなんだ」
ざっと計算すると、年収二千万リル以上だ。
レイターは、いつもお金が無い無い、と言っているけど、一体いくらもらっているのだろう。
この間は、大統領夫人を警護するアルバイトを入れていた。
けれど、普段はわたしたち一般社員が対象だ。ランク3Aとは言え、そんなに高額な気がしない。
ベルがコーヒーを一口飲む。
「ところで、きょうわかったことは、レイターは、ティリーのことが好きだ、ってことだね」
わたしはむせそうになった。

「ちょ、ちょっと待って、どうしてそうなるの?」
「好きだから、俺のティリーって呼んでるんでしょ」
「レイターには『愛しの君』がいるんだから」
愛しの君のことを「銀河一のいい女」と呼んだ時の、優しい表情が頭に浮かんで、またイライラしてきた。
どうしてあの人は、わたしの心を逆なでするのだろう。
ベルが思わぬ発言をした。
「あたし思うんだけど、『愛しの君』は人妻なんじゃないの?」
「人妻?!」
違和感を感じながらも、わたしは思い出した。
「前に、研究所のジョン先輩がレイターに、愛しの君を追いかけるのはもうやめろ、って言っていたわ」
ベルが力説する。
「やっぱり、プラトニック不倫だね。その人に操を立てて、特定の人とは付き合わないのよ」
操を立てる、とはすごい表現だ。
しかし、不特定多数と付き合うこととは、真逆じゃないだろうか。
一方で、ベルの言葉のニュアンスは当たっている気もする。
レイターは『愛しの君』に対して本気だ。
「で、ティリーの気持ちはどうなの?」
「わたしの気持ち?」
「レイターのこと好きなの? 嫌いなの?」
「ベル、知ってるでしょ。わたしの理想は『無敗の貴公子』エース・ギリアムなんだから」

「それこそ届かぬ恋じゃん」
「わかってるわよ」
「いっそ、レイターとつきあっちゃえば」
「ベル、あなた、他人事だと思ってるでしょ」
「ていうか、あなたたち二人がつきあっても、そんなに違和感がないのよ。いつもじゃれあってるでしょ」
「じゃれあってる?」
そんな風に見えてるの。
「フェニックス号なんて、まるで自分んちみたいだったじゃない」
「・・・・・・」
それには返す言葉がない。でも、反論はしなくては。
「レイターのことって、わたし、さっぱりわからないのよ」
「わからない?」
どこから話をしたらいいのだろう。
「レイターが、うちの営業部にいたことは知ってる?」
「うん、フレッド先輩と同期だったんでしょ」
「そのころ、フレッド先輩の売り上げを、レイターが抜いたことがあるのよ」
「えっ、初耳。厄病神は全然ノルマを達成しなくて、テストパイロット部に入り浸ってたって聞いたよ」
それも事実だ。
「ノルマを気にしないレイターの契約を、フレッド先輩が途中で横取りしたこともあるの」
「フレッド先輩ならやりそうだわ。でも、レイターの方も社内処分を受けて、すぐに会社を辞めたんでしょ」
「どうして処分を受けたか知ってる?」
「テスト部で船を壊した、って話よね」
「正しくは、エースとのレースでレイターが勝っちゃったのよ」
「ええっ? 『無敗の貴公子』に? それじゃ、無敗じゃないじゃん」
わたしは、あわてて人差し指を口に当てた。
「しぃ~。声が大きい。表立ってその話は誰もしないけれど、エース本人から聞いたから、間違いないわ」
「銀河一の操縦士、恐るべしね」 (6)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」