銀河フェニックス物語<出会い編> 第七話(1) 真っ赤な魔法使いはパズルもお得意
「ジョンソン様、クロノス社のティリー・マイルドでございます。ご挨拶に伺いたいのですが、近く、ご都合の良い日はございませんか?」
ティリーは通信モニターに営業用の笑顔を見せた。初めての相手は緊張する。
「そうだなぁ、今度の日曜の午後は家にいるよ」
アポイントは取れそうだ。
宇宙船メーカーの営業であるわたしは、ソラ系へ引っ越してきたジョンソンさんの担当を、引き継ぐことになった。
「五年前に購入頂いた小型船の状態はいかがですか? 買い替えをご検討でしたら、試乗できる船をご紹介しますが」

前任者の引き継ぎメモを見ながら会話を進める。
「うーん」
気乗りのしない返事に嫌な予感がした。
「燃費のいい船を探しているんだよね」
わたしは息を飲んだ。燃費のいい船。今、ライバル会社のギーラル社が新型船の『ハール』を絶賛売り出し中だ。
悔しいことに同じランクの弊社の船と比べて燃費が抜群に良くて、ハールは月間売り上げでトップをキープしていた。
ジョンソンさんは間違いなくハールを意識している。
「わかりました。燃費のいい船を見繕っていくつかカタログをお持ちします」
*
モニターの画面が消えると、わたしは大きなため息をついた。
隣の席のベルがわたしを見ながら言った。
「アポイント取れたの良かったじゃん」

「聞こえてた?」
ベルはうなづいた。
「『ハールとの戦い』だね。わたしの仇を打ってね」
先週、ベルは『ハールとの戦い』に敗れた。
「あの燃費の良さは手強いよ。研究所が大慌てで対策考えてるけど」
*
配船係のメルネさんの嫌がらせだろうか。
「はぁい、ティリーさん。よ、ろ、し、く」
日曜日、指定された駐機場に停まっていたのはフェニックス号だった。

『厄病神』のレイターがわたしに手を振った。わたしはため息をついた。
「レイターの船だなんて聞いてないわ」
「俺もさっき聞いたんだ。お休みの日も俺のティリーさんと仕事ができるなんて、運命の赤い糸じゃねぇの」
「やめて下さい」
気持ちが塞いでいく。
厄病神のフェニックス号で出かけると契約が成立しない、というのが営業部のジンクスだ。前回の出張では、レイターと一緒にハイジャックに巻き込まれた。
これから『ハールとの戦い』だというのに、出かける前から負けを宣言された気分だ
*
宇宙空間へ出たフェニックス号の居間でレイターがわたしに聞いた。
「ティリーさん、ハールと戦うんだって?」
「そうと決まった訳じゃありません。先方が燃費のいい船を探しているだけです」
「ハールは燃費だけはいいからな」
手にしたうちの会社のデジタルカタログを見比べる。どの船も性能はハールよりいいと思うけれど燃費では勝てていない。
「ハールを欲しいって奴はケチだから、俺なら『ラムベル』勧めるぜ」
「ラムベル?」
ラムベルはハールと同じランクだけれど燃費はそんなに良くない。
良く言えばシンプル、悪く言えば平凡。定番の船だ。
「三年後にわかるさ」
「どういうこと?」
「ジョン・プーとも話したんだけどさ」
ジョン・プーとは研究所のジョン先輩のことだ。
「ハールは船の寿命が短い」
「え?」
「燃費のために軽くしてかなり無理した作りだ。おそらく、来年辺りから故障船が続出するぜ。だから、じっと待ってればいいのさ」
「その反対が、うちのラムベルってことなのね」
「そっ」
ラムベルは耐用年数が長い。長い目で見れば確かにお得な船だ。とりあえずラムベルのパンフレットも持って行こう。
「ハールがすぐに壊れるっていう証拠はあるの?」
「研究所が必死に耐久テストやってるが、結果が出るのはまだ先だな」
宇宙船お宅のレイターの情報はおそらく当たっている。ハールには耐用年数という弱点がある。
でも、まだ、研究所でも裏が取れていないということだ。
「折角の情報だけど武器にはならないわね」
「嘘でも何でも、売るのが営業のお仕事だろ」
「嘘はだめです」
「ティリーさんは相変わらずお行儀がいいねぇ。多分、ギーラル社の奴らはわかってるぜ。公表してる耐用年数は捏造だって」
嫌な気分だ。相手が嘘をついているとしても、嘘はつきたくない。 (2)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」