銀河フェニックス物語<出会い編> 第二十四話(5) 展覧会へようこそ
・第一話のスタート版
・第二十四話(1)(2)(3)(4)
アリオロン企画展の展示室に入る。
どの部屋より多くの人で混雑していた。
でも、すぐに気付いた。『よそいきレイター』が立っていることに。

いつもと違う。背筋が伸びて凛とした佇まい。
黒い警備の制服が似合っていた。
ボサボサの髪も帽子で見えない。ネクタイも一ミリも歪んでいない。
いつもこういう格好をしていればいいのに。
「ちょっと、ティリー、あれ、レイターじゃないの?」
ベルが驚いて、わたしの服を引っ張った。
「かっこいいじゃん」
と、同意を求められると、なぜか素直になれない。
「そうかしら。ベルも厄病神なんか見てないで、ちゃんと絵画を鑑賞した方がいいわよ」
自分に言い聞かせて作品に目をやる。
情報ネットでは観客の頭しか見えなかった、という不満が書き込まれていたけれど、平日の夜は、そこまで混んではいなかった。
*
わたしはその作品の前で、足が動かなくなった。
パンフレットの表紙に使われていた『山河の春』。
思った以上に大きな風景画だった。
一目見た瞬間、故郷のアンタレスのにおいがした。
雪が解け切らない山々を、陽光が照らしている。
透き通った空からは、待ちかねた春の訪れと希望が感じられる。
わたしの中の原風景というのだろうか。
ふるさとの田舎とよく似た景色が、淡い彩りなのに力強く訴えかけてくる。
年代を感じさせる木製の額縁と一緒に、心の中に溶け込んでくるようだ。
芸術ってすごい。

アリオロンは敵国だけど、この作品はわたしの感情を揺さぶる。
同じ人間なのだ。
どうして戦争なんてしているのだろう。
人は言葉が無くてもわかりあえるものを作り出せるというのに。
*
ベルがレイターに近づいていった、後ろからわたしとチャムールが続く。
「お疲れぇ」
手をあげてベルが挨拶する。
仕事中のレイターに声かけたら、悪いんじゃないだろうか、と思うのだけれど、ベルは全く気にしていない。
「ちゃんと仕事してる?」

「ご来場ありがとうございます」
レイターがマニュアル通りの答えをする。
その声がいつもと違っていて、ドキっとする。
スッとレイターが動いた。
「混雑しておりますので、ご案内いたします」
と、歩き出したレイターの後ろを、わたしたちはついていく。
この場所を離れて、警備は大丈夫なのだろうか。
「どうぞ、こちらへ」
レイターは『スタッフオンリー』、とプレートのついたドアを開けた。
こんなところへ入っていいのかしら、と思っているうちに、すぐ先のドアから会場内へと戻った。
「こちらの部屋にナリエリ星系の『永遠の輪と悲しみ』が展示してございます。その奥を右に曲がった展示室には、アンタレス星系の作品がございますのでお楽しみください」

一礼すると、レイターの姿は風のように消えてしまった。お礼を言う時間もなかった。
「何あれ、かっこいいじゃん」
ベルが興奮している。
「よそいきレイターでしょ」
わたしの言葉にチャムールが笑った。
「確かによそいきね。それにしても、ショートカットできて助かったわ」 チャムールがパンフレットの会場案内図を指さした。
「普通に順路を回っていたら『永遠の輪と悲しみ』にたどり着くまでに、あと一時間かかるところだったわ」

ベルが肩をすくめた。
「わたし『山河の春』と『永遠の輪と悲しみ』が見られればそれで充分。後はショップ行こうよ。仕事帰りだから、疲れちゃったよ」
確かに疲れたし飽きてきた。
二人をつきあわせるのは申し訳ない、と恐縮しながら口にした。
「わたし、アンタレスの作品も観たいんだけど・・・」
「わかってるって。レイターが教えてくれたじゃん、近道を。ほんと、レイターはティリーのことが好きだよね」
「ち、違うわよ」
「いいからいいから、さあ、行こう」
ベルの掛け声で、わたしたちは人混みへ向かって歩き出した。 (6)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」