あいホームとは何か。「過去」と「今」から掘り起こした老舗工務店のブランド
地方の老舗企業で、事業承継を機に若き社長が主導するリブランディング──。
そう聞くと、どこか“おしゃれで洗練された”イメージを思い浮かべる方も少なくないでしょう。
おしゃれなミッションやビジョン。洗練されたコーポレートサイトやロゴ。パッケージを変えることで、企業の「生まれ変わり」を演出する。もちろん、それも一つの手段です。
昭和34年に宮城県加美町で誕生した工務店・株式会社あいホームでも、事業承継のタイミングで自らのブランドに向き合いました。ただし、私たちが行ったのはリブランディング──つまり、見せ方を刷新することではありません。
もっといえば、私たちのブランドへの向き合い方は「つくる」というより、むしろ自分たちの中に眠る本質を掘り起こすことでした。そしてその作業は、“おしゃれ”とは対極にある、泥臭く地道なものだったのです。
2022年にブランド開発に着手し、2023年の冬に完成。その後、業績は着実に伸びています。
あいホームが「自分たちの本質」にたどり着くまでの歩みを、ここで紹介します。
「最高のホームをつくろう。」
これが、私たちのブランドスローガンです。
「ホーム」には「家」「地域(ホームタウン)」「アットホーム」の3つの意味が込められています。
では「最高」とは「誰」にとっての「最高」でしょうか。
いうまでもなく、地域の人です。
地域の人にとって最高のホームをつくる。その背景には「人に尽くす」という当社のDNAがあります。
その最たる例が「最高の平屋」です。

近年、建築資材が高騰し、新築住宅を建てたくても建てられない状況がありました。そこで、平屋の購入を検討している地域住民の声に向き合い、過剰な設備は削ぎ落とし、手の届きやすい価格を目指しました。一方で、暖かく快適に暮らすために必要な性能は決して妥協しませんでした。
その過程については、こちらの記事にまとめています。
「最高の平屋」はリリース後、爆発的な反響を呼び、当社の業績に大きく寄与しました。
これはまさに「人に尽くす」という当社のブランドが色濃く表れた出来事でした。
家が選ばれる理由は「性能」だけじゃない
しかし、ブランド開発以前には、思うように家が売れない時期がありました。
ウッドショックの影響を受け、値上げを余儀なくされた当社は、家に付加価値をつけるため気密性能や断熱性能を引き上げる決断をします。けれど、家は期待したほど売れませんでした。
そんな時に出会ったのが、ブランド開発を専門とする株式会社クロマニヨン(以下、クロマニヨン)の小栁俊郎さん(以下、俊郎さん)です。
佐賀県で行われた経営者合宿に代表の伊藤謙が参加した際、ブランディングに関するセミナーの講師として登壇していたのが俊郎さんでした。
俊郎さんは、こう問いかけました。
水が入ったボトルが並んでいる。一つは「い・ろ・は・す(I LOHAS)」のボトル。他は、ラベルのない無印のボトル。さて、あなたはどれを選びますか?──と。

多くの人は、きっと「い・ろ・は・す」を選ぶのではないでしょうか。
では、なぜ「い・ろ・は・す」なのか? もちろん、おいしさに対する信頼もありますが、それ以上に「い・ろ・は・す」であること自体に、すでに意味があるからです。喉を潤したいだけなら他の水でもいいはずなのに、気付くと手は「い・ろ・は・す」に伸びている──。
このことは、私たちの家づくりにも当てはまります。
家は、多くの人にとって一生に一度の大きな買い物です。「どんな家を買うか」と同じくらい「誰から買うか」が問われます。
この人から買いたい。この会社から買いたい。そう思っていただけることこそ、ブランドなのです。
言い換えれば、ブランドとは一人ひとりのお客様にとっての「意味」であり「選ぶ理由」となり得るもの──そのことに気付いた瞬間、私たちはブランド開発に踏み出しました。
一人ひとりがイキイキと働く組織をつくるために
早速、俊郎さんにコンタクトを取った伊藤は、後日福岡に赴き、マンツーマンで相談の機会を頂きました。そこで、組織経営について感じていた課題を率直に伝えます。
実は当時、ウッドショックに伴う建築資材の高騰という外部要因以外にも、当社が向き合うべきテーマがありました。
それは、会社が一つにまとまっていないのではないかということです。
代表就任当初の伊藤は、前代表(現会長)のカリスマ的な経営スタイルを踏襲し、意思決定の多くを代表が担う形を取っていました。しかし、そのやり方では、伊藤が思い描くような「社員一人ひとりが自走する状態」はつくれませんでした。
そこに、コロナ禍でデジタル化に大きく舵を切ったことが重なります。社員間のコミュニケーションは希薄になり、組織としての一体感の揺らぎが、徐々に表面化していきました。
その話を受け、俊郎さんはこう言いました。
「その状況なら、企業としてのブランド開発はきっと力になる」「とことん付き合う」と──。
その言葉に背中を押され、ブランド開発に向けた話は一気に具体化していきました。
全員で決めなければブランドは浸透しない
俊郎さんによると、ブランド開発の進め方にはいくつか方法があります。社員全員で取り組むのか、あるいは幹部メンバーだけで進めるのか──。
私たちは迷わず「全員」で取り組むことを選びました。
ブランド開発では「社内に浸透しない」という現象が起こり得ます。それはきっと、誰かに決められたブランドは「自分のもの」として捉えにくいからではないでしょうか。
私たちは議論を進めるなかで、自分たちの本質を深掘りしていきました。このプロセスそのものが、ブランドを自分ごととして受け止める土台になっていったのです。
その内容はクロマニヨンという第三者の視点を通して客観的に言語化され、その言葉は今では社内の共通言語として機能しています。その結果として、手の届きやすい平屋をつくるための“削ぎ落とす議論”の場面でも、私たちは自分たちの軸をぶらさずに進めることができました。
ブランド開発のプロセス自体が大きな価値に

ただし、初めから全員で話し合ったわけではありません。全員での話し合いに向けて、プロセスを3つの段階に分けました。
第1段階は、代表を含むキーパーソン8名へのインタビュー。
第2段階は、全社員を対象とした匿名アンケート。
そして第3段階として、全員参加のワークショップを実施しました。
ここで重要なのは、初手から「かっこいい言葉」をつくろうとしないことです。一度、話の抽象度を下げて、具体的な体験や行動に立ち返る。内面に向き合うプロセスがあるからこそ、最終的に一つの言葉に納得してたどり着くことができるのです。
幹部インタビュー:整理された、過去・今・未来
インタビューの内容は、クロマニヨンによって構造化され、いくつかのスライドにまとめられました。その資料を見た社内メンバーは、自分たちの考えが整理され、目に見える形で示されたことに強い実感を覚えました。

ここで明らかになったのは、私たちの価値観が複数の層から成り立っていることです。
創業当時から脈々と受け継がれてきた価値観。
今、現場で働く社員が大切にしている価値観。
そして、現代表である伊藤が日々の判断のなかで体現している価値観。
例えば、創業家の「真面目さ・正義感」は、現在の接客態度にも自然と表れています。一方で「変化を恐れない姿勢」は、コロナ禍という激動の時代に代表に就任した伊藤が、選択と行動で示してきた価値観です。
こうした価値観が混在していたものが、俊郎さんとプロデューサーの金井隆太さん(以下、金井さん)の手によって整理され、自分たちを俯瞰して捉える視点を得ることができました。その時に気が付いたのは、時代や役割が違っても一貫して「人にエネルギーが向いている」ということです。
このプロセスだけでも、私たちにとっては大きな意味がありました。
インタビューを実施したその日の夜、俊郎さんと金井さんから、印象深いフィードバックがありました。
それは、考え方に違いはあっても、総じて「会社愛」があるということです。
当時、組織としての一体感は発展途上にありました。それでも、それぞれが会社への愛を持ちながら仕事に向き合っていたという事実を、私たちは改めて言葉として受け取ることができました。
この気付きが、ブランド開発を進めていくうえで、大きな勇気となったのです。
匿名アンケート:ふたを開ければ思いは一緒だった
インタビューを踏まえ、次に行われたのは全社員を対象とした匿名アンケートです。
「誰も回答してくれないかもしれない」「厳しい言葉が並ぶのではないか」──。
当時の伊藤には不安もありました。しかし、ふたを開けてみれば、回答の多くはポジティブな内容で、8名のインタビューから抽出された価値観と大きなずれはありませんでした。
価値観の中心には、やはり「人」があります。

コロナ禍を経て社内の一体感が薄れたようにも見えていた時期でしたが、アンケートでは企業の「最大の強み」として「人材」が最も多く挙がりました。「人が良い」という認識は、多くのメンバーの間で共有されていたのです。
一方で、課題として挙がったのが、部門間での連携不足。「大事な情報が共有されていない」という声もありました。
つまり「人」に強みがあるにもかかわらず、組織としての歯車がうまく噛み合っていなかったということです。裏を返せば、その歯車さえ噛み合えば、組織はさらに強くなる──大きな伸びしろがあるともいえます。
このアンケート結果は、あいホームが口コミや紹介を基盤とした営業スタイルに確信を持つ根拠になりました。あいホームで働く「人」の良さは、口コミや紹介という文脈の中でこそ生きるものだからです。これまで続けてきたやり方は間違っていなかった、という手応えが得られました。
また、最大の強みの2番目に挙がったのは「商品力」、一方で弱みとして最も多く挙がったのは「デザイン力」でした。ものは良いのに、十分に魅力を伝え切れていない──だからこそ、デザインが補完されれば、商品の価値はより広く、より深く届く余地があります。
この結果を受け、あいホームでは現在、複数名の社外デザイナーと協働し、プロジェクトごとに最適なデザインを取り入れる体制へと移行しています。これは、私たちの強みである商品力を生かした改革といえます。
ワークショップ:全員でたどり着いた一つの答え
最後に全社員で行われたワークショップのテーマは「あいホームの存在意義とは」でした。抽象度が一気に上がり、言葉にすることは簡単ではありません。

この時点で、伊藤の中に明確な答えはありませんでした。代表の中にある答えを全員で”当てにいく”のではなく、あくまでも全員の中にある共通の価値観を言語化する点にこだわりました。
その結果、ブランド開発において難しいとされる「浸透」のフェーズで、特別な働きかけをする必要はありませんでした。誰かに与えられたものではなく、自分たちの中から生まれたものだったからです。言語化された後は、ごく自然に社員一人ひとりの中で息付き、それぞれがブランドを胸に自走するようになりました。
これは、前段のプロセスがあったからこそ成し得たことです。そして、客観的な視点から私たちの価値観を抽出して言葉にしてくれた、ブランド開発の伴走役であるクロマニヨンの存在は大きいものでした。
俊郎さんの言葉で印象に残っているものがあります。
それは「耐久性」という言葉です。
数年で陳腐化してしまうようなブランドでは意味がありません。100年、200年先にも使えるものにする必要があります。
ブランド開発は大変な作業ですが、私たちはそれを「家を建てること」に近いものだと感じていました。一生住むことを前提に、設計し、素材を選び、土台を整えていくように。目先の効果ではなく、長い時間に耐え得る土台をつくるという考え方です。
一本の軸から広がる、ふるさとのプロジェクト
冒頭に述べた通り、2023年の冬にブランドスローガン「最高のホームをつくろう。」が生まれて以降、業績は伸び続けています。これは決して結果論ではありません。
意思決定の全てにブランドが息付き、社員一人ひとりが自走し、そして、あいホームの最大の強みである「人」が同じ方向を向いているからです。
それは「最高の平屋」をはじめとした「家づくり」の文脈だけではありません。
「最高のホームタウン=ふるさと」をつくるという文脈においても同様です。

現在、私たちあいホームは地域に根ざしながら、さまざまな地域おこしプロジェクトに挑戦しています。
地域資源の価値を掘り起こすSDGsプロジェクト「捨てない」。
東北の食文化を発展醸成させる「KAMOSUBA」。
豊かな自然や食材と人の面白さを世界へ届ける「石巻マリンヴィレッジ」。
一見すると別々の取り組みに見えるかもしれません。しかし、その根底には共通する私たちのDNAが流れています。
一つひとつは独立しているようでいて、自分たちの軸が、確かに一本通っている──全ては、ブランドスローガン「最高のホームをつくろう。」に結び付いているのです。
編集/三代知香
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