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【連載小説】君の消えた日-二度の後悔と王朝の光-93話 黄昏の神官3-人間万事塞翁が馬-

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校長室に閉じ込められていた冴木さえき芝山しばやまは、ときの神術によって結界を破られ救出される。一方、永遠とわ華奈かなの瞳術を受けて命の危険に晒されるが、幼馴染おさななじみである眞白ましろが本能的に神術を覚醒させ、間一髪で永遠を救う。華奈が撤退した直後に現場に到着したみおは永遠が自力で背中の傷を回復させたという事実を聞いて驚愕きょうがくした。

「すいません……瞳術を受けて意識を保てそうにありません。俺より早くしゅうを――……」

そこまで言うと、永遠は意識を保つことができなくなり、ぐったりと眞白に体を預けて意識を失った。彼の顔は、苦痛に歪んだまま硬直している。

「永遠!」
一之瀬いちのせさん、たちばなさんを仰向けで寝かせてもらえますか?」

眞白は澪の言葉にうなずき、彼の身体をそっと床に横たえた。永遠の顔色をのぞき込む眞白のひとみは、不安に大きく揺れている。

澪はすぐさま柊の様子を確かめた。彼女の顔もまた蒼白そうはくで、微かに脈打つ胸元がその命を繋ぎとめているに過ぎない。彼女の意志と連動しているはずの雷針は彼女の意識が手放された後も解除されず、普段白く輝く鋼鉄の靴は漆黒に染められ、その全身にはあざが広がったまま収束していなかった。

「これは――……!」

澪はただならぬ状況を察し、スマートフォンを取り出して画面をタップした。コール音が鳴っている間に「摩訶止観まかしかん」とつぶやき、柊の心臓の上に淡い光を当て始めた。

『もしもし澪くん?首尾は?』

スピーカーモードのため、入江いりえとの会話の内容が眞白の元にも届いた。

「柊さんと橘さんを見つけました。端的にご説明します。お二人とも重傷です。橘さんは瞳術を受けたほか、背中をられています。傷はご自身でふさいだようですが、失血が激しい。柊さんは第二解放と思われるダメージが重く、全身の痣が収縮しておらず、脈が弱いです。雷針も力が暴走しているようで黒く染まっているだけで解除されておりません……回復術は施していますが、生気を移さなければ命が危険です」

澪の声は、普段の落ち着きを保ちながらも、その奥には張り詰めたような緊迫感がにじんでいた。

『柊ちゃんの状態も心配なんだけどさ……永遠くんが自分で傷を塞いだって、それ本気?』
「このような状況で冗談を言っている暇がある訳ないじゃないですか」
『ごめんね……さすがに驚いちゃったからさ……で、永遠くんの幻術は重そう?』

澪の強い口調を聞いて、入江はすぐに謝罪した。

「いえ、幻術を使える人間であれば幻術返しはできると思います」

澪は即座に答える。再び、電話の向こうで慌ただしい物音が聞こえ、声の主が指示を出しているのが分かった。

『分かった。永遠くんは輸血を優先させた方が良いから救急車を呼んじゃうね。校長室の結界を鴇くんが解除してくれたから、夏都なつくんに永遠くんの幻術返しの対応をしてもらおう。そのまま永遠くんの方に同行してもらった方が良いね。美鶴みつるさんには連絡しておくから、柊ちゃんは澪くんにお願いできるかな。タクシーも手配しておくよ』
「分かりました。あと、男が二人倒れているので邪霊化した神官かも知れません。現場のフォローはお願いできますか?」

澪は手短に状況を伝え、後続の対応を依頼した。電話の向こうで、すぐに動くような音が響く。

『おっけー、警察とも連携するよ。ちなみに澪くん窓ガラス吹き飛ばしたでしょ……焦るのは分かるけど、俺の結界間に合わなかったら下にいた人たちにガラスの雨が降ってたからね……』
「――!申し訳ありません……」
『まぁ、気をつけてくれれば良いからさ。みんなのフォローをするために俺がいるんだし♪俺もこの後すぐ向かうからもうちょっと待っててね』
「3階突き当りの講義室です。お願いします」

ポコンという電子音がして通話が切れると、澪は眞白を真っ直ぐに見つめた。その真剣な眼差しは、何かを眞白に伝えようとしているようだった。

「俺達がどんな存在かはご存知ですか?」
「ある程度は……」

眞白の言葉を受けて澪は頷いた。その表情は厳しく、言葉を選ぶように慎重だ。

「一之瀬さん、申し訳ありませんが人払いをお願いできますか。強めの術を使うので、廊下にいてもらえると助かります」
「分かりました……永遠と柊をお願いします」

澪は眞白の顔をじっと見た。その視線は彼の心の奥底を見透かすようで、彼は何かを悟ったように講義室を後にした。澪は柊に回復術をかけながら、永遠の左手に浮かんだままの五麟ごりんの痣を一目した。

「橘さんは前世の記憶がないし、冴木さんは前世で事実を知る前に亡くなってしまったし、俺も体育祭で柊さんが発動した時は記憶がなかったら気づきませんでした……でも、今なら分かります。回復スピードを早めて傷を塞ぐのは、第二解放をしていなければできるはずがないんですよ……橘さん、あなたは一体――……」

澪の言葉は意識のない永遠の耳には届いていなかった。

講義室での対応と並行して校長室では実況見分が行われていた。異様な静寂の中、硝煙のにおいと、吹き飛んだ壁の乾いた石膏せっこうの粉が空気中に漂っている。鑑識官の無機質な足音とフラッシュの光が交錯する中で、芝山しばやまは参考人として淡々と状況を確認されていた。一方で青山あおやまが、混乱した表情の校長に対し、何とか事態を収束させようと事の次第を説明している。

「先輩〜!大丈夫ですか?」

校長室に駆けつけた佐奈田は息を切らしながら芝山に声を掛けた。その顔には、一歩遅れたことへの焦りが滲んでいた。

「ああ」

芝山は簡潔に答える。その声は心身ともに疲労に満ちていたが、佐奈田は深く安堵の表情を見せた。

「連携取れなくてすみませんでした。上を説得できなくて、先輩の部下たちが危険な目に……」

佐奈田は申し訳なさそうに深々と頭を下げる。

「いや、俺も見込みが甘かった。まさか、ここまで手札を封じて来るとはな」

芝山は静かに首を振る。彼の言葉には、敵の周到さに対する痛恨の念が色濃く漂っていた。

「講義室の方はひとまず収束して、怪我人の搬出が完了しました……先に共有なんですが、一之瀬眞白は帰宅したようです。父親が手配した人間が迎えに来たと……」
「帰宅した……?一之瀬眞白は重要参考人だろう?」

芝山は、驚きに目を見開いた。その声には、隠しきれない動揺が混じった。

「上が圧力に耐えられなかったみたいで……僕が行った時点ですでに姿がありませんでした……話を聞きたかったんですが仕方ないですね」
「なるほどな……」

芝山は重く息をつく。政治的な思惑が、この特殊な事態にまで影を落としていることに、彼は苛立いらだちを覚えた。

「と、言うわけですみませんが、先輩の部下の子たちが意識戻った際はお話を聞かせてもらいたくて。もちろん警備は強化しますんで」
「分かった」
「あと一点気になる点があるんですが……」

佐奈田は、どこか言いづらそうに視線を彷徨さまよわせ、言葉を続けた。

「なんだ?」
「橘くんから、先輩の部下の子たちを襲撃した大石華奈という少女が『女神』だったという情報が上がってきていますが、その大石華奈についてです。実は、現場の確認と関係者への聞き取りをしたところ、青山先生のような特異な能力を持つ方を除いて、この高校の大半の人間が、彼女の存在自体を全く覚えていないことが判明しました……」
「なんだって……?」

その言葉を聞いた瞬間、芝山の表情から血の気が消えた。



【次話】94話 黄昏の神官4-人間万事塞翁が馬-
11月8日(土) 22:00頃更新


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