【連載小説】君の消えた日-二度の後悔と王朝の光-79話 忍び寄る女神の影6-口に蜜あり腹に剣あり-
【前話】 【最初から】 【目次】 【第二章番外編】 【第三章番外編】
文化祭前日に眞白と柊を自宅に招いた永遠。夕食を囲みながら、永遠は真剣な表情で口を開いた。
「体育祭、東櫻大学の記念祭、オープンキャンパス……人が集まる大きなイベントの度に五麟を狙ったトラブルが起きてる。ぶっちゃけ文化祭で何も起きないとは考えにくい。柊もそう思うだろ?」
「……そうね、私もそう思う」
柊は憂いを帯びた表情で答えた。
「俺は今回眞白が巻き込まれるんじゃないかと危惧してる。どうしてか分かるか?」
「永遠、それはどういう……?」
動揺する柊をよそに、眞白は永遠のことをじっと見つめている。
「眞白、お前怨霊が見えてるだろ?しかも記憶を留めてる」
「え……?」
淡々と告げる永遠とは裏腹に、柊は驚きのあまり目を見開き、信じられないという顔をした。
「この間プールに怨霊が出現した時、眞白の視線は確かに怨霊を捉えていた。
それに夏祭りの件、一般人にしては覚えすぎてんだよ。昨日、吉川に夏祭りのことを聞いてみたけど、俺に会ったことしか覚えてなかった。なんで夏祭りが中止になったのかとかもな。でも柊のばあちゃんの墓参りの前に会った時に、お前は覚えてただろ?完全に怨霊に直結する件だから、ほかのやつは覚えてねぇんだよ……いつからだ?」
永遠が問いつめると、眞白は観念した様子で話し始めた。
「……高校に入学してから何となく悪寒がしていたというか、気配は感じてた。でも視えたのはこの間のプールに現れた時が初めてだよ」
「どうしてその場で言わなかったんだよ」
「たまたまかも知れないって、俺の中で確信が得られなかったから……でも本当は認めたくなかったのかも知れない」
「眞白……」
柊はなんと声をかけたら良いか分からず、口を噤んでしまった。
「この件はまだ本部長には伝えていない。これからどう関わっていくかはお前が決めろ。だけど、あの人は本部のために使えるものは全部使う人だ。五麟として覚醒してなかった俺にも、アルバイトを勧めてきたしな」
「俺は……正直、まだ困惑してる。3人で一緒に歩むって言ったけど、あんな化物を見せられたら……」
眞白は俯いたまま小さな声で言った。
「受け入れられねぇのも無理ねぇよ。俺と柊は元々視えてたから。そもそも一緒に歩む覚悟っていうのも、そういうつもりじゃなかったしな」
「永遠、眞白との約束も大事だけど、最優先にすべきは眞白の身の安全を確保することよ。今後眞白が狙われる可能性はあるのかしら」
柊に聞かれた永遠は腕を組んで考えた。
「ゼロじゃねぇけど可能性は低いだろうな。駒葉高校で発生してる一連の事件を鑑みれば、狙いは確実に俺達だろ?相手が眞白をマークしてるなら別だけど、大衆から視える人間を炙り出すのは容易じゃない。炙り出される前に俺達で相手を潰せば良い」
永遠が力強く言うと柊も頷いた。
「私達はおそらく一番最初に現場に駆けつけることになるわ。眞白はまず澪さんに連絡して。何があっても現場には近づかないようにしてほしいの」
「視えてるのに……2人が危ない目に遭っているかも知れないのに近づかないなんて……」
「それで俺は遠足の時に柊を追いかけた結果どうなったと思う?」
永遠は真顔で眞白に尋ねた。
「どうなったって……柊が助けてくれたんじゃなかったっけ?」
眞白は高校の裏山で会話した内容を思い出しながら言った。
「そう。俺を助けるために無理して体調を崩したんだ」
「永遠、それは今言わなくて――」
「俺を助けるために柊は第二解放を使うしかなかった。お前が現場に近づかないことは俺達も守ることに繋がる。だから耐えてくれ。お前が現場に来る時は視えないもんと関わると決めた時にしておけ」
永遠の言葉を聞いた眞白は息を吐いてから「分かった」と答えた。2人の様子を見ていた柊も安堵した様子で口を開いた。
「永遠、ありがとう」
「なんだよ、急にお礼なんて」
永遠は柊の言葉に困惑した声を上げた。
「前だったらきっと、違和感を持っても踏み込まなかったでしょう?私達は皆もお互いが大切だからこそ今の関係を壊したくなくて、心配掛けたくなくて……いつの間にか言えないことが増えてしまった気がする……。
『知らない方が身のためになることもある』……前世で主が私に言った言葉よ。でも、大切な関係だからこそ知りたいし、分かっていたい。前世でもそう思ってたはずなのに……。
眞白も話してくれてありがとう。私2人に負けないようにもっと強くなるから」
柊は目を潤ませながら優しく微笑んだ。
――バンッ!
「お兄ちゃん、お風呂空いたよ〜」
パジャマ姿で髪から雫を滴らせながら、リビングに千羽が入って来た。肩にはフェイスタオルをかけている。
「千羽ちゃん、こんばんは」
眞白が声をかけると、千羽は石のように動きを止めた。
「え?眞白くん……柊ちゃん……?!」
「千羽ちゃん、久しぶりね。元気だった?」
柊が嬉しそうに声を掛けたが、見る見るうちに顔を真っ赤にした千羽が永遠を睨みつけた。
「お兄ちゃん!!何で2人が来てるって言ってくれないの?!分かってたらもっとオシャレしたのに!!よりによってパジャマなんて!!」
「パジャマ姿も素敵よ?」
「柊、そういうことじゃないんだと思うよ」
柊は状況を飲み込めていない様子だったが、眞白がすかさずフォローした。
「コホン、改めて柊ちゃん、眞白くんいらっしゃい!」
「こんな遅くにごめんね。そろそろ寝る時間だったでしょ?」
柊の言葉に千羽は首を横に振った。
「柊ちゃん、私中学生になったんだから流石にまだ寝ないよ!」
「そう。なら良いんだけど。それにしてもすごいトロフィーの数ね」
「でしょ!東京都の特別指定選手だし、駒葉市の期待の星なんだから!」
「すごいね、千羽ちゃん」
2人から褒められて千羽は鼻を高くしていたが、思い出したように手を叩いた。
「そうそう!柊ちゃん、眞白くん!昨日お兄ちゃんが彼女連れてきたの!」
「馬鹿!違うって言ってるだろ!?」
「へぇ、永遠彼女できたんだ?」
「隠す必要ないのにね?」
眞白と柊がニヤニヤすると、今度は永遠の顔が真っ赤になった。
「昨日、文化祭の相談で平沢が来ただけ!誤解招くようなこと言うなよ?!」
「良い雰囲気だったけどなぁ?」
そう言う千羽もニヤニヤしている。
「もう黙れって!千羽は早く寝ろよ!明日も朝から練習あるんだろ?」
「そうだった!明日お兄ちゃんの文化祭に行けなくて残念だけど、平沢さんとの写真待ってるから!眞白くん、柊ちゃんおやすみなさい!」
そう言うと、千羽は勢い良く出て行った。
「2人で撮りたい時は声かけてね」
「眞白も便乗するなよ?!」
橘家のリビングには3人の笑い声が響いていた。
*
『お前の希望通り、鷲尾兼路との会談を設定したよ。これで明日彼が文化祭に顔を出すことはできない』
「ありがとう、兄さん。あの紙も貼ってくれた?」
スマートフォンで話しながら、少女は結んでいた髪を解いた。
『あぁ、今朝1年3組の教室に貼られたはずだ……それにしても、わざわざ会談を設定しなくても、姉小路家の犬なんて直接的に押さえつけることもできたのに、お前は優しいな』
「今はまだその時じゃないわ。彼にはもう少し五麟の力を引き上げてもらわないと……人が成長するためには混じり気のない本物の殺意が必要だから」
『つくづくお前を敵にしたくないよ……ただ兼路が動けないとはいえ、鷲尾家のネズミがうろちょろする可能性はあるが……』
「あら、ネズミくらい私でも十分対処できるわ。兄さんは信用していないの?」
電話越しに笑い声が漏れてきた。
『愚問だったな。戦闘能力で言えばお前は神官の中でも群を抜いている』
「兄さん大丈夫よ。明日の準備は万端だから。きっと上手くやるわ……じゃあね」
通話を終えた少女は机の上にスマートフォンを置いた。そして壁に掛けてあった黒いワンピースを手に取り、着替えを終えると隣に駒葉高校の制服を掛けた。
「さあ、舞台は整ったわ……明日が楽しみね、柊ちゃん」
少女は満面の笑みを浮かべた。
【次話】80話 文化祭と視えぬ魂胆1-秘事は睫-
5月24日(土) 22:00頃更新
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