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『マミの1980(イチキュッパ)団地狂騒曲』 #6

#6:カーテンの隙間の「アイ・マイ・ミー」

我が家(2K)の夕食の時間は、いつだって「弱肉強食」の戦場だ。
ギャンブラーの父(33歳)、どんぶり勘定の母(31歳)、大食いの兄(8歳)、自由すぎる妹(4歳)、そして私(6歳)。
この総勢5人の人間が狭いリビングのちゃぶ台を囲むとき、おかずの争奪戦は文字通り命がけの死闘になる。誰も他人のことなんて構っていられないのだ。

その日のメニューは、我が家のおかず界の絶対的王者、鶏の唐揚げだった。

テレビからはプロレスのあのテーマ曲が流れている。
お兄ちゃんはマッハの速度で唐揚げを口に放り込んでリスのように頬を膨らませ、お父さんは「これこれ、この苦味が最高なんだよ」とビールをあおり、お母さんはまだ手つきのおぼつかない4歳の妹の口元を忙しそうに拭いている。

そんな喧騒の真っ只中、私はふと、肌に刺さるような奇妙で強烈な「視線」を感じてピタッと箸を止めた。

部屋の明かりが外に漏れないよう、一応閉め切ってあるはずの大きな掃き出し窓。
その中央の、カーテンとカーテンが合わさる真ん中の部分が、ほんの数センチだけ、不自然にめくれて隙間が開いている。

何気なくそこを見上げた瞬間、私の心臓が「ドキン!」と大きな音を立てて跳ね上がった。

夜の闇に紛れるようにして、少し開いたカーテンの中央の隙間から、ギョロッと片目だけを極限まで見開いた人間の「生々しい目」が、こちらをじっと覗いていたのだ。
白目の部分が室内灯に反射してギラリと光っている。
1階の平屋だから、部屋に上がる時に階段のように使っている外の木製の台に立っている奴の顔が、すぐそこにある。
(ひ、人がいる……!)

恐怖のあまり、指先が凍りついたように動かなくなった。
頭の中が真っ白になり、声を出そうにも喉の奥がカラカラに乾いて、ヒィッという小さな引きつった空気の音しか出ない。

私は必死で、隣で凄まじい勢いでキャベツと唐揚げを咀嚼しているお兄ちゃんに、肘で「ツンツン! ツンツン!」と強めの合図を送った。助けて、お兄ちゃん、あそこを見て。

しかし、お兄ちゃんはテレビのプロレスに完全に魂を奪われていた。
「 マミ、肘が当たって痛いよ。唐揚げならもう皿の上に残ってないぞ。俺が全部キープしたからな」
「違う、唐揚げじゃない、そっちじゃない……!」

と心の中で叫ぶが、お兄ちゃんは私の人生最大の危機に全く気づかない。
お父さんもお母さんも、唐揚げを食べながらプロレスに夢中でこちらを見ない。

このままでは、あのギョロ目に我が家のプライベートを観察され尽くしてしまう。

私はお腹の底から、なけなしの勇気をこれでもかと振り絞り、ちゃぶ台を両手で叩くようにして声を張り上げた。

「だ、誰か、のぞいてるーーーーーーっ!!!!」

私のその引き裂くような叫び声が、狭い2Kの部屋の中に響き渡った。
すると次の瞬間、カーテンの中央の向こうから「ウワァッ!?」という、覗き魔自身の情けない裏返った悲鳴が聞こえた。

どうやらあいつも、まさか6歳児にこれほどの爆音で看破されるとは思っていなかったらしい。
私の声に完全に肝を冷やした覗き魔は、そこから大パニックを起こし、ドタバタと音を立てて一目散に外の通路へと逃げ出し始めた。

それと同時に、我が家のリビングの時も完全に止まった。
お兄ちゃんは唐揚げを口に入れたまま目を見開いてフリーズし、お母さんはお茶碗を持ったまま固まり、妹は持っていたスプーンをポロッと落とした。

唯一、野生の獣並みの速度で反応したのが、昭和の頑固親父・お父さんだった。

「なにぃーーーっ!? どこだ!!」

お父さんはビールのコップをちゃぶ台にドスンと置くと、私の恐怖に引きつった目線を瞬時にトレースし、まるで獲物を見つけたヒョウのような瞬発力で窓へと飛びかかった。
一段上がった1階の掃き出し窓。お父さんは勢いよくシャーーーッ!と中央のカーテンを開け放った。

そこには、我が家の室内灯に照らされながら、必死の形相で団地の中庭の植え込みへと走っていく、見知らぬ男の背中があった。

「おらぁーーーっ! 待ちやがれ変態野郎!! 逃がすかよ!!」

お父さんは工場勤めの職人の血(とビールの勢い)が完全に爆発したのか、靴を履く時間すら惜しいとばかりに、なんと裸足のまま、掃き出し窓から夜の外の地面へとダイレクトに飛び出していったのだ。

「お、お父さん!? 裸足よ!? 泥棒泥棒!」とお母さんがようやく正気に戻って目を丸くして叫ぶが、お父さんは「オラァッ! 待てや!」と夜の団地中に響き渡る怒号をとどろかせながら、ものすごいスピードで暗闇の中へと消えていった。

残された私たちは、ただただ呆然とするしかなかった。
お兄ちゃんは口の中の唐揚げをようやくゴクンと飲み込み、「覗き魔……? 俺のカウンタックをまたぼっとんに落としに来たのかな……」

と、まだ少しピントのズレたことを呟いている。お母さんは慌てて、玄関の鍵が閉まっているかを確認しに走った。

数分後。
夜の静寂を取り戻した2Kの部屋に、ガラガラと掃き出し窓を開けてお父さんが戻ってきた。
その肩は、ゼイゼイと呼吸をし、絵に描いたようにガックリと落ちている。そして足の裏は、団地の中庭の土やアスファルトを直接爆走したせいで、笑えるくらい真っ黒に汚れていた。

「チッ……、あと一歩のところで、外の道路の暗がりに逃げられたわ。足の裏が痛くてスピードが出んかった」

お父さんは悔しそうに床に座り込み、お母さんから渡された濡れ雑巾で「痛てて」と言いながら足の裏をゴシゴシと拭いた。

私はまだ怖くて、お母さんのエプロンの裾をギュッと握りしめながら、お父さんを見上げた。

「お父さん……逃げられたってことは、あのギョロ目、また我が家に帰ってくるの……?」

するとお父さんは、真っ黒になった雑巾をポンと床に放り投げ、いつものギャンブラー特有の、根拠のない頼もしい笑顔を作って言った。

「安心しろマミ。しばらくは絶対に、あいつは来ないから大丈夫だ」
「……しばらくって?」

私が不思議そうに首を傾げると、お父さんはフッと鼻で笑って、胸を張った。

「いいか。あいつはな、お前の声にビビって逃げた瞬間、背後から何を見たと思う? 髪の毛を振り乱した裸足の親父が、窓から直接飛び出してきて、般若みたいな鬼の顔をしてものすごい雄叫びを上げながら夜道を追いかけてくるんだぞ? あいつにとっては、ちょっと覗きに入った先が『恐怖の館』だったようなもんだ。
今頃、自分の家に逃げ帰って、腰を抜かして震えてるさ。我が家を覗く方が命がけだって身に染みたはずだ」

「確かに、お父さんのあの時の顔は、覗き魔より10倍くらい怖かったわねぇ……」とお母さんが妙に納得したように頷く。

お兄ちゃんにいたっては、「あいつ、今度来たら俺のハイターで白くなったカウンタックを見せつけて威嚇してやる」と、独自の防犯対策を練っていた。

お父さんの「恐怖の裸足、窓から特攻アタック」のおかげで、我が家のぼっとん便所に続く第二の恐怖スポット(夜のカーテンの隙間)は、ひとまず守られたのだった。

その日の夜。
大騒動で冷めきった唐揚げを食べ終え、部屋を片付けた後、私たちはいつも通りリビングに5人で布団をギチギチのテトリス状態にして敷き詰めた。

私は何度も何度も、掃き出し窓の中央のカーテンがちゃんと1ミリの隙間もなく重なり合って閉まっているかを確認してから、お布団に潜り込んだ。

「マミ、大丈夫だって。もしまた来たら、今度はお兄ちゃんが唐揚げの骨を武器にして戦ってやるからな」
お兄ちゃんが暗闇で頼もしいのかよく分からないことを言う。

足元からは、不審者を裸足で撃退した我が家のヒーローの、地響きのような爆音のいびき。横からは、戸締りを何度も確認していたお母さんの規則正しい寝息。

しばらくは来ない、の「しばらく」がどれくらいの期間かは分からないけれど、我が家にはあの窓から飛び出す最強に狂暴で頼もしいお父さんがいる。

ぼっとん便所も覗き魔も死ぬほど怖いけれど、この5人がギュッと固まっていれば、どんな恐怖も最終的には笑いに変わってしまう。
この狭くてうるさい我が家が、私はやっぱり心から大好きなのだった。

(#6・了)
この小説はノンフィクションです。

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