【宗次郎アルバムレビュー④】1995~1997年『光の国・木かげの花』『Japanese Spirit』『愛しの森 a-moll』
オカリナ奏者・宗次郎さんのオリジナル・アルバム作品のレビュー記事。
第4回の今回は、1995~1997年に発表の『光の国・木かげの花』『Japanese Spirit』『愛しの森 a-moll』を紹介します。
(↓前回・第3回の記事や、宗次郎さんのCD総目録も、ぜひご参照ください)
◎第13作『光の国・木かげの花』(1995)
編曲担当の坂本昌之氏の音楽性が前面に出た曲もある、宗次郎作品の中で最もリズミカルでポップな曲調のアルバム
発売日:1995.9.20(ポリドール)
プロデュース:宗次郎
作曲:宗次郎
作曲:坂本昌之(①④⑤⑩)
編曲:坂本昌之
①光の国
坂本昌之さん作曲作品。メロディーラインは日本的・アジア的だが、ドラムのビートが効いた、かなり賑やかな編曲・アレンジとなっている。
実質的には、“坂本昌之featuring宗次郎”というべき作品。
ここまで、ドラムサウンドを強調したポップな曲調は、アルバム『ハーモニー』&『ヴォヤージ』以来となる。演奏楽器も二胡(中国の弦楽器)やボイスも取り入れられ、エスノ・ポップ(民族音楽調のポップ音楽)な雰囲気が漂う。宗次郎さんのアルバムで、人の声(コーラス、歌声など含めて)が入ったのは、この曲が初めて。
自然三部作や、アコースティックで静かな宗次郎さんの作品に聴き慣れたリスナーは、初めてこのアルバムを聴いた際、賑やかでリズミックなアレンジに戸惑ってしまうかもしれない。(実際、自分も最初、戸惑い驚いたのを覚えている)
~光の国への旅~
②悲しみの星から
2曲目から4曲目は『光の国への旅』と題された組曲仕立て。
1曲目で、思い切りポップなサウンドに度肝を抜かれた方は、2曲目と3曲目の、ある意味、従来の宗次郎さんらしい静かでおとなしい曲調に、ホッとしたことだろう。
「悲しみの星から」は、そんな宗次郎さんならではのメロディーラインや、音色を堪能できる内省的な雰囲気の作品。
③月まで歩いて
個人的に、このアルバムで一番のお気に入りの曲。
まるで、グノーのアヴェ・マリアを思わせるかのような、美しいハープのアルペジオ(分散和音:ハープやギターによる伴奏でよく使われる技法)にのって、オカリナが優しく爽やかなメロディーを奏でる。「月まで歩いて」というタイトルではあるが、優しく柔らかな月の光に照らされて、和んでいるかのような、とても穏やかな気持ちにしてくれる美しい作品。
人それぞれ好みもあるかと思うが、やっぱり自分は、こういう感じのゆったりとした、さわやかな宗次郎さんの曲が一番好きだったりする。
④光の国への旅
宗次郎さんと坂本昌之さんの共同作曲作品。約9分にも及ぶ大曲。
シンセサイザーによるミニマル風サウンド(短い音型を繰り返すタイプのサウンド)に始まり、ヴァイオリンやオカリナが短めのフレーズを繰り返しながら、基本形のベースとなる音型が移り変わっていく。後半はドラムが迫力あるサウンドを奏でて、賑やかに盛り上がって行く。
全体的には、坂本昌之さんの作風が強く出た曲と言え、特に後半は、1曲目と同じく派手目でポップな曲調となっている。
約9分という、宗次郎さんの曲の中では最も長い時間の作品ではあるが、曲の構成が多彩な感じなので、リスナーに飽きさせず、聴いていてそれほど長いとは感じない。
⑤光の花
当時隆盛を誇っていたダンスビートを、大胆に取り入れた曲。坂本昌之さんが作曲。
坂本昌之さんの作風が前面に出たダンスポップな曲で、このアルバムのみならず、全宗次郎作品の中でも、最もリズミカルでダンサブルな曲と言える。(ちなみに、宗次郎さんの曲でダンスのリズムを使った曲は、他にもアルバム『Ocarina Wind Family』の「Ocarina Dance」があるが、それよりもこちらの方が賑やかな作品となっている)
アコースティック(生楽器のサウンド)の静かで素朴な宗次郎さんの曲の方が好きな方は、このタイプの曲はちょっと苦手に思われるかもしれない。
オカリナで、こんなタイプの曲も吹けるという例としてはユニークな作品と言える。
話は変わるが、以前、何年か前に京都の西陣を通りかかった際、着物のファッションショーのBGMで、この曲が使われていた。割と派手めの曲なので、たしかにショーとかで使われても、合うかもしれないなと思った。
⑥平和の国で
民族音楽っぽいサウンド・アレンジと、6拍子系のメロディーが印象的。
最初に聴いた時は、派手な曲が多いこのアルバムの中では地味な印象で、もう一つ心に残らなかったが、聴けば聴くほどに味が出てくるスルメ曲タイプの作品と言える。
途中の、ハ長調に転調するところのメロディーが美しい。
(転調とは曲の中で基本となる調が変わること。例えばイ短調からハ長調に転調…など。転調すると曲の雰囲気に変化をつける効果がある)
⑦木かげの花
どこかフォルクローレ(南米アンデスの民族音楽)風な雰囲気の曲。
(宗次郎流フォルクローレという意味で、自分は“ソウジローレ”と呼んでいたりする)
タイトルからすると、しんみりした感じの曲を想像してしまいそうだが、なかなか賑やかで楽し気な曲である。
⑧遠い星を超えて
前奏・イントロのマリンバ(木琴)系の音が印象的。
メロディーもアレンジも、かなりポップでキャッチーな曲調を志向しているように思えるが、宗次郎さんの曲としては、やや軽薄で安直な印象を受ける。
⑨土に還る日
オカリナのみによる多重奏の曲。
このアルバムには、ドラムやビートが多く入った曲が多いので、その中でこの曲は“静”を感じられる曲として、強い存在感を発揮している。
低音管から高音管まで、色々と使われているので、様々な大きさのオカリナの音色を比較しながら聴くこともできる。
⑩紫陽花
坂本昌之さん作曲作品。「光の国」や「光の花」と異なり、この曲はしっとりとしたバラードとなっている。
雨にしっとりと濡れている、紫陽花をイメージしているかのような、しんみりとした雰囲気の曲。
⑪夢の国
このアルバムの最後をしめくくる曲だが、ドラムの音を強調した派手めのアレンジとなっている。
タイトルからすると、メルヘンチックな曲をイメージしてしまいそうだが、実際はロック・テイストな曲となっている。
2年後の1997年発売のライブ・アルバム『acostic world 42』に、同曲が収録されているが、こちらは大塚彩子さん編曲によるアコースティック・アレンジ・バージョン。個人的には、そのアコースティック版の方が好みだったりする。
<総評>
自然三部作を経て、『鳥の歌』『もうひとつのクリスマス』と2枚のカバーアルバムを発表した後に、2年ぶりに発売されたオリジナル・アルバム。
“光と陰”がモチーフとなっているようだが、『木道』以降の宗次郎さんセルフ・プロデュース・アルバムの中で、唯一、宗次郎さん以外の人(坂本昌之さん)がアルバム中、数曲の作曲を手がけている作品。
“光”を描いた曲を坂本昌之さんが(「光の国」「光の花」)、“陰”を描いた曲を宗次郎さんが(「木かげの花」「土に還る日」etc.)作曲しているのが興味深い。中でも坂本さんが作曲した、特に1曲目や5曲目は、かなりポップな曲調で、坂本昌之feat.宗次郎と言ってもいい作品。
全体的にリズミカルでポップな作風であり、ある意味、宗次郎さんのアルバムの中で最も派手なアルバムである。
宗次郎さんの普段の音楽性や作風からすると、このアルバムは異色作として強い個性を持った作品と言える。その分、“クセが強い”アルバムなので、好みは分かれる作品と言える。
これはあくまで推測なのだが、自然三部作と2枚のカバー・アルバムを一緒に創り上げた後、宗次郎さんと坂本昌之さんの間で、表現したい音楽の方向性や音楽性に相違が出てきたのではないかと思う。そういった齟齬から、本作を二人でタッグを組む最後の作品と位置づけ、今までの感謝も込めて、宗次郎さんが坂本さんに数曲作曲を任せて、編曲も含めて、ある程度自由に作ることを認めた可能性があるのではないだろうか。
真偽のほどは定かではないが、本作を最後に、その後二人が一緒に仕事をすることはなかった。
ちなみに、宗次郎さんの元を離れた坂本昌之さんは、後に、主にJ-POPのアレンジャーとして活躍し、2004年には、平原綾香さんの「Jupiter」で、日本レコード大賞編曲賞を受賞された。
☆YouTube:宗次郎Topicチャンネルより
試聴動画:『光の国・木かげの花』全11曲・再生リスト
「光の国」(1曲目)
「月まで歩いて」(3曲目)
「光の花」(5曲目)
「土に還る日」(9曲目)
☆以下のサイトで、全曲試聴およびダウンロード購入ができます。
レコチョク
◎第14作『Japanese Spirit』(1996)
映画『良寛』のテーマ曲を含む、日本の郷愁や“和”のこころを感じさせる作品
発売日:1996.9.20(ポリドール)
プロデュース:宗次郎
作曲:宗次郎
編曲:大塚彩子
①夢
大塚彩子さんによる、ストリングス(バイオリン類の弦楽器によるアンサンブル)の編曲・アレンジが素晴らしい傑作。宗次郎さん作曲の流麗でさわやかなメロディーも秀逸。さわやかさだけでなく、スケール感も感じられる作品となっている。
とても抒情的な曲で、聴いていて前向きな気持ちにしてくれる、美しい作品。
前半のゆったりとした曲調と、後半のストリングスによる動きのある曲調の対比が見事。
②Japanese Spirit(TAKIO ver.)
宗次郎さんの楽曲で、初めて歌詞のある“歌”が収録された作品。
歌うのは、民謡歌手の伊藤多喜雄さん。
日本の追分を思わせるような、民謡風のメロディーを、とてもハリのある声で歌いあげておられる。(伊藤多喜雄さんと言えば、2003年の紅白歌合戦で、ダイナミックなソーラン節を歌っておられたのが記憶に残っている)
楽曲後半は同メロディーを、宗次郎さんのオカリナが朗々と奏でる。
日本の美しい山々や心のふるさとを感じさせるような、素晴らしい作品。雄大なスケール感のあるアレンジも見事。
楽曲の最後は、“手毬歌”のテーマが静かに奏でられて、しんみりとした郷愁を残して曲は終わる。まさに“侘び寂び”の境地。
③舟歌
オカリナソロの曲。日本の民謡、例えば追分や馬子唄を思わせるような民謡調のメロディーの曲。
船頭が舟をこぎながら歌っている…そんな情景を表現しているかのよう。
思えば、これまでの宗次郎さんの曲は、日本的な曲はかなりあったものの、ここまで民謡調の曲というのはあまりなかった。
オカリナの音色と、日本の民謡の相性が高いということの証明になっている。
④涙
チェロのむせび泣くかのような音色が印象的。オカリナとチェロのデュエット曲。
弦楽とオカリナの1対1のデュエットというのは、これまでのアルバムには無かったスタイル。デュエットというのは、合奏の最小単位の構成ではあるが、とても味わい深い演奏となっている。
後の『オカリナ・エチュード3~デュエット』へと繋がる伏線となっていると言えるかもしれない。
⑤わらべ唄(月の兎)
郷愁感あふれる、愛らしい童歌を彷彿とさせる、宗次郎さん流の童謡・わらべ唄と言える。
“月の兎”と言うサブタイトルが付けられているが、そこから「う~さぎう~さぎ~」の歌詞の童謡を連想される方もおられるかもしれない。(その曲とは違う旋律の曲)
ハープの音をふんだんに使ったアレンジが見事で、アコースティック(生楽器のサウンド)で優しい音色が心地良い、素朴な風情を感じられる作品。
⑥空(くう)
この曲のタイトル“空”は、仏教での空(くう)を表したものと思われる。このアルバム自体、映画『良寛』(松本幸四郎さん主演の日本映画。1996年公開作)の関連作でもあるので、良寛和尚の“無我のこころ”を表現した曲なのかもしれない。
ストリングスの豊かな音色により、映画音楽的な、ドラマチックなサウンドを味わうことができる。
聴いていて、おおらかな気持ちになれる優しい曲。
⑦手毬歌(TAKIO ver.)
2曲目「Japanese Spirit」につづく、歌入りの作品。2曲目と同じく伊藤多喜雄さんが、郷愁感あふれる“手毬歌”のテーマを歌っておられる。
2曲目では、とてもハリのある歌声を披露された伊藤多喜雄さんだが、この曲では、とても優しく素朴さ溢れる歌声で、子供たちと一緒に歌っておられる。
その慈愛に満ちた歌声は、まさに良寛和尚そのもの。子供たちを愛し、童心を大切にした良寛和尚が、童たちと手毬をついて遊んでいる姿が、目に浮かんでくるかのよう…。
聴いていると、とても懐かしいような気持が湧いてくる、風情のある名曲。
⑧夢見る少女
ストリングスのピチカート(弦を指ではじく演奏)を効果的に使ったアレンジが秀逸。
オカリナと弦楽という、シンプルな編成の曲だが、愁いを帯びた曲調を表現するのに、ピッタリな楽器編成と言える。
曲自体は必ずしも日本的な旋律というわけではなく、むしろ西洋音階による曲だが、切なくも美しい3拍子系の曲で印象深い。
⑨あした
大塚彩子さんによる、透明感のあるピアノの音色が印象的。
この曲は4拍子の部分と、6拍子の部分の、大きく分けて2つの部分から構成されているが、6拍子の所のメロディーが、大層、抒情的で美しい。
悲しいことがあった日でも、“あした”は良いことがきっと起こる…そんな希望を忘れずに、日々を大切に生きて行きたいと思う。
⑩天上大風
“天上大風”とは、子供達から凧に字を書いてほしいと頼まれた良寛和尚が、その凧に書いたと伝えられる言葉。
この曲でも、ゆったりとした和の響きが心地良く響く。“天衣無縫”な良寛和尚のこころを表現しているかのよう。
マリンバ(木琴)のほか、タブラ(インドの打楽器)など民族楽器・エスニックな楽器の音が効果的に使われ、オカリナやバイオリンの音と見事にマッチしている。
⑪手毬歌
7曲目のインスト(器楽演奏)のバージョン。伴奏アレンジは7曲目と同じで、歌だった所を宗次郎さんのオカリナで演奏している。
琴とオカリナの音色は、とても相性が良いということを、この曲が物語っている。“和”の風情が感じられる素晴らしい作品。
昔に、幼かった頃に聴いたことがあるような、そんな日本人の琴線に触れる、郷愁に満ちたメロディーが秀逸。
以前、このアルバムが出た頃だったと思うが、ピアニストの西村由紀江さんが司会を務めるTVの音楽番組に、宗次郎さんがゲスト出演していたことがある。その際に、この曲を披露された。
演奏中、じっと耳を傾けておられた、番組レギュラーの作曲家・宮川泰さんが、演奏が終わった後に宗次郎さんに話しかけられて、「これって、宗次郎さんが作曲されたんですか?めっちゃ、ええなあ…。これは、ええわ~。」と、感動しておられたのが記憶に残っている。
⑫Japanese Spirit
2曲目のインスト・バージョン。伴奏アレンジは2曲目と同じ。伊藤多喜雄さんが歌っておられた所を、低めの音域のオカリナで演奏されている。
伊藤多喜雄さんの唄のバージョンもいいのだが、やはり宗次郎さんのオカリナ演奏による「Japanese Spirit」は、本当に素晴らしい。まさに、“日本のこころ”を表現した傑作。
宗次郎さんが作曲する日本的なメロディーラインは、どちらかと言うと抒情歌・童謡唱歌的な響きが感じられるが、この曲はまさにその典型で、古き良き日本の風情が、心に伝わってくるメロディーである。
大塚彩子さんのアレンジも見事で、曲調が変わる所での太鼓の音の使い方や、格調高いストリングス・アレンジなど、実に“上手い”アレンジを堪能できる。聴き応えのある素晴らしいアレンジとなっている。
この曲は残念ながら、コンサートではほとんど演奏されることがない曲だが、ぜひ、ストリングス・オーケストラをバックに、生演奏で聴いてみたいと思える名曲である。
<総評>
以前書いた記事(『喜多郎と宗次郎~似てる?似てない?徹底比較!!』)で紹介したことなのだが、宗次郎さんのアルバムは、担当する編曲家によって大きく作風が変わることがある。その例を最もよく示しているのが、前作『光の国・木かげの花』と今作『Japanese Spirit』。
『光の国・木かげの花』では、坂本昌之さんによるポップで、ドラムサウンドをふんだんに使ったリズミカルな作風だったが、宗次郎さんが坂本昌之さんとのタッグを解消し、次に組んだ大塚彩子さんにより、本作『Japanese Spirit』は格調高い、アコースティックな作風となっている。
わずか一年違いのアルバムだが、大きく作風が異なるアルバムとなった。
また、大塚彩子さんとは、翌年発表のライブアルバム『acostic world 42』と次作『愛しの森a-moll』でもタッグを組むが、それ以降のアルバムにも、この頃に生み出された“格調高い”“アコースティック路線”の作風が、宗次郎さんのアルバムのメインの作風として受け継がれており、そういったことから、本作『Japanese Spirit』は、『木道』以降の宗次郎さんセルフ・プロデュース作品において大きな転機、ターニングポイントとなった作品と言える。(個人的には、坂本昌之さんのアレンジより大塚彩子さんのアレンジの方が好きだったりする。宗次郎さんのオカリナの音色にとてもよく合うアレンジだと思う)
『Japanese Spirit』では、日本的な郷愁や日本の心を大きなテーマとしているが、これまでの作品以上に、“和”の響きを追求した作品となっている。
宗次郎さんが描く“和”の響きは、例えば“京都”のような雅な世界観ではなく、むしろ、“雪国(東北や北陸のような)”や“山里”といった、素朴な心を感じられる日本を描いていると言える。
それは、本作が映画『良寛』の関連作ということで、良寛和尚が生きた越後の風景にインスパイアされているところも、あるのかもしれない。
いずれにせよ、“Japanese Spirit=日本の心”が呼び覚まされる、すべての日本人に聴いてもらいたいと思える美しいアルバムである。
本作は宗次郎さんのアルバムの中では、必ずしも代表作と言われることもなく、1曲目の「夢」以外の曲はコンサートでもあまり取り上げられることもなく、どちらかと言うと地味な存在なのだが、もっと評価されるべき名作だと考えている。
☆YouTube:宗次郎Topicチャンネルより
試聴動画:『Japanese Spirit』全12曲・再生リスト
「夢」(1曲目)
「天上大風」(10曲目)
「手毬歌」(11曲目)
「Japanese Spirit」(12曲目)
☆以下のサイトで、全曲試聴およびダウンロード購入ができます。
レコチョク
◎第15作『愛しの森 a-moll』(1997)
屋久島の森をモチーフに、森に生きる生命への慈しみが感じられる作品。
発売日:1997.9.26(ポリドール)
プロデュース:宗次郎
作曲:宗次郎
編曲:大塚彩子
①愛しの森 a-moll
シンプルだが、力強いメロディーが印象的で素晴らしい。
屋久島に生きる、生命の躍動を感じられるような作品。パーカッション(打楽器)とストリングス(バイオリン類のアンサンブル)を融合させた、大塚彩子さんによる編曲・アレンジも秀逸。
2015年の40周年コンサートでこの曲が演奏された際、前奏・イントロがバンドメンバー全員によるパーカッション演奏で、その中を宗次郎さんが登場して、この曲のメロディーを奏でるという演出になっていたのが、記憶によく残っている。
宗次郎さんの作品の中でも、屈指の名曲。聴いているとパワーが湧いてくる感じがする。
②Kiccoryの涙
イントロの、雨の雫を思わせるような音型が印象的。
屋久島と言えば、“雨”のイメージがあり、このアルバムでも雨をモチーフにした曲が何曲かある。
この曲は、タイトルには“雨”というワードは、直接的には含まれてはいないが、静かなメロディーに耳を傾けていると、ヤクシカが雨に濡れながら、森の木々のすき間に見える空を、見上げているような…そんな情景が目に浮かんでくる。
この曲は、宗次郎さんと交流があり、宗次郎さんが屋久島を訪れた際に案内役をされた、高田久夫さんという方に捧げられた曲だそうだが、屋久島の森で働いてこられた高田さんへの、宗次郎さんの感謝の思いがこもっている曲なのかもしれない。
③森のダンス
これまでもアルバムにも度々あった、軽快なメロディーの舞踊曲風の作品。
ホ短調の曲ながら、スタッカート(音を短く切って歯切れよく演奏する方法)を多用したメロディーで楽しい雰囲気。屋久島の森に宿っている精霊(もののけ姫のコダマみたいなの)たちが、楽しそうにダンスしているような光景が思い浮かぶ。
④雨の日は寄り添って
雨の中、木の上でサルたちが身を寄せ合っている様を、モチーフにした曲らしいが、日本的なメロディーラインがとても美しい曲。
イントロや、オカリナのバックの伴奏が、古いわらべ唄を思わせるようなメロディーになっているのが印象的。
⑤森にひとり
重厚で、とても深みのある作品。
内向的・瞑想的な感じのメロディーを、オカリナの澄んだ音色が奏で、ストリングスがユニゾン(同じメロディーを別の楽器が一緒に演奏すること)で支えるアレンジが秀逸。
後半は、ストリングスが付点のリズムによる、躍動的なサウンドを奏で、ドラマチックに楽曲が展開していく構成が素晴らしい。格調のある作品となっている。
⑥子守歌
ハープの音色が心地良く響く、温かく優しい雰囲気の曲。
ゆったりとしたオカリナのメロディーは、まるで森の中で木漏れ日に包まれているかのよう…。タイトル通り、まさに子守歌を思わせる、静かで安らかな曲。
⑦雨の日はもっと寄り添って
3拍子系の悲哀に満ちたメロディーを、オカリナ、ピアノ、ストリングスの編成で美しく奏でられる。
タイトルが似てはいるが、4曲目とは全く異なるメロディーの、別個の作品。
イメージとしては、4曲目の雨は音を立ててサァーと降っている雨だとしたら、この7曲目の雨は、霧雨のように音もなく静かに降っている雨を連想する。
⑧エンサールの森
さわやかで優しいメロディーが印象的な良曲。
コンサート時の宗次郎さんのMC(曲間のトーク)によると、屋久島の森に住むサルの家族が、仲睦まじく暮らしている様をイメージした曲とのこと。
慈しみにあふれた、抒情的な曲調で、屋久島の森の恵みのイメージを、音楽から感じとることができる。
⑨太陽と月に照らされて
3拍子(もしくは遅めの6拍子?)のゆったりとした前半と、5拍子の動きのある後半部の2部に、大きく分けることができる。(ちなみにハープのみのイントロは4拍子と思われる)様々な拍子が使われている曲だが、8分の5拍子の曲は珍しい。
独特なリズムを楽しめる作品。
なお、アコーディオンのcobaさんが、アルバム『水心』『鳥の歌』以来となる、宗次郎さんの曲への参加となっている。
⑩夜の森から
タイトル通り、夜想曲といった趣の曲。
オカリナとヴァイオリン、チェロという、室内楽的な編成。
静かでゆったりとしたパートと、軽快で速いテンポのパートに大きく分けられる。速いテンポの所のメロディーが、ちょっとロシア民謡っぽい。また、全体的にクラシック曲のような曲調となっている。そのせいか、このアルバムの中で、この曲だけ少し異色な感じがする。
<総評>
前作『Japanese Spirit』につづき、本作も大塚彩子さんがアレンジを担当されたことで、ストリングスなど生楽器系・アコースティックな響きをふんだんに使った曲調を、今作でも味わうことができる。
屋久島の森がテーマとなっており、宗次郎さんが屋久島で見たり感じたりした風景や心象が、音楽を通して伝わってくる。まさに、森のイオンを音で感じられるような美しいアルバムである。
中でも、「愛しの森a-moll」と「エンサールの森」は、屋久島の森が持つ“動”の部分と“静”の部分を、それぞれ見事に表現した傑作と言える。
このアルバムが発表された1997年は、おりしも、太古の森をテーマにしたアニメ映画『もののけ姫』が公開され、大ヒットしていた時期で、劇中の森のモデルの一つである屋久島に注目が集まっていた。そういう意味では、当時、非常にタイムリーなテーマを扱ったアルバムだったと言える。
屋久島を訪れた宗次郎さんは、遠く縄文時代から生き続けている巨木の数々を見上げたことだろう。そして、遥かないにしえ・縄文への郷愁を感じられたかもしれない。
『愛しの森a-moll』の次が、縄文をテーマにした『まほろば』になったことは、自然な、そして必然的な流れだったと言えるのではないだろうか。
そういった観点から、宗次郎さんのアルバムの制作順に着目すると、今作『愛しの森a-moll』は、次作『まほろば』への伏線と見ることもできる。
☆YouTube:宗次郎Topicチャンネルより
試聴動画:『愛しの森 a-moll』全10曲・再生リスト
「愛しの森 a-moll」(1曲目)
「森にひとり」(5曲目)
「エンサールの森」(8曲目)
「太陽と月に照らされて」(9曲目)
☆以下のサイトで、全曲試聴およびダウンロード購入ができます。
レコチョク
次回の<宗次郎アルバムレビュー>の第5回目では、1998~2000年に発表された『まほろば』『あゆみ』『天空のオリオン』を紹介します。
どうぞお楽しみに!
