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彼氏が「帰らないで」と私に駄々をこねて


 「駄々をこねる」とは。子供が甘えてわがままを言う、拗ねるなどして自分の要求を通そうとすること。
 失礼。思わずチャットAIに聞いてしまった。
 


 というのもが週に一度、恋人であるツヅルの家に泊まりに行き、バタバタと朝の支度をする中。
 ねずみ色の空が連れてきた眠気にあっさり負け、まだベッドから動けない彼が決まって
ジュリぃー。今夜も来るよね?」
と甘えて鼻にかかった声で言うのだ。


 ──こちとら急ぎながらでも出来るだけ丁寧にマスカラを塗っているのに、お前は昨日を延長しようとしているのか(せめてその無駄に重たい掛け布団を剥いで起き上がってくれ)。


 「食材もうないよ、誰が夕飯作んの」
 「俺! カレーだったら任せて。ね、ね、会いたい」
 呆れて振り返ると、絵文字で例えるならまさに「ぴえん」状態のツヅル(しかも鼻炎持ち)が私を見つめていた。
 


 さながら飼い主を待つ犬のごとく、目を潤ませて(大きな欠伸を噛み殺したから)。
 自身の可愛らしさを自覚した上での言動、非常に苛立つ。


 「勘弁してよ」
 感情的なツヅルとは違う私はくるりと背中を向け、支度の続きに取り掛かる。
 メイクポーチのチャックを閉めた後に口紅を塗り忘れたと気づき、しばし頭を抱えた。

 
 
 ツヅルは鏡越しになおも私を目で追っている(油汚れのようにしつこい)。
 いっそマスクをしてしまえば口紅など関係ないか、と閃いて立ち上がった。


 「遅刻するでしょ、さっさと準備しな。……ちなみにカレーうどんの気分」
 同時に吐き出した言葉を聞いた彼が、両手を伸ばして私を自分の唇に引き寄せる。


 「ジュリちゃん大好き。ちゅーしていい?」
 「知ってる。ここでわざわざ聞く?」


 心に大輪の紫陽花が咲いた。
 愛しの彼には、一生勝てそうにない。