【5分でわかる】エビデンスベーストマーケティングとは?
「売上の8割は上位2割の顧客が作る。だから優良顧客を大切にしよう」
「競合と差別化しなければ、ブランドは選ばれない」
「ペルソナを細かく作って、ターゲットを絞ろう」
マーケティングを少し勉強すると、こうした話を一度は聞くと思います。
どれも直感的には正しそうです。
ところが、実際の購買データを大量に調べてみると、マーケティングの「常識」とは少し違う景色が見えてきます。
そこで登場するのが、エビデンスベーストマーケティングです。
名前は少し難しそうですが、考え方はそれほど難しくありません。
「それっぽい話を信じる前に、本当にそうなのかデータで確かめよう」
乱暴に言えば、これだけです。
エビデンスベーストマーケティングとは?
エビデンスベーストマーケティングとは、個人の経験や成功事例だけではなく、研究や実証データを使ってマーケティングを考えるアプローチです。
代表的な研究機関が、オーストラリアのEhrenberg-Bass Institute for Marketing Scienceです。
同研究所は世界各国のブランドや購買行動を研究し、マーケティングにおける「事実」と「もっともらしい通説」を区別することを掲げています。
例えば、
「この会社はファンを大切にして成功した」
という成功事例があったとします。
確かにそうかもしれません。
でも、本当にファン施策が成長の原因だったのでしょうか。
同じ時期に広告を増やしていたかもしれません。販売店舗が増えていたかもしれません。市場そのものが拡大していた可能性もあります。
成功した会社を一社見るだけでは、何が本当に効いたのかは分かりません。
そこで、多くのブランド、多くのカテゴリー、多くの期間を観察して、
「繰り返し同じ現象が起きているか?」
を確かめます。
これがエビデンスベーストマーケティングの面白いところです。
調べてみると、マーケティングの常識がひっくり返る
例えば、「優良顧客を大切にしよう」という考え方。
もちろん、顧客を雑に扱っていいわけではありません。
ただし、
「売上を伸ばしたいなら、たくさん買ってくれる人に予算を集中しよう」
となると話が変わってきます。
購買データを見ると、ブランドの成長にはより多くの人に買ってもらうこと=浸透率(一定期間に市場の中で1度でもそのブランドを使った人の割合)を高めることが強く関係しています。
しかも、世の中には毎週その商品を買うようなヘビーユーザーより、「たまに買う人」が大量に存在します。
大きなブランドほど、そうしたライトユーザーも含めて多くの買い手を持っています。
だから、「上位顧客だけを狙えば効率がいい」と単純には言えません。
もう一つあります。
「ターゲットを絞ろう」
これもマーケティングでは頻繁に聞く言葉です。
もちろん、高級住宅を買える所得層や商圏のように、現実的な制約はあります。
しかし、根拠もなく「30代女性、都心在住、趣味はヨガ」のような人物像を作り、その人以外を広告から排除してしまえば、本来買ってくれたかもしれない人まで失います。
Ehrenberg-Bass Instituteの研究では、ブランド成長には、すでに買っている人だけではなく、まだブランドが十分に届いていないカテゴリー購入者へ広くリーチすることが重視されています。
そして、もう一つ。
「差別化しないと売れない」
これもかなり強いマーケティングの常識です。
ところが、消費者はいつもブランドを細かく比較し、「A社よりB社の機能が優れているからBを買おう」と合理的に判断しているわけではありません。
そもそもブランドを思い出してもらえなければ比較候補に入りませんし、売っていなければ買えません。
そのためエビデンスベーストマーケティングでは、
思い出してもらいやすくすること
と、
買いやすくすること
を非常に重視します。
これが「メンタル・アベイラビリティ」と「フィジカル・アベイラビリティ」と呼ばれる考え方です。
難しい名前ですが、
「頭に浮かぶ」
「手に入る」
と考えれば、それほど難しくありません。
バイロン・シャープを信じることではない
エビデンスベーストマーケティングを調べると、バイロン・シャープという名前によく出会います。
『How Brands Grow』で知られるマーケティング研究者です。
ただ、ここで一つ大事なことがあります。
エビデンスベーストマーケティングは、バイロン・シャープを信じることではありません。
むしろ、
「バイロン・シャープが言っているから正しい」
と思った瞬間、エビデンスベーストではなくなります。
研究にも条件があります。
どの国でも、どの商品でも、どんな状況でも100%同じ結果になるとは限りません。
研究で分かっていることは使う。
自社で確認できることはデータを見る。
まだ分からないことは仮説として試す。
そして結果を見て、また考える。
私はこの姿勢そのものが、エビデンスベーストマーケティングだと思っています。
明日からできることは、一つだけ
では、マーケティングの仕事をしている人が、明日から何をすればいいのでしょうか。
論文を大量に読む必要はありません。
最初は、一つだけで十分です。
誰かがもっともらしいことを言ったときに、
「それ、本当にそうなんだっけ?」
と考えてみることです。
「若者はテレビを見ない」
「既存顧客の方が新規顧客より大事」
「SNSでバズれば売れる」
「ファンを増やせばブランドは成長する」
「競合との差別化が必要」
どれも正しい可能性もあります。
でも、その瞬間に結論を出さず、一度データを探してみる。
自社の数字を見る。研究を探す。反対のデータがないか確認する。
それだけで、マーケティングの見え方はかなり変わります。
マーケティングには、正解がないと言われます。
私は半分正しく、半分間違っていると思っています。
未来の正解は誰にも分かりません。
しかし、過去に何度も失敗してきた考え方や、何度も観察されてきた規則性まで無視して、毎回ゼロから考える必要もありません。
先人が調べてくれたことは使う。
それでも分からない部分に、自分の頭を使う。
エビデンスベーストマーケティングは、難しい統計学の話ではありません。
「マーケティングの常識を、そのまま信じない」ための考え方です。
それだけ覚えて帰ってもらえれば、最初の5分としては十分だと思います。
プロフィール
マーケティング戦略コンサルタントです。
事業会社とコンサルティング会社の両方で、販売・CRM・データ分析・市場調査・需要予測・価格・広告・Webなど、マーケティングの上流から下流まで経験してきました。
このnoteでは、実務と研究を行き来しながら、仕事・キャリア・発信に使える再現性の高い考え方を紹介しています。
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自己紹介|実務とエビデンスから、マーケティングの本質を探しています
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研究はあるのに、なぜ実務には十分広がっていないのか。私がこのnoteでエビデンスベーストマーケティングを扱っている理由を書いています。
参考URL
Ehrenberg-Bass Institute for Marketing Science
https://marketingscience.info/
Ehrenberg-Bass Institute|Who We Are
https://marketingscience.info/who-we-are
Ehrenberg-Bass Institute|How do you measure 'How Brands Grow'?
https://marketingscience.info/news-and-insights/how-do-you-measure-how-brands-grow
Ehrenberg-Bass Institute|In 2017, Reach Was The Buzzword
https://marketingscience.info/news-and-insights/2017-reach-buzzword
Ehrenberg-Bass Institute|Books
https://marketingscience.info/learn-with-us/books
