凡人がマーケティングセンスを身につけるまで
今日、こんな記事を読みました。
【配属されて2ヶ月】飲料マーケティングを振り返って|海の中のポニョ
この記事の中にあった、「マーケティングは想像以上に感覚的」「この仕事で身につくスキルが少しフワッとしている気がする」という悩みを読んで、昔の自分を思い出しました。
私もマーケティングの仕事を始めた頃、同じような違和感を持っていました。数字やロジックなら勉強できるのに、「消費者感覚」や「マーケティングセンス」と言われた瞬間、急に身につけ方が分からなくなる。
もしかするとマーケティングとは、最初からセンスがある人が勝つ仕事なのではないか。そんなふうに思ったことがあります。
でも今は、少し違います。
センスの一部は、後から鍛えられる。しかも、かなり意図的に鍛えられる。
そう考えています。
センスとは「経験が圧縮された直感」ではないか
人間の思考を説明する考え方の一つに「二重過程理論」があります。
簡単に言えば、人間には素早く直感的に判断する思考と、時間をかけて意識的に考える思考がある、というものです。一般向けには前者を「システム1」、後者を「システム2」と呼ぶことがあります。
例えば「1+1は?」と聞かれれば、ほとんど考えずに「2」と答えます。一方、「17×24は?」なら、多くの人は少し考えるでしょう。
マーケティングセンスも、この直感的な判断と関係しているのではないかと私は考えています。
ベテランマーケターが広告を見た瞬間に「これは弱い」と感じる。本人にも理由を完全には説明できないことがある。
外から見ると天性のセンスに見えます。
しかし、その人が過去に何百もの企画を考え、広告を出し、消費者調査を読み、売上を見て、成功と失敗を繰り返してきたとしたらどうでしょう。
人間には、繰り返し経験した情報から規則性を学ぶ能力があります。心理学では「統計的学習」「暗黙学習」などとして研究されています。
つまり「なんとなく分かる」の中には、過去の経験と結果から学習されたパターンが圧縮されている可能性があります。
マーケティングセンスとは、才能だけではなく、過去に何を見て、何を予想し、その予想がどう外れたかという経験の蓄積でもあるのです。
凡人に必要なのは、答え合わせの量です
だとすれば、若手マーケターがやるべきことは明確になります。
答え合わせの回数を増やすことです。
広告案が3つ出てきたら、決まった案を眺めるだけではなく、「自分ならB案が一番認知されると思う」と予測してみる。
商品を発売するなら、「この訴求が最も購入につながるのではないか」と仮説を持つ。
そして結果が出たら、自分の予測と比較する。
当たったのか。外れたのか。なぜ外れたのか。
この繰り返しによって、最初はシステム2で一つずつ考えていたことが、少しずつ直感的に判断できるようになっていく。
だから若手ほど、行動量を増やすことに意味があります。
10回しか仮説を立てなかった人より、100回仮説を立てて100回答え合わせをした人の方が、システム1に蓄積される材料は多くなります。
仕事を任された数だけではありません。会議でも広告でも調査でも、「自分ならどう予測するか」を持てば、同じ仕事から得られる答え合わせの回数を増やせます。
ただし、間違った答え合わせはセンスを悪くする
ここで一つ大きな問題があります。
フィードバックは、多ければ何でもいいわけではありません。
例えばWeb広告のCTRが上がったとします。
そこで「この広告は消費者に刺さった」と学習する。
しかし本来の目的が売上で、クリックは増えたのに購入者は増えていなかったとしたらどうでしょう。
「CTRが高い広告=良い広告」という間違った答えを学習してしまいます。
これを何年も繰り返せば、経験豊富なのに間違ったセンスを持つことさえあり得ます。
心理学者ダニエル・カーネマンとゲイリー・クラインも、専門家の直感が育つには、ある程度規則性のある環境に加えて、自分の判断が正しかったかを学べるフィードバックが必要だと論じています。
だから、若手マーケターが行動量と同時に学ぶべきものがあります。
統計と因果推論です。
統計を学べば、目の前の数字の差が偶然のブレなのかを考えられるようになります。
因果推論を学べば、「広告を見た人が買った」と「広告を見せたから買った」は違う、と考えられるようになります。
高度な分析者になる必要はありません。
重要なのは、自分が受け取っているフィードバックは本当に正しいのか、と疑えることです。
行動量がセンスを育てるスピードを決め、フィードバックの質が育つ方向を決めます。
さらに、先人の答えからスタート地点を前にする
ただし、自分ですべてを一から学ぶ必要もありません。
ここでもう一つ重要になるのが、エビデンスのあるマーケティング知識です。
例えば、ブランド成長について世界中の購買データから繰り返し観察されている法則がすでにあるなら、それを知らずに100回失敗して発見する必要はありません。
先人が何十年もかけて蓄積した研究を、自分の初期仮説として使えばいい。
私はこれが、エビデンスベーストマーケティングを学ぶ大きな価値だと思っています。
何も知らない状態から、
「たぶんこうだろう」
と仮説を立てるのと、
「過去の研究ではこういう傾向が繰り返し観察されている。では今回もそうだろうか」
から始めるのでは、学習速度が違います。
良質な知識で初期仮説の精度を上げ、たくさん行動し、正しい方法で答え合わせをする。
この3つを回し続ける。
私は、これが凡人がマーケティングセンスを身につける最も再現性の高い方法の一つだと思っています。
センスがないなら、センスを育てればいい
もちろん、生まれ持った能力の個人差はあります。努力すれば誰でも天才になれる、と言うつもりもありません。
それでも、配属されて数か月の自分と、10年間マーケティングの答え合わせを続けてきた人を比べて、「自分にはセンスがない」と判断する必要はありません。
今は30分考えなければ分からないことでも、何度も仮説と結果を照らし合わせていけば、いつか数秒で違和感に気づけるようになるかもしれない。
マーケティングセンスとは、過去に何を考え、何を試し、どんなフィードバックを受け、何を学んできたかが圧縮された直感なのではないか。
だから凡人にできることはあります。
人より多く答え合わせをする。そして、間違った答えを覚えないために統計と因果推論を学ぶ。さらに、研究で分かっていることは先に知り、自分の仮説のスタート地点を前にする。
私はマーケティングを感覚だけの仕事にしたくなくて、こうした研究やデータから再現性を高める方法を学んできました。
このnoteでは、当時の自分が読みたかった「凡人でもマーケティングの意思決定精度を上げていく方法」を、できるだけ実務の言葉に翻訳して書いています。
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参考URL
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Deliberate Practice and Performance in Music, Games, Sports, Education, and Professions: A Meta-Analysis
