マーケティングとは何をする仕事? マーケターの仕事をシンプルにする定義をシェアします
「マーケティングって、結局何をする仕事なんですか?」
意外と答えるのが難しい質問です。
広告をつくる。市場調査をする。商品を企画する。SNSを運用する。CRMで既存顧客にアプローチする。価格を決める。販売チャネルを考える。
どれもマーケティングです。
大学や研修であれば、4Pなどのフレームワークを使って説明することもできます。しかし、実際に仕事をしていると、もっと根本的な疑問が残ります。
では、マーケターは結局、何をするためにこれらの仕事をしているのでしょうか。
私は最近、かなりシンプルに考えています。
消費者に価値を届けて、増分を生む。
実務家としてのマーケティングは、結局この問いを考え続ける仕事なのではないかと思っています。
「価値を届ける」だけでは仕事の成果はわからない
American Marketing Association(AMA)はマーケティングを、顧客や社会にとって価値のあるものを創造し、伝え、届け、交換するための活動やプロセスとして定義しています。
商品をつくることだけでも、広告することだけでもありません。価値をつくり、それを伝え、実際に手に取れるところまで含まれています。
私はこの考え方が好きです。
ただ、実務家として仕事をするときには、もう一つ必要な視点があると思っています。
それが「増分」です。
100人が商品を買ったとして、その100人全員がマーケティングによって生まれたとは限りません。広告を見なくても買った人、キャンペーンがなくても来店した人、メールを送らなくても更新した人が含まれているかもしれません。
マーケティング施策を実施した世界と、実施しなかった世界との差。
この差が増分です。
広告効果測定でも、ランダム化比較実験などを使って「施策によって追加的にどれだけ成果が生まれたのか」を測ろうとする研究があります。Google Researchでも、広告費に対する増分効果を因果的に評価するための実験手法が研究されています。
もちろん、すべてのマーケティング活動で厳密な実験ができるわけではありません。
それでも、
「売れたのか」
と、
「自分たちが売ったのか」
は分けて考えたほうがいい。
私はこの違いが、マーケティングという仕事を考えるうえで非常に重要だと思っています。
商品開発は「欲しい人」の増分を生む
たとえば商品開発。
マーケティングを広告や販促の仕事だと考えると、商品が完成してからマーケターの仕事が始まるように見えます。
しかし、どれだけ広告が上手でも、そもそも欲しいと思う人がほとんどいない商品を売り続けるのは難しい。
だから商品開発で考えるべきなのは、
「この商品によって、欲しいと思う人をどれだけ増やせるか」
です。
消費者が抱えている不満を解消する。今より便利にする。面倒だったことを簡単にする。楽しくする。安心させる。安くする。あるいは、それまで存在しなかった新しい価値をつくる。
商品そのものが、消費者の選択を変えます。
ここでは広告以前に増分が生まれています。
コミュニケーションは「買いたい人」の増分を生む
良い商品をつくっただけでも売れません。
その価値が消費者に伝わっていなければ、存在しないのと近い状態だからです。
そこで広告や店頭、Webサイト、営業、PRなどのコミュニケーションが必要になります。
ただし、広告を出したこと自体には価値がありません。
動画の再生数が100万回になった。広告が1億インプレッション出た。SNSで話題になった。
それらは成果につながる途中の数字ではありますが、それだけでは消費者の行動が変わったとは言えません。
考えたいのは、
「この伝え方によって、知った人、思い出した人、欲しいと思った人、買った人をどれだけ増やせたか」
です。
表現をきれいにすることも、面白い広告をつくることも目的ではありません。それによって消費者側に変化を生み出せたかが問われます。
メディアは「知る人」の増分を生む
同じ広告でも、誰にも届かなければ何も起こりません。
テレビ、YouTube、検索広告、SNS、交通広告、店頭、イベント。
媒体にはそれぞれ特徴がありますが、「どの媒体が優れているか」を抽象的に議論しても、あまり意味はありません。
自分たちが届けたい価値を、まだ知らない人にまで届けられるのか。
そこを見る必要があります。
つまりメディア設計で考えるのは、
「どこで伝えれば、このブランドを知る人や思い出す人の増分を最大化できるか」
という問いです。
すでにブランドを知っていて、すでに買おうとしている人に広告が当たれば、コンバージョンは取れるかもしれません。しかし、その人が広告なしでも買っていたのであれば、観測された売上と広告による増分は同じではありません。
数字が取れることと、新しい需要をつくったことを混同しない。
デジタルマーケティングほど、この視点は重要になると思っています。
流通は「買える人」の増分を生む
そして、欲しいと思っても買えなければ売上にはなりません。
近くの店に置いていない。ECで検索しても出てこない。欲しいサイズがない。決済方法が合わない。営業時間が短い。
こうした問題を解消することもマーケティングです。
Ehrenberg-Bass Instituteでは、ブランド成長を考える重要な概念として「メンタルアベイラビリティ」と「フィジカルアベイラビリティ」が研究されています。
前者は買う場面でブランドが思い出されやすいこと、後者はブランドが見つかり、実際に買いやすいことです。
いくら広告で思い出してもらっても、売っていなければ買えません。
だから流通やEC、店舗、品揃えを考えることは、
「買える人を増やす仕事」
だと考えることができます。
ここまで来ると、マーケティングが広告よりはるかに広い仕事であることが見えてきます。
すべてを「増分」で見ると仕事がつながる
商品、価格、広告、メディア、流通、CRM。
実務では別々の部署が担当していることも多く、それぞれ別の専門領域に見えます。
しかし、「増分」という視点から見ると、かなりきれいにつながります。
商品によって「欲しい人」を増やす。コミュニケーションによって「知る人、思い出す人、買いたい人」を増やす。メディアによって、その価値が届く人を増やす。流通によって「買える人」を増やす。そしてCRMによって、再び価値を感じて利用する人を増やす。
もちろん、ただ人数を増やせばよいわけではありません。
値引きをすれば一時的に購入者は増えるかもしれませんが、利益がそれ以上に減れば事業として続きません。消費者を誤認させて買わせても、価値を届けたことにはならないでしょう。
消費者に価値を届けながら、企業にとっても持続可能な増分をつくる。
ここまで含めて、マーケティングの仕事なのだと思います。
マーケターは、一生同じ問いを学び直す
ここまで考えると、私がマーケティングを面白いと思う理由も見えてきます。
答えが固定されていないからです。
どんな商品なら欲しい人が増えるのか。
どんな伝え方なら買いたい人が増えるのか。
どの媒体なら知る人を増やせるのか。
どこで売れば買える人が増えるのか。
そして、観測された結果のうち、どこまでが本当に自分たちの生み出した増分なのか。
消費者も変わります。競合も変わります。メディアも変わります。技術も流通も変わります。
昨日まで有効だった答えが、明日も有効とは限りません。
だから心理学を学ぶ。統計を学ぶ。経済学を学ぶ。広告を学ぶ。ブランドを学ぶ。テクノロジーを学ぶ。過去の研究を読み、実際の市場で試し、結果を見て、また考え直す。
個々の手法を覚えることが目的ではありません。
そのすべては、
「どうすれば、消費者により大きな価値を届け、より大きな増分を生み出せるのか」
という問いに答えるための道具です。
マーケティングとは何をする仕事なのか。
今の私なら、こう答えます。
消費者に価値を届けて、増分を生む仕事です。
そして、何がその増分を生むのかを、一生かけて学び直し続ける仕事なのだと思います。
プロフィール
マーケティング戦略コンサルタントです。
事業会社とコンサルティング会社の両方で、販売・CRM・データ分析・市場調査・需要予測・価格・広告・Webなど、マーケティングの上流から下流まで経験してきました。
このnoteでは、実務と研究を行き来しながら、仕事・キャリア・発信に使える再現性の高い考え方を紹介しています。
詳しい自己紹介はこちら。
自己紹介|実務とエビデンスから、マーケティングの本質を探しています
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参考URL
American Marketing Association
What is Marketing? — The Definition of Marketing
https://www.ama.org/the-definition-of-marketing-what-is-marketing/
Google Research
Robust Causal Inference for Incremental Return on Ad Spend with Randomized Paired Geo Experiments
https://research.google/pubs/robust-causal-inference-for-incremental-return-on-ad-spend-with-randomized-paired-geo-experiments/
INFORMS Marketing Science
Latent Stratification for Incrementality Experiments
https://pubsonline.informs.org/doi/10.1287/mksc.2022.0297
Ehrenberg-Bass Institute for Marketing Science
https://marketingscience.info/
Ehrenberg-Bass Institute for Marketing Science
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https://marketingscience.info/news-and-insights/easy-to-find-being-where-b2b-buying-happens
