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【BCM 001】第114信:公開データで企業を測る ⑥ ― 第八幕の総括

与信管理事務局(BCM)の001だ。

前信(第113信)で、約3,500社超のスコアリング結果を分析した。

今信では、このスコアリングモデルを与信管理の実務にどう組み込むかを述べる。第八幕の最終信だ。


本論①:スコアリングの使い方 ― 三つの場面

このスコアリングモデルが力を発揮するのは、以下の三つの場面だ。

場面1:新規取引先の初期スクリーニング

新規取引の申請が来た。相手が上場企業であれば、まずスコアを確認する。「◎」や「○」であれば、通常の審査フローに進む。「△」であれば、追加の情報収集を指示する。「×」であれば、取引条件を慎重に設計する。

初動のスピードが変わる。スコアを確認するのに1分もかからない。

場面2:既存取引先の定期モニタリング

取引先が数百社、数千社あれば、全社を同じ深さで審査するのは不可能だ。スコアリングで、注意すべき企業を絞り込む。「○」から「△」に下がった企業、「△」から「×」に下がった企業に、優先的にリソースを配分する。

場面3:未上場企業への準用

上場企業で構築した基準を、未上場の取引先に適用する。取引先から入手した決算書のデータを、同じ7つの指標で評価する。

ただし、注意が必要だ。非上場企業が上場企業の「×」水準を下回るのは、むしろ普通のことだ。上場企業はそもそも「良い方」の企業群であり、その中での「危険」は、世の中の企業全体から見れば甘い基準だ。非上場企業が下回ったからといって、それだけで「強い警告」とまでは言えない。

逆に、非上場企業でありながら上場企業の「×」水準を上回っていれば、「まだマシ」とは言える。上場企業の「△」以上であれば、財務指標上は一定の水準にあると判断できる。

第108信で述べた「甘さの逆手取り」とは、こういう使い方だ。上場企業基準をクリアしている非上場企業を「安心材料の一つ」として見る。クリアしていない企業を「当たり前」と見つつ、より深い審査に進む。


本論②:閾値の運用 ― 機械的に切るな

スコアリングの結果を、機械的な判断基準にしてはならない。

「×だから取引しない」は誤りだ。「×だから、なぜ×なのかを確認する」が正しい使い方だ。

例を挙げる。ある企業のスコアが「×」だったとする。内訳を見ると、売上は小さいが自己資本比率は60%を超えており、無借金だ。借入依存度と固定長期適合率は満点に近い。償却前利益もプラスだ。規模が小さいためにスコアが伸びなかっただけで、財務体質は健全だ。

逆に、スコアが「○」の企業でも、借入依存度が高く、償却前利益がかろうじてプラスの場合、景気後退期には急速に悪化する可能性がある。

特に注意すべきは、GC注記の有無だ。スコアが「△」圏内であっても、GC注記が付されている企業は、企業自身が事業継続に疑義があると認めている。内訳を見る際に、GC注記のマイナス10点が含まれているかどうかは、真っ先に確認すべきポイントだ。

スコアは、考える起点だ。考えた結果ではない。


本論③:調査会社の評点との使い分け

このスコアリングモデルは、調査会社の評点を置き換えるものではない。

調査会社の評点には、このモデルにはない情報が含まれている。現地調査の結果、経営者へのインタビュー、取引先からの評判、業界動向の分析。これらは、公開データだけでは得られない。

一方、調査会社の評点にも限界がある。更新頻度が限られている。評点の算出ロジックがブラックボックスだ。全ての取引先をカバーしているわけではない。

ただし、現実的に考えると、上場企業の調査レポートは余程悪い先以外は取得しないだろう。上場企業は公開情報が豊富であり、わざわざ調査会社に依頼する必要性が低いからだ。つまり、このスコアリングと調査会社の評点を比較する場面は、実務上ほとんどない。

このスコアリングの本来の使い方は、あくまでも上場企業の中でのスクリーニングだ。約3,500社超の上場企業を一律の基準で評価し、注意すべき企業を効率的に炙り出す。調査会社の評点との比較ではなく、自社の取引先の中で相対的にリスクが高い企業を特定するための道具として使うべきだろう。


本論④:モデルの更新

スコアリングモデルは、作って終わりではない。

財務データは毎年更新される。有価証券報告書は年1回提出される。証券会社等の財務データも定期的に更新される。スコアリングも、データの更新に合わせて再計算すべきだ。

配点の設計自体も、定期的に見直す。経済環境が変われば、重視すべき指標も変わる。デフレ環境であれば、収益性の重みを上げるべきかもしれない。金利が上昇すれば、借入依存度の重みを上げるべきかもしれない。

モデルは生き物だ。作った時点で完成ではない。使いながら、育てる。


本論⑤:生成AIがもたらした変化

第八幕の全体を通じて、生成AIの果たした役割を振り返る。

データの取得、コードの作成、スコアの算出、結果の検証。これらの技術的な作業を、生成AIが担った。001が行ったのは、方針の決定、結果の評価、配点の調整だ。

従来であれば、スコアリングモデルの構築は、専門的なプロジェクトだった。データベースの設計、プログラミング、統計分析。それぞれの専門家が必要だった。あるいは、高額なスコアリングシステムを購入する必要があった。

生成AIは、この構造を変えた。審査担当者が、自分の判断基準を、自分のスコアリングモデルとして形にできる。ブラックボックスではない、自分が理解している基準で、自分の取引先を評価できる。

これは、与信管理の民主化だ。


結び ― 第八幕を閉じる

第八幕では、上場企業の公開データを使ったスコアリングモデルの構築プロセスを、6信にわたって述べた。

  • 第108信:なぜ上場企業のデータを使うのか

  • 第109信:7つの指標の選定

  • 第110信:EDINETからのデータ取得

  • 第111信:【実践ガイド】EDINET APIとGC注記抽出(有料)

  • 第112信:配点の設計

  • 第113信:結果の分析

  • 第114信:実務への応用(本信)

このスコアリングモデルは、完成品ではない。出発点だ。

与信管理の実務で使いながら、修正し、改善し、育てていく。そのプロセスこそが、審査担当者としての力を高める。

次幕からは、新たなテーマに進む。


BCM(Bureau of Credit Management)
数万件の審査を独力で完遂させる「爆速プロトコル」

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