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デヴィッド・グレーバー『負債論』を読む その3「第3章 原初的負債」

「河童の目線で人世を読み解く」市井カッパ(仮名)です。
「すべての組織と人間関係の悩みを祓い癒し、自然態で生きる人を増やす」をミッションに社会学的視点から文章を書いております。

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noteのできるだけ毎日更新を実践しています。現在の曜日ごとのテーマはこちら。水曜は「文化と遊びの日:『負債論』(連載)/麻雀の話、書籍の紹介」のテーマとなります。

現在は、こちらの書籍を読んでいます。

前回の記事はこちら。

前回の記事では、貨幣の歴史に関する思い込み、アダム・スミスから始まる経済学のファンタジーについて、現実には存在していなかった、という内容でした。

今回の章でも引き続き、アダム・スミスの思惑について語られ、また貨幣について語られます。

これを常識としての経済学の最後の神格化と呼ぼう。貨幣自体に意義はなし。経済─「実体経済」─とは膨大な物々交換なり。だが問題は、歴史が示しているように、貨幣が存在しないならそのような大規模な物々交換のシステムも発生することはないということだ。

デビッド・グレーバー『貨幣論』P.68

この「貨幣自体に意義はない」というところに問題がある、と彼は指摘しているようです。それはまるで目に見えないウイルスのようです。見えないからこそ増殖し、あちこちに害を成す。経済学は「物々交換の神話」を普及させることで、この貨幣の害悪を助長してきてしまったのではないか、ということを、問題として語られているようです。

そして紹介されるのがミッチェル・イネスの「貨幣信用理論」です。彼の理論の系譜をグレーバーは「信用論者」と呼んでいます。

信用論者たちは、貨幣は商品ではなく計算手段であある、いいかえると、貨幣は「モノ」ではないと主張した。一時間や一立方センチメートルにふれることができないように、一ドルや一ドイツマルクにふれることはできない。通貨単位とは抽象的な尺度単位にすぎない。

デビッド・グレーバー『貨幣論』P.69

考えてみれば、いわゆる電子マネーや通帳の数字がお金として機能するということは、お金は実体がなくても成立する、ということになります。本質というのがそれが無くしては成り立たない要素であるとするならば、お金はコインや紙幣という形を持つ必要はなく、数字と単位表記があれば良い、ということになります。「通貨単位とは抽象的な尺度単位にすぎない。」を「通貨単位=抽象的な尺度単位」と式に展開して、左右から「単位」という言葉を消すと、「通貨=尺度」となります。お金は何かを測る尺度なのです。

そこで次の問いは当然、以下になる。貨幣が尺度にすぎないなら、それはなにを測定するのか? 答えは単純だ。負債である。一枚の硬貨とは実質的に借用証書(IOU)なのである。

デビッド・グレーバー『貨幣論』P.70

なかなか衝撃的な指摘です。ここからの話ですが、クレーバーは寓話の話や歴史の話など、いろいろな話をミックスして展開していくのですが、そのまま読んでも意味がわかりにくい内容になっていますので、補助線を入れて読んでいきたいと思います。

前提として、彼は人類学者であって経済学者ではありません。彼がアダム・スミスの経済学について疑問を持っているのは、「経済」というものを切り離しすぎているのではないか、という点です。もっというと、国家や政治や社会といったものと、あたかも独立して存在している経済というセクションがあるかのようにふるまっているけど、本当か?という視点です。

彼はこういう疑問を投げかけます。

そもそもなぜ王国は臣民たちに納税を強いたのか? これはあまり問われることのない問いである。一見したところ答えは自明にみえるからだ。政府が税を要求するのは民衆の金銭を手に入れたいからに決まっている。だがもしアダム・スミスが正しければ、そして金と銀が政府から完全に独立した市場の自然なはたらきを通じて貨幣になったのなら、金山と銀山を支配することだけですむではないか? そうすれば国王は、必要な金銭をすべて手中におさめることができではないか。(中略)とすれば、金を徴収し、じぶんの肖像をそこに刻印し、臣民たちのあいだで流通させたあとで、そのおなじ臣民たちに、それを[税として]返すよう要求する目的はなんなのか?

デビッド・グレーバー『貨幣論』PP.74-75

はい。ここで気を付けたいのは、「金山と銀山を支配すること」で手に入る「金銭」というのは、あくまでも物理的な実体です。ということで、このロジックは信用論者のロジックではなく、実体論者のロジックである注意が必要です。続きを読んでみます。

これはちょっとした難問である。だが貨幣と市場が同時に出現したのでないとするのなら、完全に理にかなっている。これが市場を生みだす最もかんたんで効果的な方法だからだ。

デビッド・グレーバー『貨幣論』P.75

これはもしかしたら、図に描いた方がわかりやすいかもしれません。

筆者作成

国がその権力の源である軍隊を維持するために必要な食糧などを調達するのにもコストがかかります。しかし、市場を創造することで、それはお金の問題で片付きます。そしてその市場を形成するために貨幣をばらまき、税を徴収するという仕組みを作った、というロジックです。

兵士たちに硬貨を配布し、ついで、王国内のすべての世帯にその硬貨の一部を返済すべしと要求するならば、一夜にして国民経済は兵士への物資供給のための巨大機械に転換することになる。いまやすべての世帯が、硬貨を手に入れるためにあれこれ方法をさがしだし、兵士の欲しがるものを供給するという全般的なもくろみに参加することになる。市場はその副次的効果として発生するのである。

デビッド・グレーバー『貨幣論』P.75

物々交換が存在しなかったなら、貨幣は発生しなかった。貨幣が発生するにはまず国家が必要で、税金という支配システムが必要だった。こういうロジックになります。

国家と市場はいずれにせよ対立するというスミスの遺産に由来する根強い自由主義的想定にもかかわらず、歴史の記録によれば事実はその正反対であるということだ。国家なき社会は市場ももたない傾向があるのだから。

デビッド・グレーバー『貨幣論』P.76

このあと、グレーバーは自由主義的発想を主張しておきながら政府が介入して市場を創出すべき、と主張している経済学者をおちょくっています。そして自由主義経済学者が何を言おうと、実際の政治の世界では、植民地を経済的に支配するために、このシステムが導入されていった事実が、マダガスカルの例をもって語られます。

植民地のような軍事的支配を前提としないのなら、なぜ、国民は国家に税金を納めなければならないのか? 次に浮かんでくるのがこの疑問ですが、その説明として「社会契約説」がちらっと出てきますが、グレーバーは、この話を下記のように皮肉混じりでしりぞけます。

いつ、だれによってその契約がなされたのかを知るものはいないし、この問題にかぎって─それ以外の問題ならそんなことはないのに─遠い祖先の決定によって拘束されなくてはならないのはなにゆえかを知るものもいない。

デビッド・グレーバー『貨幣論』P.83

このソリューションとして出てくるのがこの章のタイトル「原初的負債」という考え方です。この考え方が生まれてきたのは、統一通貨ユーロに関する議論からだったそうです。

通貨政策と社会政策を分離しようとするどんな試みも究極的には誤りであるというのが、原初的負債論者たちの核となる主張である。彼らによれば、これらは常に同一のものであった。政府は貨幣創造のために税を使うが、それが可能であるのは、市民全員がお互いに負っている負債の守り手となるからである。負債こそ社会の本質そのものなのだ。負債は貨幣や市場にはるかに先立って存在しており、貨幣と市場自体はそれをバラバラに切り刻む手段にすぎない。

デビッド・グレーバー『貨幣論』P.85

この「原初的負債」という考え方は、「わたしたちはじぶんの存在を可能にするすべての人びとに対して無限の負債を負って生まれてきた」(P.100)という考え方で、根拠としてサンスクリットで書かれたヴェーダやブラーフマナなど、宗教的な話が紹介されます。神への負債が国家や社会への負債に引き継がれたという考え方です。さらにここでは社会学の創設者(とグレーバーが呼ぶ)エミュール・デュルケームの「神=社会」の考え方も紹介されます。

さて、アダム・スミスからの「実体論者」、信用論者からの「原初的負債」ですが、グレーバーはどちらの考え方も納得できないと批判しているように見えます。じゃあ、何が結論なのさ、と言えば、この章はこういう結論で終わります。

一方には市場の原理がある。たがいになにも負うことのない個人の出会う場であると好んで想定されているのが市場である。他方には国家の論理がある。だれもが決して返済しえない負債を背負って出発する場所である。そして市場と国家は正反対のものであり、それらのあいだ[中間]にこそ人間の唯一の真の可能性があると、わたしたちはたえまなく教えられてきた。しかしこれはあやまった二分法である。国家は市場を創造する。市場は国家を必要とする。どちらもたがいなくしては存続しえないし、少なくとも今日知られているようなかたちでは存続しえないのである。

デビッド・グレーバー『貨幣論』P.107

二分法ではないってどういうこと?と思いつつ、下記の記事で甲田さんからお聴きした「不二一元」を思い出しつつ、第3章はここまで。

二元論を超えるのを期待しつつ、次週、第4章「残酷さと贖い(あがない)」を読んでいきます。

現場からは以上です。お読みいただき、ありがとうございました。面白かった、参考になった、という方は是非、高評価いただけると嬉しいです。フォローも大歓迎です。

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