【英国文豪、令和を歩く】第45回:Global warming—temps are soaring, oceans rising, storms are roaring!
京都、寺町通の片隅にある、琥珀色のランプが灯る古風な喫茶店。使い込まれた革の椅子に、華やかなスカーフを巻いた現代的な女性姿のウィリアム・シェイクスピアと、ツイードのジャケットを羽織り、パイプの代わりに珈琲を嗜むアーサー・コナン・ドイルが向かい合っている

ドイル、見て。窓の外、鴨川のほとりに咲く桜が、風に煽られてあんなに急ぎ足で散っていくわ。……ねえ、何だかこの街の空気、私たちがかつて知っていた春よりも、ずっと『熱(パッション)』を孕んでいると思わない? まるで、舞台の照明が強すぎて、役者たちが極限まで追い詰められているような……そんな息苦しい熱さを感じるの」

……ああ、ウィル。君の鋭い感性は、地球という名の巨大な生命体が発している悲鳴を感じ取っているのかもしれない。現代の科学者たちが警鐘を鳴らす『地球温暖化』だよ。かつて私が北極海へ捕鯨船で赴いた時、そこには見渡す限りの白皚皚(はくがいがい)たる氷原が広がっていた。船長が狂気じみた眼差しで地平を見つめ、氷の裂け目に幻影を追っていた、あの冷徹で静謐な世界……。だが今や、その氷も溶け去り、北極熊たちは拠り所を失っているという

氷が溶ける……。それはまるで、冬の厳しさがもたらす静かな思索の時間が、乱暴に奪われていくようね。リチャード三世が嘆いた『不満の冬』も、今のこの熱気の中では、ただの生温かい湿り気に変わってしまうのかしら。自然の摂理という名の台本が、人間の傲慢さによって書き換えられ、季節という幕が正しく降りなくなっている……。これは喜劇でも悲劇でもない、救いのない『不条理劇』だわ

全くだ。私がかつて見聞きした、あの氷に閉じ込められた船の記録……飢えと寒さに震え、ブランディの一滴に命を繋いだ男たちの苦闘すら、温暖化という大きなうねりの前では、遠い昔の神話のようだ。今の私たちは、氷に閉じ込められる恐怖ではなく、氷そのものが消滅し、海が溢れ出すという、より巨大な『謎』に直面している。しかもその犯人は、他でもない、我々人間自身なのだからね

犯人が私たち自身だなんて、皮肉な話ね。ドイル、あなたの名探偵なら、この地球規模の事件をどう解決するかしら? 証拠品は空の向こうのオゾン層にあり、動機は底なしの欲求……。でも、解決のための『鍵(キー)』は、きっとこの一杯の珈琲を大切に思うような、小さな慈しみの中にあるはずだわ

ホームズなら、こう言うだろう。『ワトソン、感情に流されてはいけない。だが、データが示す未来が破滅であるならば、今すぐ行動を変えることこそが唯一の論理的帰結だ』とね。……ウィル、かつての船長が望遠鏡で必死に何かを追い求めたように、我々もまた、この熱を帯びた空気の向こうに、再び平穏な季節が戻る兆しを探さねばならない

ええ。夏の夜の夢が、ただの悪夢に変わってしまわないうちにね。……ドイル、窓を開けて。この生温かい風の中に、まだ微かに残る花の香りを、せめて今のうちに記憶に刻んでおきましょう。地球という偉大な舞台が、いつまでも美しく幕を上げ続けられるように……私たちは、語り継いでいかなくてはならないのね
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!