『日本茶のすべてがわかる本』読み合わせノート 第4章 チャの育て方
お茶の北限はどこか、やぶきたが70%を占める理由、挿し木と実生の違い、「みる芽」と摘採タイミング、被覆栽培で生まれる覆い香、防霜ファンの仕組みまで、茶園管理の世界を深掘りします。
なみ: しずくくん、今回は第4章「チャの育て方」だよ! お茶がどんな環境で育って、どうやって管理されてるのか。
しずく: 成分・健康効果・淹れ方ときて、ここからはいよいよ産地側の話だね。北限の話から品種、摘採、覆いの話まで盛りだくさんだよ。
なみ: さっそくいってみよう!
📚 今回読む本
『改訂版 日本茶のすべてがわかる本 ── 日本茶検定公式テキスト』
▼ 全10章構成
第4章 チャの育て方 ← 今回はここ!
第5章 お茶ができるまで
第6章 お茶の審査
第7章 お茶の生産・流通・消費
第8章 お茶の歴史と文化
第9章 お茶の話あれこれ
1. お茶の「北限」ってどこ?
お茶の栽培・生産が産業として経済的に成り立つ北限……太平洋側では茨城県大子町(奥久慈茶)、日本海側では新潟県村上市(村上茶)でお茶が生産されています。この2つの地域を結んだ線が、経済的栽培の北限とされています。
なみ: お茶の「北限」って、実は4種類もあるんだよね。商業的な北限、製茶の北限、栽培の北限、植樹の北限……。
しずく: そうそう。経済的に成り立つ北限が茨城と新潟を結んだライン。製茶の北限は秋田県能代市の檜山茶で、機械製茶だと岩手県陸前高田市の気仙茶。さらに青森県黒石市では過去に栽培されてたし、北海道古平町には日本最北の茶樹もあるんだ。
なみ: 前に宮城に行った時に「北限のお茶」っていうのを見かけたけど、あれって茨城・新潟のラインよりも北にあるから、何の北限なの? ってちょっと気になったんだよね。
しずく: 商業的な北限なのか、畑として存在できるっていう北限なのか、ちゃんとそこにお茶の文化がありましたっていう北限なのか。定義によって場所が変わるから、ちょっと難しいよね。しかも今はニセコで北限に挑戦してる人もいるから、これからも変わっていくかもしれない。
2. お茶が好む気候と土壌
具体的には年平均気温が14~16℃くらいで、最低気温がマイナス11~12℃を下回ることがない地域が栽培に適しています。
チャの生育には粘土と砂質土に土壌有機物が混じりあった土壌が適しています。……また、他の植物と違って酸性を好み、pH4~5の酸性土壌が適しているのがチャのユニークな特徴です。
なみ: マイナス11度以下にならない地域っていうと、本州のほとんどが当てはまりそうだよね。
しずく: そうなんだけど、気温が高い地域は収量が多くても品質がやや劣るって書いてあるから、どこが一番適してるかっていうのは意外と奥が深い話なんだよね。
なみ: 土壌の話も面白かった。お茶ってpH4~5の酸性が好きなんだよね。普通の土壌がpH6~7くらいだから、かなり酸性寄りだよね。
しずく: 前に八女の星野の方にある茶畑を見に行ったんだけど、岩がゴロゴロあるようなところで、近くに川が流れてて。粘土と砂質が程よく混じってるから保水性があるんだろうね。ああいう場所でいいお茶ができるんだなって実感したよ。
3. やぶきた一強のワケ ── 品質と収量
お茶の代表的な品種といえば「やぶきた」です。……品質が高い上に収量が多く、しかも寒さに強くて根付きやすい中生種で、栽培する地域をほとんど選ばない優秀な品種です。現在では全国の茶園面積の70%以上で栽培されています。
なみ: 70%以上がやぶきた! すごいシェアだよね。
しずく: 品質がいい、収量も多い、寒さにも強い、どこでも育つ。しかもやぶきたは歴史が長くて前例が多いから、初めて茶園を始める人もまずこれを選ぶんだよね。お茶の木って一回植えたら何十年も植え替えないから、ギャンブルにならない品種を選びたいっていう気持ちもわかる。
なみ: 品種には「早晩性」っていう区分があって、やぶきたが基準の「中生種」で一番茶が4月下旬~5月上旬くらい。それより早く摘めるのが「早生種」、遅いのが「晩生種」なんだよね。
しずく: 農家さんは早生・中生・晩生を組み合わせて作業を分散させるんだよ。機械も人手も限られてるから、全部同じ時期に収穫だと回らない。工場も止まるしね。逆に晩生種は三番茶でも霜の被害に遭いにくいっていうメリットもある。
なみ: 最近はべにふうきも注目されてるよね。花粉症のアレルギー症状に効果があるメチル化カテキンを多く含むっていうので。
しずく: 日本人の4割近くが花粉症の症状を持ってるって言われるし、体にいいから飲もうっていうのは、抹茶ラテとはまた違う本来のお茶の取り入れ方かもしれないね。ちなみに今、日本の多くの茶園は樹齢40年の木を抱えて植え替えの時期を迎えてるらしい。これから品種の顔ぶれが少しずつ変わっていく可能性もあるかもね。
4. お茶はどうやって増える? ── 挿し木と実生
チャは他殖性植物です。他殖性とは、自家不和合性・自家不結実性ともいい、自分と同じ品種の花粉がかかっても、生理的な原因で自家受精がしにくい性質のことです。
できた種子は遺伝的に雑種となり、発芽した茶樹は株ごとに形質が異なり、品質が安定しないという問題がありました。……現在では、品種苗を「挿し木法」などで殖やして栽培しています。
なみ: お茶って、自分と同じ品種の花粉だと受精しにくいんだって。だからやぶきたの花粉をやぶきたにつけても実がなりにくい。できた種子は必ず雑種になるってこと?
しずく: そう。だから種から育てると品質がバラバラになっちゃう。それで挿し木が主流になったんだ。枝を切って挿すから、親と全く同じ性質の木が育つ。
なみ: でも実生(種から育てたもの)にもメリットがあるんだよね。種子から育ったチャの根は挿し木苗に比べて深く伸びて、干害や寒害に強いって書いてあった。
しずく: 山間地とか立地条件が厳しい茶園では、まれに実生栽培が行われてるらしい。在来種がその土地で何もしなくても育つのは、何世代も生き残ってきた結果だから、環境への適応能力がすごいんだよね。ただ、どういう味になるかはわからない。
なみ: ところで、お茶の地図記号の元って「茶の実」らしいんだけど、実際の茶畑ではあまり実が落ちてないんだよね。それでも地図記号に採用されてるっていうのがちょっと面白い。
しずく: 茶の実からは油も取れるんだよ。椿の仲間だからね。中国だと古くから食用油として珍重されてるらしいよ。
5. 「みる芽」って知ってる? ── 摘採タイミングと品質
お茶には「みるい」という言葉がよく使われます。「みるい」は静岡県浜松地方の方言で「幼くて弱くて柔らかい」ことを表現し、「みる芽」は「みるい芽」のことで、今では全国で使われるお茶用語になっています。「みる芽」の反対語が「硬葉(こわば)」です。
一番茶は二・三番茶に比べてアミノ酸類が多く、タンニン(カテキン類)は2~3割ほど少な目なので、うま味が強く、苦味や渋味が穏やかになります。
なみ: 「みる芽」ってお茶の世界では普通に使われる言葉だけど、語源は浜松の方言の「みるい」から来てるんだね。
しずく: 新芽には5~6枚の葉が巻き込まれていて、成長と共に広がっていく。最後の葉を「止め葉」って言って、これが開いた時が「開葉」。4~5枚開いた時に上の方の一芯二葉──まだ開ききっていない芯の部分と、その下の2枚の若い葉──だけを手で摘むのが最上の摘み方なんだ。
なみ: 一芯二葉はよく聞くよね。品質のピークなのに収量が少ないっていうのは、葉がまだ小さいからってことか。
しずく: そう。葉が大きくなると収量は増えるけど、開葉度──巻き込まれた葉がどれだけ開いたかの割合──が90%を超えると硬くなって品質が落ちる。繊維が増えて製茶の時に葉の組織が壊れにくくなるから、お湯に成分が溶けにくくなって味が変わるんだよね。「みる芽」で摘むか「こわ葉」で摘むかで全然違うお茶になる。
なみ: 一番茶がおいしいのは、長い休眠期間を経てアミノ酸がたっぷり蓄えられてるからなんだね。二番茶・三番茶は日照時間が長い時期に育つから、光の作用でタンニンが多くなるっていうのも納得。
6. 覆いの下で生まれる旨味 ── 光を遮ると何が起こるのか
まず、新芽が1~2枚開き始めた頃から、遮光率55~60%で覆いを掛けます。さらに7~10日後、強力な覆いをして遮光率を95~98%にします。
玉露や碾茶(抹茶の原料)には、良質の青海苔のような深みのある香り成分の「ジメチルスルフィド」が多く含まれています。この香りはチャの樹に覆いを掛けて栽培することで生まれるもので、「覆い香」と呼ばれています。
なみ: 遮光率を段階的に変えてるんだね! いきなり95%にするんじゃなくて、最初は55~60%で慣らしてから上げるんだ。
しずく: いきなり真っ暗にすると茶樹がストレスを受けちゃうからね。徐々に暗くすることで、葉がゆっくり適応してわずかな光を有効活用しようとクロロフィルを増やしていく。だから葉の緑色が濃くなるんだ。そしてクロロフィルと密接に関係して生まれるのがジメチルスルフィドっていう香り成分で、これが「覆い香」の正体なんだよ。
なみ: 覆い香って海苔みたいな香りだよね。ジメチルスルフィドって、海でプランクトンが分解される時にも出る成分らしくて、あの「海の匂い」の正体と同じなんだって。
しずく: 面白いことに、被覆栽培の目的って遮光だけじゃなくて「保温」もあるんだよ。覆いをかけることで温度が下がりすぎないから、霜害の防止にもなってる。旨味のあるお茶を作りたいっていう目的と、霜から守りたいっていう目的が重なって、被覆栽培が広く行われてるんだね。
なみ: 覆いの素材もいろいろあるんだよね。伝統的なよしずに、黒色の寒冷紗、藁を荒く編んだ「こも」……。
しずく: よしずは葦(あし・よし)を使ったもの、こもは藁を荒く編んだもの、すだれは細い竹や葦を簾のように編んだもの。今は寒冷紗が主流で安価なんだけど、最近は寒冷紗の供給が追いつかないって話も聞くね。
なみ: 光を遮ることで旨味が増して、香りも変わって、色も濃くなる。覆いひとつでお茶の個性がガラッと変わるんだね。
7. 霜との戦い ── 防霜ファンが本気を出す時期
凍霜害は茶芽の温度がマイナス2℃以下になると発生し、新芽が枯死します。茶株面の温度は、……いわゆる「気温」より3~5℃低く、さらに茶芽の温度は株面より2℃も低くなります。ですから、夜間の最低気温が3~5℃以下になると、翌朝は凍霜害に遭う危険が極めて高くなります。
なみ: 気温が3~5度でも霜害が起きるって、最初はびっくりした。マイナスにならないと大丈夫だと思ってたのに。
しずく: 茶株面の温度は気温より3~5度低くて、茶芽の温度はさらにそこから2度低い。だから気温が5度あっても茶芽はマイナス2度になり得るんだよね。4月の頭とか3月の終わりに、夜中の気温が3度くらいまで下がると危ないってこと。
なみ: 「八十八夜の別れ霜」っていう言葉があるんだよね。八十八夜を過ぎてきてようやく霜の心配がなくなるっていう。それまでは農家さんにとって気が抜けない時期なんだ。
しずく: その対策が防霜ファン。茶畑に行くと上の方についてて、ゆっくり回ってるやつがあるでしょ? あれ、普段は風でカラカラ回ってるだけなんだけど、霜が降りる時期になると高速で回るんだよ。
なみ: え、あれって自動なの?
しずく: そう。茶株面の温度を計測して、自動的に運転・停止するようになってるんだ。放射冷却で地表近くの空気だけが冷えて、上空にはまだ暖かい空気が残ってるんだけど、その暖かい空気を吹き降ろして冷たい層とかき混ぜることで温度を上げる仕組み。省力で経済的って書いてあったね。
なみ: 散水氷結法っていう、氷で包んで0度以下にならないようにする方法もあるらしいけど……。
しずく: あれは防霜に最も効果があるんだけど、大量の水が必要だし茶園の水はけにも課題があって、あまり普及してないみたいだね。氷で守るっていう発想は面白いけど、現実的には防霜ファンが主力ってところだね。
次回は第5章「お茶ができるまで」。摘み取った茶葉がどうやってお茶になるのか、製茶の世界に踏み込んでいくよ!
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