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ローリング・サラリーマン詩篇    chapter 11:  NIGHT LIFE

愛する国日本を舞台に活躍するサラリーマンともなると、年に何回かは出張である。しかし経費削減の嵐により、最近めっきりと日帰り出張ばっかりが増えているため、たまの宿泊ありともなると、かの地で地元の美味しいものなどを飲み食いもできるじゃないかと妙にそわそわしてしまうのである。

その日、A市に出かけ、イベント現場の下見調査を済ませ、打ち合わせを数件こなすと、夕食にありついたのは午後8時を過ぎていた。

同行の二人は、他課だが気心の知れたオッサンである。三人で和風居酒屋に入り、地元食材の肴に舌鼓を打つ。しかし、旨い旨いとのたまいながらも、オッサンたちの心の中には、このまま食事して終わりなんてないよね、口に出すまでもないよね、という暗黙の了解が渦巻いていた。チームワークのよいサラリーマンともなると、そのくらい目でやりとりできるのである。

我々は残り少ない時間を有意義に過ごすため、居酒屋のテーブルに各々タブレットやノートPCを出し、A市の繁華街をストリートビューで見回ることにした。グーグルのサイトでも紹介してほしい、ストリートビューの正しい使い方である。

ところがである。歓楽街らしきものがないのだ。駅前から2キロ四方を巡ったのだが、ネオンサインはおろかスナックのひとつも見当たらないのである。参ったなー。これでは泊まりで出張に来た意味が無いではないか。

すると我々の気持ちを察したかのように居酒屋の女将がやって来て、「遊びに行くならB市だよ。オニイサンたちならキレイどころも放っとかないよ。電車ですぐだよ。」と教えてくれたのだ。ラッキー。

我々は、10分後には電車に乗っていた。善は急げ、である。こういうこともあろうかとコンビニでお金も下ろしておいたのである。修学旅行生の様に胸を膨らませつつも、オッサンらしく平静を装って、わざとらしく明日の仕事の話とかをしながら移動である。

そしてB市の駅を降りた我々が目にしたのは、駅からまっすぐに伸びるネオン輝く歓楽街だった。通りの両側に様々な妖しい看板が光り、たくさんの呼び込みの男達が目を爛々とさせながらこちらを見ているではないか。

この勝負、受けて立とう。

我々三人は様々な呼び込みを受ける中、『悪代官』という店で足を停めた。呼び込みおじさんの説明によると、「ヨンジュウゴ分ヨンセンゴヒャク円ポッキリ三回転マンツーマンノオッパイパブ」と言うではないか。一息で言われるので外国語のように聞こえたが、二回も聞いていると何となく意味は分かるものである。なるほど。どんなものか知らないが、人生何でも経験である。

「僕はどっちでもいいですけど、○○さんが行きたいなら。」「いやあ、僕はどっちでもいいんだけど、○○さんが行きたいなら。」が見事一周して、「それじゃあ入りましょうか。」

「三名様ごあんな〜い。」

楽しいことは、テンポが大切である。

店に入ると、バラバラに個室のようなところに案内された。仲良しの三人がバラバラにされることで、高まる期待と不安は最高潮である。おしぼりで手を拭き、顔を拭き、まったくソワソワしていると、男性店員の「マヤさんお願いしま〜す。」の声。

それはもう、期待で、死にそうになって、開いた襖の方を見ると、暗がりに、そびえ立つ、巨体が、目に入った…。

誰だ、あれは。70キロはあるんじゃないか。

「『悪代官』はデブばっかっすよ〜」しつこくこの店の入り口までついて来た別の店の呼び込みの声がフラッシュバックした。おまえ、こんな大切なこと、もっとしつこく言えよ。

ゆっくり入ってくるマヤさんのその御姿は、彼女自身が悪代官ではなかろうかと疑いたくなる有様だった。

それから僕が彼女と何を喋ったか、あまり記憶にございません。恐ろしく長い時間に感じたのであるが、おもむろに襖の向こうで男性店員が「お戯れ、お願いしま〜す。」と声を発した。というか、お前そこに居たのか。気配殺すなよ。たどたどしい会話聞いていたのか、恥ずかしいな。

男の声を聞くとマヤさんはやおら立ち上がった。そして、座椅子に足を伸ばして座っていた僕の腿の上にこちら向きに股がるではないか。ミシミシッ。膝の関節が悲鳴を上げる。それをよそにマヤさんは長襦袢の前をはだけ、僕の手を掴むと自分の胸に押し当てた。むにゅむにゅ。あ、今更ではあるが、本作はフィクションであり、実在の人物・団体・僕とは一切関係ありません。

ところで、世の中ではこれを巨乳というのだろうか。これはただ太っているに過ぎないのではないだろうか。しかも下側が汗ばんでいるではないか。乳って汗をかくのか。それもそうか、胸だもんな。あ、もしかして、腹側の汗なのか。

もしも女性読者の方がいらっしゃるとするなら、もうとっくに軽蔑の域に達しているかとは思いますが、どのみちフィクションなのでありますし、気分がすぐれない方は読むのを中止なさってください。

そうこうしているうちに、交代の時間が来たらしく、マヤさんは部屋をドシドシと出て行った。僕は痛む膝をさすりながら、そそくさとスマホを取り出し、二人の同志に「脱出しませんか。」とメッセージを送った。すると、一人から親指を立てたスタンプが返って来た。これはどういう意味だろうか。賛成という意味なのか? それとも、もしや向こうはうまいこといっているのだろうか?

迷っている間に再び襖が開く音がして、「ねねさんお願いしま〜す。」という襖男の声がした。目をやると、そこに立っていたのは信じられないことにさらに巨大な女性だった。80キロ超級である。こんなに小さな街でこんなに大きな女性がどうして一ヶ所に集まるのだろう。

これ、ギブアップできないのかな。

しかし僕は、目の前に迫る現実を受け入れることにした。今までだってどんなつらいことも乗り越えてきたじゃないか。はい、どうぞ乗ってください。僕の脚はここです。ちょっとミシミシいいますけど。ただ、脇に手を入れて少し持ち上げてもいいですか。重すぎて膝が痛いんです。

しかし店側のルールがあるようで、脇に差し入れようとした手はねじり取られ、またも二つの乳に当てがわれた。

僕は何をやっているのだろうか。

すると、ねねさんが僕の目を見て、「アタシも何やってんだろって思うよ。」と言ったのだ。奇跡的にも、僕らはほんの一瞬の間、分かりあえたのである。それで十分だった。

僕は、頭の片隅でB市が日付変更線を越えるのを感じた。さあ、もう帰ろう。明日も仕事じゃないか。

「用が出来たんで、もう出ます。」

ねねさんの退場に合わせて、僕は襖男にそう告げた。

「料金は戻らないですけど。」

「ええ、いいんです。」

「お客様、お帰りで〜す。」

ジャケットを着て、スマホをポケットにしまい、なぜか少し晴れやかな気分で部屋を出た。

すると襖男の後ろに、長襦袢を着たスレンダーな美女が立っていた。

あれ…。






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この詩篇はフィクションです。
実在の人物・会社とは 一切関係がありません。

ローリング・サラリーマン詩篇 prologue
ローリング・サラリーマン詩篇 chapter 1: CONVENIENCE STORE
ローリング・サラリーマン詩篇 chapter 2: E-MAIL
ローリング・サラリーマン詩篇 chapter 3: 7:00AM
ローリング・サラリーマン詩篇 chapter 4: TRAIN
ローリング・サラリーマン詩篇 chapter 5: GODZILLA
ローリング・サラリーマン詩篇 chapter 6: BIKINI MODELS
ローリング・サラリーマン詩篇 chapter 7: PRESENTATION
ローリング・サラリーマン詩篇 chapter 8: MASSAGE
ローリング・サラリーマン詩篇 chapter 9:  STAFF
ローリング・サラリーマン詩篇 poem:   なりたいもの
ローリング・サラリーマン詩篇 chapter 10: TAXI DRIVER
ローリング・サラリーマン詩篇 chapter 11:  NIGHT LIFE
ローリング・サラリーマン詩篇 chapter 12: GHOSTS
ローリング・サラリーマン詩篇 chapter 13: NICKNAME
ローリング・サラリーマン詩篇 chapter 14: JAZZ CLUB
ローリング・サラリーマン詩篇 chapter 15: NURSE
ローリング・サラリーマン詩篇 chapter 16: LUNCH
ローリング・サラリーマン詩篇 chapter 17: FAREWELL PARTY
ローリング・サラリーマン詩篇 the last chapter: パリで一番素敵な場所は



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