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第11章|夕日―魅惑の赤、覚醒の赤―【#創作大賞2026 #ホラー小説部門 】応募作品。全13章・完。


【 創作大賞2026 】【 ホラー小説部門 】小説『夕日』第11章『指輪と発信機』―贈り物の中身― の章タイトル画像

指輪と札束を見ながら
めぐみを待つ。

ひたすら待つ。

あの男からの仕事の
待機時間より長く感じる。

吸い殻だけが増える。
3本で交換のルールも無視した。

階段を上ってくる足音。
ドアが開く。

「無事か?」

思わず聞いていた。

「うん。」

「たまごサンド作ってくれ。」

「いいよ。でも。」

「その前に話できる?」

声が震えている。

「あぁ。」

「私、怖かった。」

めぐみは、うつむいている。
表情が読めない。

「武井君が、
もう帰って来ないんじゃないかと思ったの。」

「だから昨日は来なかったのか?」

めぐみは頷いた。

「怖かったし、行くなって言われた。」

「誰に止められた?」

うつむいたままだ。

「久保田さん。」

「誰だ?それは。」

「武井君に、仕事を頼んでる人。」

あの男は久保田というのか。
俺はあいつに名刺を返して
名前も覚えてなかった。

「お前、あいつのこと知ってたのか?」

めぐみは小さく頷いた。

「私が命令されて、武井君の車につけたの。」

「何をだ?」

「小さい機械。車の下に。」

発信機というやつか。
だとしたら、かなりの高性能だ。

「それ、まだついてるのか?」

めぐみは小さく頷いた。

「たぶん。」

「外すな。」

「え?」

「外すな。まだ、
俺が気づいてないと思わせる。」

「他にも、武井君の見張りがいると思う。」

ようやく繋がった。

部屋に戻るタイミング。
仕事の時の俺の動きを知っている理由。
鹿島での状況を把握している理由。

俺の動きが、丸分かりだ。

俺は、めぐみを見た。

怒鳴る。
殴る。
追い出す。

どれも選択肢にない。
あの日見た夕日のせいか。
あの時生まれた何かのせいか。

うまく言えない。
めぐみは大切だ。
守る。守ってやる。

めぐみは、うつむいたまま動かない。

「脅されてたの。借金があって。」

「久保田にか?」

めぐみは頷いた。

「父親の借金。事業に失敗して、
久保田さんのいたところから借りたの。」

「そうなのか。」

「その頃の久保田さんは、
まだ武井君と同じ運び屋だったの。
私が中学生の頃。」

「久保田が運び屋を?」

「その頃から、
人の弱みを握るのがうまかったの。」

「使える人は誰でも利用する。
そんな人よ。
父も、そうやって利用されたの。」

久保田。あの男の名前。
名刺も金も突き返した。
名前など、どうでもよかった。

そのどうでもよかった名前が、
今、俺とめぐみの間に立っている。

俺は、机の上の指輪を取った。

「これ、欲しがってたろ。」

めぐみが顔を上げた。

「え?」

「やる。」

「許してくれるの?」

「許すとか、そういう話じゃねぇ。」

俺は、札束を見た。

「金のことも心配いらねぇ。」

「でも。」

「俺がなんとかする。」

「ナマハゲは、どこまで知ってる?」

「分からない。
ナマハゲさんが、吉田さんたちに言ってた。
赤い車を探せって。」

「久保田のことを、もっと教えてくれ。」

「とにかく怖い人。
先手先手で何でも知ってる。
それに、父が言ってた。
あの人には、掃除屋がいるって。」

「掃除屋?」

「何があっても、
何もなかったことにできる人たち。」

なかったことにできる掃除屋。
久保田の後ろには、まだ何かいる。
久保田も組織のトップではないのかもしれない。

「武井君だけじゃないの。
同じように使われてる人が、
他にもいるの。怖くてたまらない。」

「他にも?」

「監視する人もいる。
受け取るだけの人もいる。
普通に働いて、普通の顔をして。」

鹿島の仕事。ファミレスの男。
あの鋭い目。
やはり普通の人間ではなかった。

「リッチにもいるのか?」

「たぶん。私も、誰かに見られてる。
リッチの女の子の誰かに。」

めぐみは小さく首を振った。

「私は久保田さんに逆らえないの。
もう、誰も信じられないよ。」

「久保田さん、言ってた。
武井君は変だって。
普通は中身が気になって、
いつかバッグを開けるんだって。
弱みも見つからないって。」

「時々、嘘の仕事を混ぜてるって。
バッグを開けるか、試すために。
武井君は中身を全く気にしない。
逆に怖いって。」

「開けたらどうなる?」

「分からない。
でも、突然いなくなった人がいたの。
掃除屋さんが何かしたんだと思う。」

「マネージャーや吉田は関わってるのか?」

「分からない。
けど、2人とも知らないと思う。」

「武井君の弱みを見つけろって
久保田さんに命令されたの。」

「見つけたのか?」

めぐみは首を振った。

「見つけられなかった。」

「どうしてだ。」

「好きになってしまったから。」

「そうか。心配いらねぇ。
早くたまごサンド作ってくれ。
腹ペコなんだよ。」

「うんっ。すぐに作るよ。」

めぐみは指輪を指にはめた。

「ぴったり。きれい。」

まだ赤い目で笑っていた。
そうだ。
いつものめぐみでいてくれ。
いつも笑っていてくれ。

俺は吉田からもめぐみからも
久保田に繋がっていた。
俺がどこにいるのか、
何もかも知っている。

それよりナマハゲだ。
なんとかしないとまずい。
俺はようやく灰皿を交換した。

「今日から、俺と離れるな。
普段通り、リッチには行く。」

吉田が危ない。
めぐみも危険な状態だ。
俺も狙われている。

自分が生き残るため。
めぐみを守るため。

俺とカローラワゴンと鉄パイプで

やられる前に、やる。

たまごサンドを食べたあとに
時々来る、急激な睡魔が襲ってきた。

たとえ、たまごサンドに何か
入っていたとしても
久保田の指示だ。
めぐみの意思じゃない。

俺はめぐみを守ると決めた。

耐えられない睡魔。


俺は深い眠りにつく。




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